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ある日不死身になりまして・・・  作者: 黒々
序章 エルフの里と不死身の凡人
14/68

ダークエルフ

 俺とダークエルフとの戦闘を一言で表すなら剛と柔のぶつかり合いだ。


 俺は力任せに斧を振り回す。

 使っている大斧の長さは2m弱なので、攻撃に巻き込まれる魔物たちもいる。

 

 ダークエルフは俺の攻撃を難なく回避するが、考えなしに接近してくる三下たちは自然と巻き込んでしまう。


 力任せといっても普通の奴には反応できない位早い。そんな俺の攻撃を完璧に見切っているこいつが異常なのだ。


 さっき戦ったボスたちもかなりの強さだったが、俺の攻撃に対応できないと理解し、受けるダメージを最小限に抑える戦い方をしていた。


 しかしこいつはダメージを受けないように俺の攻撃を見切り、防ぎ、回避している。それだけの余裕があるのだ。


 明らかにさっきのボスたちよりも格上だ。

 大斧を振り回すが、相手は俺の行動を完全に見切っている。それどころか逐一攻撃に合わせてカウンターの一撃を俺に打ち込んでくる。


 戦えているのは単純に俺の頑丈さゆえだ。

 ダークエルフの武器もかなりの業物なのは間違いないが、俺の体には効果がないようだ。


 だから俺が今考えるべきことは防御ではなく、どうやってこいつに一撃をたたきこむかということだけだ。


 手段を選ぶ必要などない。

 必要なのはこいつを倒す方法だ。


 俺はダークエルフに背を向けて、背後にたむろしていた魔物たちに突っ込み、斧の一刀で三匹ほど屠る。


 そのせいで斧には魔物の返り血でべったりこびりついた。

 ダークエルフはそれの背後から一撃を叩き込んできた。


 多少の衝撃はあったが、やはり俺にダメージはない。

 俺が構えると、ダークエルフは間合いを取り直した。


 おそらく大斧を持っている俺を相手にするなら、こいつは近接戦闘をしたいところだろう。

 しかしダメージが入らない以上無理に接近戦を続けるよりも距離を取り直すべきと判断しているようだ。


 相手が下がったのを見計らって俺は斧に付着している魔物の血をまき散らす。


 高速で飛び散った血は、そのままゲダークエルフに降りかかる。

 目くらまし程効果があるわけではないが、相手の注意が少しでもそれるならもうけものだと思った作戦だが、ダークエルフは瞬きさえせずにいた。


 仕方がない、そのまま大斧を返し、ダークエルフに向かって投げつける。


 さすがにそれが当たるとは思っていなかったが、相手の意表はつけたようだ。横回転をしながら飛んでくる斧に対して、相手は身をかがめて避けた


 地面すれすれまで体をかがめている相手に対して膝蹴りを叩き込もうと接近した。


 その時、再び相手の体から黒い光が放たれ、俺の視界を塗りつぶした。


 目くらまし!?


 俺の記憶にある位置に膝蹴りを叩き込んだが、その一撃は相手にかするにとどまった。


 さすがに回避されたか。目が見えていれば少し修正するだけで直撃しただろうが、仕方がない。


 目くらましが晴れる。

 急いでダークエルフを確認すると、そいつは左肩を抑えてしかめっ面をしていた。


 かすっただけのはずだが、それなりの効果はあったということか。

 俺が投げた斧は遥か彼方まで木々を伐採していったようでこの戦闘中には回収できそうにない。

 

 それにしてもこいつ、やっぱりものすごい強敵だ。

 俺の攻撃をほぼ完璧に見切る戦闘センス。黒い色の魔法。それにとっさの機転の利き方。どれをとっても向こうの方が上だ。


 こちらのアドバンテージは強化されている身体だけ。

 どうにか突破口を作らないと、魔物の方はアルミナとメルビンさんたちが何とか食い止めているが、早く加勢した方がいいだろう。


 そう思っていると、ダークエルフが左手を上げて魔物たちに攻撃を中止するような合図をした。

 その合図に合わせて魔物たちが攻撃の手を緩め、しばらくしたのち進軍が止まった。


 何のつもりだ?


 俺も含めた全員がそう混乱していると、ダークエルフが口を開いた。


「お前、いったい何者だ?」


「……なんだと?」


 いきなりの質問に俺はあっけにとられた。

 少し打ち合っただけだが、このダークエルフはかなり合理的な考え方をする奴だ……と思う。


 そいつが魔物たちに攻撃を中断させるような動機があるということだ。

 それが俺に対する質問だと?


「ただの遭難者だ。道に迷っていたところをエルフたちに助けられたから共闘している」


 とりあえず嘘ではないが、相手が知りたいことでもないだろうことを口にしてカマをかけてみる。


 案の定、相手のしかめっ面はさらに顕著になった。


「戯言を。俺の攻撃をあれだけ受けて傷一つ付かないその肉体。『ダスク・レンブランス』の幻惑をほんの数秒で解いてしまうその抗魔力。魔族の中にもそれだけの力を持った者はまず存在しない。その貴様がただの遭難者だと?」


「嘘などついていない。エルフ族は俺の恩人だ。だから守る。それ以外に理由はない」


 自分でも臭いセリフだと思うが、それが俺の本心だ。


「嘘ではなさそうだが、質問の答えにもなっていないぞ」


「俺の力のことを言っているなら、俺に質問しても無駄だ。俺自身よく分かっていないからだ」


「お前自身よく分かっていないだと?」


 その俺の答えに、ダークエルフはひたすら懐疑的な態度になった。


 だがそんなことに構ってもいられない。


 魔物たちに再度襲撃されて、ほかのエルフたちは大丈夫なのかがわからん。


 間違いなくかなり消耗しているだろう。

 もう少し時間を稼いでみるか。


「俺からも質問がある。なぜエルフの里を狙った?」


 時間稼ぎのつもりで何となく口にした質問。しかし、ダークエルフは


「理由など、そこにいるエルフの女王を始末するために決まっているだろう」 


 そういってアルミナを指さした。


「な!!」


 今度は俺の方が絶句する番だった。

 奴の狙いはこの里ではなかったのか?

 魔物たちの黒幕がこの里を狙う動機が、アルミナだって!?


「どういうことだ!!」


「どうもこうもない。精霊の化身であるハイ・エルフの存在は、いずれ我々魔族に対して必ず禍になる。そこにいるエルフの女王を始末するために俺はここに来た」


 ダークエルフは何のよどみもなくそう口にした。

 今回の騒動がすべてアルミナを殺すためだって!?


「なら、なぜこのタイミングで襲撃してきた!」


 俺の質問に対して、ダークエルフは頭の悪いやつを見るような目をすると。


「どうやら何も知らないようだな。いいだろう教えてやる。エルフの女王は精霊の化身。ゆえに霊樹を破壊し、霊樹に宿る精霊を始末しなければいずれ生まれ変わってしまう。そのためにこの里を襲撃する必要があった。だがそこにいるハイ・エルフは、霊樹の結界内であればほぼ無尽蔵の魔力を用いれる。だからそいつが里の外に出てくるのを待っていた、ということだ」


 !


 つまり俺がアルミナを連れ出したのが原因というわけか。

 こいつはアルミナが結界の外に出るのをひたすら待ち続けていたのだ。

 だが、それにしても腑に落ちないことがほかにもある。


「どうやって霊樹の結界を突破した」


 そう。魔物たちが霊樹の結界を突破しているというのがこいつの差し金なのは間違いない。


 本来、霊樹アルミナスは存在そのものを知られるはずがない。

 それを知っているという時点で異常事態なのだ。

 ダークエルフは何を考えているのかそのまま話し出した。


「霊樹がハイ・エルフを生み出す時に膨大な霊力を消費する。そのため一時的に結界が弱まるのだ。それを感知した我々はハイ・エルフの誕生を確信した。本来の結界であれば突破できるものなどいないからな。しかし、霊樹は我々の襲撃の用意が整わないうちに結界を元通りにしたのだ。つい一年ほど前までは、な。」


「一年前?」


「そうだ。一年ほど前から霊樹の結界が突然弱まった。何かの間違いかとも思ったが、それがしばらく続いたため我々は霊樹とハイ・エルフを始末するために抗魔力に優れた魔物をこの地に送り込み、この森で騒ぎを起こし、時期を見計らっていたのだよ」


 ・・・・・・


 寝耳に水とはこのことか。

 今まで思ってもみなかった情報が大量に入ってくるために、俺は軽く混乱していた。


 こいつが嘘を言っているようには見えないが、頭から信じることはできない。

 ほかにも聞くべきことがありそうな気もするが、俺の口から洩れたのは


「なぜ、そんなに俺に事情を話した?」


 という疑問だった。

 なぜこいつはこんなにこちらに事情を話したのだ?

 少なくとも向こう側から見れば利はなさそうだ。


「ああ、作戦が失敗した腹いせだよ。テメーという誤算のせいでな」


「作戦の失敗?」


 こいつらの目的は霊樹の破壊だ。

 なら、作戦はまだ続行中の間違いじゃないのか?


「そうだよ。お前、あの斧を持ってるってことは、ボブ・ゴブリンとオーク・ジェネラルを倒したな?」


 無言で肯定する。

 それを確認したダークエルフは話を続ける。


「エルフの女王がそいつらと交戦を始めた時点で、こっちが里に攻め込めば話は早かった。だが、そいつがここに戻ってきたのは、俺の予想していた時間の1/4以下だった。うまくいけば、あいつらでも始末できると思っていたのだがな」


 そんなことを口にする。

 おそらくこいつの作戦では、アルミナが里に戻るまでに霊樹を破壊できたのだろう。


「だが、エルフの女王はこの里に戻ってきてしまった。しかもお前というイレギュラーまで連れてきてな。もう作戦は失敗したも同然だ」


 そういってため息をつくと、ダークエルフは


「お前、名前はなんだ?」


 そう俺に名前を聞いてきた。

 今までの情報代の代わりにと答える。


「…マサキだ。そっちは?」


「ゲイルだ。マサキ。この戦い、続けるも止めるも俺次第だ。このまま襲撃を続ければ、負けるにせよお前らにも痛手を与えられるだろう」


 それは、そうだ。


 いくらこっちが有利といっても、数の優位は向こうが握っている。

 全方位から攻められると、こっちは正直守りきれない。


「だが、お前が俺と一騎打ちをするなら、これ以上の襲撃はしない。どうだ?」


 !?


 願ってもいない申し出だが、なんでだ?

 こいつが何を考えているのか本気でわからなくなる。


 作戦が失敗して自棄にでもなってるのか?

 だが、申出そのものに異存はない。下手につついて相手の気が変わっても面白くない。ここは素直に受けておこうと湧き上がる疑問をすべて嚥下する。


「わかった。理由は分からないが、エルフ族を巻き込まないなら異存はない」


 そういって適当に構える。

 ゲイルも手に持っていた片手剣を構える。


 これが文字通りの最後の勝負だ。


「行くぞゲイル!」

「来いマサキ!」


 陥没するくらい強く地面を蹴って突進する。

 ゲイルは突進を見切って、あっさりと回避してのけた。


 当然といえば当然だろう。向こうはこっちよりも手練れだ。

 攻撃はすべて見切られると考えるのが前提でないとゲイルと戦うことはできない。


 なら、見切っていても対応できない位の連続攻撃を仕掛けてやる。


 身体能力任せに攻撃を繰り返す。

 当然の攻撃のほとんどは見事なまでに捌かれる。ひじ打ちを下がって回避し、殴打を腕捌きで受け流し、蹴りを剣ではじく。


 見事なまでに最適化された動きだ。

 俺の攻撃を完璧に読み切っているからこそ、ここまで最適な防御方法を選択できるんだ。だからといってそれだけで捌けるほど俺の攻撃は甘くはない。

 

 本当に尋常ではない腕前だ。

 攻撃を見切ったうえでそれを捌き切る技量がなければこんなことはできない。


 言葉が交わせる時点でわかりきっていたことだが、こいつは魔物とはまるで違う存在だ。


 ほかの連中とはまるで格が違う。

 こいつは多分俺よりもあっさりとボブ・ゴブリンとオーク・ジェネラルを倒すことができるだろう。


 攻撃がわずかであれ手傷を与えられるならとっくに俺は首を掻っ切られて失血していただろう。


 だが、ゲイルの攻撃はまるで効かないのだ。

 このままならあいつに勝ち目はない。


 だが、その事実が俺に言いようのない不安を抱かせる。


 今ゲイルはひたすら俺の攻撃を捌くにとどまっている。攻撃が効かないのだからそうするのが当然だろう。

 

 だったらなぜあいつは一騎打ちを俺に申し込んだ?


 それは勝算があるからだ。

 こいつは断じて思慮の浅い魔物と同列に考えていい相手ではない。

 あの状況で俺に一騎打ちを望むということは、俺を倒す方法があり、今はそれを使うタイミングを計っていると考えるのが妥当なのだ。


 攻撃を続けながらも、俺の焦りはどんどん募っていく。

 いやな汗が流れる。


 手を止めずに攻撃を続け、次は右手で拳を突きだそうとした瞬間、ゲイルは足元にあったオークの死骸を一つ、俺に向けて蹴り上げた。


 一瞬のことで、とっさにオークの死骸を思いっきり殴り飛ばしてしまった。


 加減なしの俺の一撃はオークの体を潰して周りに血しぶきをまき散らせる。


 ゲイルは俺の目くらましをものともしていなかったが、素人の俺にはそれは出来ずに思わず目をふさいでしまう。

 俺の視界を奪った一瞬を用いてゲイルは俺から距離をとっていた。


 すかさず追撃をかけようとしたとき、突然地面が砂になり足が地面に埋まった。見ればゲイルが左手を地面につけていた。


 また魔法か!


 以前エルフから受けた泥沼と違い、極端に沈みやすい砂場といった感じだ。


 そう思いすかさず脱出しようとして、それを踏みとどまった。

 なぜならゲイルの片手剣が黒く光りだしたからだ。


 ゲイルの魔技!?


 それを目にした瞬間俺の全身から冷や汗が噴出した。

 あれを食らってはいけない。あれは今までに受けてきた技とはまるで威力が違う。


 あれは絶対に危険だ。俺の中の何かがものすごい勢いで警鐘を鳴らす。

 しかし俺は動けない。今俺の脚はすっぽりと地面に埋まっている。


 ゲイルが突進してくる。回避はできない。せめて急所を守らないと。そう思い動きを全身全霊で感じ取る。


 あいつが狙っているのは俺の心臓。半身になり、両手で急所をかばう。

 ゲイルが目の前まで迫り、黒く光を放つ剣がまっすぐ迫り。


 ドスッ!!


 鈍い音とともに肩に剣が突き刺さった。

 そのまま時間が停止したように静寂が場を支配する。


 連続した闘争と緊張のせいで痛覚が半分麻痺しているんだろうか。正直かなり痛いが、転げまわりたいほどは痛くない。思いっきり左肩に力を込めて、歯を食いしばる。


 それよりも剣を刺してくれたゲイルを捕まえてやろうとすると、ゲイルはあっさりと剣から手を放して俺から距離をとった。


 何のつもりだ。そう思って相手をにらむと、ゲイルは両手を上げて。


「降参だ。俺たちは撤退させてもらう」


 なんてことを言い出した。


「エルフの里には手を出さないと?」


「ああ、この戦はこちらの全面的な敗北だ。まあ、お前が見逃さないというなら徹底抗戦しかなくなるわけだが?」


 そういってゲイルは手を下げた。

 嘘は言っていないだろう。先ほどまで感じていた殺気も今はなりを潜めている。


「わかった。今すぐにこの森から出ていけ」


「そうするとしよう」


 そういって、ゲイルは魔物たちを率いて森から撤退していった。


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