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魔力使いの日常  作者: バロック
第一章 少女と氷と別の世界
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第六話 不穏な気配

 目が覚めると、俺は自分の部屋とは違う、物の少ない殺風景な部屋にいた。

 一瞬、ここはどこだと考えて、すぐに昨日のことを思い出す。

 そっか、そういえば元いた世界とは違う別の世界だったな、ここは。それで、この世界で出会ったシェラさんっていう人の家に昨日泊めさせてもらったんだっけ。

 俺は、机に突っ伏していた体を起こし思いっきり伸ばした後、天枷のほうに視線を向けた。

 う~ん、まだ眠ってるみたいだけど、起こすべきか起こさないべきか。今の時間によっては起こしたほうがいいんだけど、昨日のケイナの話しを聞いた感じだとこの世界には時計とか無さそうだし。

 どうしようかと考えていると、もぞっと少し布団が動き、天枷がゆっくりと体を起こした。どうやら、目が覚めたみたいだ。


「天枷、おはよう」


 俺がそう挨拶をすると、天枷はこっちを見て首を傾げ、それからすぐに合点がいったような顔をすると。


「おはよう、双海」


 そう、挨拶を返してくれた。

 首を傾げたのは多分、さっきの俺と同じで、一瞬ここがどこなのかわからなかったからだと思う。


「ちょっと、顔を洗ってくる」


 天枷は布団から出てイスに置いてあったブレザーを着ると、そう言って靴を履き立ち上がった。


「あ、俺も行くよ」


 丁度、顔を洗いに行こうかなと考えていた俺も天枷に続いて立ち上がり、揃って部屋から出た。

 顔を洗おうと思ったものの、洗面所の場所がわからないのでとりあえず廊下を抜けて居間に来てみると、居間にはイスに座ってカップに入った飲み物を飲んでいるシェラさんの姿があった。


「おはよう、シェラさん」

「ん?ああ、おはよう二人共。昨日はよく眠れた?」

「ああ。……ところで、顔を洗いたいんだけど洗面所ってどこにあるんだ?」

「せんめんじょ?その、せんめんじょっていうのが何かはわからないけど、顔を洗うならそこの裏口から出てすぐのところに井戸があるから、そこの水を使って」

「井戸……か」


 どうも、この世界には水道という物は無いらしい。

 時計も無いくらいだし、ここが魔法や魔物の存在するような世界だということを考えるとそういう物は無くて当然なのかもしれない。

 これからは、元の世界にあったからこの世界にも同じ物があるって考えないように気をつけたほうがいいか。

 わかったと返事をして、俺と天枷は裏口から外に出て井戸に近づき、ロープのついた桶で水を引き上げその水で顔を洗う。

 丁度いい冷たさの水を顔に当て、まだほんの少しだけボーっとしていた頭を完全に覚醒させる。

 顔を洗い終え家の中に戻ると、さっきまでイスに座ってくつろいでいたシェラさんが険しい表情で、同じく険しい表情をしたこの村の人と思われるおっさんと入り口で何かを話していた。


「何かあったのか?」

「……ええ。ちょっとね」

「シェラ、俺はこのままこの辺りの連中にこのことを報せに行く。すまんが後は頼んだぞ」


 そう言うと、おっさんはかなり急いでいる様子でドアを開けっ放しにしたまま走り去っていき。おっさんがいなくなってすぐに、シェラさんはさっきまで自分が座っていたイスの近くに立てかけてあった剣を手に取った。


「二人共。私は今から急いで出かけないといけなくなったから、朝ご飯はスライブの店にでも行って食べてきて、戸締りは気にしなくていいし、お金は後で払うって言えば大丈夫だから」

「あ、うん。それはわかったけど」


 何があったんだ?と言葉を続けようとしたが、それよりも早くシェラさんは走って家から出ていってしまった。


「……行っちゃったよ。一体何があったんだ?」

「さあ?けど、あまりいいことではなさそう」


 確かに、あの話をしていた時の険しい表情といい、かなり急いでどこかに行ったことといい、確実によくないことだろうな。

 何があったのか気になるけど、考えたってわかるわけないし、それはシェラさんが帰ってきてから聞くしかないか。


「さて、それじゃあ、俺達は俺達で朝ご飯を食べに行こう。持っていくような物なんて無いし俺はこのまま行けるけど、天枷も行けるか?」

「大丈夫。私もすぐに行ける」

「そうか。じゃあ、行くか」


 外に出て、あのよくわからない看板のついた店に向かって歩き出す。

 それから、周りの風景を見ながら歩いていると、俺はあることに気が付いた。

 あれ?外に誰も人がいない。昨日この道を通った時は周りの家の前や畑とかにいたりしたのに……。

 朝だから……ってことはないだろうし、たまたま俺達が通った時にいなかっただけか?

 怪訝に思いながらも先に進むが、その後も一向に人の姿を見ることはなく、それは村の広場に着いても同じだった。


「……おかしい。外に人がいない」


 天枷もそのことに気付いていたみたいで、広場にも人がいないのを見てそう呟いた。


「……とりあえず店に行ってみよう。ケイナか昨日会ったスライブって人から何があったのか聞けるかもしれない」


 そう言って、止めていた足を動かそうとした時だった。




 きゃあああああ―――――!




 どこからか悲鳴が聞こえてきて、俺は再度足を止め辺りを見渡した。


「悲鳴!?どこから……」

「多分、あの道の方」


 天枷が、今俺達の通ってきた道とは違う道を指差す。


「あっちか。悪い天枷、俺は悲鳴が聞こえてきた辺りまで行ってみるから、天枷は先に店に行っててくれ」

「えっ、双海?」


 俺は、天枷の指差した方に向かって急いで走り出した。

 広場を抜け、その先の道を進んですぐ。女の子がここから離れたところにいるのを見つけた。

 あれは……ケイナか?

 遠くてわかりづらいが、よく見るとその女の子はケイナのようだ。

 ケイナは後退りしながら、怯えたように視線を前に向けていた。

 そして、その視線の先。そこには狼に似た、だが普通の狼とは何かが違う生き物の姿があった。

 そいつは、様子を窺うようにケイナのことを見据えながら、後退るケイナにじりじりと近づいていく。

 ヤバい、助けないと!

 あの狼に襲われていることに気が付いてすぐに、自分が武器を持っていないのも気にせず全力で走る。

 ケイナのいる位置まで少し距離があるけど間に合うか……?

 走りながら、もう少しだけそのままの状態でいてくれと願ったが、その願いは叶わず。狼のほうに気をとられていたせいか、ケイナが何かに足を引っ掛け尻餅をついてしまった。

 そして、その隙を逃すはずもなく。

 様子を窺っていた狼は、ケイナが尻餅をついた瞬間に俺のところまで聞こえてくるほどの唸り声をあげると一気にケイナの近くまで距離を詰めた。

 駄目だ、間に合わない!

 そうしたところで狼が止まるわけないのに、俺は止まってくれと思いながら狼のほうに手を伸ばす。

 くっ、昨日貰った剣、それかあの大トカゲのトゲが今あれば、アイツに向かって投げつけでもして動きを止めさせることが出来るかもしれないのに。

 そう考えた瞬間だ。俺は、突然体から何かが抜けていくのを感じた。

 体の力が抜けるのとは違う、もっと精神的な何かが抜けていく感覚。

 その感覚を感じたのと同時に、伸ばしている手のひらの前の空間に何かが出現したことに気が付いた。

 それが何なのかを確認する前に、その何かは普通の狼と比べると異常に鋭い爪を振り上げて今まさにケイナに飛びかかろうとしている狼に高速で飛んでいき、既に飛びかかろうと跳躍し空中にいた狼の胴体に突き刺さり、その衝撃で狼は横に軽く吹っ飛んだ。


「今のは、一体……」


 いや、考えるのは後だ。今はまず、ケイナのところに行かないと。

 頭を横に振って思考を切り替え、急いでケイナの元に駆け寄る。


「大丈夫か、ケイナ!」

「…………」


 いつの間にか倒れてしまっていたケイナに声をかけるが返事が無い。どうやら気絶しているみたいだ。

 マズイな。さすがにケイナを抱えた状態であの狼から逃げるのは無理だろうし、どうしたものか。


「グルルルル」


 横からの唸り声を聞いて、慌てて視線を狼に向けると、狼は唸り声を上げながら体を起こそうとしていた。

 体を起こしたらすぐに襲ってくるかと思いケイナを庇うように立ちながら身構えたが、狼は体を起こした後、俺の方を一瞥するとその場で向きを変え、僅かにフラフラとした、だがかなりの速さで村の外へと走り去っていった。


「逃げた……のか?」


 理由はよくわからないが、どうやらあの狼はこの場から逃げ出したらしい。

 俺は、助かったことに安堵してホッと息を吐き、身構えていた自分の体の力を抜いた。

 ……それにしても、今狼に向かって飛んでいったモノは何だったんだ?

 何も無いところから突然出現したように見えたけど……。

 不思議に思いながら狼が倒れていた場所を見てみると、何かの拍子で抜け落ちたのか狼に突き刺さったモノだと思われる何かが落ちていた。

 草に隠れてよくは見えないが、細めの長い棒のような物のようだ。


「あれ?」


 何故かその棒のような物に見覚えがあった俺は、よく見てみようとそれが落ちているところまで近づき、その落ちていた物を見て驚いた。


「これって、あの大トカゲのトゲ……だよな」


 見覚えがあって当然だ。

 そこに落ちていたのは、昨日俺と天枷が襲われたあの大トカゲ―――スパインリザードの背中に生えていたトゲと同じものだった。

 そして、これがここに落ちているということは、何も無いところから突然出現し、狼に向かって飛んでいき突き刺さったのはこのトゲということになる。


「どういうことだ?」


 呟きながら、なんとなく落ちているトゲを拾おうと手を伸ばした瞬間。


「なっ」


 トゲが、音も無く光る破片となって砕け散り。その後すぐ、元からそこには何も無かったかのように破片一つ残さず、トゲはその場から消滅した。


「……いきなりどこからか出てきたと思ったら、今度は突然消滅。どうなってるんだよ、一体」


 そんな風に目の前で起こった妙な現象に呆気にとられていると。


「双海!」


 俺を追いかけてきたのか、天枷が名前を呼びながらこっちまで走ってきた。


「え、天枷?なんでこっちに……。店には行かなかったのか?」

「それは双海が勝手に言っただけ、私は了承してない。……それより、何があったの?」


 気絶して倒れているケイナのことを見ながら、天枷が聞いてくる。

 ぱっと見ではわからないけど、よく見ると心配そうだ。


「ああ、それが―――」


 俺はさっきまでの出来事を頭の中で軽くまとめながら、天枷に説明を始めた。








「最初にも言った通り、俺が見た時にはもうケイナは狼に襲われていたから、狼がケイナに襲いかかっていた理由はわからないけど、それ以外は大体今説明した通りだ」

「そう。一応、何が起こったのかはわかった」


 説明を終えると、天枷は不思議そうな顔をしながらもそう言って頷いた。

 まあ、あんな妙な現象のことを聞けば不思議に思って当然だ。


「ここにいたら、ファイリスを襲っていた狼がまた来るかもしれない。早くここから離れたほうがいい」

「確かに、その可能性はあるかも。わかった。じゃあ、ケイナのことは俺が背負っていくから、ケイナを背中に乗せるのを手伝ってくれ」

「わかった」


 俺はケイナの近くでしゃがみ、天枷に手伝ってもらいケイナを背負った。


「とりあえず、最初の目的通り広場の店に行こう。本当はケイナの家に行くほうがいいんだろうけど場所を知らないし、それに、あの店ならここから近いからな」

「了解。双海、ケイナを落とさないよう気をつけて」

「ああ」


 天枷に念を押されたからというわけではないが、背中から落さないように体を揺すってうまくケイナの位置を調整し、その後に一度、狼が走り去っていった方向を見てから、改めて俺と天枷は急いで広場にある変な看板がついた店に向かった。


どうも、お久しぶりです。

一ヶ月も経ってしまいましたが、ようやく次の話を投稿することが出来ました。

遅くなってしまい申し訳ありません(まあ、元々投稿速度はかなり遅いですが)。





はい、元からもっと早く投稿しろって話ですよね。本当にすみません。


さて、ここで一つお聞きしたいことがあるんですが、後書きで書くと長くなるかもしれないので活動報告のほうで書こうと思います。

もし、ここまでこの小説を読んでくれている方がいるなら、出来ればでいいので活動報告のほうも見て答えてくれると嬉しいです。


では、長くなりましたがこれで後書きは終わりです。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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