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ある日不死身になりまして・・・  作者: 黒々
序章 エルフの里と不死身の凡人
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ボスモンスター2

 俺なりの現状把握。


 

 ゴブリンリーダー(仮)


 やせ形の長身ゴブリン。

 武器の棍棒を巧みに扱う。

 スピードはそれほどでもないが、動きが滑らかだ。

 


 オークリーダー(仮)


 横綱体型の大型オーク。

 武器の大斧を全力でたたきつけるような力任せの戦いが主。

 パワーバカというわけではない。俺が攻撃したとき、回避こそしなかったが、後方に飛んで衝撃を逃がしていた。

 


 パワーもスピードも、多分俺の方が上だ。

 アルミナの魔法で雑魚はあらかた片付いた。

 これでボス戦に集中できる。

 

 連中もその状況を共有しているのだろうか。不機嫌さを隠そうともせずに唸り声をあげている。


 ただしあまり時間をかけるのはよくないだろう。

 この森の中にどれくらい魔物がいるのかは知らないが、さっきので全滅するほど少ないわけではないだろう。


 下手に時間をかけるとまた雑魚がわいてくる。

 なるべく早くケリをつけるのがいいだろう。

 

 向こうもこちらの出方をうかがっている。


 もし援軍を待つまで時間稼ぎをしようとしているなら、こいつらは腕が立つだけではなく頭脳までほかの魔物よりも優れているということになる。


 いや、事実そうだろう。


 時間をかけると、またさっきみたいなことになる。

 こっちから仕掛けるしかなさそうだ。


「うらあぁぁぁぁぁぁ!」


 叫びながら相手の懐に踏み込む。

 狙うはゴブリンリーダー。


 タフなオークリーダーを仕留めるのは、おそらく一撃では無理がある。

 そしてゴブリンリーダーを放置すれば、俺に連続攻撃を許すようなまねはしないだろう。


 そう判断して、ゴブリンリーダーに突っ込んだ俺の前にオークリーダーが立ちはだかる。


 まずはオークの腹に思いっきり拳をたたきこんだ。

 武道の心得なんて全くない俺の、ただ力任せの一撃。


 完璧に決まったと思ったが、また後方に飛んで衝撃を逃がしたのか手ごたえが軽い。


 あの巨漢でよくそんな器用なまねができるな。


 加えてあいつの体は、脂肪と筋肉がいい感じで混ざったゴム状の感触だった。

 おそらく打撃にはめっぽう強いのだろう。


 しかし、これでゴブリンと一騎打ちになった!

 ゴブリンの方を向き突進する。


 だが、ゴブリンの奴は間合いに入る直前で俺の脇に回り込んだ。

 とっさにラリアットの要領で巻き込もうとしてみるが、慣れない動作にバランスを崩しかける。


 ゴブリンもそれを受けるほど鈍くはなく、手にした棍棒で打ち払う。

 突撃が失敗した俺に、大きな隙が生まれる。


 ヤバイな、ゴブリンか下手すると体勢を立て直したオークの方が俺に仕掛けてくるかもしれない。


 そう思い、追撃を迎え撃とうとして……追撃が来なかった。


 なぜだ?


 そう思いすぐさま状況の把握に努めようとして、ゴブリンの背後でオークがアルミナの方に突っ込んでいるのが目に入った。


「何やってんだテメー!」


 気が付けばアルミナのほうに駆けだしていた。

 ゴブリンリーダーが棍棒を俺に振り下ろす。


 構っていられるか。


 棍棒の振り下ろしをほぼ無視してゴブリンリーダーの左わきをすり抜けようとした。


 相手もその行動に合わせて棍棒を振り下ろして、俺に激突した。


 とっさに左手を上げて受け、そのまま棍棒を掴む。

 そして無理やり右手を割り込ませ、敵の顔面を掴む。


「ギュワアァァァァァァァーーー!!!」


 ゴブリンリーダーが悲鳴を上げる。

 だからどうした。


 俺はそのまま力任せに顔を掴んだまま、振りかぶってオークリーダーに向けてブン投げた。


 アルミナの方に突っ込んでいたオークリーダーが、飛んできたゴブリンリーダーに気づいて急停止する。


 その隙に、陥没するほど強く地面を蹴ってアルミナとオークの間に割り込んだ。


 オークリーダーは間髪入れずに警戒態勢に移った。

 正直こいつらをかなりなめていた。


 ほかの魔物に毛が生えたくらいだろうと思っていたが、そんなに甘い話ではない。


 確かに俺の戦闘力はあいつらを完全に上回っている。

 だが、身体能力を度外視した戦闘能力について言うと……完全に向こうの方が上だ。


 何せ戦闘経験といえば、雑魚をいじめたほかにはメルビンをはじめとした弓使いとの戦闘以外にろくな経験はないのだ。


 それを踏まえると相手は間違いなく歴戦の勇士といったところだ。

 戦闘経験が段違いということだろう。


 それに当然といえば当然だが、俺は手加減こそしていないが、相手を倒すという意思に致命的に欠けている。


 それに対して、相手の二匹は俺たちを仕留めることに対して何の躊躇もしていない。


 おそらくその覚悟の違いが戦いの選択肢を狭めている。


 相手は俺を完全に敵と定めている。


 そして俺を、いや俺たちを倒すために手段を選ぶつもりがないのだろう。

 必要であれば自分たち手足の一本と引き換えにするどころか、差し違えるつもりさえあるように感じる。


 メルビンさん達との戦闘では感じられなかった闘志と覚悟。

 それを初めて俺に教えてくれた存在は、皮肉なことに人とかけ離れた異形の魔物たちだった。

 

 ごめん。


 俺は自分の能力をまるで信じていなかった。

 この力を十分に発揮させることができれば、あいつらを一撃で仕留めるとこもできただろうに。


 だが、何の覚悟もない俺は、受けても平気だっただろう攻撃に対して過剰な回避を試み、自分の手を血で汚すことをためらい有効な攻撃を仕掛けなかった。


 メルビンさんたちは俺に対して敵意を抱いてはいたが、差し違えてでも食い止めるという覚悟はなかった。


 あの、メルビンさんの最後の一撃以外は。

 たぶん、あの攻撃を受けていたら、俺はおそらく倒れていた。

 

 俺と対峙したエルフの弓使い達にはなかった覚悟が、この魔物たちにはある。

 俺がこいつらにここまで梃子摺っている原因はそれだ。


 こいつらは、俺が自分たちよりも格上ということを認め、その上で自分たちの命を賭して戦っているのだ。


 こいつらがなぜそんなに覚悟をしているのかは分からない。だがその事実に対して素直に尊敬する。


 認めよう。

 こいつらは、全身全霊で仕留めないといけない!


 こいつらを倒すためには、俺も俺の力を信じてゆだねないといけない!


 標的はゴブリンリーダーからオークリーダーに変更。

 ゴブリンリーダーの攻撃は俺に通用しない。


 だからもう相手にしない。

 オークリーダーの大斧が俺に効くのかは不明だが、必要であれば受ける必要も出てくるだろう。


 きれいに勝とうなんて考えなくていい。

 相手の返り血で全身が真っ赤になるくらい効果的な攻撃で仕留める。


 そう決めると、覚悟が自然と定まった。

 この魔物たちに、俺の全力を見せてやる。


 さっきと同様に地面がえぐれるように踏み込む。

 本気を出す必要がなかった今までの戦いでは、地面をそっと蹴って踏み込んでいた。


 今は違う。

 周りに与える影響なんて知ったことではない。


 俺のすべてを、あいつらにぶつけてやる。

 オークリーダーが反応する暇もなく間合いに入る。


 今回右手の形は拳ではなく手刀。

 突進の勢いのままにオークの左胸にまっすぐ叩き込む。

 俺の貫手は、オークリーダーの前掛けを貫き、そのまま胸板をえぐった。


「ブギャアァァァァァァァァ!!!」


 オークリーダーの悲鳴が森中に響き渡る。

 貫手を引き抜く。


 派手に引き抜いたせいで血が撒き散る。


 残りは一匹。


 オークリーダーが地に付したのを横目にゴブリンリーダーに突っ込む。

 さっきの衝突の時にあいつは棍棒を失っている。


 好機だ!


 ゴブリンリーダーに向けて再度突撃する。

 相手も俺が突撃することを先読みしていたのだろう。


 だが、お前が回避以外に選択できないことはこっちも想定している。

 そのため、すぐに方向転換ができるくらいのスピードで接近したのだ。

 ゴブリンリーダーが回避動作をした瞬間に合わせて退避先に突っ込む。


 ジャストミート。


 オークリーダー同様に胸板を貫く。

 鎧もろとも貫き、俺の貫手が背中から飛び出した。


 悲鳴を上げる間もなかったのか、ゴブリンリーダーは息が詰まったような声を出して、その体から力が抜けた。

 

 殺した。

 この手で、命を奪った。


 この世界に来て、初めて、はっきりと命を奪う感覚が、腕に、心に、そして魂に刻み込まれたような気がした。


 その、あまりに重い感触に、俺はほとんど放心していた。

 そして、その放心状態は、叫び声にかき消された。


「マサキさん!!!!」

 

 アルミナが叫び声をあげた。

 何事かは、すぐにわかった。


 倒したはずのオークリーダーがいつの間にか俺に大斧を振り下ろしたのだ。


 俺は、あいつを仕留めたと思った。

 事実、こいつは死にかけだ。


 だが、死ぬ間際に俺を道連れにするために、今にも事切れそうな体に鞭を打ち、放心する俺に肉薄したのだ。


 避けることはできない。

 意表を突かれた上に、俺の腕はゴブリンリーダーを貫いている。


 間に合わない。

 覚悟を決める時間も与えられないまま、大斧が俺に振り下ろされ、俺の脳天に激突した。

 

 結果、俺は吹っ飛んだ。


 オークが大斧を振りかざしたとき、俺は死を覚悟し、目を閉じた。

 その後に、俺の頭に大斧の一撃が叩き込まれ、殴られたような衝撃を感じた後に、俺はてじかな木の根のあたりにふっとばされた。


 そう、吹っ飛ばされただけなのだ。


 頭が少しくらくらするが、それだけなのだ。

 本当にどれだけ出鱈目なんだ、この体は。


 オークリーダーの渾身の一撃を頭で受けて、結局無傷。

 いったい何なのだ、この力は。

 打撃のみならず斬撃も弾くとは。


 いったい何度目だろう。この体の異常性を再認識するのは。


 ふらつきながら立ちあがると、オークリーダーは俺に対して目を細め、ふっと笑った。


(俺は、とんでもない者と戦ったのだな)


 ふと、オークがそういったような気がした。

 

 この戦いは、俺の勝ちだ。

 だが、俺には勝ったという感覚がまるでなかった。

 なぜ俺が勝てたのかがまるで分らない。


 いや、わかってる。


 俺が強かったからだ。連中の攻撃が、一切通じないほどに俺が強かったからだ。


 俺がわからないのは、今俺が持っている力についてだ。


 この力がなければ、俺は一方的に敗北し、死んでいただろう。

 なぜ、俺がこんなに強いんだ? 

 ともすれば、俺よりもオークたちの方が、よほど覚悟があったといってもいい。


 そんな奴らの命を奪ってまで、俺が生き残る意味。

 それが分からない。


 オークの死骸に近づく。

 さっきまでオークがつかっていた大斧を手に取る。


 見るからに重そうな大斧だったが、それを片手でひょいと持ち上げる。

 俺は、間違いなくこいつらを尊敬していた。


 相手が自分たちよりもはるかに強いことを理解したうえで、真っ向から挑んできたこと。


 勝てないと分かってなお、一人でも多くの敵を屠ろうとしたこと。


 致命傷を負ったうえでも、俺を道連れにしようとしたこと。


 そんな覚悟を目にして、俺はこいつらに少なからず憧憬の念を抱いた。


 そんな奴らを相手に、俺は自分でもよく分からない力を振り回して何の覚悟もなく屠り、あまつさえ相手の決死の一撃を受けて無傷だったのだ。


 理不尽だ。


 この力は存在してはいけないものだ。

 必死に自らを鍛え上げた者達の努力と苦労を踏みにじる力だ。

 なぜ俺にそんなインチキが許されている。

 そう混乱する俺は。


「マサキさん!」


 俺を呼ぶ名を聞いて我に返った。

 アルミナだ。


「大丈夫ですか!?」


 彼女もかなり取り乱している。

 無理もない。当事者の俺でさえ混乱するような状態なのだ。

 はたから見ている人には、俺が真っ二つにされたと錯覚してしまうだろう。


「ああ、大丈夫」


 俺がそういった時、彼女は俺の体を見て回り、ほっとしたような顔して。


「よかった。本当に」


 そういって、ぺたんと地面に座り込んでしまった。


「そっちこそ大丈夫?」


 俺の指示とはいえ、彼女にはかなり無理をさせてしまった。

 百匹以上の魔物を蹴散らすような魔法を使ったのだ。

 彼女の方もかなり消耗しているんじゃないのだろうか。

 そう思って手を差し出すと、アルミナは手を掴んで立ち上がった。


「はい。大丈夫ですよ」


 特に何か我慢しているというわけではなさそうだ。

 もっとも目に見えない消耗があるのかもしれないが。

 そんなこと考えている俺の前で、アルミナはいきなり表情を変え。


「マサキさん! 急いで里に戻ってもいいですか!」


 そんなことを口走った。


「いきなりどうした?」


 そう疑問を抱く俺に対して、彼女は


「ついさっき、魔物の群れが里の中に侵入したようなんです」


 そんな説明をした。


「魔物の群れが? ついさっき里に襲撃をしてきた?」


「はい。ですから、すぐにでも里に戻らないと!」


「いったいどうやってそれを探知したの?」


「精霊が教えてくれました」


 精霊?

 そういえば彼女は俺が結界内に入ったのを探知してのけたり、結界内の魔物の位置を正確に探知してのけたりしている。


 それが精霊と対話したのであれば、結界の外にいてもそれを探知できるのかもしれない。


「今、里が魔物たちに襲撃されていて、すぐにでも戻らないといけないのか」


「はい。そうです!」


「わかった。急ごう!」


 そういって俺たちは里に向かって走り出した。

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