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ある日不死身になりまして・・・  作者: 黒々
序章 エルフの里と不死身の凡人
3/68

王女

(し、死ぬかと思った)


 全くなんて連携のとれた連中だ。俺の移動を封じたうえであんな一撃をぶっ放してくるとは。


 そしてそれ以上にとんでもないのは間違いなく俺の体だろう。一体全体どういうことなんだ?


 今の攻撃は間違いなく人間に対してはオーバーキル。

 長髪のエルフの一撃よりも嫌な予感がしたうえ、周囲への被害から考えてもさっきの攻撃が見かけ倒しということはありえないだろう。


 だというのに俺は無傷である。


 こんなバカげた話があってたまるか。と、俺が敵だったら思うだろう。


 だが、もうこうなったらやけっぱちだ。

 このエルフたちの攻撃力も、俺の体に起こった異変も完全に俺の常識の外だ。これ以上長引かせて更なる攻撃をされるのも怖い。


 とにかく遠距離戦に持ち込まれるのだけはだめだ。攻撃を受けることを前提に接近戦を挑もう。こちらの戦力を認めさせないと交渉もできそうにない。

 

 煙幕が晴れる。

 そして敵の位置が見えた。

 さすがに時間が経過したせいだろう。すでに長髪と軽装備の二人は矢をつがえている。


 もっとも、さっきリーダーが2人にそう指示していたのでそれは十分に予想の範囲内だ。おそらく隠れているリーダーにしても似たり寄ったりだろう。


 ならまずは見えるほうから。そう決めて歩き出す。


 走るのは相手の対応を見てからだ。いきなり考えもなしに突っ込むから罠にはまる。であれば、相手の出方を見ながら距離を詰めればいいのだ。

 

 予想通り軽装備のエルフは足止め用の魔法を使うタイミングを計りかねている。 俺が隙を見せればすぐにでも使ってくるだろうけどね。

 

 そうなると俺が警戒するのは当然長髪のエルフだ。おそらくあいつらが全力で矢を放ったとしても俺の体には通用しない。

 

 まるでスーパーマンみたいだが、これについてはほぼ確実だろう。

 そうなるとさっきの樹木をえぐって見せた一撃には注意しておきたい。

 

 ただ、その一撃でも俺に効果がない可能性の方が高いがね。

 

 散歩と同じくらいの速度で距離を詰める。

 さすがに距離を詰められるのは彼らにとって致命的だということよく理解しているのだろう。距離が半分を切った時、2人は大きく後ろに飛んだ。


(今だ!)


 長髪のエルフに狙いを定めてとびかかる。


 相手もそれを予想していたのだろう。後方に飛び下がりながらもこちらに向かって矢を放ってきた。その矢は予想通り薄緑色の発光がある。


 ものすごいスピードで迫ってくるその矢に向けて俺はこぶし叩き付けた。

 

 ギィィン


 鈍い音が響き、長髪の放った矢が砕け散った。


 そのままの勢いで追いすがっていく俺に向けて、真横から多量の石つぶてが飛んできた。おそらく軽装備のエルフだろう。判断そのものは悪くない。

 

 だが、相手が悪かったな。お前の攻撃では、このわけの分からない俺のパワーあいてに足止めもできない。

 

 俺に追いつかれた長髪のエルフがさらに追撃を放とうとするが、それよりも早く俺のこぶしが彼の腹に届いた。

 

 正直、まだ力加減がよく分からない。決して殺さないように、こぶしを少し当てたところで、打ち込みを止める。

 下手をするとほとんどダメージがない可能性もあったが、相手はその一撃で昏倒してくれた。

 

 そのまま足を止めずにもう1人のエルフに飛びかかる。そいつも俺を迎撃しようと思ったのだろう。右手がうっすらと光っている。

 

 だけど悪いな。付き合うつもりはないんだ。

 思いっきり一歩を踏み込む。俺の体は一気に加速し、相手の懐に潜り込み急停止する。

 

 いきなり懐に潜り込まれるのはさすがに予想外だったのだろう。それでも俺に魔法を放とうとしてくる。

 そいつが来る前に長髪のエルフと同じ要領で無力化する。


 2人ともいい根性している。

 少なくとも、俺がこいつらの立場だったら、とっくに心が折れているだろう。

 

 今回の勝ちは俺のわけの分からん異常さに依存したものだ。だから天狗にはなれない。

 それに、まだ1人残ってる。


「この2人をどうこうするつもりはない。だから出てきてくれないか」


 遠まわしに人質にしたという強迫のようなニュアンスも織り交ぜながらそう叫ぶ。出てきて話を聞いてくれるといいんだが。

 

 相手の方もこっちの意図を受け取ってくれたようだ。

 木の陰から音もなく現れ、地面に降りた。

 

 さて、いい加減交渉の一つでもできればいいのだが、部下の2人を倒したことで頭に血がのぼっていないとも限らない。

 お互いが相手に対して警戒して沈黙が場を支配する。

 

 こっちから何か言った方がいいかと思ったところで、相手の方が口を開いた。


「化け物め、この身に代えてもこの場で仕留める」


 頭に血がのぼりまくってた!

 どうしよう。交渉どころじゃないぞ。


 こうなったら全員気絶させてから考えるか?

 そんなこと考えていると相手の体から淡い光が発せられ始めた。


 そういえばさっきあいつこの身に代えても仕留めるとか言わなかったか?


 ということはあれはあいつの最終兵器ということか。

 しかも自爆攻撃の類の。


 まずいな。

 そんなもん使われては平和的交渉なんて夢のまた夢だ。

 

 もし交渉したければ方法は一つ。

 相手が自爆攻撃を使う前に昏倒させることだ。

 出来るのか? 

 戦闘素人の俺に。


 だが、やるしかないか。

 そう決心したとき


「止めてください!」


 その場にそぐわない凛とした声が響き渡った。

 






 声の主を探すとそこには女性のエルフ族が立っていた。

 

 ほかのエルフ族の人たちと同じくらいの背丈と同じく腰までとどくであろう長髪。肌の一切を露出しない緑を基調とした民族衣装のような装い。しかしその顔立ちはさっきまで戦っていたエルフ族の弓使いたちよりもさらに整っている。

 

 いや、整っているというよりも彼女からはほかのエルフたちとは違う魅力のようなものがある。魅力というよりは迫力だろうか。いずれにしてもさっきまで相手にしていたエルフたちとは明らかに何かが違う。

 

 あなたは何者だ? 

 俺に浮かんだ疑問に答えたのはエルフのリーダーだった。


「アルミナ王女様なぜここに!?」


 どうやら彼女はエルフ族の王女らしい。できれば彼女と話ができればいいんだが。


「弓を収めてください。その方は我々に対して敵意を持っておりません!」


「しかし、あの者の力は強大です。始末しなければ危険です!」


「あなたたちで相手にならないほど強大な力の持ち主であるのならば、敵対するのが得策ではないことは承知でしょう。ここは弓を下げてください!」


 アルミナ王女とやらの一喝に、弓使いは弓を下げた。

 それを確認したアルミナ王女は、そのままこちらへ向き直り。


「この者たちは我々エルフの里を守ることを役目とする者達なのです。どうかご容赦を」

 

 そういって頭を下げてきた。


「いえ、こちらにあなたたちと事を構えるつもりはありません。誤解が解けてよかったです」


 さっきまで命を狙われていたのだが、もともとこちらに敵意があったわけではなかったのでそうして謝られればこっちがこれ以上敵対する必要もない。


 俺の回答が求めていたものだったのだろう。アルミナ王女は頭を上げて軽く安堵の表情を浮かべて。


「それにしても、あなたほどの使い手がこのような森に何の用があっていらっしゃったのでしょうか?」


 そう表裏の感じられない純粋な疑問を投げかけてきた。

 さて、どういえばいいだろう。とりあえず端的に言うことにしよう。


「それが、平たく言えば……迷子です」


 俺がそういうと。


「ふっ。ふふ。あははははは」


 そういって笑い出した。

 うわっ。

 アルミナ王女様、笑うとすごいきれいだ。

 笑われて心外だとも思ったがその笑顔があまりにきれいなので文句を言いそびれてしまった。


「いや失礼。しかし、あなたほどの使い手がこのような森で迷子ですか?」


「そうなんです。だからできればどこかで泊めてもらえると助かるんです」


 そういって、できれば面倒見てくれという念を送ってみる。

 そんな俺の様子を正しく理解したのだろう。


「ふふ。わかりました。私たちの里に来るといいでしょう」


「アルミナ様!?」


 どうやら王女様のほうは俺をエルフの里とかいうところに連れて行ってくれるらしいが、弓使いはそれに対して反対のようだ。


「どうかしましたか?」


「アルミナ様。このような素性の知れぬものを入れるべきではありません!」


 どうやら物語に出てくるようにエルフ族は排他的な種族らしい。


 嫌がる相手に無理やり押しかけるような趣味はないが、それも命にかかわらないならである。


 正直いくら体が頑丈だからといってもこんな森で野宿するのは心臓に悪い。


 ましてここは異世界だ。俺の常識が通用しない森にいきなり放り出されたのだ。とにかく誰でもいいからかくまってほしい。


「確かに素性は知れないのはたしかです。しかし精霊たちはその方に対して警戒はしていません」


「それは……ですが、この者の力は危険です」


「だからこそです。ともすれば森の異変の解決につながるやもしれません」


「な!」


「とにかく、彼は里に招くべきです。長たちには私から説明します。問題はありますか?」


「……ありません」


 なんだかよく分からないが、俺は彼らの里に招かれることになった。

 アルミナ王女様は、改めてこちらに向き直った。


「私はエルフ族の王女、アルミナと申します。あなたは?」

「ああ、俺の名前は須藤真崎だ」

「スドウマサキ様ですね」

「ああ、いや、呼び名はマサキでいい」

「分かりました。マサキ様」

「ああ、よろしくアルミナ王女様」





 それからしばらく彼らについていくことになった。


 気絶から回復した弓使いたち2人が先導して、次に俺、そしてそのやや後方にアルミナ王女とエルフのリーダーが続く。


 さっきから足音以外何も響いていない。


 俺は個人的に沈黙が嫌いだ。個人的にみて、仕事に没頭しているならともかく誰かと散歩をしているときに沈黙でいること=気まずい状況なのだ。


 そんなわけで誰かに話しかけようと思った。

 その場合相手は・・・弓使いの3人よりはアルミナ王女の方が話しかけやすいだろう。歩きながらアルミナ王女の方を向いて。


「アルミナ王女。どうもありがとうございました」


 なるべく丁寧にお礼をいった。


「何のことでしょうか?」


「いろいろです。いさかいの仲裁をしていただいたことや、俺みたいなよそ者を迎え入れてくれたことなどです」


 言い方を変えればアルミナ王女はこの世界で初めて俺の味方をしてくれた存在なのだ。正直言って感謝の念にたえない。


「それであれば今礼を言われてもこまります」


「何か俺にしてほしいことがありそうでしたね」


 いろいろ裏がありそうではあるが、俺のような不審者を受け入れてくれるだけでもありがたいことには違いない。俺の力が役に立つなら引き受けるのはやぶさかではない。


「これからお世話になる身です。出来ることなら力を貸しますよ」


 そういって先に媚を売っておくことにした。

 それに対してアルミナ王女は


「そうですか。そう言ってもらえるなら心強いですね」


 そういって再び微笑んだ。

 ヤバイ。すごくきれいだ。

 思わず赤面しそうになるが、ごまかすために質問をつづけた。


「さっき、森の異変とか言ってましたよね。この森で何かあったんですか?」


「もうすぐ里につきます。詳しい話はそれからにしましょう」


 そうですか。

 もうすぐ里につくのか。


 気が付けばほかの弓使いたちは俺たちから離れた場所にいた。

 あいつらは里の防衛かなんかの役目があるのかな?


 そんなことを考えているといきなり開けた場所に出た。

 なんでいきなりこんな光景になるんだろうと思ったが、木々を利用して作り上げたのであろう家屋を見てここがそのエルフの里だと納得した。


 そして俺の目に飛び込んできたのは、それはそれは大きな大木である。ほかの木など比べ物にならないほど大きな巨木はエルフの里の真ん中に位置しており、その森の中でもとても特殊な存在なのだろうということを思わせる迫力があった。


 いや、特殊というよりは異質といってもいいかもしれない。


 そんな光景に圧倒されている俺の後ろから。


「ようこそ。森の民エルフの里へ。歓迎します」


 とアルミナ王女は俺に声をかけてきた。



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