魔法教室
どうも物語を進めることに熱中してしまい細かい描写が適当になりがちですね。少しでもマシになっていると思いたいです。
メイヨーさんに連れて行かれた場所は、ほかの建物とほとんど変わりがない粘土と藁でできた建物だった。
入り口らしき扉を開けて中に入ってみると、そこでアルミナとセルアがせかせかと働いていた。
アルミナは一人一人の病状や裂傷の状態を把握するためにいろいろと確認している。
さっき治療したときは全体魔法のようなものを使っていたが、とりあえずは現状確認といったところか?
彼女なりに事情があるのだろうか、と思い患者の方を見て唖然とした。
今アルミナが検診している人は、右目に包帯を巻いていた。
もっとも包帯のように清潔な布などではない。
薄茶色の、布なのかどうかもよく分からないものだ。ほかの人たちが来ている服とよく似ているので、おそらく誰かが衣服として用いていたものを使ったのだろう。
おそらくそれがこの村での最大限の処置なのだ。
アルミナが手当てしている人のけがはそれだけではない。今アルミナが検診した腕の傷以外にもあちこちに傷がある。
ほかの人たちも似たり寄ったりだ。
おなかのあたりの服が真っ赤に染まっている人もいた。全身包帯まみれの人もいた。そして誰もが苦悶の声を上げていた。
その誰もが人並みよりもいいがたいをしていたが、彼らは共通して苦悶の表情とうめき声はひたすら悲痛なものだった。
アルミナは一人一人の重傷らしい怪我を見て回ったのちに、けが人たちの真ん中に立ち、その体を白銀色に輝かせだした。
全体治癒魔法か?
そう思うと、彼女の体の光が周囲に拡散した。
俺はそこで奇跡のような光景を目にした。
大小無数の傷を持つけが人たちが、うめき声をあげる人たちが、その光を浴びたとたんにその表情がいきなり和らいだ。
家の中に満ちていたうめき声は消え、代わり驚嘆の声と、歓喜の声が満ちた。
本当にすごい。
アルミナ、君はこの人たちを救ったんだ。比喩でも誇張でもなく、彼女は彼らに救いを与えたんだ。
俺がくだらないことで悩んでいる間に、アルミナは自分にできることをやったんだ。
「あっ! 叔母様。それに・・・」
セルアさんがつっかえているのを見て、俺はまだ彼女に名乗っていないことに気が付いた。
「俺はマサキ。そっちがアルミナだ」
「はい。わかりましたマサキさん。私は」
「セルアさん。でしょう?」
そういって先制した。それに対して彼女は。
「さん付けなんてしないでください! セルアでいいですよ!」
なんてすごくテンパっていた。
「わかったよセルア。よろしく」
相手の要望にはできるだけ応える。人付き合いの基本だ。
「はい。よろしくお願いします」
そういって二言三言交わしたのち、俺はアルミナのもとに歩み寄った。
「みんなの具合はよくなりそうか?」
アルミナは今俺の存在に気付いたようだ。よほど集中していたのだろう。
「はい。応急処置は終わりました。ですが…さすがに完治させることができないものがあります」
彼女が残念そうに言って、片目を布で覆っている人や、手足が変な方向に曲がっている人たちを見る。
さすがの治癒魔法をもってしてもどうにもならないものもあるということなのだろう。
「いやいや、嬢ちゃんが気にすることはないさ!」
「そうそう。随分動けるようになったぜ!」
アルミナが残念そうに目を伏せているのをみて、さっきまで喜色満面だった野郎どもが口々に声をかけてきた。
しかし、その中には明らかにだらしない顔をしている奴もいる。
まあそれも無理のない話か、アルミナの美貌は見慣れたはずの俺でもどきりとするくらいなんだもの。
それにしたってさっきまでリビングデッドもかくやというくらいのうめき声をあげていた連中がこんなに元気になるとは、アルミナの魔法は俺の想像以上に効果が強いみたいだな。後で教わってみるか。
俺がそんなことを考えていると
「ほらあんたら、恩人が困ってるだろう。元気になったんならさっさと散りな!」
村長さんの声が響いた。
アルミナに群がっていたマミーどもは口々にお礼やら何やらを口にしながら病棟扱いされていた家から出て行った。
「さて、あんたら今晩はどうするつもりだい?」
村長さんは唐突にそんなことを聞いてきた。
「え? えっと? この村にお邪魔したいです?」
勢い任せにほとんど疑問形のまま口にしてしまったが、村長さんはコクリとうなずくと
「ならちょうど一部屋空いたことだ。ここを使いな」
なんてことを言ってきた。
「な! さっきまで病人がいたとこを使えと!」
俺が驚くのは、衛生面において比べ物にならない日本で生まれ育った故からだろうか。その反応を見た村長さんは(なにこのもやしっ子)みたいな目で俺を見て。
「ほかにあいてる家なんてないからね。くたばってたやつらは嬢ちゃんがほとんど治しちまったし。セルア、お客さんたちの面倒を見てやりな」
「は、はい。わかりました!」
そういうと、セルアはパタパタと駆け出して、どこから持ってきたのか、箒と水桶、それとぼろ布を持ってきててきぱきと掃除を始めた。
おれがその手際に感心している間に、村長さんは忽然と姿を消していた。
「終わりました。どうぞご自由にお使いください」
セルアはものの30分ほどで見事にきれいにしてくれた。
ほんとに見事な手際である。
「ありがとうございます。セルアさん」
「いえいえ、どういたしまして」
「ではマサキさん。今から食事の用意をしますね」
「ああわかった」
アルミナにそう言われ、村長宅から持ってきた包みをドカリと居間に置く。
その包みからアルミナが適当に肉や野菜を取り出す。どれも旅の最中に保存できるといって彼女が用意したものだ。
彼女は、生活に必要な技能をほとんど習得しているらしい。
「セルアさん。台所ってありますか?」
「あ、はい。こちらです」
そういってセルアはアルミナを石作りの竃などがあるところに連れて行った。
「竃なんてあったんだ」
俺がそう聞くと、セルアが教えてくれた。
「元竃職人の方がいるので、そちらの方が作ってくださったんです」
「元竃職人? そんな人がこの村にいるのか?」
「はい。もともと王国で働いていた竃職人さんだったそうですが、貴族の方に無茶な注文をされたときにそれを断って追放されたそうです」
なんだって!?
「そんな理由で追放されるっていうのか?」
「ええ、そのようなことがまかり通ってしまうのです。私も似たような境遇ですから」
似たような境遇?
「それって…」
「アルミナさん。お料理手伝ってもいいですか?」
続きを聞こうとしたが、セルアの興味はアルミナの料理に移ってしまったみたいだ。
「ええ、いいですよ。わぁ、お台所を使った料理なんて初めてです♪」
そういうと、アルミナは竃の中に入っていた薪に火をつけた。
「ええ!! 今いったいどうやったんですか!?」
無論魔法である。俺には見慣れた光景なのだが、セルアにはとても新鮮な光景だったみたいだ。
俺は生活に使われる魔法には感心こそすれ、驚いたことはないな。まあ、初めて目にした魔法がエルフの里屈指の実力者の必殺技だからな。
「魔法です。セルアさんは使えないんですか?」
「使えませんよ! 王国でも使える人なんてそうそういませんよ!」
「そうですか? セルアさんにも十分使えそうですよ」
「そんな気休め言わないでください」
そういって彼女はしょぼくれていた。
しかしちょっと待った方がいい。アルミナは精霊の化身なのだ。魔法というのがどういうものか俺にはさっぱりわからないが、もしかしたらセルアは魔法が使えるのかもしれないのだ。
「アルミナ。昼飯の後で俺たちに魔法を教えてくれないか?」
「構いませんけど、マサキさんは高度な魔法は使えないと思いますよ?」
「え! 俺の適性とかわかるのか?」
「はい。ある程度は、ですけど」
アルミナの奴、俺の適性魔法みたいなのも分かるってのか!
これはいよいよセルアに魔法の才能が隠れてそうだぞ!
もっとも俺の魔法の適性はあまり大したことなさそうだけどね。ショボーン。
「とりあえず、魔法のことは置いておいて、お昼にしましょう」
二人が調理を始めた。
アルミナの魔法は、竃の火加減さえも自在にこなせるようだ。
もっとも、無理に火を強くすると薪がすごいスピードで灰になってしまうようだけど。
そうこうしているうちに見事な料理が出来上がった。ウサギの肉に、野菜が添えてある。
ご飯がないのが考え物だが、普通においしそうだ。
「「「いただきまーす」」」
三人そろって食事にする。
美味い!!
アルミナの奴なんだって調味料もほとんどないのにこんなにうまい料理が作れるんだ!?
「すごくおいしいですアルミナさん! 今度作り方のコツを教えてもらってもいいですか?」
「勿論です。これからも一緒に料理を作りましょう♪」
仲良きことはよいことかな。かしましいといってもいいのかもしれないが。
そんなこんなで俺たちはきれいにお昼ご飯を片付けた。
そして、お楽しみのアルミナ先生の魔法講座の時間である。
「さて、アルミナ。魔法を教えてもらってもいいか?」
「ええ、といっても、私に教えられることなんて大したことはありませんよ?」
「そんなことないですよ。この村の人たちのけがを治してくれたり、すごい料理を作ってくれたり。アルミナさんの魔法はすごいと思います!」
全くだ。セルアは見たことがないが、アルミナの魔法は凄まじいのだ。大したことがないわけがない。
ゴブリンやオークの群れを一掃してのけた鎌鼬の魔法もそうだが、あの頃はまだアルミナはハイ・エルフとして完全に覚醒していなかったのだ。
その時点でも底が知れなかったが、今の彼女が全力で魔法を使うと俺でも危ないかもしれない。
いや間違いなく危ないだろう。
「では、何から始めましょうか?」
彼女は本職の魔法教師というわけではないので、実際に教える手順など知らないだろう。とりあえずこちらから質問してみることにしよう。
「じゃあ、アルミナが使ってる魔法の種類を教えてくれ」
「魔法の種類ですか? そうですねまずは」
そういうと、アルミナの左手が薄緑色に輝きだした。
「これが一番簡単な魔法ですね。ちなみにこの色は風属性です」
「わぁー! きれ―!」
セルアがはしゃぐのも無理はない。
俺も何度も目にしているはずだが、改めてみてみるとものすごくきれいだ。見たことあるって言っても全部戦闘中だったしね。
「一番簡単な魔法って、前にゴブリンとかを吹っ飛ばした魔法のこと?」
「ええ、これは簡単なもので狙った的に当てるくらいの事しかできませんが」
「てことは、爆発させたり、鎌鼬を起こしたりする奴は別の魔法なの?」
前にアルミナは、魔物の群れをまとめて竜巻で吹っ飛ばすような広範囲魔法を使っていた。
「ああ、あれは」
そういうと、今度はアルミナの全身が薄緑色に輝きだした。そしてその魔力が左手に集まりだした。しかし光はそのまま薄くなっていった。
「今のは、全身の魔力を片手に集めてから放つ魔法です。この場で使うのは危険なので、この場では説明だけにさせてもらいます」
「それって、さっき村のみんなをまとめて回復させた魔法もですか?」
「その通りです。今見せているのは魔法の使い分けだけで、発動させる用途によって、魔力の性質を変える必要があるんです」
「さっき言ってた風属性とかいうようにか?」
「はい。今私が使える魔法は、風、土、癒しの三つですね。ほかにもあるかもしれませんが、私は知らないので使えません」
「あれ、さっき調理の時に火をつけてませんでした?」
セルアが当然といえる質問をしてきた。
確かに、アルミナがその三つしか使えないっていうなら、彼女は数日間の旅の最中に火を使って料理をしていた。それにさっき調理場で火を起こしても見せた。アルミナは火も使えるんじゃあないのだろうか?
「あれはほかの魔法とは違います。魔法というのは、魔力を集めることで発動します。ですが、その時私が使ったのは魔力ではなく霊素ですから」
「魔力ではなく、霊素を使ったんですか?」
セルアが心底不思議そうに質問した。
「ええ、ですがまずは魔法の方を理解してもらった方がいいと思います」
「そうなんですか。霊素なんて王国でも聞いたことが無いんですけど」
なぬ!?
アルミナが調理とかで適当に使ってたように見えたようなそれは、もしかしてこの世界の常識外のものだったりするのか?
これはいよいよ面白くなってきたぞ! 使えるとのちのち便利かもしれん。
「アルミナ。それ俺にも使えるかな?」
「おそらく可能だと思います。というより、慣れるとこっちの方が簡単に使えるようになりますから、マサキさんの場合はこっちから始めたほうがいいかもしれませんね」
「そうなのか!!」
むほー。なんか夢が膨らんできた。
「でも今回はセルアさんに魔法を教えてからでいいでしょうか? 彼女と一緒に習ったほうがいいと思います」
さいですか。