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ある日不死身になりまして・・・  作者: 黒々
序章 エルフの里と不死身の凡人
13/68

襲撃者

防衛隊長 メルビン


 

 弓を絞り、矢を放つ。

 その動作を、もう何回繰り返しただろうか。

 訓練ならいざ知らず、実戦でここまで矢を放つのは間違いなく初めてだ。


 音を中心に敵の位置を把握し、ゴブリンやオークの眉間に矢を放つ。

 魔物たちは全方位からではなく、一方向からしか来ていないので防衛網はいまだに突破されていない。

 

 マロールが大量の魔物が結界を越えたかもしれないといってきたときに、まさかと思う気持ちと、ついにこの日が来たかという相反する思いの中で、戦闘が始まった。


 結界内の森での迎撃戦では、間違いなく地の利がこちらにある。

 ルミナスとマロールもまだ余裕がありそうだ。


 むしろ不安なのは矢の残弾数の方だ。

 それについてはほかの里の者が交代でストックを取りに行っているため問題はない。


 そのためこちらは魔物が尽きるまで攻撃を続けるだけでいいのだが、いかんせん相手の数が多い。

 

 正直言って速射はかなり神経を使うが、魔物たちに防衛線を突破されると里に魔物たちが入ってくる。


 一応非常時ということで里の周りにも防衛線は張ってあるが、そこにいるのは寄せ集めだ。


 このエルフの里の者の中で、魔物との戦闘経験がある者は我々三人だけだ。


 突破されるのは危険だ。


 そのため、普段はほとんど行わない連射を用いている。

 連射しながらも魔物の急所を的確に射抜けるものだなと自分に感心しているところだ。


 マロールとルビナスには私が取りこぼした魔物たちを討伐してもらっている。


 阿吽の呼吸というのはこういうことを言うのだろう。


 私がどの獲物を狙うかを理解しているかのごとく、二人は私の取りこぼした獲物を射抜いていく。


 我々はもともと狩人仲間だった。

 この森の中の生き物を我々は狩り続けた。


 その時からの経験則なのだろうか。

 まるで思考がリンクしているかのように二人の考えていることが読み取れる。


 おそらく二人にとっても似たようなものだろう。

 でなければとっくにこちらの防衛線は突破されていただろう。


 このまま敵が枯渇してくれるといいが。

 そう思って新たな矢をつがえ、狙いを定めた時、一匹異質な魔物が目に入った。


 いや、あれは魔物ではない。

 そのフォルムは完全に人のそれだ。


 異質な相手に対して私は迷わず矢を放った。

 しかし敵はその矢を完全に見切り、無造作に回避してのけた。


 強い。


 そう思い、矢を三本弓につがえる。

 ルビナスとマロールも奴が危険だということが伝わったのだろう。

 ほかの小物は後回しにしてでも奴を仕留めたほうがいいと考え、ルビナスの弓が薄緑色に光る。


 私が放った三本の矢を、敵は見事に回避して見せたがそこまでだ。

 回避のために相手がわずかに姿勢を崩す。


 そこに合わせてルビナスの『ウィンドアロー』が放たれる。

 相手はバランスを崩している。これ以上の回避は不可能だ。

 貫通力に優れる『ウィンドアロー』は、まともな防御では相殺できない。


 獲った。


 そう思ったが、その予想は覆された。

 相手はその腰にしていた剣を引き抜き、『ウィンドアロー』を見事に撃ち落して見せたのだ。


 わが目を疑う光景に、私だけではなくルビナスとマロールも困惑する。

 あの剣はおそらく相当な業物。しかしそれを十分以上に引き出して見せたあの者の腕前。尋常ではない。


 魔技を通常の技で相殺してのけるなど、異常としか言いようがない。 


 人影が接近してくる。

 余裕綽々と言った様子で歩きながらこちらに向かってきた。


 弓を構えながらその姿を確認して、愕然とした。

 細いながらも引き締まった肉体。


 腰までとどこうとしている黒い長髪。

 そして、人並み外れて整った顔立ちに横に長く飛び出した長耳。


 エルフ族だと!?

 いったいなぜエルフ族が里を襲う魔物たちとともに行動している!?


 混乱する私は、しかし間違いなく状況が悪化したことを悟る。


「ルビナス、マロール、お前たちは魔物たちを食い止めろ! 私があれを仕留める」


 そう指示して相手のエルフと対峙する。

 弓に渾身の魔力を込める。『ウィンドアロー』の上位技、『ウィンドディザスター』


『アースディザスター』と違い、爆発させるのは風。


 もし打ち払ったとしても吹き荒れる風の刃にさらされることになる。

 回避したとしても信管が作動するので同じことだ。


『ウィンドディザスター』を放つ。


 高速で接近する矢に対して、敵のエルフはいきなり剣を持っていない左手を矢の軌道上に上げた。


 そののちの光景に、私はただ絶句するしかできなかった。

 そのエルフの左手が黒く光りだしたのだ。


 矢が衝突したがその手に傷をつけることはなく、さらに本命の風の爆発も、その風の軌道を逸らしてしまった。

 

 いや、敵にそらされてしまったのだ。


 周りにいる魔物たちをかなり巻き込んだが、絶対の自信を持つ魔技を完全に防ぐことができるものがマサキ殿以外にいる。


 しかもその相手は完全にこちらに敵対している。

 ルビナスとマロールでは魔物の群れを抑えきれないだろう。


 しかもそれを束ねる存在は、私たち三人でかかっても仕留められる保証のない強敵。


 状況は最悪だ。


 時間稼ぎに徹するしかない。

 続けざまに矢を放つが、敵のエルフは歩を早めることさえしない。


 見事に見切っている。

 そして、予想通り防衛線は決壊した。


 私たちは木の上に飛び移り、射撃をつづけたが、焼け石に水だった。

 相手のエルフは、まっすぐに里を目指している。まるで私たちなど敵ではないというように。


「二人とも、里に向かう魔物の数を一匹でも減らせ」


 そう指示を下して、矢を放つ。

 矢筒はすぐに空になってしまった。


 もとより狩猟用の矢筒はそこまで大量に矢が入るわけではないのだ。

 加えてこの状況。もはや新しい矢を補充することなどできるはずがない。

 すぐに魔法攻撃に切り替える。


 風の刃を発生させ、魔物の群れに放つ。

 出来れば敵のエルフを狙いたいが、魔力と時間の無駄使いだ。


 ゴブリンたちの腕を、オークたちの足を切断する。


 討伐してしまいたいのは山々だが、それをするとおそらくすぐに魔力が尽きてしまう。


 威力を抑えて、少しでも多くの敵に手傷を与えておくべきだ。

 そう思い攻撃を続けるが、敵の進撃はまるで止まらない。


 こちらも木の上を飛びながら敵の先頭に食いつくが、まるで意味をなさない。


 もう視界の端に里が見える。


 まずい。


 敵がもうそこまで来ている。

 防衛のために農作業をしているエルフたちも出てきているが、勝負にはならないだろう。

 

 パニックに陥ることはないが、少しずつ絶望に心が押しつぶされそうになる。


 敵のエルフは倒しようがない。

 それだけで折れそうになる心を必死に鼓舞する。


 魔力の節約を無視して範囲魔法を使い先頭の連中を倒すが、それでも敵の進軍は止まらない。


 まずい。敵が防衛線に到達してしまう。

 そうして焦る思いが、普段口にしない言葉となって放たれる。


「やめろ!」


 そう叫んで魔法を使おうとしたとき、相手のエルフがいきなり明後日の方を向いた。


 何事だと確認してみるとその先から土煙が迫ってきた。

 新手か!?

 そう思い様子を見ようとして、その正体が見知った人物だということに気が付いた。


 その人物の右肩に一人の女性が乗っている。

 土煙が群れに近づいたとき、その女性が薄緑色に光りだした。


 その光が右手に収束されて、魔物の群れに嵐が吹き荒れた。


 魔物たちの最前列が打ち砕かれる。私の魔法などとは比べ物にならないほどに広範囲に吹き荒れる暴風を発生させたのは、エルフ族を上回る存在であるハイ・エルフの王女。


 そして前衛の前に躍り出た男は、見間違えるはずもない、私に初めて土をつけた存在だ。


 計ったようなタイミングでの登場だが、今はとにかくありがたかった。





マサキ



 間に合った。


 里に向かう最中にアルミナを右肩に乗せて走ることになったのだ。

 俺の全力疾走は、アルミナが走るよりもはるかに速い。


 加えて人一人を抱えても大して重くもない。

 結論として、俺がアルミナを抱えて走った方がいいという結論に達した。


 さすがに抱きかかえるのは抵抗があったので右肩に乗せてだが。

 とにかく間に合った。


「アルミナ!」


「はい。魔法を使います」


 そういってアルミナの体が光りだした。

 広範囲に真空波を発生させる彼女の魔法が魔物の前衛を蹴散らした。

 そのまま里と魔物の軍勢の間に身を乗り出す。


「アルミナ、下がってて」


 そういってアルミナを肩からおろす。

 左手で持っていた大斧を構える。


 アルミナの魔法で敵の前衛は砕けたが、敵の総数はいまだに底が見えない。


 望むところだ。いくらでもまとめてかかってこい。


「うらあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 雄叫びをあげて前衛に向けて思いっきり大斧を叩き付ける。

 ほとんど抵抗なく俺の斧は敵を切り裂いている。

 無尽蔵に湧いてくる魔物たちの群れは、しかし俺の懐までは届かない。


 俺がやっていることは単純明快。

 魔物の一番多そうなところに近づき、間合いに入った魔物たちを切り捨てる。それだけだ。


 しかし魔物の群れを俺だけで完全に抑え切れるわけではない。

 当然取りこぼしは出てくる。


 その半数は俺の背後に回ったりするので問題はないのだが、里の方に向かう魔物もいる。


 だからといってそいつらにかまけていては本隊が里に直行してしまう。


 しかし無用な心配だったようだ。

 アルミナが小規模の魔法で魔物たちを迎撃している。


 よし、これなら俺は魔物の殲滅に専念できる。


「おらあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 自分でも驚くほど乱暴な声が出たが、俺の発声量まで強化されているのか、魔物たちの進軍が多少遅れるのだ。


 初めて遭遇したゴブリンの群れが逃げていったのもそれが原因だろう。

 もはや魔物の群れは俺にとっては格好の獲物だ。


 しかし数が多い。100や200では明らかにきかない。


 大斧は攻撃範囲には優れているが、体に張り付いてくる奴らに対しては有効な攻撃手段がない。


 ダメージは皆無だし、俺の馬力を抑えられるわけではないが、常に数匹の魔物に絡みつかれるのはうざい。


 もしアルミナが、魔物の総数を減らしてくれるなら俺の方ももう少し楽になるのだが。


 そんなことを考えていると、俺に飛びかかろうとしていた魔物が射抜かれていた。


「なんだ?」


 そう思い、周りを軽く見まわしてみると、メルビンさんをはじめとした弓使いが弓を構えていた。


 どうやら彼らも協力してくれるようだ。

 これなら、いける。


「メルビンさん、俺が取りこぼした魔物をお願いします! アルミナ、君は俺に近づく魔物たちを魔法で蹴散らしてくれ!」


 そう大声で叫ぶと、二人とも俺の指示に対して軽くうなずいて応じてくれた。


 俺の目の前に大量の魔物が迫ってくる。


 しかし、その魔物たちの群れの中心で鎌鼬が発生する。

 魔物たちは悲鳴とともに数を減らしていった。


 いける。


 俺は一気に突撃し、魔法で生き残った魔物たちに斧を叩き付ける。

 とはいっても、俺は大雑把に攻撃すればいいだけだ。


 斧の射程外の敵は、メルビンさんたちがすでに始末していた。


 よし、これで戦線を押し返せる。

 そうして前進しようとして、視界内に異質な奴がいた。


 人型?


 魔物の中に、人間が?


 そう思ったが、相手は人間ではない。

 黒を基調とした装備に、腰までとどく長髪。整った顔立ちに、引き締まった体つき。そして何よりも特徴的なのは横に長く飛び出した耳だ。


 エルフ族?

 なんでそんな奴が魔物と一緒にいるんだ?


 それに第一印象が里のエルフたちとはまるで違う。

 お決まりのゲームに出てくるキャラクターでたとえると、ダークエルフって感じだ。


 あれはボスキャラか何かなのか?


 魔物を蹴散らしながらも、あのエルフから意識をそらせない。

 いっそ今から戦闘をしたいところだが、魔物の数が減らないとそれもままならない。


 そして、意識をダークエルフから外さなかったのは正解だった。

 そのエルフが突然右手を掲げ、その手が黒く光りだした。


 あれは…魔法か!


 そう判断した俺はその場所から飛び去った。

 直後、俺のいた地点に直径2m位のクレーターができていた。


 あいつ、今何の魔法を使いやがったんだ?

 腕が黒く光ったと思ったら、突然何の前触れもなく俺のいた位置で爆発が発生したのだ。


 その付近にいた魔物たちもその爆発に巻き込まれた。

 凄まじい魔法だ。


 もしかしてこいつ、アルミナよりもすごい魔法使いかもしれない。

 俺はまだしも、ほかのエルフたちでは相手をするのはきついかもしれない。


 あいつは俺が相手をするべきだ。


 ほとんど直感的にそう思い、ダークエルフに突っ込んでいく。

 途中で俺に飛びかかってくるゴブリンがいたので、ダークエルフに向けて蹴り飛ばしてやる。


 それを奴は半身になるようにして回避して見せた。


 俺が狙いを外したと錯覚するくらい見事な回避。やはり相当な手練れだ。

 そのまま勢いに任せて突っ込み、大斧を振りかぶり、叩き付けようとしたとき、ダークエルフの右手にいつの間にか片手剣が握られていた。


 構わず叩き付けたが、振り下ろしの軌道そのものは完全に見切られていた。


 ダークエルフが俺の右の方に回り込んできた。だが、見切られるのは想定内だ。


 もとより斧を装備していたのは魔物の群れを殲滅するのにリーチの長い武器が必要だっただけ。慣れない武器で無理に戦う必要性などないのだ。


 叩き付けると同時に斧から手を放した俺は、そのまま裏拳をたたきこもうとして、ダークエルフはもっている剣で迎撃しようと剣を走らせた。


 俺の拳と奴の剣がぶつかりあい、ダークエルフが後方に下がる。


 よし。


 俺の拳は、あいつの剣とも打ち合える。

 下手すれば手首から先がなくなっていたかもしれないのに、俺は拳を剣に叩き付けることに対して全く抵抗がなかった。


 ダークエルフもさすがに眉をしかめている。


 地面に落ちていた斧を拾い上げ、改めてダークエルフと対峙し、こいつを倒してこの里を守ると静かに誓い、俺がこの世界に来て最強の敵との戦いが始まった。


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