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ある日不死身になりまして・・・  作者: 黒々
第二章 エストワール騒乱編
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魔王迎撃軍出動

 アルミナは俺よりもずっと優秀だ。


 魔法の練度は底知れないし、あっという間に知識を収集してしまった。


 そんな彼女に頼られるということが、誇らしかった。


 少し時間をおいて、俺も少し落ち着いてきた。


「そういえばアルミナ。何か話があるって言ってたな。本を読んで何か気が付いたことがあるとか」


「はい。以前、私はマサキさんに精霊や霊素の事を話したと思いますが、レイモンドさんの書斎の本には、それらしいことが何も書かれていなかったんです」


「そうなのか?」


 アルミナが以前話してくれた内容を思い出す。

 霊樹アルミナスに宿る精霊アルミナスは、アルミナとだけ対話(意思疎通といった方が正確だろう)できるらしい。


 霊素というのは、魔力や生命力のそのさらに源になる第一要素で、ありとあらゆる存在を構成するものだ。


「その、霊素ってのは、精霊から聞いたの?」


「はい。そうです。物心ついたころからいろいろ教わった際に習ったことの一つです」


 だとするとアルミナが勘違いしているとは思えない。


 いまだにはっきりとしないが、精霊というものが存在するということは何となく信じている。アルミナと一緒にいられるのも精霊の導きらしいからラッキーと思って感謝さえしているし。


「あれ? そういえば精霊は霊樹に宿っているって言ってたけど、今でも対話ができるの」


「ええ、もちろんです。精霊は偏在していますから」


 遍在?

 聞きなれない単語だな。確かどこにでも存在しているって意味だったか?


 まあケータイ電話のようにいつでもどこでも対話できると理解しておこう。


「すまない。脱線した。つまり霊素ってのは、この魔法大国でも表向きには知られていないってことか、それとも本当に誰も知らないのか…」


 侯爵に直接聞いてみるってのもありかもしれないけど、どうも気が進まない。


 何となくだが、これは秘密にしておいた方がよさそうだ。


「アルミナ。このことはしばらく黙っておいた方がいいと思う」


「そうですか? 何か理由でも?」


「何となくあまりおおっぴろにするべきじゃあないように思う」


 妄言で一笑に付せられるならまだいいが、藪蛇とかになっては大変だ。


 仮にも精霊に習ったことだぞ!?

 それが表向きに公表されていないとしたら、無計画に聞くのはあまり得策ではない気がするからだ。


「そうですか。では、この話は」


「ああ。俺たちに胸の中にしまっておこう」


「でも、セルアさんにはいつか教えないといけませんね」


 ああ。そういえば流れ者の村で魔法を学んだ時アルミナが少し話していたな。


「まあ、セルアにはおいおい話せばいいとおもう」


「はい。お手間を取らせました」


 そういうとアルミナはぺこりとお辞儀し、部屋から出ようとした。


「アルミナ」


 とっさに彼女を呼び止める。


「はい。なんでしょう?」


 アルミナがこっちに振りむく。


「その、ありがとう」


「…はい。どういたしまして」


 そういってアルミナは部屋に戻っていった。






 ふう。

 彼女に助けられるのは何度目だろうか。


 森で道に迷った俺を里に受け入れてくれて、森から出てからも食事の面倒を見てくれて、どこに行けばいいかもナビゲートしてくれて、そして今もこうして俺のメンタルカウンセリングまでしてくれるのだ。


 彼女も俺にいつも助けてもらっているといっていたが、そんなことは俺にとっても言えることなのだ。


 持ちつ持たれつ。


 そんな関係が築けているなら、それに越したことはない。

 片方に頼りっぱなしでは依存関係になってしまうからだ。


 俺とアルミナ。

 精霊に導かれたというが、その精霊様はいったい何を思って俺たちをめぐり合わせたっていうんだ?


 そんなことにを考えながら俺は眠りについた。

 






 エルトワール王国玉座の間。

 大広間の一番奥にあるのは当然玉座だ。


 レイモンド・バシュトシュタイン侯爵は、今回の魔王迎撃軍の総隊長任命式の立ち合い人である。


 国家の一大事であるため、伯爵以上の爵位を持つ貴族たちは全員が今回の任命式に参加している。


 国王代理にして、エルトワール王国第一王子のエシュバット王子は、不遜にも玉座に座って待機している。


 確かに誰かが玉座に座っていた方が格好がつくとは思うが、だからといって国王が病床に伏せているにもかかわらずそのような行動をとられるとは、不遜以外に何と表現すればいいのやら。


 あきれ半分で様子を見ていると、ひとりの男が従者を引き連れて謁見の間の扉を開け、入ってきた。


 アルモンド・エシュロス

 先頭を歩いてくる体格のいい男の名前であり、エシュバット王子の親衛隊隊長も務めている者だ。


 この者が魔王芸妓機部隊の総隊長を務めるのか?

 何人かの候補の一人ではあったが、候補の中ではあまり適切な人選だと思えない。


 剣術は並外れているが、実際に魔物たちとの実践経験が皆無だからだ。

 だが、エシュバット王子の考えも理解できなくもない。


 己の親衛隊長が総隊長となり、国の危機を救ったとなれば親衛隊長はもとより王子の評価も跳ね上がり、即位することに誰も非を唱えなくなるだろう。


 それにしても、悪知恵の働くエシュバット王子がアルモンド・エシュロスをもって魔王討伐など現実的に無理があると理解できていないとは思えない。


 いったいどういうつもりなのやら。

 何を考えているのかまるで分らないが、こと騒乱を起こすという目的に絞れば王子の周りから戦力が減るのは好ましいともいえる。


 アルモンド卿がエシュバット王子の前まで歩み寄り、片膝をついて傅く。

 それを確認した王子は、玉座から立ち上がりアルモンド卿に歩み寄る。


「アルモンド・エシュロス卿。貴公を今回の魔王討伐部隊の総隊長に任命する。この国未曾有の危機にたいして、貴公に迎撃部隊3万の指揮権及び、わが親衛隊の半数を預ける」


 この言葉に、この場に集まった貴族たちがどよめきの声を上げた。


 私にとっても同感だ。

 エルトワール王国軍は、この大陸から集められた精鋭3万名。


 今夏の騒乱の際に、少なくともそのうちの1万名は相手にしなければならないと思っていたが、その全軍が出撃してしまうのだ。


 加えてエシュバット王子が持つ親衛隊の人数はおよそ百人。


 一人の王子が持つには過剰ともいえるが、現在はその親衛隊が王城の警備も兼ねているため、さらに人数を増やそうとしているくらいなのだ。


 問題なのはエシュバット王子の親衛隊たちが城の防衛について全権を握っているに等しい現状を作り上げたのがトレルテ国王が病に伏せてから強硬に推し進めた行為であり、このままいけば国王の目が覚めたとしてもエシュバット王子が様々な権力を握っている状態になってしまう。


 今回の騒動の計画を急がせたのは、時間がたてばたつほどエシュバット王子が権力をその手にかき集めてしまうからだ。


 しかしこれは騒乱を起こす側の私たちからすれば好機だ。

 親衛隊の半分がいなくなるということは、そのまま城の防衛が甘くなる。

 ましてや主力となるであろう本隊は全員が出撃してしまうのだ。


 そのことを知らぬ王子ではないだろうが…。


(もしかすると、誘われているのかもしれませんね)


 そんなことを思いながらも、任命式は進んでいく。

 エシュバット王子の任命が終わると、アルモンド卿が伏せた顔を上げた。


「は! 必ずやご期待に応えて見せましょう。魔王の首級をあげ、必ずやこの国に勝利をもたらすことを誓います!」


 勇ましい宣誓とともにアルモンド卿は立ち上がると、そのまま踵を返して謁見の間から退場していった。


「皆の者。本日はよく集まってくれた。これにて、魔王討伐軍総司令任命式を終了する。各自、自らの職務に戻ってくれ」


 王子がそういうと、皆はアルモンド卿が出て行った扉から謁見の間を後にした。


 この国の軍事力を束ねつつあるエシュバット王子は、権力に強く縋り付いている。

 そしておそらく親衛隊の半数を出撃させたのは自らに隙をあえて作り、反乱分子をいぶりだし、それを鎮圧して自らの権力をさらに盤石のものとするためだろう。


(ですが、それは諸刃の剣だ)


 覚悟されるがいいエシュバット王子よ。


 権力とは水のようなもの。


 必要なのはそれを受け止める器を作ることであり、断じて強く握りしめることではない。


 握りしめようとすればするほど器は小さくなり、やがて一滴残さずなくなるだろう。


 そのことを、遠からず教えて差し上げよう。


 そう決意し、レイモンド・バシュトシュタインはほかの貴族たちに続いて謁見の間を後にした。


 




 軍隊が街中を闊歩している。


 映像の類で見たことは幾度となくあるが、実際に目の当たりにしてみると壮大極まりない。


 大通りを埋め尽くさんばかりの兵士たちの行軍は、いったいどこまで続くのか全く終わりが見えない。


 町の人たちも、大通りを埋め尽くさんばかりの兵士や騎士たちを見るために集まっているため、人で埋め尽くされた大通りは地面が見えない。


 様々な声援をあびて、兵士たちが送り出される光景を、俺は遠目に観察したのち、レイモンドさんの屋敷に戻った。





「以上の事が、本日の報告になります」

 夕方。王城から帰ってきたレイモンドさんからの情報によれば、エシュバット王子はエストワール王国軍と、親衛隊の半数を出撃させたそうだ。


 そしてそれはそのまま王城を守る戦力が半減することを意味しているのだ。


「…いろいろ都合がよすぎませんか?」


 まるで騒乱を起こすことを望んでいるかのようにいろいろと騒乱を起こすのに都合がいい事態が起こりすぎている。


 魔王の襲来はともかく、エシュバット王子がとっている行動はまるで反乱を起こしてくれと言わんばかりだ。


 俺の質問に答えたのはジェストさんだった。


「確かにマサキ殿の言う通りではあります。ですが、今回を外せばエシュバット王子の王政は盤石のものとなってしまうでしょう。罠だと分かっていても、行動を起こせる絶好の機会であるのも事実なのです」


 …これがもしエシュバット王子が仕掛けた罠だとしたら、かなり巧妙かつ大胆な話だ。


 もっとも、エシュバット王子にしても引っかかるやつがいるのかどうかわからないでやっている可能性も十分に考えられる。


 もしレイモンドさんが反乱を企てていることを察知していたなら、とっくに濡れ衣なりなんなりかけてひっとらえていてもおかしくない。


 となると、反乱分子をいぶりだすために、あえて必要以上に城の警備をおろそかにしたってことか?


 だとすると俺たちは文字通り飛んで火にいる夏の虫といって過言ではない。


「ジェストさん。エシュバット王子以外に、手強い相手はどれくらいいそうですか?」


 エシュバット王子は、首飾りで魔力を強化している可能性が非常に高い。

 そのため、王子の相手は必然的に俺がすることになるだろう。


 そこで問題になるのはそれ以外の手練れだ。


「親衛隊の中で警戒する必要があるのは、隊長のアルモンド・エシュロス卿と副隊長のエドガー・バレンタイン卿です。特にアルモンド卿は、魔技を修めるめるほどの達人ですので、今回最大の障害だと予想していました。ですが…」


 その最大の手札は、よりにもよって王子本人が手放したというわけだ。

 戦力的には有利になったが、状況的には極めて不気味としか言いようがない。


 別の意味で警戒心を解けないな。


「罠でも正面突破すればいいんじゃないんですか?」


 とまあ俺の内心を見事に無視して勇ましいことこの上ない提案をしてくれたのはもちろんセルアだ。


「いや、いくらなんでもそれは楽観過ぎないか?」


「確かに、それはいくらなんでも楽観が過ぎます」


 俺の突込みにジェストさんも合意する。


「ですが、方針としてはそれしかないでしょうな」


 ・・・

 合意したかと思ったが、別に反対というわけではなさそうだ。


 俺にしてもほかの案を提示できるわけではないので、それしか策もないわけだが。


「では、6日後の深夜。マサキさんたちは、ジェストさんの案内にしたがって、王城に潜入。そののち、私たちの私兵が王城を取り囲みます。その後、城内の兵士が迎撃に出ると思いますので、それに合わせて皆様は内部に侵入。エステルナ王女を救出し、エシュバット王子を捕縛してください」

「はい!」


「分かりました」


「へい!」


「頑張りますよー!」


 とまあ、俺以外の全員が思い思いの返事をしていた。

 やる気があるのはいいが、どうも不安がぬぐえない。


 昨日の夜のように、人と戦うのが怖いというたぐいの不安ではなく、まるで知らず知らずのうちに底なし沼に向かっているようないやな予感がする。


 しかし、今更後には引けないんだ。


「微力を尽くすとしますか」


 俺がそういったのを確認し、侯爵が最後を締めた。


「では、精鋭班の指揮は…」


「マサキ殿。お願いできますか?」


 レイモンドさんが俺たちの指揮をだれがするかを決めあぐねているのを見て、ジェストさんがそう提案してきた。


「お、俺ですか?」


 てっきり俺たちの指揮を執るのはジェストさんかと思っていた。


「はい。マサキ殿の戦闘力は、私よりもはるかに上です。私では躊躇ってしまうようなことも平然とやってしまいかねませんので、マサキ殿に判断してもらうほうがいいと思います」


 ふむ。一応筋は通っている。

 下手にジェストさんが指揮を執ると、俺やアルミナの能力を十分に発揮できないかもしれないと思っているわけか。


「分かりました。でも、サポートはしてくださいよ?」


「勿論です」


 ジェストさんがそういうのを確認して、俺がこのグループのリーダーなった。


「では、皆様方。作戦開始までゆっくりと英気を養ってください」


 そして、俺たちは出撃の晩まで思い思いの行動をとった。


 鍛え、学び、休む。


 国家の命運をかける戦いのために。

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