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ある日不死身になりまして・・・  作者: 黒々
第二章 エストワール騒乱編
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三度目の夢

 アルミナとレイモンドさんとの会合を終えてそれぞれが思い思いに解散する。


 俺とセルアとレイモンドさんは割り当てられた部屋に戻ったが、アルミナだけはまだ読みたい本があるとかで、レイモンドさんから書斎のカギを借りていた。


 あれだけ読んでまだ読み足りないとは、凄まじい向上心だな。


 今度彼女にいろいろ授業してもらおう。


 そんな他力本願極まりないこと考えながら、俺は部屋に戻る。


 そのまま用意されたベッドにもぐりこむ。


 この世界に来てから始めは納屋でそれからしばらくは野宿、そののちに村から反乱軍の基地と続いて今は貴族の館である。


 何とも出世したものだな。


 そんなことを考えながら、微睡の中に落ちて行った。






 目の前に大男がいる。


 今の俺の視線は普段より頭一つか二つ分くらい高い。


 つまりこれは夢だ。


 いつか見た夢の続き。

 俺が描いただけの絵本の大男の体に、まるで憑依しているかのように視点を移すことができない。


 これは単に俺が見ている夢なのだろうか?


 俺が描いた絵本の登場人物に関する物語を、寝ている最中に脳内でくみ上げているだけなのではないだろうか。


 そう思いたいが、俺の意識は覚醒時となんら変わらない位はっきりしている。


 こんなものがただの夢であるはずがない。

 ついでに言うと、これまでの夢で感じていた現実感の希薄さが今はない。


 以前に二回。


 同じ夢を見ていなければ、俺はこれを夢だと認識できなかったかもしれない。


 俺が、これが夢であると考えるのは、今見ている光景が、あまりにも現実離れしているからかもしれない。


 目の前にたくさんの人がいる。


 その一人一人が武器を、防具を身にまとい、その武器と敵意をむき出しにしている。


 その敵意の矛先は、あろうことかこの俺だ。


 いや、正確には俺ではなくこの体の主だ。


 視線を動かすことができないのではっきりとは分からないが、おそらく今回の夢でも、俺は以前見た大男に憑依しているようなものなのだろう。


 では、なぜこんな状態になっているんだ!?


 俺が憑依している男は、武装した兵士にぐるりと囲まれている。

 それだけのことを、されなければならないような状況になっているということだ。


 いったいどれだけのことをすれば、この男はこれだけ周囲に警戒されるというのだろうか。


 困惑する俺は、さらに驚くような光景を目にすることになる。


 巨大な鎧が、こちらに向かってくるのだ。


 いささか以上に抽象的な表現ではあるが、そうとしか表現できないのだ。


 まるで要塞を限界までコンパクトにしたようなその巨人は、身長二メートルに達するのではないかと思われる俺よりも、さらに頭二つ分くらい大きかった。


 そして、その身長の高さ以上に大きかった。


 ノッポなどではなく、文字通り目に見えるすべてが巨大なのだ。


「お前は、自分が何をしているかわかっているのか?」


 目の前の鎧が話し出す。

 その低く大地の底から響くような声は、とんでもない威圧感を伴っていた。


 その声に対して、俺の体の持ち主は何も答えない。

 二人の間に沈黙が流れる。


「かつての同志として、俺は今からでもお前を受け入れる用意がある。かの者と手を切り、共に来い」


 その言葉を聞いた後、俺の視線が少し下にさがり、そのまま左右に振られた。


 要求を受け入れないと、首を横に振ったのだ。


「そうか。ならば俺はお前を止めなければならない。覚悟してもらおうか。この場で死んでもらうことになるぞ」


 あくまで淡々と事務的に語るその言葉からは一切の感情を読み取ることはできなかった。


 ただ、この鎧を着た巨人は、おそらくこの体の持ち主と戦いたくはないのだ。


 だからこそ無駄とわかっていたうえで、降伏を進めてきたのだ。


 俺の視線が少しだけ低くなる。

 腰を落として臨戦態勢に移ったようだ。


 地面が爆発するような衝撃とともに俺は真っ直ぐに巨人に突っ込んでいく。


 巨人はその鎧に包まれた右腕をおもむろに持ち上げ、盾も何もないその手で攻撃を真正面から受け止めた。


 その瞬間。


 周囲に衝撃波が撒き散らされ、周辺を囲んでいた兵士を一人残らず吹き飛ばした。


 いや、視界の端に映る遠くにいた兵士は吹き飛ばされただけのようだが、近くの兵士たちはそれどころではない。


 衝撃波により鎧は砕け散り、武器は折れ、兵士たちはまるで塵埃のように吹き飛ばされていた。


 そして、俺の視界は暗転した。



 マサキはまだ知る由もないが、その巨大な鎧の姿は魔王アルベウス本人であった。 






 目が覚めた。


 これはいったい何なんだ?

 毎回のように思う。


 俺の脳みそが作った妄想の類だとするなら、それはそれで納得できそうではあるが、俺が夢を見た時は大体詳細がはっきりしていない上に混濁したような感覚に陥る。


 この夢にはそれがない。

 あまりにもはっきりしすぎている。


 夢というのは記憶の再現という話を聞いたことがある。

 詳細がはっきりしない俺の夢についても、確かに過去の記憶が混濁したカオスではあったが、斬新な経験というものは特になかった。


 しかし、今回の夢について言えば、おそらくそれは当てはまらない。

 俺が大男に憑依しているのはまだ納得がいくが、あんな鎧を身にまとった巨人なんて見たことはおろか思い浮かべたこともない。


 そんなものを夢に見た上に、あんな威圧感をはっきりと受けるものなのだろうか?


 何もかもはっきりとしない。

 ただ、いやな予感だけが募るような朝だった。

 






 朝食をとり終えた後、ジェストさんとレイモンドさんは王城に出かけた。

 さて、今日はいったい何しようかと思いアルミナに話しかける。


「アルミナは今日何をするんだ?」


「そうですね…書斎の本はほとんど読んでしまいましたし」


 ん?

 ちょっと待て。


 今何か聞き捨てならないことを言わなかったか?


「アルミナ。もう一回言ってもらえるか?」


「え? 書斎の本をほとんど読んだことですか?」


 俺の疑問形に対して疑問形で返してくるアルミナ。


 出鱈目な速読力があるアルミナでも、昨日の日中では三分の一くらいしか読めていなかったはずだ。(それでも大概ではあると思うが)


「…もしかして、徹夜で読んでいたのか?」


「はい。面白い本ばかりで、つい時間がたつのを忘れてしまいました」


 つい本を読んで徹夜してしまうとは。

 もしこれで本の中身を全部記憶していたとしたら、もう彼女の知識量は並みの人をはるかに凌駕するだろう。


「ちなみに昨日の晩読んだ本の中で何が面白かったんだ?」


 簡単な記憶チェックといこうと思いそんな質問をしてみた。


「そうですね『魔法の属性と発生原理』『大陸を渡る』『天険の地に挑む』『魔物たちの報告書』他にもいっぱいあるので、どれがいいとは言い切れませんね」


 適当に本の名前を上げてくれたが、アルミナの奴、もう歩く辞典のようになっちゃってるんじゃあないだろうか?


 何とも頼もしいやら、恐ろしいやら。


「やることないなら、一緒に魔法の練習しませんか?」


 俺たちの隣からヒョコっとセルアが顔をだしそんな提案をしてきた。


「セルア…お前また」


「はい。マサキさん相手に試し打ちです♪」


 …これは信頼されていると考えるべきなんだろうか?

 それとも俺をぼてくり回して楽しんでいるんだろうか?


 まあ俺の耐久力から考えると、それなりに合理的な訓練といえなくもないが。


「アルミナさんも一緒にどうですか?」


 …ちょっと待て。


「アルミナも俺に魔法を放つってのか?」


「ダメなんですか?」


 俺の質問に対して疑問形で返してくるセルア。


「いや、ダメっていうか…」


 アルミナの魔法を食らった場合、俺でもただでは済まない可能性が十分以上に考えられる。


 いや、待てよ。


「アルミナは確か、治癒魔法も使えたっけ?」


 以前ゲイルに肩を貫かれたとき、アルミナはその場で俺の傷を治療して見せた。


 あれができるなら瀕死になるまで修行、回復、また瀕死になるまで修行、繰り返し。


 なんてことができるんじゃあないだろうか?

 いや、出来たとしてもやらないけどね。そんな脳筋みたいなこと。


「ええ。それに魔法書にはほかにもたくさんの魔法がありましたから、あの時使ったのよりも高度な魔法も使えると思います」


 思いますというのは、実際に使ったことが無いが、使える自信はあるということだろうか?


 だとしたら練習に付き合う価値は十分にありそうだ。


 ちょっとやそっとではダメージを受けないし、受けたとしても回復できるならアルミナの魔法の訓練に付き合っても問題ないだろう。たぶん…。


「なら、多少危なくても問題ないな。アルミナもぶっつけ本番よりも、覚えた魔法がどんなものか使ってみたほうがいいでしょ?」


 その提案に、アルミナは少し思案したのち


「そうですね。使ってみたほうがいろいろわかるかもしれませんし」


 といって提案を受けた。

 




 というわけで、俺たちは昨日練習に使った地下室にいる。

 どういうわけかシルバの奴までついてきていたが。

 シルバ曰く。


「魔法を使っているところを見るだけでいい勉強になるでやす」


 だそうだ。

 まあそうかもしれん。


 これから戦うのは魔法大国であるエルトワール王国だ。

 魔法を実際に見たことが無いやつらが戦うのは危険が過ぎるだろう。

 シルバが見学したがるのも無理はない。


「じゃあアルミナさんの魔法を見せてもらってもいいですか?」


「分かりました。マサキさん。準備はいいですか?」


「ああ。いつでもいいよ」


 セルアと違い、アルミナはしっかりとこちらに確認を取ってくれる。

 安全第一。いい言葉だ。


「では行きます」


 そういうと、アルミナの右手が薄緑色に光りだした。

 アルミナの手から何かが飛んできた。


 空気の塊のような何かだ。目を凝らさないとはっきりとは見えない何かが俺のもとに飛んでくる。


 それが俺の腹に当たり、軽く衝撃が体を打った。


 これは、以前ゴブリンたちを迎撃するときに使っていた魔法だ。

 圧縮した風を砲弾のようにして飛ばす魔法だ。


 明らかにセルアの魔法よりも威力がある。

 オーク・ジェネラルの一撃位の威力はあるかもしれない。


「なかなかの威力だな」


 腹に受けた衝撃は、俺にダメージを与えるには至らなかったが、踏ん張らないといけないくらいの重さがあった。


 普通の攻撃だと俺には踏ん張る必要性もない。


 たぶん軍馬に正面衝突されるくらいでは踏ん張る必要はないはずだ。

 つまりアルミナのさっきの魔法は、車が正面衝突したときくらいの威力があるといえるだろう。


「ありがとうございます。他にも試してみていいですか?」


「ああ。やってみるといい」


「分かりました」


 そういうと、アルミナの左手が赤く光りだした。

 今度はセルアが使っていた火球が放たれる。


 これは目に見えるので防ぐことができる。

 そう思い右手をかざす。


 そこに衝突して、火の粉が飛び散る。

 結構熱い。セルアの魔法よりも随分熱量がある。


「アルミナ。セルアの火球よりも随分熱いけど、どうやっているんだ?」


「そうなんですか? セルアさん。見せてもらってもいいですか?」


「分かりました」


 そういうと、相変わらず俺の了承を待たずに魔法の用意を始めるセルア。

 信頼の裏返しとみるべきなのか?


 そんなことを考えながらも、俺は火球を受け止める。

 やはりアルミナの魔法の方が強力だ。


「なるほど。セルアさんの魔法は、そのまま放っているだけのようですね」


「どういうことですか?」


 セルアの質問に対して、アルミナは掌の上に火球を生み出した。


「火球を生み出す時に、魔力を掌に集めますが、その際によりたくさんの魔力を集めて用いることで魔法の効力を上げることができるんです。このように」


 そういうと、アルミナの火球が緋色から真っ赤に変色していった。

 昨日俺がセルアから受けた火球は緋色だったが、それに魔力を込めると威力の高い真っ赤な火球が出来上がるということか。


「よりたくさんの魔力、ですか?」


「まずは火球を掌の上に作って、それを維持してください」


 そういうと、アルミナの掌の上の火球が緋色に戻った。

 あっちは省エネモードってことか?

 セルアがアルミナに言われたとおりに火球を生み出す。


「その状態で、魔力をさらに注ぎ込んでください。魔法を発動させるときに使う量を増やすという感じです」


「分かりました…」


 そうして、セルアは目を閉じ、「むむむ」とか言いながら眉間にしわを寄せている。


 セルアの炎が、少しずつ赤みを帯びてきた。


「できました!」


 嬉しそうにそういうセルアの額には玉のような汗が浮かんでいた。

 よほど集中力を使うのだろう。


「じゃあマサキさん行きますよ!」


 嬉々としてセルアがそういってきた。


「な! おい、ちょっとま…」


 そんな俺のセリフなど無視して真っ赤な火球が俺に迫ってくる。

 とっさに左手をかざして防いだ。


 アッツ!


 昨日の火球とは比べ物にならん。

 下手するとアルミナよりも高熱かもしれん。


 手加減なしにもほどがある。

 たぶんまともに食らえばオーク・ジェネラルでも一撃で仕留められるぞ!


 まあ、びっくりしただけで相変わらずノーダメージなんだけどさ。


「すごいですよセルアさん。一度目でできるなんて!」


「自分でもびっくりです。こんな威力のある魔法が打てるようになるなんて!」


 アルミナとセルアが手放しで喜んでいるのを見ると突っ込めない。

 シルバの奴、口をパクパクさせて腰を抜かしているし。


「とりあえず、一休みするか。セルアもアルミナから教わりたいこともできたんじゃないか?」


 そう提案してみる。

 みんな異論はなさそうだ。


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