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魔力使いの日常  作者: バロック
第一章 少女と氷と別の世界
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第五話 気分転換

 それはさておき。


「じゃあ、これからどうする?」

「……外に行く」


 逆に天枷に聞いてみると、そんな答えが返ってきた。


「外?」

「そう、気分転換」


 なるほど。確かに気分転換はいい考えかもしれない。

 外でも歩けば落ち込んだ気分も少しは晴れるかもしれないしな。

 とりあえず、今やることはこれで決まりかな。

 俺は天枷の提案に乗ることにし、今度は居間にいたシェラさんに少し外に行ってくると伝え、俺達は家から出て外を歩きだした。


「そういえば、ちょっと気になってたことがあるんだけど」


 のんびりと歩きながら、少し気になっていたことがあって天枷に話しかける。


「なに?」

「こっちの世界に来る前の話しだけど、なんで天枷はあそこで夕陽なんて見てたんだ?茜ノ宮に住んでたならあの辺りから見る夕陽なんて見慣れてるだろ?」


 一部の例外を除いて、茜ノ宮に住んでいる人があそこで夕陽を見ているのを少なくとも俺は見たことがない。だから、なにか理由があるんじゃないのかと少しだけ気になっていた。

 まあ、単になんとなくあそこからの景色を見たくなっただけなのかもしれないけど。


「そんなことない。まだ見慣れるほど、茜ノ宮に来てから時間が経ってない」

「え?てことは、天枷って最近茜ノ宮に引っ越してきたばかりってことか?」

「そう」

「へえ、そうだったのか。……あれ?けど、転校生についての話しなんて聞いた覚えないような……」


 最近のことを思い返してみるが、やっぱり転校生についての話しなんて聞いた覚えがない。

 転校生なんて来たら、すぐに噂になりそうなもんなんだけどなぁ。そうじゃなくても、そういう話しが好きな友人がどこからかその話しを聞いてきて、聞いてもいないのに俺にその話しを聞かせてきそうだし。


「私は転校生じゃない。この前、灯ヶ丘学園に入学したばかり」

「……なるほどね」


 灯ヶ丘に進学するのに合わせて引っ越ししてきたってことか。


「じゃあ、天枷って一年だったのか」

「そう。双海は?」

「俺か?俺は二年だ」

「二年……。私より学年が上」

「そういうことになるな。……まあ、天枷が茜ノ宮に引っ越してきたばかりなのはわかったけど、それで結局、なんで天枷は夕陽を見てたんだ?」


 話しを元に戻して、改めて天枷に聞き返す。


「前にテレビか何かで、あそこの展望台から見る夕陽が綺麗だって聞いたのを思い出して気になったから」

「ああ、そういう理由か」


 まだ、茜ノ宮に来てからあまり経ってないみたいだし、そういう理由なら夕陽を見ていたのも納得だ。

 俺はずっと茜ノ宮に住んでるからよくわからないんだけど、展望台のある広場の辺りから見える夕陽は他のところに住んでる人からするとかなり綺麗みたいだからな。


「……そうだ。質問したついでにもう一つ聞きたいんだけど、今日は学校休みだったのになんで制服を着てるんだ?」

「忘れ物を取りに、学園まで行ってきたから」

「……それだけのために、わざわざ制服を着たのか?」

「そう。学園に入る時は制服を着るのが決まり」

「確かに、そういう決まりだけどさ」


 他にも用事があったならともかく、忘れ物を取りに行くだけなのに制服を着るとは、真面目というかなんというか。

 そんなことを話しているうちに村の広場まで来た俺は、さっきの妙な看板のついた店の前にケイナがいるのを発見した。

 ケイナのほうも俺達のことに気が付いたみたいで、軽く手を振ると小走りで俺達のところまでやってきた。


「ユウリさんにトウカさん、お散歩ですか?」

「まあ、そんな感じかな。ケイナは?」

「私もお散歩に行こうとしていたところなんですよ」

「へえ、そうだったのか」


 ……あ、そうだ。

 一つ良いことを思いつき、声を潜めながら天枷に話しかける。


「なあ、ケイナにこの村の案内をしてもらうっていうのはどうだろう?」

「なぜ?」

「単純にここがどういう村なのか知りたいっていうのもあるけど、それよりもその途中でこの世界のことを何か聞けないかと思って」

「なるほど。わかった、私は構わない」


 天枷からの了承も得たので、ケイナにその提案をしてみることにした。


「ケイナ、頼みがあるんだけど、この村を案内してくれないか?」

「案内……ですか?」


 きょとんとした顔で首を傾げるケイナ。


「ああ、なにか変か?」

「あ、いえ、そういうわけではないんです。ただ、ここみたいな普通の村の案内を頼む人なんてあまりいないので不思議に思ってしまって」

「そうなのか。実は俺達、こういう村に来たのは初めてなんだ。だから、案内してもらえると助かるんだけど」

「わかりました。私でいいなら、喜んで案内します」

「本当か。ありがとう、ケイナ」


 というわけで、案内してもらえることになり。まずは妙な看板のついている店の隣にある建物の前まで移動した。

 隣といっても、この広場にある建物は建物間の距離が結構あるので大分離れているが。


「ここは武器屋です。村の自警団の人達はここで武器や防具を揃えています」


 と、紹介されたのだが、看板がついていなければ武器屋だとわかるようなものも外には置いてないし、俺には普通の民家にしか見えなかった。


「武器屋……なんだよな、ここ。わかりづらい……というか、この村の人以外わからないんじゃないか?」


 そう言うと、ケイナが苦笑を浮かべた。


「このお店の人……ミドさんっていうんですけど、ミドさんはこの村に住んでいる人以外に物を売る気があまりないみたいなんです。それで、こういうふうに見ただけでは武器屋だとわからないようにしているらしいです」

「変わってる」

「そうですね。確かに、ミドさんは少し変わっているところがあります」


 ……少しか?

 こういうことをしているあたり、少しじゃなくて結構変わった人なんじゃないかと思うんだけど。

 次に案内されたのは、武器屋から広場を挟んで向かいにある看板のついた建物だった。


「ここは、雑貨屋です。生活に必要な物の他にも、冒険者の人が使うような物もここに売っていたはずです」

「……一つ聞きたいんだけど、その冒険者っていうのは何なんだ?」

「え?もしかして、冒険者のことを知らないんですか?」


 驚いた様子で聞いてくるケイナ。

 この様子を見るに、もしかしたら、この世界で暮らしている人なら知ってて当然なことなのかもしれない。

 だとしたら、そのことを聞いたのは完全にミスなんだけど……まあ、もう聞いてしまったものは仕方ないか。


「うん、全然」

「そうなんですか。冒険者というのは、国や個人がギルドというところにだしている様々な依頼を受けて、それを達成することでお金を稼ぐ職業のことです。基本的に誰でも簡単になれるという特徴があります」

「……何でも屋?」

「あはは、そういう認識でも間違いではないですね」

「けど、それならわざわざ冒険なんて単語をつける必要がないよな?」

「その通りです。冒険者という名前なのには理由がありまして、今言ったギルドというのは色々な国や町にあるのですが、依頼を達成してお金を稼いだらそのお金を使って違う町へ行き、その町のギルドでまた依頼を受け、それを達成してお金を稼いだらまた違う町へといった具合に旅をしながらその合間に依頼を受ける人が多いことから冒険者という名前になったらしいです」

「へ~え」


 となると、依頼を受けてたみたいだし、シェラさんは冒険者ってことになるのか?

 覚えてたら後で聞いてみることにしよう。

 冒険者についてのことを聞いた後、俺達は村の中を一周するように案内してもらい。畑、川、民家のある辺りと順番に回ってから最後に広場へと戻ってきた。


「ケイナ、村を案内してくれてありがとう」

「いえいえ、私もお二人と色々お話しできて楽しかったです」


 そんなふうに会話をしていると。

 プオォォォォオ――――。

 どこからか、低く響くような音が聞こえてきた。


「……何の音だ、これ?」

「これは、時間を報せる角笛の音です」

「へえ、角笛か」


 言われてみると、確かに笛っぽい音に聞こえる。


「けど、時間を報せるっていうのは?」

「えっと、普通なら、鐘を時間に合った回数鳴らすことで今の時間を報せますよね?けど、この村には鐘がないので、代わりに角笛の音で時間を報せているんです。ただ、普通と違って時間を報せる回数が朝、昼、夕方、夜の四回だけで少ないんですけどね」


 ふむ、この世界ではそういうふうに時間を把握しているのか。

 ということは、時計のような時間を正確に確認するものはないのだろうか?


「ちなみに、今の音は夕方の音です」


 ああ、音で報せているって、時間によって音色自体が違うってことか。

 鐘と同じで何回か音が鳴るのかと思ってた。


「さて、夕方の角笛が鳴ったので、私は仕事に戻ります」

「あれ?仕事って終わったんじゃなかったのか?」

「はい。夕方までは休憩時間で、これからまた仕事です」


 そうだったのか。散歩に行くところって聞いて、仕事は終わったものだと完全に勘違いしてた。


「せっかくの休憩時間だったのに、村の案内を頼むなんて悪いことしたな」

「いえ、さっきも言った通り私も楽しかったですから。……それでは、スライブさんが待っているので私はこれで失礼します」


 さようならです、ユウリさんにトウカさん。と言い残すと、ケイナは妙な看板のついている店に向かって歩いていった。


「それじゃあ、俺達もシェラさんの家に戻るか」

「わかった」


 そして、ケイナが店の中に入ったのを見届けた後、俺と凍香もシェラさんの家まで戻ろうと歩き出したのだった。









 外から帰ってきて部屋に戻った後、俺は家に戻ってくるまでの道すがらに考えていたあることを天枷に話してみることにした。


「天枷。さっきのこれからどうやって生きていくかって話しのことなんだけど、冒険者になるっていうのはどうだろう?」

「冒険者?……なぜ?」


 天枷が疑問に思うのも無理はない。

 ほかにも職業や仕事はあるかもしれないのに、なんでそれを調べたりする前から冒険者を選んだのか……。


「理由はいくつかあるんだけど、主な理由は、この世界のことをほとんど知らない俺達でもなれそうだからだ」

「どういうこと?」

「……俺は、この世界のことをほとんど知らない俺達では仕事を探すのは難しいと思ってる。けど、冒険者の話しを聞いた時、ケイナは誰でも簡単になれるって言ってただろ?」


 天枷が頷く。


「それは多分、俺達でも例外じゃないはずだ。なら、あるかわからない他の仕事を探すより、とりあえずでも冒険者になってしまったほうがいいと俺は思うんだ」

「けど、もしなったとしても私達では魔物を倒すのは無理」

「まあね。……けど多分、その辺りは大丈夫だと思う」


 ケイナはあの時、依頼は国や個人がだしていると言っていた。

 国からの依頼のほうはわからないけど個人でも依頼をだしているということは多分、魔物を倒す以外の依頼……俺達でも出来るような依頼もあるはずだ。


「まあ、何にしても、冒険者についてもう少し詳しく調べてみないと決められないんだけどな」

「……もし、私達が冒険者になったとしてその後は?やっぱり、元の世界に戻る方法を探す?」

「ああ、ずっとこの世界にいるわけにもいかないからな。なんとか探し出さないと」


 ふと、妹のことが頭に浮かんだ。

 あいつ、俺が帰って来なくて絶対に心配してるだろうな。

 妹の心配そうな顔を思い浮かべ、絶対に元の世界に戻らないと、と俺は改めて思った。


「けど、今は探すあても余裕もないし、まずは冒険者のことを調べるところからやっていこうと思う。天枷もそれでいいか?」

「それでいい。でも、今日はもう遅い」

「そうだな」


 窓から外を見てみると、外はもうかなり薄暗くなっていた。


「じゃあ、調べるのは明日からにして、今日はもうゆっくり休むことにするか」

「賛成」


 そうして、くつろぎ始めてから少しして、シェラさんが晩ご飯だと部屋まで呼びに来た。

 それから、晩ご飯を食べて部屋に戻ってきた後、今日は疲れたからもう寝てしまおうと考えたところで気付いた。

 そういえば、ベッドは一つしかないんだった。


「……どうするか」


 って、女の子をイスや床で寝させるわけにもいかないし、選択の余地なんてないか。


「天枷、ベッドは天枷が使ってくれ」

「……双海はどうするの?」

「俺はイスで寝る」

「双海だけイスで寝させるわけにはいかない」

「俺だって、天枷みたいな女の子をイスで寝させるわけにはいかない。ベッドが一つしかないんだから仕方ないだろ?」

「……」


 天枷は少しの間黙り込むと。


「なら、二人で同じベッドに寝る」


 そんな、とんでもないことを言いだした。


「なっ、何無茶なこと言ってるんだよ!いいから、俺のことは気にしないで一人でベッドを使ってくれ」


 多少慌てながら、無理矢理ベッドに天枷を座らせ俺がイスに座ると、渋々ながらも諦めてくれたみたいで、わかったと一言だけ言った。

 そして、靴を脱いでベッドに上がると。


「じゃあ、今日は疲れたから、私はもう寝る。おやすみ、双海」


 そう言って、制服のブレザーを脱いで今まで自分が座っていたイスに置くと、寝転がり布団の中に入った。

 その様子を見て気を損ねさせてしまったかと思ったが、どうやらほんとに疲れてたみたいで、それからすぐに寝息が聞こえてきた。

 気を損ねたわけじゃないとわかり安心してホッと息を吐いてから、俺は机に突っ伏した。

 本当はこの世界のことについてよく考えたほうがいいんだろうけど、俺も天枷と同じで、今日は色々あったせいでもう疲れて限界だ。

 突っ伏してすぐに、睡魔が襲ってきて意識が薄れていく。それに抵抗せずに意識を手放し、俺はそのまま眠りに就いた。


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