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魔力使いの日常  作者: バロック
第一章 少女と氷と別の世界
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第八話 捜索

 途中、群れからはぐれたウォルフに遭遇するといった問題が起こることもなく無事に森に到着した俺と天枷は、さっそく子供達を探すのに行動を始めた。


「ここまで来たのはいいけど、この広い森の中どこを探せばいいんだ?やっぱり、適当に探し回るしかないか?」

「私と双海はこの森のことを知らない。だから、それしかない」

「だよなぁ。まあ、仕方ないか」


 さて、じゃあどっちの方向に進むかだけど……。


「天枷、どの方向に進む?俺は、このまま真っ直ぐ行くのがいい気がするんだけど」

「どっちでも。いる位置がわからないなら、どっちに行ってもあまり変わらない」

「それはそうだけどな。じゃあ、このまま真っ直ぐ行こう」


 ここまで歩いてきた方向と同じほうに進むことに決まり、俺と天枷は子供達がいるのを見逃さないように周囲に注意を払いながら森の中を歩きだした。

 本当は名前を呼びながら探したほうがいいんだけど、どこに魔物が潜んでるかわからないから大声は出さないほうがいいし、そもそも子供達の名前を聞いてないから呼びようがないんだよな。


「……!双海、止まって」

「え?どうし」

「静かに」


 言葉を遮るように、天枷が自分の唇の前で人差し指を立ててそう言い。俺は一旦言葉を止め頷く。


「ここに隠れて」


 そう言って天枷が近くの茂みの後ろに隠れるようにしゃがんだのを見て、俺は首を傾げながらも言われた通り隠れるように茂みの後ろにしゃがんだ。


「一体どうしたんだ?それに、隠れてって」

「……あれが理由」


 茂みから顔だけを出し、天枷が左のほうを指差す。

 同じように俺も茂みから顔だけを出し、天枷の指差している方向を見ると、


「あれは……昨日の大トカゲか」


 少し離れたところの草の陰に、昨日、俺達を襲ってきたヤツと同じ大トカゲ―――スパインリザードの姿があった。

 子供達を探し回ってる間にもしかしたら遭遇するかもしれないとは思ってたけど、まさかこんなに早く魔物と遭遇することになるとは。


「けど、あんなわかりづらいところにいるヤツをよく見つけられたな」

「偶然。たまたま、視線を向けたところにいただけ。それより双海、どうするの?」

「う~ん、どうしようか。アイツの位置的に、今来た道以外の方に進むとかなりの割合で見つかりそうだよな」


 ……ただ、だからといって戻っても事態は何も進展しないし、それなら戻るよりも何とかして先に進みたいところだけど。


「……そうだな、アイツをあそこから移動させよう」

「移動?」

「ああ、ちょっと考えがあるんだ。大した方法じゃないし、成功するかどうかはわからないけどね。危険なことをするわけじゃないから、失敗しても今来た道を戻ることになるだけだと思うんだけど、どうだろう天枷」

「危険でないのなら、私は特に異存はない」

「わかった。じゃあ……」


 俺は地面から大きめの石を一つと適当にもう一つ石を拾い、大トカゲがこっちとは別の方を向いた隙に俺達のいるところから大トカゲを挟んだ先にある木に適当に拾ったほうの石を投げつけた。

 石は木に当たって跳ね返り、俺達から見えるところとは逆の大トカゲの側面に当たった。そして、石が当たった後、大トカゲはその当たった方向を見て唸り始めた。

 よし、多分だけど、あっちに何かいると思って警戒してるな。まずは狙い通りだ。

 次に俺は、一応アイツがこっちに意識を向けていないのを確認してから、もう一つの大きめの方の石を大トカゲがいる位置よりも遠くの茂みに向かって思いっきり投げ飛ばした。

 飛んでいった石は向こう側の茂みの奥に入り込んでいき、その入った時の衝撃で茂みが揺れ『カサッ』と音が鳴る。

 警戒していた大トカゲはその茂みの揺れた音が鳴った瞬間奇声を上げ、音の鳴った方向へ高速で走っていった。

 よし、成功だ!

 これで後は、ここから移動するだけだ。


「天枷、今のうちに先に進もう。とりあえず……こっちだ」


 大きな音をたてないように気をつけながら、俺と天枷は今の大トカゲにまた遭遇しないように元々進んでいた道を右に逸れながら走っていく。

 少しの間走り続け、さっきの場所から大分離れたところで息を整えようと足を止めた。


「はあ、はあ、ここまで来ればもう大丈夫だろ」


 しかし、ウォルフの時といい今といい、何か今日は走ってばっかりな気がする。

 出来れば、今日はもう走りたくないところだな。

 ……それにしても、アイツを移動させるのがうまくいってよかった。

 あの大トカゲを移動させた時の行動、実は本か何かで見たことを真似してみただけだったりする。

 いや、まったく同じ行動をしたわけじゃないし、真似というより参考にしたって言ったほうが正しいか。

 まあ、そういう理由もあって、正直成功するかどうかちょっと不安だったんだけど、本当成功してよかったと思う。


「さて、じゃあ気を取り直して子供達を探すのを再開しよう」

「了解。双海、どの方向に…………え?」


 こくりと頷いた後、突然天枷が何かに気が付いたように声を出し、一度辺りを見回した。


「どうかしたのか、天枷?」

「今、どこかから声が聞こえた」

「えっ、声?声なんて聞こえなかったと思うけど」


 天枷が辺りを見渡す直前のことを思い返してみるが、やっぱり声なんて聞こえていない。


「……また聞こえた。行こう双海、多分、声がしたのはあっち」

「あ、おい天枷!ああもう、仕方ないな」


 返事を待たずに駆けだした天枷を制止しようとして言っても止まらないだろうなと考えてやめ、俺は慌ててその後を追って走り出した。

 それから、天枷を追って走っていると進んでいる方向に木が見えなくなり、少し進むと開けた場所に出た。

 そこは結構広い場所で、目の前では川が流れていて、対岸には森の続きが広がっていた。


「川か。なあ、声がしたのはこの辺りなのか?」

「多分そう」


 そうか、この辺りから声が。

 けど、さっきの場所から結構離れた場所なのに、声なんて聞こえるものなのか?

 大きい声っていうなら話しは別だけど、もしそうなら俺にも聞こえてないとおかしいし、そうじゃないなら、天枷の耳がいいとしても普通聞こえないと思うんだけど……。


「……ん?あれって、まさか」


 天枷に声が聞こえたのを疑問に思い、どういうことなんだろうと考えながら何気なく下流の方に視線を向けると、少し離れたところに小さな三つの人影が見えた。

 髪型とか服装を見るに多分、男の子が二人と女の子が一人だと思う。

 こんなところに他に子供がいるとは思えないし、となると、あの三人がティーリさんに連れ戻すように頼まれた子供達か。


「天枷、子供達を見つけた。ほら、あそこ」

「……本当。でも、何か様子が変」


 確かに、よく見ると天枷の言う通り様子がおかしいな。なんだか揉めているみたいだけど、どうしたんだろう。


「とりあえず、行ってみよう」

「わかった」


 俺は天枷と一緒に揉めている三人に近づく。


「だ~か~ら、戻るにしてもどうせ魔物がいて危険なのは変わらないんだし、せっかくここまで来たんだからこのまま進んでみようぜ?」

「だめだよ!これ以上進んで戻れなくなったらどうするのさ!それより早く村に帰ろうよ。うぅ、やっぱり森になんて来なきゃよかった」

「なに言ってんだか。ここに来るまではお前だって乗り気だったくせに」

「そ、それはそうだけど。けど、そもそもルカが森に行こうなんて言わなければこんな危険な目には遭わなかったよ」

「なんだよ、おれのせいだって言うのか!」

「ふ、二人共、けんかしないでよぉ」


 近づいていくにつれて三人の声が聞こえるようになってきたが、どうやら揉めているのは三人のうち男の子二人で、女の子は二人を止めようとしているみたいだ。


「そこの二人、言い争いはそれくらいにしておいたらどうだ?そっちの子が困ってるぞ」

「え?……あ、ご、ごめんね、レナ」

「おい。誰だよ、お前ら」


 言い争っている二人を止めるのにとりあえずそう声をかけてみると、少し気弱そうな方の男の子は女の子が涙目になっているのに気付いて慌てて謝り。もう一人の男の子は俺と天枷のことを訝しげに見てきながらそう言った。

 まあ、こんな森の中で知らない人に話しかけられれば不審に思うのも当然か。


「俺は悠里。で、こっちの女の人はあま……じゃなくて凍香。俺達はスライブとティーリさんに頼まれてお前達を探しにきたんだ」

「ゲッ。もう森に行ったのがバレたのか」

「多分、村から出る時に誰かに見られてたんだよ。けどこれでなんとか村に帰れるよ、ね、レナ。ルカもね」

「うん。ここにはこわいのがいるから早く帰りたい」

「えー、なんだよお前らせっかくここまで来たのに。ちぇ、二人が帰るならおれも帰るよ。一人じゃ先に行っても楽しくないし」


 安堵している様子の二人に対して、このちょっと生意気そうな男の子は不満げにそう言うと拗ねたような顔をした。

 全然反省してなさそうだな、この子。


「村の住人じゃない俺が言うのもなんだけど、少しは反省しろ。ティーリさん、お前達三人が森に行って心配してるんだぞ。……大体、なんでこんなところに来たんだ?危険だから森には行くなって言われてたんだろ?」


 確か、ティーリさんから話しを聞いた後にスライブがそんな感じの事を言ってたはずだ。


「それはそうだけど、みんなが行くなって言うから気になったんだ」

「ああ、なるほど」


 行くなって言われて却って行ってみたくなったのか。子供の時に限った話じゃないけど、子供の時は特にそういうことあるよな。

 例えば、立ち入り禁止の場所とか。いや、行ってみたくなるだけで実際に行ったりはしなかったけど。


「まあ、気持ちはわからないでもないけど、心配をかけたのには変わりないからな。村に戻ったらスライブとティーリさんにちゃんと謝れよ?」

「……わかってるよ」

「ならいいんだけどな。さて、子供達も見つけたし早く村に戻ろう。えっと、俺達が来た方向は……」


 森に入ってからの道のりを思い返してみる。

 最初は真っ直ぐ進んで、次に右斜め、その次は慌てて方向を確認してなかったから少し自信ないけどさらに右に進んだはずだ。


「となると、森から出るにはこっちに行けばいいのかな。よし、じゃあ行こう」


 進む方向を決め、俺が一歩踏み出そうとした瞬間。


「双海、ちょっと待って!」


 強い語調で天枷に止められ、俺は少し驚きながら一旦足を止めた。


今回はなんと、いつもより早めに投稿することができました!


……といっても、前の投稿からもう二週間も経っているのですが(汗)

前から思っていましたけど、二日、三日で更新できる人って凄いですよねぇ。自分の投稿ペースを見るとなおさらそう思います。



それと、活動報告を読んでくださっている方なら理由を知っていると思いますが後書きにも一応これを書いておきます。



ここまで読んでくれた方、小説の感想、もしくは指摘があったらそんなのも書いてもらえると嬉しい(?)です。

後、厳しめでいいので評価もしてくれると嬉しいかなーって。


……まあ、評価に関しては個人的なわがままなのであまり気にしなくていいです。



それでは、いつものことながら後書きが長くなりましたが、ここまで読んでいただきありがとうございました。

次も楽しみにしていただけると嬉しいです。

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