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ある日不死身になりまして・・・  作者: 黒々
第一章 はみ出し者たち
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レイモンド・バシュトシュタイン

 翌朝。俺たちはジェストさんを先頭にエストワール王国に向かった。


 今回は乗馬ではなく馬車があったので俺たちはそっちに乗り込むことになった。


 メンバーはジェストさんと俺たち三人、そしてシルバとそのほか三人の計八人である。


 ランツさんは本拠地の取りまとめがあるため、お留守番である。


 それはいいとして、俺たちは馬車の中で食料やら武器やらと一緒にバシュトシュタイン侯爵のもとに運ばれているというわけだ。


 ちなみに馬車を操っているのはシルバだ。


 こいつ地味に何でもできる奴だ。ジェストさんの訓練にも耐えていたし、もともと狩人をやっていたといっていた。乗馬もしていたし、状況を利用して部隊長のベネロも仕留めて見せた。


 なんだかんだ言って優秀な奴なのかもしれん。


 そんな適当なことを思いながら、エストワール王国に向かう俺たちであった。


「ジェストさん。エストワール王国にはどのくらいかかるんですか?」


 馬車から身を乗り出して先頭を走るジェストさんに質問する。


「四日後の夕方に到着する予定です」


「四日後ですか」


 日本国内であればどこでもその日のうちに行けるだろうが、この世界では馬で移動するのが一般的なのだ。


 だとすると移動に必要な時間が四日間でも近いくらいなのかもしれないな。


 そんなこんなで馬車での旅をエンジョイしていると、シルバが声をかけてきた。


「旦那。外町が見えてきやしたぜ」


 馬車を操っていたシルバがそういうので、俺たちは馬車から顔を出してみる。


 その先には今まで見てきた村とは明らかに作りが違う家々が並んでいた。

 一言でいえば都会っぽいというものだ。


 ただしそれはこの世界の基準に照らし合わせればの話。

 主に木材を使われているため、エルフの集落と同じようなものなのだが、デザインがまるで違うため受ける印象もまるで違う。


 馬車に乗った俺たちは、そのまま外町の大通りを突っ切っていく。


 その大通りの先には城壁といえるような壁がそびえたっている。

 さらにその壁の向こう側に、いかにもお城ですといえるようなドデカくきらびやかな建物が見える。


「セルア。あの壁の向こうにあるのが王城なのか?」


「はい。そうです。外町には特に制限はありませんが、城下町には貴族の方に承認を受けた方以外には入ることはできません」


 なるほど。そういう制度になっているのか。

 感心する俺に、ジェストさんがさらに説明を追加する。


「この外町に住んでいる者達は、貴族たちに取り入って城下町で暮らせるようになりたいと思っている者達がほとんどです。城下町で仕事ができればまず間違いなく利益を得ることができますので」


 なるほど。貴族たちは金をたんまり持っているため、城下町で暮らせば仕事に困ることは少ない。

 貴族たちも働き手がいないと金があっても仕方がない。


 そういった理由から、城下町は潤っているというわけか。


 外町の中で評判が良かったりすると城下町に移り住めたりする。そのために外町の連中は躍起になっているというわけか。


 よくできたシステムだ。

 そんなこんなを考えていると、城下町を囲んでいる城壁が近づいてきた。


「さて、そろそろ検問です。三人とも馬車の中に入っていただけますか?」


 そういわれて俺たちは馬車の中に入る。

 城下町を囲んでいる城壁は相当でかかったから真近で見たかったのだが。


 そんなこと考えていると何やら話し声が聞こえてきた。聞き耳を立ててみると検問を行っているようだ。


 しかし少しの応答だけで馬車が再び動き出した。


 あれ?


 こんなに簡単に通れるような検問なのか?

 そう思うと、ジェストが声をかけてきた。


「城下町に入りました。もう出てきてもらって大丈夫ですよ」


 そういわれて俺は城下町を見渡した。

 外町は木造家屋がほとんどだったが、城下町はレンガ屋敷だらけだ。


「さっきの検問。随分ゆるかったですね」


 思ったことを率直にジェストさんに聞いてみる。


「先ほどこれを見せましたので」


 そういうとジェストさんは一枚のパーチメントペーパーを取り出した。

 俺には見慣れないその紙には、右下の方にバシュトシュタインの名前が刻まれていた。


「これは?」


「貴族の承認を受けた証明書です。これがあればほぼ問題なく検問を通ることができるのですよ」


 へー。

 そんな便利なものがあるのか。


 ずさんな管理をしているようにも思えるが、まあ他国の事情など知ったことではないな。


 それからしばらく進むと、レンガ屋敷の中でも別荘と呼べるような大きさの家屋が並ぶ街並みになっていった。


「随分大きな家が多くなってきましたね」


「ええ。ここは通称貴族街と呼ばれています。城下町は中央に行けばいくほど階級の高い人たちが住んでいます。そのため、屋敷が乱立するこの地帯を貴族街と皆よんでいるのです」


 なるほどね。


 つまりこの屋敷の中にはエストワール王国の重鎮たちが住んでいるのか。

 いかにも貴族たちが住んでいそうな屋敷を馬車で移動するのはかなり風情があるように感じる。


 そんな中、一つの屋敷の前でジェストさんたちは止まった。

 屋敷の前の警備員らしき人は、バシュトシュタインの証文(羊皮紙)を見るやいなや開門してくれた。


 そのまま屋敷の入り口付近まで馬車で移動したのちに、ジェストさんが


「ここがバシュトシュタイン公の邸宅になります」


 といってきて、俺たちに馬車から降りるように促す。


 シルバの奴も、ほかの反乱軍の人に馬車を預けて俺たちと同行する。

 ジェストさんが扉を開けると、そこに執事らしき燕尾服をまとった初老の男が出迎えてくれた。


「お久しぶりでございますね。ジェスト様」


「すみません。予定外の事が起こったため連絡もなしにこちらに来ることになりました」


「いえいえ。主もあなたに御用があった模様でしたので、すぐにお通しするようにと仰せつかっております」


 話の流れから察すると、俺たちは特に待ち呆けることなくバシュトシュタイン侯爵に面会できるようだ。


 執事さんに導かれるままに俺たち五人はついていった。

 到着した部屋には客間と表示されていた。


 執事さんが扉を開けると、広間と呼んで差支えない広さの空間と、その真ん中に大人数で囲めるような大型のテーブルが置いてある。


 さらにその大型テーブルの一番奥に男の人が一人座っている。


「バシュトシュタイン様。ジェスト様がお戻りになりました」


 執事さんがそういうと、俺たちの先頭を歩いていたジェストさんが跪いた。


「バシュトシュタイン公。山岳調査部隊隊長ジェスト、ただいま帰還しました。急な事にも関わらず面会させていただき、ありがとうございます」


 ジェストさんがそういうと、バシュトシュタイン侯爵は鷹揚に頷き立ち上がると、こちらにやってきた。


「よく帰還してくれました。大変な任務だったと思っていましたが、戻ったということはめどが立ったのですか?」


「はい。それについて報告したいことがございまして」


「さあ、いつまでもそうしていないで席に着いてください」


 そういうと、ジェストさんは立ち上がりバシュトシュタイン侯爵は俺たちにも座るように促した。


 いつの間にか執事さんはいなくなっており、代わりに女中さんがお茶を持ってきていた。

 




 

「バシュトシュタイン公。今回は急な面会希望にもかかわらず応じてくださったことを重ね重ねお礼申し上げます」


「いつまでも同じようなことを言わないでください。ここは非公式の場ですよ。こんなところまでか堅苦しくしされてはかないません。それにこちらもあなたに連絡を取ろうと思っていたところです。少々急な事態になりまして」


「といいますと?」


「それよりも、まずはそちらの方々を紹介していただけませんか?」


 そういうと、侯爵は俺たちを見回した。


「まずは自己紹介といきましょう。私はエストワール王国侯爵レイモンド・バシュトシュタインと申します」


 そういうと、ジェストさんが俺たちに目配りをした。

 次は俺たちの番というわけか。


「私は、須藤正樹と申します。以後お見知りおきを」


「私の名前は、セルアと申します。初めまして侯爵閣下」


「私はアルミナです」


「シルバでやす」


 セルアは相応の挨拶をしたように思えたが、シルバの奴不敬な態度だな。アルミナも最低限の事しか言ってない。


 とはいっても侯爵は特に気を悪くした様子はなく、話を続けた。


「こちらこそ、よろしくお願いします。それでジェストさん。この方たちは山賊のえりすぐりですか?」


 唐突にそんなことをジェストさんに質問する侯爵閣下。

 そんな侯爵さんに対してジェストさんはかぶりを振る。


「シルバは元盗賊ですが、ほかの方々は違います。私の不手際で、山賊の一部が暴走したのですが、その者達を鎮静化してくれたのです」


 その説明に侯爵さんはなるほどとうなずき


「そうでしたか。ジェストに山賊団を束ねるように指示したのは私です。そのせいで大変ご迷惑をおかけしました。ことが済んだのち、取れる限りの責任を取らせていただきたい。申し訳ありませんでした」


 そういうと、侯爵閣下は椅子から立ち上がり俺たちに頭を下げた。


「こっ、バシュトシュタイン様! 私たちのようなものにそのような!」


 セルアがいきなり狼狽して侯爵を止めた。

 まあ、元貴族のセルアから見ると侯爵が自分に頭を下げるなど異常事態以外の何物でもないのかもしれないが。


「頭を上げてください。侯爵閣下」


 パニクっているセルアに俺からも助け船を出す。

 俺がそういうと、侯爵は頭を上げて自分の席に座りなおした。そのタイミングに合わせてジェストさんが話し出す。


「バシュトシュタイン様。この者たちは今回の計画に協力してくれるように私から依頼したのです。私の独断で大まかな内容を話したので、細かい話を一緒にできればと思いここに連れてきました」


 それを聞くと侯爵は頷きジェストさんに質問した。


「あなたから見ても彼らは相当な手練れなのですか?」


「勿論です。特にマサキ殿とアルミナ殿の相手は私でもできないでしょう」


 なんてことを口走るジェストさん。

 おいおい、俺たちはあんたの前で戦ったことなんてないのに俺とアルミナの力を見抜いたってのか?


 セルアを除外したことから俺とアルミナがセルアよりも強いということを把握しているように思える。


 ジェストさんも大概だな。

 そんな感想を抱く俺に対して、侯爵は満足そうに頷いた。


「あなたほどの者にそういわせるのですか。それは頼もしい。それほどの実力者が味方に付いてくれるとは…」


 そこまで言うと侯爵は少し考え込んだ。


「これでも私はエストワール王国の人材確保部を任されています。そのため大陸中の優秀な人材の情報が集まります。ですがあなたたちの名は聞いたこともない。マサキ殿。アルミナ殿。お二人はこれまでどこに住んでいたのですか?」


 んん?

 これはどう話せばいいかな?


 アルミナが育ったエルフの集落は秘匿された場所であるためそれを話すのは躊躇われる。


 それに俺に至っては異世界出身なのだ。

 出身地について聞かれてもどうしようもないような気がする。『日本から来ました』とか言っても『どこだそれ?』で終わってしまいそうな気がプンプンする。


 どう話したものかと考え込む俺に、侯爵はあわてて話を割り込んだ。


「申し訳ない。決して素性を探ろうとしているわけではありませんので、答えたくなければ結構です」


 そういうと、侯爵はコホンと一つわざとらしい咳をした。


「質問を変えましょう。いえ、改めて聞かせていただきたい。皆様は今回の計画。ともすればクーデターともいえる今回の作戦に協力していただけますか?」


 きわめて真摯な態度でバシュトシュタイン侯爵は俺たちに質問してきた。


 クーデター。そういわれて初めて現実味がわいてきた。


 俺たちがかかわろうとしているのは、この国の行く末を決めるものだ。

 そんな大それた計画に、俺のような凡人がかかわろうとしている。


 その事実が今更ながら重圧となって俺にのしかかるが、いまさら乗りかかった船を降りるのは性に合わない。


「はい。やります」


 そう短く返答した。


「かたじけない。改めてお願いします。我々に力を貸してください」


「マサキ殿。本当にありがとうございます」


 侯爵とともにジェストさんがそういった。


「ジェストさん。そのセリフは成功したときまで取っておいてください」


 そういうと、侯爵とジェストさんが軽く笑い、それに連鎖するように少し重たかった空気が軽くなった。


「さて、こちらの話はこのくらいです。侯爵の方も何か話があったようですが?」


 ジェストさんが侯爵の方の話に移るように促す。


「そうですね。今度はこちらの話にしましょう」


 そういうと、侯爵は一呼吸おいて状況を説明しだした。


「実を言えば、クーデターを起こすのに千載一遇の好機が発生したのです」


「と、申されますと?」


 ジェストは当然のように食い入る。革命がうまくいくかもしれないという状況なら、それに興味が行くのは当然だ。


 しかし侯爵の顔色は優れない。


「ただ、その状況において行動を起こすのは、我々にとっても非常に危険なことです。ゆえにあなたをここに呼ぼうとしたんです」


「・・・いったい、何が起こっているのですか?」


 その情報は、今の事態がただならないものであることを認識するのに十分なものであった。


「この東大陸の魔族をすべる魔王アルベウスが、我が国に対して進軍してきたのですよ」

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