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魔力使いの日常  作者: バロック
第一章 少女と氷と別の世界
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第七話 村の状況

半説明回。

 ケイナを背中から落とさないように気をつけながら急いで広場まで戻ってきた俺達は、一旦そこで足を止め、一応辺りに狼の姿が無いか確認してからふうっと息をついた。

 はあ、疲れた。さっきの場所からの距離はそんなに長くないとはいえ、人一人背負ってここまで走ってくるのはさすがに少しきついな。

 多少このままここで休憩してしまいたくなったが、あまりゆっくりもしていられないし、そもそも目的地はすぐそこだ。わざわざここで休憩しなくても、着いてからゆっくりと休めばいい。

 俺は休憩したいという気持ちを抑えつつ相変わらず人のいない広場を進み、天枷にドアを開けてもらって店の中に入った。

 中には、昨日と同じく客と店員そのどちらの姿もなく。少し悩んでから、昨日シェラさんがしたのと同じように「誰かいないのか!」と大声で呼びかけてみると、


「っと、こんな時に誰か来たのか?すぐに行くから、悪いけどちょっとだけ待っててくれ」


 カウンターの奥のほうからそんな言葉が返ってきたので言われた通りに待っていると、カウンターの奥にあるドアが開き、昨日のエプロン姿ではなく料理人が着てるような服に似た薄茶色の服を着て前掛けエプロンをつけたスライブという男性が部屋の中から現れた。


「待たせたな……あれ?お前ら、昨日シェラのやつが連れてきた二人だよな。こんな時に一体何の……ってお前、その背負ってるの!ケイナは大丈夫なのか!」

「ああ。気絶はしてるけど、怪我とかは無いから大丈夫だ」

「……そうか、よかった。えーっと、お前ら名前は?」

「人に名前を聞く時は、自分の名前を言うのが先」


 名前を聞かれてすぐ天枷がそう言い、スライブという男性がばつが悪そうに頬を掻く。


「悪い、それもそうだな。俺の名前はスライブ・クレイだ。よろしくな」

「うん、よろしく。俺は悠里、でこっちが」

「凍香」

「わかった、ユウリにトウカだな。じゃあ、ユウリ。とりあえず、ケイナをそのまま二階まで運んでくれないか?意識が戻るまでベッドに寝かせておこう」

「えっ、ここって食堂……だよね?なんでベッドなんてあるんだ?あ、もしかして二階はスライブさんの家になってるとか」

「違うって、俺の居住場所は一階にあるからな。そうじゃなくて、ここは食堂の他に宿もやってるんだよ。外の看板見てないのか?後、さんなんてつけないで呼び捨てでいいよ」


 外の看板って、あの青い鳥のようなものの絵が描いてあったあれのことだよな?


「……あの看板じゃ、誰が見ても何の店かわからないと思うんだけど」

「同感。何の店かも書いてないのにわかるわけない」


 天枷の言葉を聞いて、スライブさん……いや、スライブが何故かぽかんとした顔をする。

 それから、右手を眉間の辺りに当て、


「あー、トウカ。悪いんだがもう一度、今言ったことを言ってくれないか?」


 何か気になることでもあったのか天枷に向かってそう言った。


「?……何の店かも書いてないのにわかるわけない」


 首を傾げてからもう一度同じことを天枷が言うと、スライブは眉間の辺りに手を当てたままで「まさか」と呟き、慌てた様子で店の外に出た。

 そしてすぐに、今度は頭に手を当てて店の中に戻ってきたスライブは、


「くっそー、アイツめ」


 とかなんとかブツブツと言いながら俺達のところまで歩いてきた。


「えっと、どうしたんだ?」

「いや、看板がちょっとな。それよりも、早くケイナを二階に運んでやろう。ほら、階段はこっちだ、ついてきてくれ」


 看板がどうしたのか気にはなったが、スライブがさっさとカウンター近くにある通路のほうに行ってしまったので、俺は聞くのを諦めその後に続いた。

 通路の先にあった階段を上がり二階に来ると、スライブは階段から一番近い部屋のドアを開け中に入った。

 俺と天枷も、その後に続いて部屋の中に入る。

 部屋の中は、さすがにホテルのような広さはなく狭めで、シングルのベッドが一つに小さめの机とイスがあるだけと簡素な感じだった。

 俺は背負っているケイナをベッドに降ろし、横にさせてから布団をかけた。


「さて、ケイナも寝かせたことだし、何があったのか事情を説明してくれないか?ケイナが気絶してるってことは何かあったんだろ?」

「まあ、ね。わかった、何があったか説明すればいいんだな」

「ああ。じゃあ、そうだな……、ここじゃ座るところもないし、話しは下に行ってからにしよう」


 そういうわけで、俺達は部屋から出て一階に戻り。スライブに手で促され食堂の丸テーブルの前にあるイスに座り、スライブもイスに座ったのを確認してから、何があったのかを説明した。


「―――あー。少しわからないところはあるが、まあ、何があったのかは大体わかった」


 話しを聞き終えると、スライブは困ったような表情で頭を軽く掻きながらそう言った。

 わからないところっていうのは多分、スパインリザードのトゲが何もないところから出てきて狼に向かって飛んでいったというところだろう。


「なあ。あの狼……というか、魔物が村の中に入ってくることってたまにあることなのか?」

「そんなわけあるか。もしそうなら、この村どんだけ危険なんだよ」


 俺と天枷がこの村に来た次の日にあんなことがあったのが不思議で聞いてみたのだが、微妙に呆れた顔でそう言われてしまった。

 どうやら本当にただの偶然だったらしい。


「お前らも知ってるだろうけど、普通、魔物っていうのは一部を除いて村や町に近づいてくることはないだろ?それは、ウォルフも同じなんだ」

「うぉるふ?」


 聞いたことのない単語に俺と天枷が首を傾げると、今度はさっきと違って微妙にではなく本格的に呆れた顔をされてしまった。


「なんでオオカミなんて変な呼び方をしてるのかと思ったら、やっぱり名前を知らなかったのか。ウォルフってのは、ユウリがさっきからオオカミって呼んでる魔物のことだ」


 見た目が狼に似てたから狼って呼んでたけど、アイツはウォルフっていうのか。

 ああそうか、だから説明してる途中にスライブが狼の見た目を聞いてきたのか。ウォルフっていう名前なのに狼って言っても伝わるわけないからな。


「お前らの住んでたとこでは、ウォルフのことをオオカミって呼んでたりするのか?」

「あ、いや、そうじゃないんだけど、見た目がそのウォルフってやつと似てたから」

「なるほどな。それでオオカミって呼んでたのか。……っと、それはさておき話しの続きだが、本来ならウォルフは村には近づいてこない。なのに近づくどころか村に入ってきたのは多分、今の村の状況が関係してるんだ。けど、ウォルフのことを知らなかったってことは、今何が起こってるのか二人共知らないだろ?」

「あ、ああ」


 まず俺が頷き、続けて天枷が無言で頷く。


「やっぱりな」

「なあ、教えてくれ。この村で何が起こってるんだ?」


 そう聞いてから、ふと朝の出来事を思い出す。

 もしかして、シェラさんが急いで出かけていったのと何か関係があるのだろうか?


「実は、森に住んでいるウォルフの群れの一つが、この村の方に向かってきてるみたいなんだ。さっき村の奴から聞いた話しでは、今は村の外の草原にとどまってるみたいだが」

「えっ、なら、村の中に入ってきたヤツとは関係ないんじゃないのか?」

「いや、そんなことはないぜ。恐らくだが、ケイナとユウリが遭遇したのはその群れからはぐれたウォルフだ。仲間を探してるうちにこの村に入り込んだんだろうな」


 アイツが、群れからはぐれたウォルフか。それは確かにありえるな。ちょっと違うけど、元の世界でだって親からはぐれた動物が人の住むところに入ってくるなんてことがあるくらいだし。


「けど、なんだってウォルフの群れがこの村に向かってきてるんだ?普通なら、ウォルフが村に近づいてくることはないんだろ?」

「その理由は俺にもわかんねーよ。そもそも、アイツらの群れが森から出てくること自体、普通じゃないからな」

「そうなのか?」

「ああ。ウォルフに限った話しじゃないが、群れをつくる魔物っていうのは大概自分達の生息地からは出ないんだよ。例えば、ウォルフなら森とかな」


 なるほど、そう考えると、そのウォルフの群れが森から出てきたどころか村に近づいてきてるのは異常だな。


「まあ、とにかく、今の村の状況はそんな感じだ。身をもって体験しただろうけど、ああいうことが起こるかもしれないから今は外に出るのは危険なんだよ。村の奴らがそのことを伝えて回ってるはずなんだけどなぁ。ケイナといいお前らといい、なんで外を出歩いてたんだ」


 はあっとため息をつき、腕を組みながらじとっとした目でスライブが見てくる。


「シェラさんに言われて、ここに向かってた」

「シェラに?」

「なんか、急いで出かけないといけなくなったから朝ご飯はスライブの店に行って食べてきてくれって」

「……そういうことか。ったく、シェラのやつ、軽くでもいいから説明しておけよな」


 声が小さくて最初の方以外よく聞き取れなかったが、何かを言ってもう一度ため息をつくと、スライブは組んでいた腕をほどきイスから立ち上がった。

 それから、カウンターのところまで歩いていくと俺達の方に向き直り、


「さて、じゃあ、何が食べたいんだ?」

「……はい?」


 唐突にそんなことを聞いてきた。


「はい?じゃねえって、朝飯、食べに来たんだろ?」

「それは、そうなんだけど」


 さすがに唐突すぎるだろ。

 こんな突然に「何が食べたいんだ?」なんて聞かれてもわけがわからないって。


「なら、早く何が食べたいか言えよ。何でもいいぜ?って言っても、材料がないものは無理だけどな」


 と言われてもなぁ。

 さっきの狼のことを考えると、元の世界での食べ物の名前を言っても伝わるかどうか微妙なところなんだよな。昨日の夜食べた物的に、食べてる物自体は元の世界とあまり変わらないとは思うんだけど。

 そんな具合でどう答えようか考えていると、入り口の方からバンッと大きな音がした。

 見ると、ここまで走ってきたのか、息を切らせハアハアと荒い呼吸をしている女性の姿があった。

 明らかに穏やかじゃない様子の女性に、スライブが真剣な表情をして近寄る。


「どうした、ティーリさん。何があったんだ」

「た、大変なのよ!子供が!子供達が!」

「待て、一旦落ち着け!ほら、深呼吸して」


 女性は、スライブに言われた通り深呼吸すると幾分か落ち着いた顔になり。スライブが「落ち着いたか」と聞くとゆっくりと頷いた。


「で、何があったって?子供達が、とか聞こえたけど」

「そ、そうなのよ!うちのお爺さんが、子供達が村から出て森の方に向かって行くのを見たって!」

「なんだって!子供達って、もしかしていつもの三人組か?」

「ええ」

「ったく、あの悪ガキ共は!危険だから森には入るなって言われてるだろうに!」


 苛立たしげに、スライブが頭をガリガリと掻く。


「早く、あの子達を連れ戻さないと!」

「わかってる。くそっ、今俺がここから離れるのはマズイってのに」

「……なら、俺がかわりに子供達を連れ戻しに行く」


 苦々しげなスライブの言葉を聞いて俺がそう申し出ると、スライブは驚いたような顔をこっちに向けた。


「何言ってんだ!森は危険だって、お前も知ってるだろ!」

「知ってるよ。けど、理由はわからないけど他に連れ戻しに行ける人はいないみたいだし、今スライブがここから離れるのはマズイんだろ?」

「それはそうだが、だからといって、村の住人じゃないお前にこんな危険なことを頼むのは」

「アンタが誰かはわからないけどお願い!子供達を連れ戻してきて!」


 俺が代わりに森まで行くということにスライブが難色を示していると、突然女性は俺に向かって頭を下げ、懇願するようにそう言った。


「ちょっと、ティーリさん!何勝手に頼んでるんだよ!」

「ごめんなさい。でも、ここに頼みに来たアタシが言うのも何だけど、何か問題が起こるかもしれない今の村の状況でアンタが村の外に行ったら何かあった時に大変なことになるわ。この人も行くって言ってくれているし、子供達の事はこの人にまかせましょう」

「いや、だが……」


 その女性の言葉を聞いてもなおスライブは僅かに難色を示していたが、すぐに何かを諦めたような顔でため息をついた。


「はあ、わかったよ。気は進まないが、ユウリ、森に行くのはお前に任せることにする。……とはいえ、さすがにそのまま行かせるわけにはいかねえし。よし、ちょっと待ってろ」


 スライブが駆け足でカウンター近くの通路に行き、何だろうかと思いながら戻ってくるのを待っていると、女性が来てからずっと黙っていた天枷が口を開いた。


「双海。私も一緒に森に行く」

「いや、だめだ。昨日の森でのこと覚えてるだろ?」

「覚えてる。だからこそ、双海を一人で行かせるわけにはいかない。それに、一人で探すより二人で探したほうが早く子供達を見つけられる」


 昨日、森で大トカゲから逃げろと言った時と同じ様子の天枷に、俺は言っても無駄だなと説得するのを諦め内心でため息をついた。


「……わかったよ、一緒に行こう。けど、昨日も言った通り」

「わかってる。無理はしない」


 それだけじゃないんだけど、まあ、わかってるって言ってるし大丈夫か。

 ……少しだけ不安だけど。


「悪い、待たせた」


 話しをしている間に用事が済んだみたいで、スライブが何か長い物を持って戻ってきた。

 そして、俺の前までくるとその持っている物を差し出してきた。


「ほらユウリ、これを持っていけ」

「え、これって」


 スライブから手渡されたのは、シェラさんから貰ったやつよりも刃渡りの短い剣だった。


「ただでさえ危険なのに、丸腰のまま行かせるのはさすがにと思ってな。お前が剣を使えるかどうかはわかんねえけど、その剣なら軽めだし使ったことがなくても大丈夫だろ」

「そっか、ありがとう。けど、どうして剣なんて持ってるんだ?」

「あー、まあ、何かあった時のために一応な。それよりティーリさん、子供達が村のどこから出ていったかわかるか?」


 う~ん、なんだか誤魔化された気がする。


「え、ええ」

「なら、ユウリをそこまで案内してくれ。そこから森に向かったほうがアイツらを見つけやすいだろ」

「案内すればいいのね。わかったわ」


 頷いた女性を見て俺は立ちあがる。

 話しは決まったみたいだし、森に行かないと。


「じゃあ俺達、森に行ってくるよ」

「ん?……達?」

「私も、双海と一緒に森に行く」

「トウカもかよ……。ユウリと同じで、どうせ言っても聞かないだろうから何も言わないけどさ。……んじゃ二人共、子供達のことまかせたぞ」

「了解、まかせて」

「ああ、絶対連れて戻ってくる。それじゃあ、えっと、ティーリさん……でしたよね。道案内お願いします」

「わかったわ。子供達が出ていったのはこっちよ」


 駆け足でティーリさんが店から出ていき、天枷も立ちあがりその後を追って外に出る。


「スライブ、この剣、ありがたく借りていくな」


 それだけを言って俺も少し遅れて店の外に出ていき、天枷とティーリさんの姿を探し、見つけてから二人の後を追った。

 それから、ティーリさんに案内されて村の外れまで来た俺と天枷は、ここから真っ直ぐ行けば森があるということを教えてもらった後ティーリさんと別れ、森へ向かって草原を歩き出した。


キャラの年齢についてなのですが、悠里と凍香以外のキャラの年齢はわざと詳しく書いていません。

基本的に悠里のキャラに対しての話し方や、ところどころの描写で大体このくらいの年齢かなと予想がつくように書いています。まあ、自分ではそう書いているという話しなので他の人から見てどうなのかはわかりませんが。


この話をした理由ですが、それは、投稿の際に内容を確認したらこの話で出てきたティーリというキャラの年齢が非常にわかり辛かったからです。

ティーリの年齢は30~35くらいだと思っておいてください。



最後にもう一つ。

また次話投稿するのに一ヶ月たってしまいました。

本当にごめんなさい。次こそは早く投稿出来るようにしたいです。


では、ここまで読んでいただきありがとうございました。

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