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ある日不死身になりまして・・・  作者: 黒々
第二章 エストワール騒乱編
34/68

稽古の時間

「私がマサキ殿に稽古を…ですか?」


 俺の要望に対して、ジェストさんは少々眉をひそめた。


「私がマサキ殿に手ほどきできることなどほとんどないと思いますが?」


「いえ、さっきも言った通りで、私は戦闘経験がほとんどないんですよ」


 こっちの世界に来て約半月といったところだが、未だに戦闘らしい戦闘の経験などオークとゴブリンのボスや、ゲイルとの一騎打ちくらいしかないのだ。


「だから、訓練内容を見るだけでも参考になると思うんです。前にジェストさんとシルバが組み手をしてましたよね? あれに俺も混ぜてほしいんです」


「ふーむ」


 ジェストさんはしばし考え込んだようだが、すぐにこちらを向いて


「分かりました。私でよければ微力を尽くしましょう」


 そういってくれた。


「ありがとうございます!」


 素直にお礼の言葉が出てきた。のはよかったのだが、その直後


「その訓練に私も参加していいですか?」


 なんてことをセルアが言い出した。


「ちょっと待てセルア。お前もしかして、今回の騒動にも参戦するつもりなのか?」


「はい。勿論そのつもりです。というかマサキさんはなんでいつも私をのけ者にしたがるんですか?」


 膨れっ面しながらセルアはそんなことを聞いてくる。


 しかし、そもそも山賊討伐についてきた時点で言おうと思っていたことが一つある。いい機会だ。ここではっきりさせておこう。


「セルア。なんだってお前はそんなにいろいろと首を突っ込みたがるんだ?」


「いろいろってなんですか?」


「山賊討伐の件。山賊の本拠地に向かう件。今回の騒動の件。これだけあればいろいろといっても問題ないだろ?」


 初めから思っていたことなのだが、彼女はあまりにも危険地帯に突っ込みすぎではないだろうか?


 アルミナは俺から見ても申し分ない戦闘能力と、常識外れともいえる気配探知力があるため俺はほとんど心配する必要がない。


 しかしセルアは普通の女の子で、魔法が多少使える程度なのだ。


 山賊討伐に参加している時点で場違いも甚だしいが、今回の一件についてはおそらく戦闘の規模が違う。


 大群同士のぶつかり合いになれば、俺個人が守れる範囲なんてたかが知れている。


 もともと今回の騒乱に加担する予定だったシルバ(本人は最近まで知らなかったらしいが)はともかく、セルアが参加するわけがわからない。


 しかしセルアは頑として譲るつもりはないようだ。


「今回は私にも参戦する理由があるんですよ!」


「なんで?」


 今までセルアがついてきたのは好奇心半分といった感じがしたが、今回の食い付き方には何か含むところがありそうだ。


「マサキさん。以前私はこの国の貴族だったとお話ししましたよね?」


「ああ。でもセルアは事の顛末を見届けたいだけで、騒乱に加わる必要はないだろ。危険すぎる」


「そうじゃないんです。たぶん、今回の一件には私の家の者も少なからず関わっていると思うんです」


 ん?

 セルアは昔、ほかの貴族の人に嫁がされそうになり、不評を買って王国から追放されたとかいう話だったな。


 その嫁ぎ先の貴族または、セルアの生家が今回の騒乱にかかわってくるということなのか?


「セルアさん。とおっしゃいましたね。あなたの家名はなんですか?」


 ジェストさんがそう聞くと、セルアは一呼吸おいて名乗った。


「私の本名は、セルメリア・バレンタイン。元バレンタイン伯爵の四女に当たる者です。セルアという名前は、流れ者の村に着いたときに村長がつけてくれた名前なんです」


 セルメリア・バレンタイン。


 その名前を聞いて、ジェストさんは眉を寄せた。


「何か、心当たりでもあるんですか?」


「…バレンタインという名は、エシュバット王子の親衛隊副隊長であるエドガーという男の生家の名前です」


「エドガー兄さんが、王子の親衛隊副隊長!?」


 ジェストさんの言葉にセルアが驚愕の声を上げる。


「はい。もともと親衛隊を務めていたようでしたが、ここ最近で急に階級を上げ、今では親衛隊の副隊長を任されているそうです」


 親衛隊の副隊長がセルアの兄ということか。


「もともとバレンタイン家というのは魔法王国において、数少ない剣術の名手を多く輩出する家です。セルア殿がバレンタイン家のものだったとは…」


 さすがのジェストさんも律儀に説明しながらもこの事態に唖然としている。


「…だったら、なおさらこの戦いに参加しないといけません」


「…セルア?」


 いきなりセルアが決意を込めたようにそう言い放った。


「私の兄が、この国に住む人たちを苦しめるのに協力するなんてことを見逃すことなんてできません! 私も一緒に戦いたいんです!」


 …こいつは、言い出したら聞かないんだよなー。


「分かった。だったらしっかり鍛えて行けよ」


「勿論です!」


 そうして俺たちは四人組で訓練を行うことになった。

 それはいいとして。


「アルミナはこの後どうするんだ?」


 俺たちはともかく彼女だけ仲間外れにするのは気が引ける。

 しかし俺の考えは杞憂だったようだ。


「私はもう少し調べたいことがあるので、侯爵様。また書斎をお借りしてもよろしいですか?」


「ええ。勿論かまいませんよ。ただ、私も少し調べないといけないことがありますので、ご一緒させてもらうことになりますが?」


「はい。ありがとうございます」


 どうやらアルミナと侯爵は頭脳労働を担当することになったらしい。

 適材適所。いい言葉だ。


 そんなこんなで俺たちは執事さんに案内されて訓練場に案内された。




 いくら侯爵の屋敷といえど、さすがに道場のような空間は存在しなかった。

 代わりに執事さんに案内されたのは地下室だった。


 かなり広いうえに、石作りの建物なのでかなり頑丈そうだった。


「それでは早速手合せを始めましょうか」


「よろしくお願いします」


 そういうと俺は素手で、ジェストさんは木刀を構えた。


「シルバ。合図を頼む。マサキさん。手合わせなので寸止めでお願いします」


 ジェストさんがシルバにそう指示を下し、軽くルールを決めた。


「分かりました」


「はいでやす」


 相変わらず独特の方言で了承を表現するシルバだったが、そのまま右手を上げ、振り下ろすと同時に合図を下した。


「始め!!」


 なんか初めてシルバがまともなしゃべり方をしたような気がしたが、そんなことよりも今は組手だ。


 素早くジェストさんの懐に潜り込み、ボディーブローを放つ。


 しかしジェストさんはその攻撃を見切っていたようで、とっさに木刀で防ぎにかかる。


 これが実戦だったなら俺は木刀をへし折って拳を振りぬいただろうが、俺は戦闘技術、特に駆け引きの類を学ぶために組み手をしているのだ。


 木刀に当たる寸前で拳を止めて、そのまま膝蹴りに移る。

 ジェストさんは俺の側面に回り込み膝蹴りを回避したが、無理に踏み込んだせいで一瞬の隙ができた。


 すかさず裏拳を叩き込む。

 ジェストさんの顔に当たる直前で寸止めに成功した。


「そこまで!」


 シルバの声が響き渡る。

 とりあえずは俺の勝ちだ。


「さすがですね。私ではやはり相手にならなそうだ。ですが、マサキ殿が何を学びたいのかがなんとなくわかりました」


「そうですか。では…」


「はい。マサキ殿。次は防御に徹して、私の攻撃を捌いてみてください」


 防御に集中ね。何か俺の攻防に問題があることに気が付いたようだ。


「分かりました。じゃあシルバ。もう一度頼む」


「へい。それじゃ生きやすよ……始め!」


 シルバの合図とともにジェストさんが俺のもとへ踏み込んできた。

 かなり近い。手を伸ばせば届きそうなくらいの距離ではあったが、こちらからは手を出さないという条件だ。この条件下で俺に何かを教えられると踏んだからこうしているのだろう。


 ジェストさんが木刀を下段から切り上げる。


 別に当たっても問題ないだろうが、組手の原則に従い、上半身を反らして回避する。


 その時、俺の足元が掬い上げられた。


 ひっくり返りそうになるのをこらえ無理やりバランスをとる。


 その瞬間の致命的な隙をついてジェストさんが木刀を振り下ろしてきた。

 今度はジェストさんの木刀が俺の目の前で寸止めされていた。


「そこまで!」


 シルバの声が響く。


「予想通りになりましたね」


「ジェストさん。今のは?」


 ゲイルとの戦いでも感じた不意を突かれるこの感じ。これをやられると俺は逐一隙ができてしまうのだ。


「マサキ殿の身体能力は確かに素晴らしいの一言ですが、確かに武術的な駆け引きがおざなりですな。そのため上に振り切った剣に気を取られた隙をついて足払いをかけただけです」


「…なるほど。それで」


「はい。マサキ殿は意識が常に一点に集中しすぎているため、上に意識が行けば下に、右に意識が行けば左に意識が向かなくなっています。おそらく、何度か組手を繰り返せば慣れて対応できるようになるでしょう」


 なるほど。

 ボクシングなんかでよくあるが、上下に打ち分けることで相手をかく乱するという基本的な手法だ。


 慣れればどうということはないのだろうが、経験不足が仇をなしているのだ。


「なら、ジェストさん」


「ええ。これから出撃までの間のわずかな時間ですが、その間に可能な限りお相手しましょう」


 よし。これで少しはマシになればいいな。


「じゃあ早速」


「ええ、始めましょう。まずは私の攻撃を捌いてください。二人は私たちの組手をよく見ておいてください」


 セルアとシルバはコクコクとうなずいている。

 見ることもまた修行というが、なるほど俺たちの組手は二人にとってもいろいろ参考になるのかもしれないな。


「では」


「行きますよ!」

 



 

 かれこれ一時間は組手を続けている。ジェストさんの打ち込みを、反射神経頼みに回避する。


 その次のジェストさんの行動はさまざまで、俺の意識がそれている場所を的確についてくる。


 どこをどう見て判断しているのかということまではわからないが、とにかく的確についてくるのだ。


 しかし何度もそうやって隙を突かれ続ければ、いくら俺が鈍いといっても多少は順応してくるというものだ。


 切り下げをジェストさんの側面に回り込むように回避する。


 ジェストさんは俺の移動先に足をおいて俺が回り込むのを阻止しようとするが、俺は回り込むと見せかけて方向転換しゼロ距離まで間合いを詰めた。


 勝負ありだ。


 その様子を見て、ジェストさんが大きく息を吐く。


「参りました。もう私ができる手ほどきはありません」


「いいえ。本当に勉強になりました。ありがとうございます」


 俺たちがそういいあうと、今まで観戦していたセルアとシルバが歩み寄ってきた。


「さすが旦那でやすね。もう親方に勝てるなんて」


 こいつの中では俺は旦那でジェストさんは親方らしい。


 どういう基準で決めているのやらと思いながら、どうでもいいことだと思い直した。そんなもの個人の勝手だ。


「全くですよ。それにマサキさんは体捌きを覚えようと思って全然持ち味を出していませんよね?」


 セルアもそう言い寄ってくる。


「マサキ殿の持ち味とは?」


 ジェストさんが俺にそう質問してくる。

 そういえばジェストさんは俺の力がどういうものなのか知らないんだったな。


「ええ。一度ジェストさんにも見せておきましょう」


 そういうと、俺は再びジェストさんと向き合った。


「ジェストさん。本気で私に打ち込んでください。私は一切動きませんから」


「!? そんなことをしてはマサキ殿が!?」


 あからさまにうろたえるジェストさんに対して、フォローを入れたのはシルバだった。


「親方。百聞は一見にしかずっす。とにかくやってみることでやすよ」


 シルバが迷いなくそう言い放つと、ジェストさんは戸惑いながらも構えた。


「では、マサキ殿。手加減なしで打ち込みますが、よろしいのですね?」


「はい。思いっきりどうぞ」


 俺がそういうと、ジェストさんは木刀を上段に構えて


「はああぁぁぁぁ!!!!」


 と、裂ぱくの気合とともに俺に振り下ろした。

 

 バキン!

 

 木がへし折れる音が響く。

 俺はもちろんのごとく無傷だったのだが、ジェストさんのつかった木刀の方が中ほどから折れてしまったのだ。


「……これは。一体?」


 戸惑うジェストさんにシルバが説明する。


「これが旦那の力なんでやすよ。旦那はアズールさんの剣を素手で掴み取ったり、ベネロさんの投げナイフが刺さらなかったりと、常識外れの頑丈な体を持って居るんでやす」


 相変わらず変な語尾のままだが、要点をかいつまんだわかりやすい説明をするシルバ。その説明に、ジェストさんは目を丸くした。


「では、打撃のみならず、斬撃や刺突であろうともマサキ殿には効果がないと?」


「ついでに言うと、魔法や魔技についてもある程度なら問題ありません」


「…魔技も通用しないのですか…」


 俺の説明にジェストさんは混乱を隠せないようだった。

 まあなんでそうなのって聞かれても答えられないんだけどね。


「マサキさん」


 絶句するジェストさんを尻目に、俺にセルアが話しかけてくる。


「どうした。セルア?」


「さっき、ある程度なら魔法を受けても大丈夫って言ってましたよね?」


「ん? ああ。問題ない」


 実際アルミナ以外のエルフ族では俺に手傷を負わせる手段はなさそうだった。


 アルミナについても試していないだけである程度は問題ないと思う。


「じゃあ…」


 と一言区切ったのち、セルアはとんでもないことを言い出した。


「マサキさん。私の魔法の的になってください!」

最近執筆時間が取れない中で無理に執筆を続けていたため少々体調を崩してしまいました。

そのためしばらく休載しようと思っております。

代わりといってはなんですが、今週は今まで書き溜めした分を投稿しておきます。



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