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魔力使いの日常  作者: バロック
第二章
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第三話 夜会話

 ジェリーの群れを倒した後、俺達は襲われる前に話していた通り少し進んだ先にあった辺りと比べて木などが少なく比較的整った地面になっているところで昼ご飯を食べたりしながら少しの間休憩し、それから休憩が終わった後しばらくの間先に向かって歩き続け、そして辺りが何も見えなくなるほど真っ暗になった今、俺達はシェラさんの持っていたランプの明かりを中心に座って夜が明けるのを待っていた。


「天枷、そっちの様子はどうだ?」

「異常なし。双海の方は?」

「大丈夫、こっちも異常はなしだ」


 背中合わせに座っている天枷に辺りの様子を聞いて異常はないか確認をし、その後に逆に同じことを聞かれ俺も異常はないと同じ様に返す。

 今現在、俺と天枷はもし魔物が現れた時すぐにわかるよう見張りをしている。ちなみに背中合わせに座っているのも、分担しないと全体を見張るのは難しいという理由からだ。

 それにしても、こうやって外……それも森の中で夜を明かすっていうのはさすがに初めてだな。あ、いや、一応、小学生の時にキャンプで外に泊まったことはあったか。でも、その時の場所も確か森ではあったけど、あの時はテントがあったから厳密には外ってわけでもないし、そもそも遊びに行ったわけだから今の状況とは全然違うもんな。今の俺達は毛布一枚しかないわけだし。

あ、そういえば思い出したけど、まだ天枷に魔法のこと聞いてなかったよな。

 話をするには丁度いいタイミングだし、今のうちに聞いてみようかな。


「なあ天枷。ジェリーの群れと戦った時に魔法を使ってたけど、いつの間に魔法を使えるようになったんだ?」

「昨日、使えるようになったばかり」

「昨日ってことは、村にいた時に魔法の練習をしてたってことか?」

「そう。……この間、双海に話した通り、私は自分の持っている魔法の力が怖い。だから、この力が暴走しないよう私はこの力をちゃんと扱えるにしたい。そう考えたら、もう行動するしかなかった。それに、双海がユーリスから剣の扱い方を教わっているのを見て、私も少しだけでも戦えるようになったほうがいいと思ったから」

「そっか」


 そういえば昨日、確かに昼頃に外に行ってくるって言って天枷はどっかに出かけたっけ。

 俺も昨日はシェラさんから剣の使い方を習ってて忙しかったからあまり気にしてなかったけど、なるほど、魔法の練習をしに行ってたのか。


「えっと、少し遅くなったけど、あの時は天枷の魔法のおかげでかなり助かった。正直、天枷がいなかったら一匹も倒せなかっただろうし、俺はあいつらにやられてたと思うよ」

「気にしないで。それに、それは私も同じ。双海がいなかったら、私だってあの魔物達にやられてた」

「それはそうかもしれないけど、でも、お礼くらいは言わせてくれ。天枷、ありがとうな」

「……うん、どういたしまして」


 俺がお礼の言葉を言うと、少しの間を開けて天枷は呟くような声でそう返してきた。

 ん?今一瞬、なんとなく天枷の様子が変だったような気が。


「天枷、どうかしたのか?」

「別に、どうもしない」

「そうか?ならいいんだけど」


 うーん、気のせいだったのか?まあ、背中合わせだから表情とか見たわけじゃないし、なんとなくそんな気がしただけだからな。本人がどうもしないって言ってるんだから気のせいだったんだろう。


「それにしても、だ。今回のことで改めて、今の俺達じゃ魔物と戦うのは難しいってことがわかったな」

「うん。確かにそう」


 俺の言葉に、天枷は短くそう言って同意する。


「今回はシェラさんが一緒だったから大丈夫だったし、俺達もジェリーの群れを全部倒さなくてもシェラさんが来るまで持ちこたえればいいだけだったから何とかなった。でも」

「でも、今度からはそうはいかない。クレデイルまで行ったら、ユーリスとはお別れだから」


 俺が言おうとしていたことを、天枷が引き継ぐように代わりに言う。

 やっぱり、天枷もそのことはちゃんとわかってたみたいだな。


「その通り。だから、もしまた今日みたいなことが起こった場合、今度は俺と天枷だけで何とかしないといけないんだよな」


 そして、元の世界に帰る方法を探さないといけない以上、きっとそれなりに長い間こうやって旅をすることになるだろうし、今日みたいに魔物の群れに襲われることもきっとあると思う。

「そう考えると、最低でもジェリーの群れを倒せる程度には戦えるようにならないと、旅をするのは難しいのかもしれないな」


 シェラさんはこの森の魔物……つまりはレッドジェリーとグリーンジェリーのことを弱いと言っていた。実際、動きはあまり早くなくウォルフと比べたらむしろ遅いくらいだし、攻撃にしても魔法を使ってくるとはいえ一つの魔法しか使ってこないから、一匹一匹に関してだけ言えば片手で足りる程度の回数しか魔物と戦ったことがなくまともに剣を扱ったのも昨日が初めてな俺からしてみても正直なところ弱いと言えた。

 そんな弱い魔物を相手に、いくら群れで襲われてかつ魔法が連続で飛んできて厄介だったからとはいえやられるかもしれなかったのだから、このまま旅をするのはなかなか難しいことのように思えた。


「なら、強くなればいい」

「まあ、確かにそれしかないんだけど、そんなに簡単に言わないでくれよ。実は俺、あんまり剣の才能がないみたいでさ。昨日、剣を教わってた時にシェラさんにそう言われて、強くなるには相当な練習が必要だって言われちゃったんだよな。旅を続けるためにも、出来るだけ強くなれるよう努力はするつもりだけどさ」


 そもそも、数日前まではただの高校生で、剣での戦いはおろか喧嘩すらほとんどしたことがない俺に剣の才能なんて普通に考えたらあるわけないんだけどな。

 しかし、努力するとは言ったものの、強くなるまで一体どれだけかかることやら。


「はあ、せめて、俺も魔法が使えればよかったんだけど」

「使えないものは仕方ない。双海、がんばって。私も、もっと魔法をうまく使えるよう、がんばって練習するから」

「……そうだな。がんばるしかないか」


 そう、結局のところ、どれだけかかったとしてもがんばって少しでも強くなるしかないないのだ。

 元の世界に戻るためには、旅をして、色々なところに行って戻る方法を探さないといけないのだから。


「あ、ところで、話しは変わるけど、あの時レッドジェリーが魔法で火の玉を出してきただろ?」

「それがどうかしたの?」

「ああ。今思えば、俺達が躱した後にあの火の玉は辺りの地面や木に当たってるはずなのに、なぜか草や木が一つも燃えてなかったんだよ。天枷、気付いてたか?」


 あの時はジェリーの群れと戦うので精一杯で周りのことなんて気にしてなかったけど、今になって思い返してみるとあの時周りの草木に火がついた様子はなかったと思う。

 というか、もし火がついていたら別の草木に燃え移って大変なことになっていただろうから確実に火はついていなかったはずだ。

 しかし、木や茂みが多くあるこの森の中で、俺達が躱した魔法が周りの草木に当たらなかったなんてことはほぼありえない。となると、考えられるのは火の玉が当たったにも係わらず草や木に火はつかなかったということで、そう考えてから俺はそのことがちょっとだけ気になっていた。


「……確かに、言われてみれば何も燃えていなかった」


 少しだけあった思い返すような間とその言葉からして、同じ様に天枷もあの時は精一杯で周りのことはあまり気にしてなかったんだろう。

 ちなみに俺もそうだが、天枷が驚いた様子をしてないのは多分、この世界に来てから魔法だの魔物だのといった元の世界ではありえないモノと遭遇したせいで、不思議なことに対しての耐性が多少できていたからだと思われる。

 少なくとも俺は、今更、草や木に火がつかなかったくらいの現象ではさすがに驚かない。


「大したことじゃないけど、ちょっとだけどうしてか気にならないか?」

「うん。少し気になる」

「なら、どうして燃えないのか教えてあげるわね」


 不意に聞こえてきた声に驚いて肩をビクッと揺らし、それから声のした方に視線を向けると、ランプを挟んで向こう側で眠っていたシェラさんがいつの間にか目を覚ましていたらしく、まだ僅かに眠そうな顔で俺達のことを見ていた。


「あれ?シェラさん、もう起きたのか?」

「ええ、見張り交代の時間にはまだ少し早いとは思ったんだけど目が覚めちゃったからね。とまあそんなことよりも、眠気覚ましに二人の話しに付き合わせて。えっと確か、この森の草木が燃えなかった理由が気になるって言ってたわよね?」

「そうだけど、もしかしてシェラさん、理由を知ってるのか?」

「もちろん、知ってるわよ」


 シェラさんはそう言って頷くと、実は、と言葉を続けた。


「この森の植物には水の魔力が多く宿っていてね。その影響でこの森の植物はそう簡単には燃えないのよ」

「えっと、ちょっと待ってくれ。その、魔力が宿ってるっていうのがよくわからないんだけど、それってどういうことなんだ?」

 俺の質問を聞いて、シェラさんが驚いたようなそれでいてどこか呆れたような顔をする。

「もしかして、トウカもわからない?」

「……」


 無言でこくりと頷く天枷を見て、やっぱりと呟くように言うとシェラさんは俺の質問に答え始めた。


「そうねぇ。これに関して詳しく説明するのは私には無理だからかいつまんで言うけど、この世界にある全ての自然物には大なり小なり何かしらの魔力が宿っているものなの。当然、動物も含めてね。その宿っている魔力っていうのは、動物の場合は遺伝で、もしくは生まれた時に突然変異で親とは全然違う魔力を宿す場合もあるし、植物や鉱石みたいな物の場合は生まれた場所によって宿る魔力が変わるから、同じ種類の物でも場所によって宿っている魔力は違うのよ。とりあえず、ここまで大丈夫?」

「い、一応は大丈夫……だと思う」


 多分理解出来てるとは思うけど、いかんせん初めて聞く知識だから本当に合っているかどうか自信がないわけで。


「私は大丈夫」


 それに対して、天枷はちゃんと理解できてるようだ。魔法が使えるっていうのが影響してるのか、はたまた単純に天枷の頭がいいだけなのか。俺としては後者なような気がする。


「ユウリはちょっと不安そうね。うーん、たとえば、私は少しだけ風の魔力を持ってるんだけど、母も同じ様に少しだけ風の魔力を持っているの」

「ということは、シェラさんの魔力は母親からの遺伝ってことだよな?」

「そういうこと。うん、二人共ここまでは大丈夫そうね。じゃあ次にいくわ。今、この世界にある全ての自然物には魔力が宿ってるって言ったけど、この宿っている魔力っていうのは大まかに動物とそれ以外では違うところがあるの。まずは動物だけど、動物の場合は自分から使おうと思わないと魔力は使えないわ。例えば人間の場合、魔法として使うっていう具合にね。そして、それ以外の場合だけど、これは種類によって微妙に違うから詳しくは説明しないけど、全てに共通してるのは常に魔力を使ってる……っていうのかしら。えっと例えば、同じくらいの高い水の魔力を持っている人間と木があるとして、ちょっと物騒だけど人間の場合は火をつければ毛とかなら普通に燃えるわよね?でも、木の場合はそう簡単には燃えないっていう具合に、人間には宿っている魔力による周りへの影響がないけど木には宿っている魔力による周りへの影響があるの。ちなみに、今の例えの木の場合は魔力の影響で木に触れた火が弱まった結果燃えないってことになるわね」


 ここまで一気に話したところで、一旦シェラさんは言葉を止め。


「これで説明は大体終わりよ。二人共、わかった?」


 そして、説明の終わりを告げた。


「大丈夫、理解できた」


 やはり今回も、天枷はちゃんと理解できたようだ。


「た、多分、理解できてるはず」


 俺も天枷の様に自信を持って大丈夫と言いたいところだったが、理解できてるとは思うけどあまり自信がなかったためそんな微妙な返答になってしまった。


「ユウリがいまいちわかってるか怪しいところだけど、トウカの方はわかってるみたいだし、まあいいか。……おっとそうだ、一つだけ注意があった。例外として、魔物の中には稀に魔力による周りへの影響がある個体とか種族がいるから、それは覚えておいてね」

「わかった」

「わ、わかったよ」


 俺と天枷の返答に、シェラさんは満足そうによしと声を上げると立ち上がって晩ご飯の時とかに椅子代わりに使っていた倒れている枯れ木の上にドサッと座った。


「今ので眠気も取れたし、二人と見張り番代わるわね。朝になったら起こしてあげるから、二人はもう寝るといいわ。明日もまた結構歩くんだし、出来るだけ休んでおきなさい」

「ああ、それじゃあ悪いけど、お言葉に甘えさせてもらうな」


 膝掛け代わりに使っていた薄地の毛布に包まり、天枷と寝る位置が重ならないよう少しだけ前の方にずれてからそのまま地面に横になる。

 地面と言っても短い草が地面いっぱいに生えているため、硬いことは硬いが草がクッションになってそこまでは硬くなかった。

 と、俺が横になってから少しの間を置いて、なぜか天枷が同じ様に毛布に包まりながら俺の隣に横になってきた。


「えっと、天枷?なんでわざわざ俺の隣に?」

「駄目?」


 不思議そうに、天枷が聞いてくる。


「いや、駄目じゃないけどさ。俺が隣で寝てるの嫌じゃ……ないんだったな、そういえば」


 正確には、嫌じゃないんじゃなくてその辺りのことをあまり気にしてない……だな。

 この世界に来た最初の日の夜のことを思い出して最後の方は呟くようにそう言ってから、軽く溜息を吐いた。


「なに?」

「別に、何でもないよ」

「そう。……ごめん双海。離れた位置で一人だと、少しだけ不安だったから。今、双海から離れる」

「天枷、ストップ。駄目じゃないって言っただろ?」


 起き上がろうとする天枷を慌てて止め、もう一度駄目じゃないと天枷に言う。


「別に俺の横にくらい、いくらでも寝ていいって」


 って、なんで俺こんな変なこと言ってるんだろう。

 そう考えて少し気恥ずかしさを覚えながらそう言うと、天枷は嬉しそうに薄く笑みを浮かべた。


「うん、わかった。双海、ありがとう」


 それから一言お礼を言うと、俺の方を向いたまま目を閉じ。


「双海、おやすみ」


 そう言って、天枷は寝に入った。


「えっと、おやすみ、天枷」


 ちょっと遅れてそう返した後、このまま天枷の方を向いて寝るのはさすがに恥ずかしかったので逆を向き、俺もゆっくりと目を閉じた。

 そして目を閉じた瞬間、長い時間の徒歩と魔物との戦闘で自分の想像以上に疲れていたようで一気に眠気が襲ってき、俺はその眠気に抗うことなく眠り長いようで短かった一日を終えたのだった。


今回、珍しいことに結構早めに投稿することができました!

次もこのくらいのペースで書けたらいいんですけど(願望)。


それと、今回ちょっと投稿の際に時間がなかったので誤字脱字などのチェックをキッチリ行っておりません。

なので、申し訳ないのですがもし誤字脱字があったら報告してくれると助かります。

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