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ある日不死身になりまして・・・  作者: 黒々
第一章 はみ出し者たち
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尋問開始

 朝だ。

 清々しい朝だ。


 娯楽の乏しいこの世界では、夜更かしをするメリットがあまりにも少ないため必然的に朝が早くなる。


 おかげで健康的な生活をさせてもらっているわけだ、普通に考えれば退屈すぎて死にそうになっていただろうが、ここでの生活もかなり刺激的なことが多いため今のところ退屈していない。


 アルミナとセルアが用意してくれた朝食をとる。


 料理そのものは相変わらず文句なしだ。問題があるとすれば料理ではなく食材の残量だ。


「セルア。この村では何を主に食べているんだ?」


「パンが主ですね」


 そういえばエルフの里でもパンが主流だった。あまりおいしいともいえないが、絶望的に不味いというわけでもない。


「どこで作っているんだ?」


「ここから少しあっちの方に行ったところに、パンを作るための調理場があるんです。昔、パン職人の人が流れてきたことがあったそうなんです。その人から作り方が伝わっているんです」


 そのパン職人にも、いろいろとわけがあったのだろう。


 昨日のセルアの話を聞いてつくずくそう思う。

 どこの国にも恥部と呼べるところはあるにせよ、そこまであからさまなことがまかり通っている国というのはろくなものではなさそうだ。


『人材こそが最高の財産であり国宝』というのは素晴らしいことのようにも思えるが、あんな話を聞いてしまうと何か別の含みの存在を感じてしまう。


 そんなこんなを考えながら朝食を済ませた。

 俺はそのまま席を外そうとして。


「どちらに行くんですか?」


 そうセルアに呼び止められた。


「ああ、今から話を聞きたい奴らがいてね」


「それは、昨日捕まえた山賊たちですか?」


 俺の返答にセルアが追い打ちをかけてきた。


「ああ、そうだ」


「それ、私もついて行っていいですか?」


 なんか言い出しそうな気がしていたが、あんな野蛮そうな奴の尋問についてくるとは、見た目に反してかなり度胸がありそうだ。


 もっとも、見た目に反していてもいまの俺から見た印象からすれば矛盾してはいない。


「もしかしたら危ないかもしれないぞ。いいのか?」


「私も聞きたいことがあるんです。あの人に」


 ダメもとで釘を刺してみたが、やはり彼女の意志は固いようだ。まあなにかあってもあの程度の連中が相手なら俺一人でかばいきれるだろう。


「じゃあ一緒に行くか」


「はい」


「アルミナ。行ってくる」


「いってらっしゃい。マサキさん」


 なんかやり取りが明らかにあかの他人という感じではないのだが、まあいいか。

 

 そんなこんなで、昨日ふんじばった山賊を閉じ込めてある家にお邪魔した。


 山賊は見事にミノムシ状態になっており、脱走はもとより身動き一つできなさそうだ。


 猿轡をかまされているわけではないので、俺たちが入ってきたときは「ほどきやがれ!」とか「こんなことしてタダで済むと思ってんのか!」とか好き勝手ぬかしていたが、来訪者が俺と知っていきなり青ざめた。


「おい、あんたにききたいことがあるんだが?」


「ヒッ! よるな! 来るな化け物!」


 ひどい言われようだ。

 まあ仕方ないといえば仕方ないのかもしれないが、化け物呼ばわりされるのは心外だ。


 とはいえ、怯えられっぱなしでは尋問一つもうまくいかない。ここはひとつ脅して黙らせるとするか。


 それなりの力を込めて地面を殴りつける。


 軽く建物が揺れて地面がこぶし位の大きさだけ陥没する。この建物は人が住むためではなく物置といった感じなので地面はそのまま土でできている。少なくとも板の間をぶち抜くよりは気分的にためらわなくて済む。


 肝心の脅しの効果としては必要十分どころか過剰が過ぎるくらいだった。


 まるで金縛りにあったように目を見開いてこっちを見ている。瞬きもせずに目を血走らせている。


「とりあえず質問に答えろ、そうすれば命の保証はしてやる」


 そういうと、目の前の奴は半泣きの状態で首を縦に振っていた。

 少しは物わかりがよくなってくれたようだ。

 さっそく尋問を開始する。


「まず、お前らはどこが本拠地なんだ?」


「本拠地? ああ、本拠地なら、ここから、南東にある山の中にある」


 つっかえつっかえながら俺の質問に答えている。


 とりあえず嘘はついていなさそうだ。というか、これだけ怯えながら嘘がつけるならそれは凄まじい演技力だ。その場合は騙されても仕方がない。なんてことを考えながら俺はそのまま質問を続行した。


「お前らはどのくらいの人数で徒党を組んでいるんだ?」


「いっ、今は大体百人くらいだっ」


 なんか相当パニクっているな。話が早いからいいけど。

 まあそれなら俺一人で突っ込んでも問題ないだろう。いや、待てよ。


「百人って言ったか? なんだって一山賊がそんなにたくさんでつるんでるんだ?」


 明らかにおかしい。俺が討伐できる出来ないに関係なくそんな大所帯がただの山賊団なはずがないだろう。それともこの世界にはそんな規模の山賊がうじゃうじゃあるのか?


「ひぃぃぃぃい! じじじつは最近になってボスが入れ替わったんっすよ! それはもう鬼のように強いお方で、この辺りの山賊を全員束ね上げてしまったんですよ!」


 いきなり俺が食いついてきたせいか山賊Aは相当腰が引けている。別に取って食おうってわけじゃあないんだが。


 それにしてもその山賊ボスとかいうやつは只者ではなさそうだ。こいつの話だとこの付近にいくつかあった山賊たちを力で束ね上げるだけの実力者ということになる。


「おい。そのボスとかいうやつのことを詳しく教えるんだ」


「へっへいぃぃ!」


「少し落ち着いてくれ、別にどうこうしようってわけじゃない。俺たちに協力してくれたら、飯くらいは食わせてやる」


 こいつが落ち着いてくれないと話が全く進まない。少しばかり飴を見せてやることにしよう。


 少しは落ち着いてきたのか、山賊Aはぽつぽつと話し出した。


「あれは大体半年くらい前の話で、今の俺たちの本拠地がある山の中には当時最大規模の山賊団がいたんでやす。といっても30人くらいの規模でしたが。そこに一人の野郎が乗り込んできて、全員を叩きのめして部下にしたんでやす」


 文字通り叩きのめされていうことを聞かされたといったかんじだろうか?

 そこだけ聞くとものすごい実力と行動力の持ち主であると予想できる。


「そのまま当時最大規模の山賊団のトップになったんでやすが、それだけならまだしも近くにはびこっていたほかの山賊や盗賊どもも次々と傘下に入れていったんでやすよ。そんなこんなで今はこの付近で唯一にして最大の盗賊団のリーダーなんすよ」


 山賊Aの説明によると、そいつはかなりの武闘派のリーダーのようだ。

 そんな奴がいるのか。


 やはり情報収集はしておいて損はないな。ただ数が多いだけの山賊団だと思って突撃してみたらゲイルクラスの奴が待ち受けていましたなんてシャレにならん。


「そいつは、強いんだよな?」


「そりゃあもう! とんでもなく!」


 山賊A君から見ても惜しみない賞賛を送るくらいの実力者というわけか。俺とどっちが強いと思うと聞いてみたいが、こいつの意見ではあまり参考にならなそうだ。


 しかし、そんな強いやつがいるとなると作戦を考え直さないといけなくなるかもしれないな。


 それとも強行してみるべきか?

 どうも判断に困るな。襲撃をかけるならアルミナにも協力してもらった方がいいか?


 もう少し聞き出してみるとするか。


「昨日お前らを放置して逃げていった連中は、その本拠地に帰ったのか?」


「い、いや。本拠地じゃあなくて駐屯地に戻ったはずです」


「駐屯地?」


 こいつらそんなものまで作っていやがったのか?


「へい。部隊長の一人が最近作り出したんでさ」


「そこにはどのくらいの戦力がいるんだ?」


「俺たちみたいなのが25人くらい。ああでも、今7人つかまってるから20人以下で、その中に部隊長が二人いやす」


 部隊長か。そいつの強さ次第では、こっちから駐屯地とかいうところに襲撃をかけられるかもしれないな。


「そいつはどのくらいの強さなんだ?」


「あっしらが二、三人で相手をすれば勝てるかくらいでさ。旦那とでは勝負にならないでしょう。」


 決まりだな。


「よく分かった。ところでお前、一つ俺と取引をしないか?」


「取引…ですか?」


「そうだ。逃げ帰った連中は多分お前が口を割ることを予測している。だからお前はもうほかの山賊どもから信用されなくなるだろう」


 俺がそういうと、見る見るうちに山賊の表情がしょぼくれていく。

 山賊の世界がどんなものか知らないが、少なくとも昨日俺が撃退した連中は下っ端をトカゲのしっぽのように切り捨てるだろう。


「だが、俺に協力するっていうなら、当面の衣食住は保証しよう」


 俺がそういうとそいつは信じられないものを見るというようにガバリと顔を上げた。


「ほ、本当でやすか?」


「無論ある程度の不自由は覚悟してもらう。俺の監視下から離れることは絶対に許さん」


「それで、取引って何をすれば」


 一呼吸おいて俺は盗賊に向かって取引内容を口にした。


「これからその駐屯地とかいうところを襲撃しに行く。だからお前に道案内を頼みたい」


「わ、わかりやした。引き受けやす」


「先に言っておくが、もし裏切ったりしようものなら……覚悟しておけよ」


 山賊がコクリと首を縦に振るのを確認して、ミノムシから解放してやる。

 一晩ぶりに手足が動かせるとあって、山賊Aは肩を回したり、手首を回したりしている。


 そんな山賊にセルアが声をかけた。


「私からも一つ質問してもいいですか?」


 山賊が不思議そうな顔をしてセルアを見る。俺が少し睨むといきなり姿勢を正して


「なんなりとお聞きください!」


 などといってきた。調子のいいやつである。そんな様子を尻目にセルアが山賊に問いを投げた。


「どうしてあなたたちはこの村を襲ったんですか?」


 その質問に山賊と俺はフリーズした。俺は山賊どもを討伐することしか念頭になかったので、敵の本拠地と敵戦力の把握以外のことが頭になかった。


 セルアの質問は、村の人たちから見ればむしろ一番初めに聞いておかなければならないような内容だったのだ。セルアのまっすぐな質問に山賊は困り果てながら口を開いた。


「それは…あっしたちが森の中で取れるものだけでは食っていけなくなっちまったからでやす。それで近くの村を襲いだすようになってしまって…」


 そういう山賊の目には後悔の念が浮かんでいる。もしかすると、こいつは俺が初めに思ったほど悪いやつではないのかもしれない。


 そんな甘いことを思ったが、そんな理由でほかの村の食糧などを奪い去るなどあっていいことではない。ましてこの村に至っては被害者まで出ているのだ。


 セルアは、いったいこいつに対してどう思うのだろうか? 許せないと思うのだろうか? そう思っていた俺は、セルアが口にした言葉に絶句した。


「それなら、どうして一言声をかけてくれなかったんですか! この村は、来る人を決して拒みません! ただ一言、ここにいたいといって、みんなと一緒に頑張れば、こんなやせた土地でもみんなで暮らすことができたはずなのに…」


 セルアは喉が張り裂けんばかりに叫んでいた。見れば彼女の両目から涙がこぼれていた。


 その光景に、俺も山賊もただただ呆然とするしかなかった。


「この流れ者の村は、元山賊でも拒みません! ほかの町や村とは全然違うんです! 誰もあなたたちのことを拒んだりしません! それなのに、そんなことも知らないで……身勝手な理屈を押し付けて傷つけあうなんて、もうどうしようもないじゃないですか!!」


 言葉にならない思いをセルアは叩き付ける。

 彼女の思いがあまりにも重く、俺たちはただ戸惑うしかなかった。


 彼女ははっきりと山賊に宣言したのだ。自分は恨んでなどいないと、ただ、はみ出し者同士手を取り合えないのが悲しいと。


 気が付けば俺は口を開いていた。


「お前、名前は?」


「シルバ…でやす」


「シルバ。協力してくれるな?」


 俺の言葉に対して、シルバはゆっくりと首を縦に振った。その反応を見て、俺たちはアルミナが待っている家へと戻った。


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