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ある日不死身になりまして・・・  作者: 黒々
第一章 はみ出し者たち
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山賊退治

 さて、いつまでも感心しているわけにもいかない。


 俺たちの目的は魔法の習得であって、魔法の講義を受けることではない。

 もっとも、魔法の適性がないって言われた時点で俺のテンションは少し落ち気味だけどね。


「じゃあ、アルミナが一番初めに使った魔法を教えてくれ」


「あ、はい。それならこれですね」


 そういうと、アルミナの右手が薄緑色に輝きだした。


「それが一番簡単な魔法?」


「はい。ですがその前に、まずは目を閉じて右手の魔力を探知してください」


 魔力の探知?

 俺とセルアが一緒に首をかしげていると、アルミナが説明してきた。


「はい。まず魔力の存在を感じ取ってください。私の右手にあるのが魔力です。少し触ってみてください」


 そういって俺とセルアは恐る恐るといった感じでアルミナの右手に触れた。


「これが、魔力ですか?」


 セルアが驚いたような声を上げた。

 俺についていえば今まで身を持ってた食らったことがあるのでそこまで新鮮というほどではない。


 ただ、今まで食らっていた魔法とはちがい、温かい感じがする。


「はい。それと同じようなものがお二人の中で感じ取れれば、魔法はすぐにでも使えますよ」


 へ? それだけでいいの?


「それだけで魔法が使えるんですか?」


 俺の疑問をそのままセルアが口にした。


「はい。初めは右手だけでやってみるといいと思いますよ」


「わかりました。やってみます」


 そういうと、セルアはそのまま目を閉じて右手を上げた。

 やばい。後れを取るわけにはいかん。俺も目を閉じてさっきアルミナに触れたとき感じたような温かい感じを右手に……感じない。


 感じ取れない。これはつまり俺には魔法が使えないってことなのか!?


 いや、これはあれだ、長い時間をかけて習得する修行フェイズなのだ。

 数日間、数週間、いやもしかしたら年単位で習得しなければいけない類のそれはそれは高難易度のものなんだ。


 そんなことを俺が考えていると、アルミナが。


「セルアさん! その調子です!」


 なんてことを言った。

 思わず目を見開いてセルアの方を向いてみると、彼女の右手が緋色に輝いていた。


「マジか」


 思わずつぶやいてしまう。

 セルアの奴、あっという間に魔法の基礎らしきものを修めたってのか!?


「これが、魔力!?」


 セルア自身もかなり驚いているようだ。


 彼女の右手の緋色の光は初めて見る色だが、どういう効果があるのだろうか。


「セルアさん。今はそのまま魔力を抑えてください」


「えっと、どうやって抑えればいいんですか?」


 セルアがそういうと、アルミナはセルアの右手にそっと手を当てた。すると見る見るうちにセルアの緋色の輝きが収まっていく。


「いきなり魔力を放出できるなんて驚きました。セルアさん。しばらくは私がいないときに魔法の練習をするのは控えてください」


「わかりました」


 セルアはそういうが、目がキラキラ輝きすぎてアルミナの言葉が耳に届いているのかどうか判断できない。


「もう一回やってみてもいいですか?」


 セルアがアルミナにそうきいた。


「はい。いいですよ」


 アルミナも二つ返事で了承した。


「アルミナ。俺はこのまま魔力を感じ取れるまで瞑想か?」


「はい。そうしてください」


 くそー。仕方のないこととはいえなんか悔しい。


「アルミナさん。私の魔法だと何ができるんですか?」


「さっきの色だと、おそらく火属性の魔法ですね」


「色で魔法の効力がわかるんですか?」


「はい。風だと緑色。火だと赤色のような色になります。セルアさんが慣れてくれば、今は緋色の魔力も少しずつ赤色に近づいていきますよ」


 なんか俺の知らないところで魔法講義が続行されている。

 そのせいで集中できないと言い訳するわけにはいかない。

 俺もさっさと魔法が使えるようになりたいんだい! 胡坐をかいてムーンと唸り続ける。


 しばらくしていると俺にも何かが感じ取れた。遠くから足音が響いてくるような音が聞こえた。


 これが魔力を感じ取るってことなのか?


 足音が少しずつ大きくなってくる。ん? 足音?

 パチリと目を開けてみても相変わらず遠くから足音が近づいてくるような足音が相変わらず響いてきた。


 魔力ではないのは確かだろう。

 この家に向かってくる。誰だろう?


 するといきなり、おっさんが一人家の中に飛び込んできた。


「セルア! いるか!」


「テルマンさん! いったいどうしたんですか!?」


「今すぐ隠れるんだ! 山賊どもがまたやってきた!」


 テルマンとかいうやつが血相変えてセルアにまくしたてる。セルアは顔を青ざめさせながら質問した。


「今回の山賊は、本物でしょうか?」


「ああ、間違いない。以前この村を襲った連中も交じってる。急いで隠れるんだ!」


「ちょっと待て」


 少し見かねて俺がテルマンに声をかける。


「あんたは…」


 そういえばこいつ、俺たちが村に入ろうとしたときに俺たちを襲撃した奴らの一人だ。


「その山賊ってのはいったい何人ぐらいいるんだ?」


「15前後ってところだが、全員馬に乗ってる。今は村の近くで襲撃の用意をしているところだと思う」


「そのくらいなら、俺がまとめて相手してやる」


 俺がそういうとテルマンとかいうやつは目を点にした。


「山賊どもがいるのは村の入り口の方か?」


 そういって俺が村の入り口の方に歩いていくと、セルアが血相を変えて止めてきた。


「無理ですよマサキさん! この村の人たち全員でかかっても時間稼ぎが精一杯なんですよ! マサキさん一人で戦えるわけがないじゃないですか!」


「いや、そいつなら、もしかしたら…」


 セルアを止めたのはテルマンさんだった。


「テルマンさん! マサキさん一人で盗賊団と戦えるなんて…」


「セルアはこいつの強さを見てないんだ! こいつなら山賊どもも一人で相手できるかもしれない!」


 テルマンさんがそういうとセルアさんは絶句していた。


「テルマンさんとかいったな。山賊どもはどこにいるんだ?」


「こっちだ。手を貸してくれ」


 そういってテルマンさんは村の入り口に走り出した。俺も大斧を手に取り追従する。


「あ、まって」


 俺をセルアさんが呼び止めようとして、それをアルミナが止めた。


「マサキさんなら大丈夫ですよ」


「そんな! いくらなんでも無茶ですよ!」


「大丈夫なんですよ。見ていればセルアさんにもわかります。私たちも行きましょう」


 そういうと、アルミナがセルアの手を引いて俺たちの後に続いた。

 





「あれが山賊どもか」


 村から少し離れたところに馬に乗った荒くれ者風味の連中がいた。

 人数はテルマンさんが言った通りで、大体15人くらいだ。

 遠目で確認すると、俺は真っ直ぐ村の入り口の方に向かった。


「お、おい、いくらなんでもそんな的になるようなまねするなんて自殺行為だろ!」


「いいから、ここは俺に任せろ」


 いちいち説明する時間もないし、言葉で説明しても納得してもらえるわけではないだろう。


 大斧を片手に、村の入り口から山賊どものもとに真っ直ぐ歩いていく。

 山賊どもは少し戸惑ったようだが、馬を走らせながら俺の近くに集まってきた。


「今までに見たことのねー顔だな。何もんだテメー」


「用心棒さ。あんたらを仕留めるように言われている」


 見るからに堪え性とは無縁の連中を思いっきり挑発する。案の定、連中の中には目を見開いて怒り狂うやつらができた。


「なめてんじゃねーぞ小僧!」とか、「今すぐたたき切ってやる!」とか、いかにもなセリフを連呼している。


「おい。泣いて謝るなら今のうちだぞ」


 冷静そうな奴もいるようだが、言ってることはチンピラそのものだ。

 もうひと押ししてみるか。


「そっちこそ、逃げ帰るなら今のうちだぞ。お前らを倒すなんて、俺一人でおつりがくるからな」


 安い挑発だったが、相手はそれにまんまと乗ってしまうほどわかりやすいやつだったようだ。


「上等だ! しねー!!」


 とか言ってかかってくる。

 山賊どもは思い思いの武器で俺に攻撃してくる。サーベル、棍棒、鎖鎌などが俺に向かって飛んでくる。


 が、俺は回避も防御もしない。ゲイルが最後に放った攻撃のようなプレッシャーは何も感じないので、たぶん防御も回避も必要ないとしか思えない。


 その予想は大当たりで、俺の首をはねようと振るわれたサーベルを持っていたやつは、振りぬけずにサーベルを落としてしまい、引きずり回すつもりだったのか、鎖鎌を持ったやつが器用に俺の体を鎖で縛ったと思ったら、俺が微動だにしないまま鎖が張ってしまったらしく、そのまま落馬していた。


 棍棒を持ったやつが俺を打ち据えようとしたので、手に持って居た斧を放して、相手の棍棒をそのまま掴み取る。


 さすがに相手も落馬はしなかったが、大きくバランスを崩して棍棒を手放してしまった。


 ちょうどよかったのでその棍棒を拾い上げる。

 手に取った棍棒は、長さ1m位のかなりしっかりした作りだ。


 こっちにしても大斧は殺傷力がありすぎるので、こいつら相手ならこのくらいの武器の方がやりやすい。


 相手は加減をするのをやめたようで、一頭の馬が俺に向かって真っすぐ突っ込んでくる。回避するのは簡単だが、俺は回避せずあえて真っ直ぐ馬の体当たりを受けた。


 俺に体当たりした馬の方が怯んだ隙に、棍棒を騎手に向けて突き出す。加減はしたがそれでも相当な威力だったのだろう。落馬したのちに三回ほど地面に叩き付けられ跳ねまわった。


 生きてるかな?


 そんな疑問が浮かんだが、今あいつに構っている暇もない。

 そのまま騎馬の群れの中に突っ込む。特に力を入れたわけではないがそれでも俺のスピードに圧倒されたようで山賊どもがうろたえる。


 隙だらけだ。

 そのまま二人ほど落馬させる。


 こいつらは森で戦ったゲイルはもとよりボスどもよりもはるかに弱いな。

 相手の数が半分ほどに減ったところで、俺は残った連中を見据えた。

 案の定連中は俺に対して戸惑いと恐れを抱いていた。


「逃げ出すなら今のうちだぞ。さっさと失せろ!」


 思いっきり威圧してやると、山賊どもは見事なまでに逃げ出しやがった。落馬した奴も自分の馬に乗りなおしてほうほうの体で逃げていく。


 あれ?

 一人だけ取り残されていってるぞ?






「あんた、いったい何者なんだ!?」


 戦闘後、気絶していた山賊をズリズリ引きずりながら村に戻った俺に対してテルマンさんが開口一番にそう言い放った。


「ただの旅のものです」


「嘘つけ、ただの旅の者がそんなに強いわけあるか!」


 ふむ、一度やってみたかったやり取りが思わぬところで達成された。


 意味不明の感傷に浸っている俺を尻目に、村人たちは口々に似たようなことを取れに問いかけてくる。


 どうやら村を襲う山賊どもを撃退したことよりも俺の戦闘能力の方に興味が向いているようだ。


「そんなことより今ここで伸びている奴をさっさとふんじばってやってれ」


「お、おお、そうだった」


 そういうとテルマンをはじめとする男衆があっという間に盗賊どもを縛り上げた。見事な手際である。


「どっか適当なところに閉じ込めておいてくれ、こいつには聞きたいことがあるからな」


「お、おう、わかった」


 そういうと男衆は山賊どもを近くにあった家屋に閉じ込めた。

 何とか話をうやむやにできたと思い、あてがわれた家に戻ろうとした先に、アルミナとセルア、そしてメイヨーさんがいた。


「村長さん…」


 メイヨーさんは無言でこっちを見ている。俺が勝手に手出ししたことに対して何か思うところでもあるんだろうか。


「あんたには、この村にはかかわるなと忠告したはずだよ。それなのにこんなことして、たぶん山賊どもはあんたに目を付けたよ。これからどうするつもりなんだい?」


 その声には俺たちを心配する色が含まれていた。それに対して俺の返答は決まっていた。


「それが狙いですよ」


「それが狙いだって?」


「ええ、山賊どもは逃げ帰ってほかの仲間に報告をするでしょう。そうすれば親玉が出てくるでしょう? そいつを返り討ちにすれば全部解決すると思いましてね」


 メイヨーさんは俺を値踏みするように見て、一つため息をついた。


「いずれにせよ、村を助けてくれてありがとう。礼を言うよ」


 そういって俺に頭を下げてきた。


「お礼はいいですよ。それよりも、問題が解決するまでこの村にお邪魔しても構いませんか?」


 俺がそういうと、村長さんは頭を上げた。


「勿論さ。あの家は貸してやるから、好きに使いな」


 そうぶっきらぼうに言って去って行った。





 セルアはアルミナに連れられて戦闘の様子を遠くから眺めていた。


 この世のものとも思えない光景が目の前で繰り広げられ、ただひたすらに言葉を失った。


 刃物で切り付けられても、鎖をくくりつけられて引っ張られても、まるで微動だにしないで受け切っただけにとどまらず、相手から棒のような武器を奪い取り、さらには馬に正面から体当たりされてもまるで問題にならなかったのだ。


 マサキさんの強さは、強いなんて表現では到底追いつかない。 


 相手の半分を落馬させる光景を驚き8呆れ2で見ている私にアルミナさんが声をかけてきた。


「ほら、大丈夫だったでしょう?」


 まるでこの結果がわかりきっていたみたいだった。


「アルミナさん。あの人はいったい何者なんですか?」


 私の質問に対して、アルミナさんは人差し指を形のいい顎に当てて少し上を向いて考えるようなしぐさをして。


「この間、魔物の大軍を一人で迎撃した、エルフの里の英雄です」


 と教えてくれた。


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