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ある日不死身になりまして・・・  作者: 黒々
第一章 はみ出し者たち
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気ままな時間

 バシュトシュタイン侯爵のもとに向かうのは明朝ということとなった。


 山賊改め、反乱軍の本拠地に到着し、打ち合わせが終わったところで大体お昼の時間だったので反乱軍の人たちが作った昼飯を口にする。


 正直言って不味くはないのだが、アルミナの料理と比べてしまうとまるで違う。晩飯の時にはアルミナに作ってもらいたいと思う俺であった。


 そんなこんなで午後は完全にオフである。

 俺たちは一応客人という扱いなので、仕事などが割り振られたりしているわけではない。


 というわけで、俺はぶらぶらと基地の中を散歩している。

 そして広場に出た。入り口には『訓練場』と書いてある。


 この世界に来たのに、文字は読めるし、言葉は通じると便利なものである。


 なんかいろいろ事情がありそうな気もするが、今俺にできるのはいざ戦闘になった途端力が出なくなるなんてことがないように願掛けをするくらいしかできないのだ。


 ふと、訓練場の奥の方で二人の人が訓練をしているのが目に入った。

 片方はナイフを。もう片方はただの木のらしきものを手にして打ち合っている。


 といっても、木の棒を持っているほうは一切攻撃をしていない。

 ナイフ使いの攻撃をきれいにさばき、受け流しているだけである。


 戦えば棒使いの方が勝つだろうということが素人目にもわかる戦いだ。

 それもそのはずだ。


 ナイフ使いの方はシルバ。

 そして棒使いの方はジェストさんなのだから。


 このまま話しかけてもいいのだが、訓練中に割って入るほど俺は野暮ではない。二人に気づかれないような位置をとり、訓練の様子を見る。


 ほとんど似たり寄ったりの攻防(というかシルバの攻撃をジェストさんがひたすらいなすだけだ)をしばらく繰り返したのち、打ち合いが一段落ついたのか、二人が武器を収めてジェストさんがシルバに話しかけた。


「シルバ。お手柄だったな。マサキ殿や、アルミナ殿のような方たちをここに迎えることができたのはお前のおかげだ。少しだが、この戦いに光明が差した」


「へえ、そりゃあどうも」


「アズール隊が、私の目の届かないところで近くの村々を襲撃していて、君たちにやりたくもないことをさせてしまったことを申し訳なく思う」


「・・・」


 ジェストさんはずいぶんと部下思いのようだが、それにしてもシルバ相手にいささか低姿勢が過ぎるんじゃあないかと思う。


 そんな俺の印象は、数分後に勘違いだったと悟らされる。


「シルバ。今回の功績をもって君の職務を変えようと思う」


「戦争に参加しなくてもいいと?」


「いや、そうではない。ただ、おそらく最前線で戦ってもらう必要がなくなる」


 そういうとジェストはシルバに告げた。


「以降。君は反乱軍の兵士から、マサキ殿の補佐及び伝令を担当してもらうことにする。引き受けてくれるか?」


「・・・はい。喜んでお引き受けしやす!」


 そういってシルバはジェストさんに頭を下げる。しかしジェストさんはそのあと口元を少しゆがめて面白いことを言い出した。


「ついては、君がマサキ殿の補佐にふさわしい武技を身に着けてもらいたいので、訓練をレベル2に引き上げる」


「はえ?」


「構えなさい。今度はこっちからも攻撃する。きっちり防がないとどうなっても知らないぞ」


 そういってジェストさんとシルバの訓練が再開された。


 シルバの奴「にぎゃーー!!!」とか悲鳴あげながら辛くも打ち合いを続けている。見ててもおもしろそうだったが、ほかのところも見て回ろうと思いその場を後にした。


 さて、次に俺が向かったのは居住区だ。


 居住区とは言っても下っ端の兵士たちが雑魚寝をしている場所でしかないが。


 ちなみにおれたちには急遽客室を用意された。


 もともとあったわけではなく、比較的物が少ない物置のものを移して掃除をしただけの部屋だ。


 そのため俺、アルミナ、セルアの三人はその部屋を使うことになっている。


 まあ、一晩だけだから特に問題もない。女性陣には毛皮の布団もあることだしな。俺たちが昼飯を食っている最中に作業が終わったと報告があったので、今晩寝る部屋を確認してみることにしようとして、予想外の光景が目に飛び込んできた。


 部屋の真ん中にアルミナとセルアがいる。それはいい。この部屋は二人も使うのだ。いても何の問題もない。

 

 問題はこの場での配給の方だ。

 

 アルミナの料理は質素でありながらも美味だ。

 それに比べると個々の配給はまずいとは言えないが物足りないのだ。


 だから俺はアルミナに何か作ってもらえないかと提案しに彼女のもとに向かっていたのだが、そこでまた別の問題を目撃することになった。


 アルミナと一緒にいたセルアの右手から火の玉が浮いていたのだ。


「セルア……なんだそれ?」


 俺が声をかけるとセルアはようやく俺のことに気付いたようで、火の玉を消してこっちを向いた。


「あっ、マサキさん。いま、アルミナさんに魔法の練習に付き合ってもらっていたんですよ」


 そういって、セルアの右手が緋色に光ったと思うと目の前に火の玉が出てきた。


 なんてこった!

 完璧に出遅れてしまったよ!


「すごいなセルア。もう魔法が使えるようになったのか」


 本音を建前で覆い隠す。

 円満な人間関係を築く上で必要になることだ。


「えへへ。マサキさん。これで私も戦えますよ♪」


 何ともまあ嬉しそうに。というかセルアの奴俺たちと一緒に戦いたかったのか?


「この調子なら私が見ていなくても大丈夫そうですね。後はセルアさんが自分で磨き上げてください」


「はい。ありがとうございますアルミナさん」


 そういってセルアはそのまま魔法の練習を再開した。

 練習といってもひたすら火の玉を右手の上に出しっぱなしにするだけだが。


「それが魔法の練習なのか? 戦闘になったとして戦えるのか?」


 悔し紛れに苦言を呈してみるが、それに答えたのはセルアではなくアルミナだった。


「セルアさんがいまだしている火の玉を飛ばせばそのまま攻撃になります。今こうして一定の大きさを維持し続けるほうが、難易度としては上なんですよ」


 へー。


 俺はまだ腕を光らせることさえできないってのにセルアはもう上級編まで習得しているってのかよ。


「昨日は暴発しそうになったのをアルミナさんに抑えてもらったもんね」


「なんですと?」


 つまりセルアは今日突然できるようになったのではなく、俺とシルバがおしゃべりしている間に秘密の園で魔法の練習をしていたということになるってことかい。


 なんかいろいろと敗北感を味わいはしたが、その敗北感を飲み込み俺は元々アルミナに提案したかった話題を無理やり思い出した。


「アルミナ。晩飯に何か作ってもらえないか?」


「私が、ですか?」


 俺の提案に目を丸くするアルミナだったが、隣で火の玉を出していたセルアも火の玉を消してこちらの話題に食いついてきた。


「そうですよアルミナさん。ここの人たちに料理の手ほどきをしてあげてください。私も手伝いますから」


 俺の提案に、いつの間にか火の玉を消したセルアが助太刀に入る。

 アルミナは少し考えた後。


「そうですね。少し提案してみましょうか」


 そういって俺たちは厨房にお邪魔することにした。

 反乱軍の厨房は、はっきり言って殺風景だった。

 食糧庫から決められた分の食糧を取出し、適当に調理するだけの場所になっているのかもしれないな。


「お邪魔します」


 そういって俺が厨房に入り、アルミナとセルアが続く。


 厨房には四人の料理人がいたが、今は特にやることが無いようで適当に雑談をしていた。


 そのうちの一人が俺たちの来訪に気が付いたようで、俺たちを迎える。


「これはこれは。どうされましたか?」


 ジェストさんから何か指示でも受けているのだろうか。かなり低姿勢である。


 まあ喧嘩を吹っ掛けられるよりも友好的な方がいいだろう。


「あなたが料理長さんですか?」


「はい。そうですが?」


「少しアルミナに料理をさせてやってもらえないかな?」


 そういうと、アルミナがぺこりとお辞儀をした。


 俺は多少なりとも慣れてきたが、やはりほかの人から見ると目が覚めるような美人が優雅なしぐさをすることは大変刺激的らしい。ほとんどシークタイムなしで「勿論です」なんてことを口にした。


 美人に弱いのは万国共通どころか異世界でも共通らしい。


「じゃあアルミナ、何か作ってもらえる?」


「はい♪」


 随分と機嫌がよさそうだ。もしかして料理が趣味だったりするんだろうか?


 アルミナと一緒にセルアも料理を手伝い始め、あっという間に一品出来上がった。燻製肉に少し味を付けただけのようだが。


「じゃあいただきます」


 ひょいとつまんで食べる。


 美味しい。美味い。同じ食材と調味料を使っているのになぜこんなに違ってしまう?


 というかアルミナは今までほとんど調味料を使ってこなかったはずだ。


 それなのにいきなりこんな料理ができるなんて本当に天才なんじゃあないだろうか?


「皆さんも、どうぞお召し上がりください」


 そうアルミナに促されてほかの料理人たちも食べてみる。


 みな反応こそ違えど、一様に驚き目を見開いている。特に料理長らしき奴なんて手を口に当てて味を反芻し分析しているようにも思える。


「料理長さん。今夜の食事を作るのに、アルミナに手伝わせてやってくれないか?」


 半分放心気味の料理長さんは、コクコクとうなずくとそのまま黙り込んでしまった。


「アルミナ、今夜の食事を作るのに協力してやってくれないか?」


 あとは彼女の了承を待つのみだ。

 無論、アルミナは二つ返事で引き受けてくれた。


「はい。もちろんです♪」


 やはり彼女は料理が好きなのだろう。なんかすごく上機嫌だ。


「じゃあ私も手伝います」


 そういってセルアも厨房にお邪魔することになった。

 むさくるしい厨房がいきなり華やかになったな。いずれにしても今夜の食事は期待できそうだ。

 






 そんなこんなでやってきました晩御飯。


 麦飯とお浸し。野菜の付け合せと燻製肉が少々。

 そんな晩飯が俺たちの前に並ぶ。


 俺たちというのは、俺、アルミナ、セルア、シルバ、ジェスト、ランツの六人である。


 なんかシルバの奴ものすごくげんなりしているように見えるが、ジェストさんに相当こってり絞られたらしい。


 そんなことはさておき、一見すると質素な料理にしか見えないが、見た目通りの味などではないということはアルミナの料理を食べてきた俺にはわかる。


 さてとそれでは


「いただきます」


 全員で晩飯に手を付ける。

 俺も調味料まで使いこなしたアルミナの料理を食べるのは初めてで、今夜の食事は俺やセルアでも驚くようなおいしさだった。


 さっきまでどんよりしていたシルバは、一口目を口にした途端猛烈な勢いで食べだした。その様子だけでアルミナの料理が好評なのは間違いない。


 加えて初めて食べるジェストさんとランツさんの驚きようは半端なものではなかった。


 というか、ほとんど無口で無表情だったランツさんが驚きの表情を浮かべるのはなんか新鮮である。


 ちなみに今晩の料理はアルミナが完全監修したらしく、兵士の人たちもアルミナの料理に舌鼓を打っている。


「この料理を、アルミナ殿が作られたのですか?」


「はい。そうです」


 ジェストさんの質問にアルミナが答える。

 ジェストさんは感心した様子で、一口一口味を確かめながら食べている。


「アルミナさんの料理の腕はすごいですね」


 ランツさんまで賞賛を送るとは、アルミナめ、底がしれん。


「アルミナ殿。もしよろしければ我々の厨房を預かってもらえませんか?」


 ランツさんの賞賛が終わったかと思えば、今度はジェストさんが引き抜きをしようとしてきた。


「ちょっ!」


 さすがにそれには絶句せざるを得ない。

 もしそんなことになったらおれはなし崩しにアルミナの料理を求めてここに留まってしまう可能性が高いからだ。


 悔しいが美味い飯には代えられないんだよ。


「ありがたい申し出ではありますが、申し訳ありません。その話はお受けできません」


 しかしそんな俺の不安は杞憂だったらしい。

 アルミナはここの料理人にはならないようだ。


 内心ほっとはしたが、ジェストさんは心底残念そうだった。


「では、せめてここにいる間に、料理人たちに手ほどきをしていただけないでしょうか」


「それくらいでしたら、お引き受けします」


 結果としてアルミナはここに滞在している間は食事作りを担当し、料理人たちを鍛え上げることを約束した。


 まあ、ジェストさんがアルミナを手元に置いておきたい気持ちもよく分かる。


 才色兼備でありながら、そのことを鼻にかけない人なんてそうそういるものじゃあないからな。


「ところで、アルミナ殿はエルフ族なのですか?」


 ふと、唐突にジェストさんはそんなことをアルミナに尋ねた。


「はい。私はエルフ族です」


 アルミナにとっても別に隠すものではないのだろう。至極当然のように認めた。


「左様ですか。いや、純血のエルフ族にはなかなか巡り合えるものではありませんので」


 そういえばセルアがそんなこと言ってたな。混血のエルフ族は耳が短くなるみたいなことを。


 それ以降の話はたわいもない雑談ですぎて行った。


 シルバの奴、ジェストさんに「こんな方々と一緒にいられた上に、うまい飯までごちそうしてもらっていたとは、どれだけ強運なんだ君は! 次に稽古をつけるときはレベル3だ!」


 とか言われて真っ青になっていたが。

 

 後片付けなどはお任せして俺たちは割り当てられた部屋に戻った。


 客室といえるほど整備されてはいないが、もともと軍事施設目的で作られたところに貴賓室を用意する方がおかしいのだ。これでも十分なもてなしというものだろう。


 それはそうと、部屋に戻ってもアルミナはご機嫌だった。


「随分ご機嫌だなアルミナ」


 俺がそう声をかけると、アルミナはこちらを振り向きにっこり笑って答えた。


「はい。だって皆さんが私の料理でとっても喜んでくれたんです。それがとっても嬉しくて♪」


 なるほど。

 自分がほかの人の役に立てばうれしいと思うのは当然のことだろう。


「でも、だったらなんでここの料理人になるって話は断ったんだ?」


「それは…それよりもやりたいことがあるからですよ」


「やりたいこと? なにそれ?」


「秘密です♪」


 何ともまあ、追求したいような気もするがまあいいか。

 今にも鼻歌を歌いそうなアルミナと、魔法が使えるようになったせいかこっちも上機嫌なセルアと一緒に寝付いたのちに朝を迎えた。


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