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ある日不死身になりまして・・・  作者: 黒々
第二章 エストワール騒乱編
32/68

謎の首飾り

「エシュバットがグリモールと同じ力を持っているだって!?」


 一体全体なんでまたそんなこと思ったんだアルミナは?


「はい。といっても可能性の話です。まだ確証がないのでもう少し調べないといけません。ジェストさんや、バシュトシュタイン侯爵にも話を聞かないといけないかもしれませんし」


「…わかった。調べ事は任せる」


「ありがとうございます」


 そういうとアルミナは再び別の本を手に取りぺらぺらとめくりだした。


『エストワール建国史』をわずか数分で読み切ってしまうアルミナなら、俺が幾日もかかってしまうような調べ事もあっという間に終わらせてしまうだろう。


 しっかしなんでまたアルミナはエシュバットが初代国王のグリモールと同じ力を持っているなんて思ったんだ?


 グリモールとエシュバットに共通するのなんて血筋以外に何もないような気がするが、って俺はグリモール王のことは何も知らないんだ。


 アルミナはほかの本に没頭していたため『エストワール建国史』は俺が読んでも問題ない。


 まずは続きを読んでみよう。アルミナに話を聞ければその方が早いとは思うが、自分の目で見なければわからないものもあるかもしれない。


 俺には彼女のように早く読むことはできないが、俺がそれを真似する必要はない。美味い食事を楽しむようにゆっくりと咀嚼するとしよう。

 


 それから俺は日が暮れるまで建国史を読み込んだ。


 おそらくアルミナの話を聞かなければここまで読み込むようなことはしなかっただろうが、今回の計画最大の標的の情報が入るかもしれないと思うとこの本を読みこむという作業にも自然と熱が入った。


 建国史に記されている内容は大体三部に分けられる。


 第一部に現在のエストワール王国についてのまとめ。

 第二部は建国者である初代国王について。

 第三部で代々の国王がどのような政策をしてきたかと記されていた。


 アルミナの予想(憶測かもしれないが)が間違っていてもグリモールの能力を知っておいて損はないだろう。


 初代国王の能力は簡単に言えば圧倒的な魔力と魔法だ。


 それこそ敵の軍隊の陣形そのものに穴をあけるような規模の魔法をあっさり発動させることができるようなことが書いてあった。


 いささか以上に誇張されているようにも思えるが、アルミナと同規模の魔法が使えると考えればそれだけで驚異的な実力者だということは想像に難くない。


 加えていうとグリモールとかいうやつの親衛隊のような奴の強さも尋常ではなかったらしい。


 一対一での勝利は当たり前。

 一人で小規模の部隊を制圧することもできるような連中が百人以上いたとなっている。


 どこまで本当の事なのかまるで見当がつかないが、もしこれが本当のことだったとしたらそれはほかの国が手を出さなくなるのも納得がいく。


 もしエシュバット王子がそんな腕前であれば、俺でも勝てるかどうかは分からない。


 また、代々の国王についての記事にも興味深い部分があった。


 建国史によれば、どの国王もほかの者と比べると軒並み魔力が高く、高等魔法などをホイホイ扱えるような連中ということだ。


 ほかの公爵家などは才能豊かな者達を集めて英才教育を施しているのに対して国王家はその血筋の者達が皆実力のある魔法使いなのだ。


 これが正しいとなれば、エシュバット王子も相応の、いやこの国で屈指の魔法使いであるということになる。


 俺が知る限りで最高の魔法使いは間違いなくアルミナだが、エシュバット王子はもしかするとアルミナに匹敵するかそれ以上の実力者であり、その部下たちもかなり練度の高い魔法使いなのかもしれない。


 というか、もしアルミナクラスの魔法使いが束になってかかってきたなんて想定すると俺でも逃げ出したくなる。


 なんでか俺は不死身になってはいるが、ゲイルの一撃が俺に刺さったように決して万能で万全の能力というわけではないのだ。


 どうやら相手の戦力を知らず知らずのうちに過小評価していたようだ。

 夕方になれば侯爵やジェストさんも帰ってくるだろうから、その時にでもいろいろ聞いてみることにしよう。


 そう思い本から目を離した。

 気が付けば日が落ちかかっていた。


 何かに熱中すると時間を忘れてしまうのは俺の癖の一つだ。


 アルミナは相変わらず本を読み続けている。あのペースだとこの書斎の中の本を読み切るのにあと数日くらいだろうか?

 全く信じがたい。


 シルバの奴はいつの間にか一人でぶつぶつ言いながら本を読んでいるように見える。


 隣でリリナさんが面倒見ているようだが、多少文字が読めるようになってきたのだろうか?


 セルアも魔法に関する本を読むのを再開したようだ。

 みんな書斎にすし詰め状態だったが、案外こういうのも性に合っているのかもしれないな。


 そんなこと考えていると、書斎の扉がコンコンとノックされた。

 なんだと思ってみんなが振り向くと、執事さんが入ってきた。


「旦那様がお帰りになりました。情報交換をしたいため、広間に集まってほしいとのことです」


 お。帰ってきたか。

 情報交換がしたいのはお互い様だ。


「分かりました。すぐに向かいます」


 そういうと、全員が書斎を後にして客間に向かった。

 客間ではすでに侯爵とジェストさんが席についていたので、俺たちも昨日と同じ席に着く。


「お疲れ様です。お二人とも」


 元いた世界の癖で、仕事帰りの二人にそう声をかける。

 存外癖というものは抜けないようだ。


「はい。マサキ様もお疲れ様です。本日はどうされていたのですか?」


 侯爵が俺に返事をして聞き返してくる。


「侯爵の書斎にお邪魔していました」


「私の書斎に?」


「はい。この国についていろいろ調べてみようと思いまして」


「そうでしたか。それで、成果はどうでしたか?」


 いい機会だ。ここで侯爵とジェストさんに聞きたいことを聞いてみよう。


「エストワールの歴史について調べていたのですが、それについていくつか疑問が浮かんだので聞いてもいいですか?」


「ええ、私たちにわかることなら」


 ということだ。なら遠慮なく質問してしまおう。


「エシュバット王子は魔法使いなのですか?」


 その質問に対して、侯爵とジェストさんは少し顔をしかめた。


「…その通りです。エシュバット王子はこの国で最高の魔法使いになりました」


「なりました?」


 なりましたとはどういうことだろうか?


「順を追って説明します。初代国王のことはご存知ですか?」


 コクンと首を縦に動かす。

 アルミナも知っているだろうし、セルアはこの国の生まれだから問題ないだろう。シルバの奴が置いてけぼりにならないかなと顔色をうかがってみると。


「確か、グリモールとかいう魔法使いでやしたね」


 シルバの奴がそんなことを口にした。


「お前も知ってるのか?」


「へい。初代エストワール国王はこの国の名前と同じくらい有名でやすから」


 どうやら俺があまりにも蚊帳の外だっただけのようだ。


 侯爵も俺が一般常識に疎いから確認しただけで、本来ならいちいち確認を取るようなものではないのかもしれない。


 そんな俺の感想を余所に、侯爵は話を戻した。


「話を続けましょう。初代国王は、自らの魔力もさることながら配下の者達に協力無比な魔法使いたちをそろえていました。そのため、ほかの国の者達はグリモール王に服従するしかなくなりました」


 そこまでは本で読んだ通りだ。俺が知りたいのはその先の話だ。

 沈黙を持って先を促すと、侯爵はそのまま話し出した。


「それ以降、エストワールの国王になる者は皆強大な魔力を持ち、高度な魔法を扱うことができました。ですが、皆が皆魔法の才能を持っていたわけではないのです」


「…どういうことです?」


「魔力を個人が保有できる量は、訓練次第で伸びはしますが、それは長年の修練なしにはあり得ません。一日二日で伸びるものではないのです。しかしこの国にはその常識を逸脱した存在があります。それが…」


「エストワールの国王たちってことですか」


 なるほど。おかしな話もあったものだ。


 言い方を変えれば、昨日までダンベルひとつ持ち上げられなかったやつが二百キロ以上のバーベルをヒョイヒョイ持ち上げだしたということだ。


 これを異常といわずになんといえばいいのだろうか。

 もっとも俺も人のことを言えた口ではないのだが(汗)


「つまり、人並みの魔力しか持たなかった王子様が、ある日突然この国で一番強い魔法使いになったってことですか?」


 セルアが侯爵に質問した。


「はい。その通りです。エシュバット王子は、こういってはなんですがあまり魔法使いとしての才能に恵まれていませんでした。魔法の訓練もそれほど熱心に取り組んでいたわけではないので、あまりに不自然に強くなったのです」


「それはいつごろの話なんですか?」


「…先代のトレルテ王が病床に伏せられ、エステルナ王女が入獄される少し前あたりです」


 ふーむ。

 あまりにもいろいろとタイミングが良すぎるな。


 何か裏があるのは確実だろう。


「エシュバット王子がパワーアップをした原因はなんなんですか?」


 俺の疑問をセルアが変わって侯爵に質問した。

 セルアの質問に対して、侯爵は眉を少々しかめたが、そのまま話し出した。


「あくまで推測なのですが、王子の魔力が高まった日から、彼は王家に代々伝わる首飾りを身に付けていました。あれはもともと国王様が常に身に着けていたものだったはずにも関わらず」


「…それはつまり」


「…繰り返しますがあくまで推測にすぎません。ですが、その首飾りによってエシュバット王子の魔力が跳ね上がったとしか考えられないのです。あの首飾りは歴代の王に受け継がれてきたもので、おそらく初代国王もその力の恩恵を受けていた可能性もあります」


 そんなバカなことがとも思ったが、俺も人のことを言える身の上ではない。

 俺のようにわけの分からないパワーアップをしている奴もいるんだ。そんな奴がほかにいないなんて考えるほうが不自然だ。


「もし、首飾りがなくなってトレルテ王の魔力が落ちていたりしたら…」


「…まず間違いなく首飾りによって魔力が増強されるということになります」


 そうだとしたら相手はともすれば俺と同格かそれ以上という可能性があるということになりかねない。


 どうやら旗色は予想以上にこちらが悪いようだ。


「今回の計画も、侯爵がその首飾りのことを推測したことが発端なのです」


「ジェストさん?」


 今までひたすら話を聞いていたジェストさんが、そんなことを話し出した。


「マサキ殿。この国は人材を集め、育てることを何よりも重要視し、そうしなければならないような制度や仕組みが山のようにあります。しかし、今その頂点に君臨しようとしているエシュバット王子は自らを磨き上げることなく力を手にし、ほかの者達を支配し、食い物にしようとしているのです」


 ジェストさんの言葉には悲しさと悔しさが入り混じったような響きがあった。

 その独白に、俺たちはただ聞き入ることしかできなかった。


「私はこの国の理念に賛同しました。一人一人が持つ才能を生かせば、この国はこの上なく豊かになると信じました。ですが、その頂点がそのような道具に頼り、身勝手な行いをしていては意味がありません。私たちは、そんな国になるのが耐えられず、今回の計画を練り上げたのです」


 権力を持つものが、いかさまによって自らを強くし、身勝手を行う。

 それにより国の民が苦しむ未来を見たくない。

 ジェストさんの言葉からは、何の嘘も偽りも見いだせない。


「…それで、今囚われている王女を助け出せば、その未来は回避できると?」


「はい。エステルナ王女が投獄されたのは、エシュバット王子が国を率いれば、最悪の独裁政治が始まることは目に見えています。そうお考えになった王女様は、エシュバット王子にそのような暴政を行うのを止めようとされました」


「それで?」


「おそらくその時すでに首飾りを手に入れていたのでしょう。そのせいで、エステルナ王女はエシュバット王子に捕まってしまい、王子を手にかけようとした罪を着せられ投獄されたのです」


 なるほど。そういういきさつがあったのか。


 まだいろいろと細部は分かりかねるが、大まかな経緯は見当がついてきた。

 となると、もう一つ聞いておかないといけないな。


「エステルナ王女という方は、どういう人なんですか?」


 これから俺たちはあったこともない王女を奪還し、即位させなければならない。それなら、今の時点で人柄くらいは知っておいた方がいいに決まっている。


「エステルナ王女は、トレルテ王に次ぐ魔法使いでした。無論、王女は首飾りなどしてはいませんでした。だからこそ、エシュバット王子と二人で話をしても問題ないと思っていたのかもしれません」


 そして、エシュバットがパワーアップしていて返り討ちに合い、濡れ衣を着せられたまま投獄されたというわけか。


「それで、お二人はエステルナ王女が即位されれば、それで解決すると考えていらっしゃるんですね?」


「少なくとも、エシュバット王子が行おうとしているのは力による独裁です。そんな方が、いまこの国で最強の魔法使いになってしまった」


 さらにいうと小賢しさはそれなりに働くときている。

 状況は最悪に近いな。


「とりあえず、出撃までにもっといろいろ情報を集めないと危険ですね」


 俺がそんな何気ない一言を放った時、扉がノックされ、晩御飯が運び込まれてきたのため、本日の会議はこれでお開きになった。


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