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ある日不死身になりまして・・・  作者: 黒々
第一章 はみ出し者たち
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山賊の親玉

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私が描いた作品を楽しみにしてくれている方々がいらっしゃるというだけで筆がはずむ今日この頃です。

 さて、テキトーに縛り上げた盗賊どもをテントの中に一か所にまとめる。


 ずさん極まりない扱いだがまあ仕方あるまい。こいつらも相当に悪さをしてきたんだ。


 相当ぐるぐる巻きにしてやったので、まあ見張りをつける必要もないだろう。


「また随分派手にやりましたねー」


 セルアが感心したような声を上げる。

 まあこの人数をほとんど俺一人で相手をしたという事実は、張本人の俺にもあまり実感がわかない。無論戦闘後ではあるが。


「まあ、運が良かったんだよ」


「ンなわけないでしょう旦那。部隊長二人をあんなに一方的に倒しておいてまぐれだなんて、人が悪い」


「全くですよ」


 セルアとシルバのふたりが俺の言葉に真っ向から反論する。息ぴったりじゃないか。


「ところで、これからどうするんですか?」


 と至極まっとうな質問をするのはアルミナだ。


 そう、まさにそこが問題なのだ。

 村をこれ以上荒らされないためにと駐屯地らしきところに襲撃をかけてみたが、そこから先のことはあまり深く考えていなかったからだ。


 まあここにいる山賊どもを人質にしてみるとか、ベネロあたりを脅して部下に成りすまして乗り込むとか。そのまんま正面突破とか。


 いずれにしても山賊団の親玉がどういうやつなのかがわからないと作戦が立てにくくて仕方がない。


「なあシルバ。お前の頭ってやつについて、知ってる限りのことを教えてくれ」


「いいでやすが、あっしも直にあったことはほとんどないんでやすよ。知ってるっていっても、さっきの部隊長たちが束になって相手をしても簡単にやっつけてしてしまうくらいとびぬけた実力者ってことぐらいでやす」


 そこだけ聞くと俺と互角かそれ以上の使い手ということになりそうだ。


 実際俺が相手をする場合、ゲイルのように俺にダメージを与えられるやつ以外はまるで脅威にならない。


 相手を倒せるかどうかは別問題とすれば、俺がやられる心配をしなくてもいいということだ。


 そうはいっても未知の相手だ。ゲイルと互角くらいに考えておいたほうがいいだろう。


 ・・・そういえば。


「部隊長ってのはほかに何人くらいいるんだ?」


「一人が大体10人くらいの部下を持つらしいでやすから、10人くらいだと思いやす」


 山賊団は大体百人くらいらしいから、なるほど部隊長も10人くらいということになるわけか。


「その部隊長ってのはみんなあれくらいなのか?」


 あれというのはさっき戦ったアズールとベネロの事である。ほかの部隊長があれと同格なら俺の敵ではないからだ。


「…どうなんでやすかね? あっしには何とも言えないんでやす」


「そうか。わかった」


 シルバは下っ端の下っ端だ。そんな奴からの情報を鵜呑みにするくらいなら真っさらの状態の方がいいということもあるかもしれない。


 それはともかくもう夜も遅い。とりあえず明日の朝に大雑把な方針を決めればいいだろう。


「三人とも。もう夜も遅いから寝よう」


「はい」

「へい」

「はーい」


 三者三様の返事でそれぞれが就寝する。といっても山賊どもが使っていたテントを拝借しただけだが。


 もちろん男女別である。敵地のど真ん中でのんきな気もするが、別に問題もあるまい。敵はすべて捕縛済みだし、アルミナにはちょっかいを掛けることもできそうにないし。


 問題があるとすればそれはシルバが寝返ることくらいだが、それについてももうほとんど心配していない。何のかんの言ってシルバの奴俺たちをここまで連れてくる道中でたくらみごとらしいことなんてしなかったし、文句も言わなかった。


 さっきもベネロが逃げた時にも協力してくれた。


 本来ならここで俺たちを裏切ろうとしているということを考慮に入れてもいいのかもしれないが、どうも俺にはこいつがそんなこと考えているようには思えないのだ。


「シルバ。お前なんで俺たちに協力する気になった?」


 気が付けばそんなことを口にしていた。


「なんで、でやすか」


 今更だが口調が『やす』になっていることに気が付いた。そういえば随分前からこんな口調だったような気がする。


 そんなことにも気づかないとは。俺はこいつのことを人間扱いしていなかった、あるいは今頃俺はこいつを人と認めているということか?


 そんな俺の考えなどお構いなしにシルバは話し始めた。


「そんなの決まっていやすよ。旦那が無茶苦茶強いからでやすよ」


「・・・それだけか?」


「それだけかって、旦那の強さははっきり言って異常でやすよ!? 敵対するなんてもってのほか! 不評を買うのも極力控えるのも当たり前! 同行することができれば超ラッキーってくらいの強さなんすよ旦那は」


 まあ、それはそうかもしれない。

 この世界に来てから俺は不自然なまでに強くなっていた。


 そしてそれは俺の常識だけではなく、この世界の住人から見ても同じくらい異常なものだということだ。


 もし俺がシルバの立場だったとしたらどうだろう。殴っても切っても殴打しても刺してもまるで効果がない相手。しかもそいつはパワーやスピードまでいっちゃっているときたもんだ。


 うん。そっこーで土下座するね。


「そうか。なら、同行できてる今は超ラッキーな状態ってわけか?」


「へ、へい。そうなりやす。それに旦那は恩人でやすから」


「恩人? 俺がか?」


 俺がこいつにしたことなんて、村を襲撃したときに馬から突き落として、簀巻きもかくやというくらいに縛り上げ、一晩小屋に放り込んで(ここら辺は俺というよりも村人)脅迫してここまで連れてきた位のものだぞ?


 いったい何でこいつに感謝されるんだ?


 俺の疑問に対する回答はそのままシルバが答えた。


「へい。あっしはもともと山賊というよりもはぐれ者でやした。適当に狩りをしてその日を暮す。そんな日々を過ごしていやしたが、ある日山賊団に絡まれて、無理やり仲間…というより下働きにさせられたんでやす」


「そんな経緯があったのか」


 つまりこいつはもともと望んで山賊になったというわけではないということか。いや、それを言うならもとから山賊になりたくてなってるやつの方が少ないのかもしれないな。


 ついつい脱線してしまう俺の思考をシルバの言葉が遮る。


「それからの日々はあまり思い出したくありやせん。アズールさんのもとで、襲いたくないにもかかわらず人を襲い、人を襲うことが当たり前になっていく毎日だったんでやす。そんな日々を力ずくで終わらせてくれたのが、旦那だったんでやすよ」


 俺はただ、流れ者の村の連中がこれ以上襲われなくても済むように山賊どもを蹴散らしただけのつもりだった。


 結果、まぐれだったとはいえシルバにとってもいい結果を引き寄せることができたってだけの話だ。


 だけど、ただ運が良かったってだけの話ではあるけど、自分の行動がこうして誰かを助けることができていて、そのことで感謝されるのは、なんというか。


「悪くないな」


 俺の口から、知らず知らずのうちにそんな言葉が漏れた。


「旦那? どうしたんでやすか?」


「なんでもないさ。それで、お前はこれからどうするんだ?」


 俺の質問は、つまるところシルバの今後に直結するものだ。あいつはいったいこれからどうしようとしているのだろうか?


「・・・分かりやせん。自分がこれからどうしたらいいのかなんて。あっしは、たくさんの人を傷つけてきやしたから・・・」


 そういうシルバの声は、後悔を多分に含んでいるように思える。


「シルバ。もう寝ろ。今晩からお前の拘束はなしだ。この意味、理解できるな?」


 そういうと、シルバは息をのんだ。

 そのあと、俺もシルバもこれ以上の会話をすることはできずそのまま眠りに落ちて行った。







 朝になった。


 俺がシルバより先に起きたというわけではない。

 セルアとアルミナが俺たちを起こしに来たのだ。


 村で使用人の真似事をしているセルアの朝は早い。そして神がかり的な気配探知能力を持つアルミナは、おそらくセルアが起きたのに気が付いて起きだしてきたのだろう。


 そんでもってそのまま俺たちを起こしにやってきたというわけだ。

 シルバは寝起きがあまりよろしくないらしい。かなり寝ぼけていてる。


 結果としてシルバは俺たちを裏切ることはなかった。

 といってもこいつはただ大の字になって寝てただけだがね。


 そんなこんなで朝飯だ。

 シルバは元狩人らしいので、アルミナのサバイバル式調理を手伝っていたが、アルミナの技能には到底及ばないようだ。


 さっきからしきりに目を丸く見開いて感心したような声を上げている。

 全くアルミナの調理技能には驚かされてばかりだ。もはや精霊仕込みとしか思えないほど説明できないハイレベルの料理技術だ。


 ほとんど調味料の類を使っていないのに無茶苦茶美味いのはなんでだろう。


 アルミナは精霊の生まれ変わりとかいう存在らしいが、こんなうまい料理を作れるようになるっていうなら俺も精霊とお近づきになれるように勉強してみたいな。


 もっとも、精霊がどんな存在なのかいまだにまるで見当がつかないんだけどね。


 そんなこんなな朝ご飯を食べ終えて、さて山賊のお頭というやつにどうやって対面しようかなと考えていると、アルミナが突然あさっての方向を向いた。


「どうした? アルミナ」


「いえ、遠くからここに向かってくる人たちがいます」


 ここに向かってくる人たち?

 なんかあまりいい予感がしないようなするような。


「それってどれくらいの人数かわかる?」


「いえ、まだ遠いので数までは分かりません。ですが、一人大きな気配を感じます」


「大きな気配?」


「はい。以前、森で遭遇した魔物たちの束ね役くらいの気配を感じます」


 オーク・ジェネラルやボブ・ゴブリンと同等だと?

 昨晩始末した山賊の部隊長とか言ってたアズールとベネロは魔物たちよりは強かったが、あのボスどもと同程度とは言えない位の強さだった。


 そうなると今接近している連中はもしや、山賊団の本隊ということか?

 いずれにしても相手の規模を把握したい。


「アルミナ。人数がわかったら教えてくれ」


「わかりました」


 しかしなぜこんなタイミングで襲撃してくるんだ?

 もしかして俺たちがここを制圧したのを感知して仲間を取り戻しにやってきやがったのか?


 いや、だとしても早すぎる。山賊どもは一人残さず捕縛したはずなので伝令が本拠地までとどいているはずがない。


 まさか、俺たちが来たという時点で伝令がいっていたのか?

 そんな思考の最中にアルミナが割り込んできた。


「こっちに向かってきている人数は30人ほどです」


 30人か。

 そのうち一人は部隊長たちよりも強者ときた。


 そんな部隊がいったい何の目的でこんなところに来た?

 いずれにしても山賊どもを奪い返されるわけにはいかない。


「俺が迎撃に出る。アルミナは俺のサポートに回ってくれ」


「旦那。本当に誰かが向かってきてるんでやすか?」


「アルミナの気配探知は本物だ。来るといえばまず間違いなくこっちに来る。シルバは俺と一緒に来い。セルアは隠れていた方がいい。行くぞ」


 シルバの奴。またぎょっとしていやがったが、とりあえず文句も言わずについてくる。


 それはそれでいいんだけど。


「セルア! なんでお前までついてくるんだよ!」


 アルミナと一緒にセルアの奴までついてきていた。


 シルバはまだ完全に目を放すほど信用していないので危険を承知で俺の近くにおいている。


 アルミナは十分に戦力に数えていいし、俺が前衛であるため彼女との相性がいいからだ。


 しかしセルアが危険な地帯に来る必要性も意味もない。

 そんな俺の合理的極まりない判断に対してセルアの回答は極めてシンプル。


「仲間外れにしないでください!」


 というものだった。


「いや、仲間外れというわけじゃあないんだ。危険かもしれないから隠れていた方がいいと…」


「それが仲間外れっていうんです! 危ないのは百も承知です。一緒に行かせてください!」


 そこですかさずに首を縦に振ることができないでいる俺にアルミナが声をかけてきた。


「いざというときは私が守ります。だから問題ありません」


 そこまで言われてしまうと俺にも言い返す言葉がない。


「分かった。だが危なくなったら迷わず逃げろよ」


 そう念を押しておく。セルアは「はい!」と元気のいい返事をして俺たちについてきた。


 アルミナの指した方向ではすでに土煙が上がっている。


 シルバの奴が「ほんとに来てやすねー!」なんてのんきなことを言っているが、気にしない。


 全員馬に乗っているようだ。この山賊団はいったい何頭馬を保有しているんだと疑問に思ったが今は関係ないのでやめた。


 騎馬軍団がまっすぐにこちらに向かってくる。


 それに対して俺が迎撃しようとしたタイミングで、驚いたことに敵の先頭を走っていた男が右手を上げて騎馬たちの進行を止めた。


 何のつもりだ?


 そういぶかしがる俺の疑問は、隣にいたシルバの一言で一気に押し流された。


「お、お頭!!?」


 頭だと!?

 さっきの行動から見て、先頭で指示を下したあいつが敵の親玉でまず間違いない。ということは、あいつが山賊の頭目なのか!?


 山賊の頭目は何やら値踏みするように俺とシルバを観察したのち、まっすぐ俺を向いて響きのいい声で話しかけてきた。


「私の名は、ジェスト・アイスバルド。貴公は何者か?」


 はい?

 こいつ本当に山賊なの?


 しゃべり方といい、態度といい、とても山賊には見えない頭目と俺の初めての会合がそれだった。

本日も閲覧していただき誠にありがとうございました。

もしよろしければ今後ともよろしくお願い申し上げます。

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