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魔力使いの日常  作者: バロック
第二章
22/28

プロローグ

 澄み渡る空の下、心地良い風が吹き渡って草原の草を揺らし、サラサラという音を立てる。

 大草原なだけはあって草の量が多い上、草の背も高いせいかその草の揺れる音は継続的に鳴り続け、鳴り終わったのは体感で数十秒は経った頃だった。

 そんな、見渡す限り広がる草原の中、俺達は先が見えないほど真っ直ぐ続いている街道を黙々と歩いていた。

 ふと様子が気になって隣を歩いている天枷を見ると、少し疲れているらしく普段通りの無表情の中に僅かに疲れの色が見えていて、そしてそれは、俺も同じだった。

 それも当然で、時計がないから正確な時間はわからないけど、太陽の位置を見る限り俺達は少なくとも三時間以上はこの街道を歩き続けていた。

 いくら今歩いているのが何の障害もないただの平な道とはいえ、三時間もこうして歩き続けていれば旅慣れしていない俺や天枷ではさすがにそろそろ少し疲れてくる頃だ。

 ただ。


「なんか、まだ全然、余裕ありそうだな」


 天枷の方に向けていた視線を元に戻し、目の前を歩いているシェラさんを見て呟く。

 やはりというべきか、冒険者なだけあって旅慣れしているシェラさんは、俺達と違ってまだ体力に余裕がありそうで、それどころか、まだ全然元気そうだった。

 きっと、旅慣れしているというだけではなく、単純に俺達よりも体力があるんだと思う。


「それにしても、広いのはわかってたけど、まだ抜けられないんだな。この草原」

「本当。凄く広い」


 これだけ歩いているのに今だ抜けられそうにないこの大草原に俺がゲンナリして言うと、天枷が俺の言葉に同意する。

 すると、どこか懐かしそうな表情でシェラさんが俺達の方に振り返り。


「昔、初めて旅に出た時に私もここを歩いて同じこと思ったわ。ここって、こんなに広かったんだなってね」

「へえ、そうなのか。あ、ということは、シェラさんって旅に出るまで村から出たことなかったってことか?」

「ええ、そうなるわね。二人は知らないと思うけど、この辺りって結構な僻地でね。一応、商人は定期的に来るし、たまに冒険者なんかが来たりもするけど、基本的に普通の人が来るようなところじゃないから馬車が村まで来ないのよ。だから、歩き以外に他の町に行く方法がないからそう簡単には村から出れない……というか、出ようとは思わないのよね」


 あの村ってそんなところにあったのか。……まあでも、村の外がこんなに広い草原だったり、近くに大きな森があったり、考えてみたら確かにそういうところだって納得できるんだよな。


「……あれ?でも、クレデイルには明日の昼くらいには到着できるって言ってたよな?シェラさんが言うような僻地だったら、普通もっと着くまで時間がかかるんじゃないのか?」

「ん?ああ、それは―――と、その前に、二人共、もう少しで草原を抜けられるわよ」


 俺の疑問に答えようとしながらちらっと前を見たシェラさんが途中で言葉を中断させてそう言い、俺はその言葉に反応して視線をシェラさんから逸らし道の先を見る。

 すると、確かにここから少し離れたところで草が途切れていて、その先が開けているのが見えた。


「本当だ。はあ、ようやく草原から抜けられるのか」

「さて、とりあえず、話を続ける前に草原から出ちゃいましょっか。そのほうが、ユウリの疑問にも答えやすいし」

「え?えっと、わかった」


 最後の言葉の意味はよくわからなかったが、草原から出ることに関しては俺も賛成だったので頷き、天枷も同じ様にわかったと返事をしたのをシェラさんは確認してから。


「よし。じゃ、さっさと草原から出るわよ」


 と言って駆け足になり、そのまま先に進んで行ってしまった。


「……」

「……」


 そんなシェラさんの背中を呆気にとられて足を止め見送ってから、俺と天枷は無言で顔を見合わせ。


「双海、どうするの?」

「どうするって、まあ、シェラさんには悪いけど歩いて追いかければいいんじゃないか?正直なところ、無駄に走るほど体力は余ってないし」

「……同感。歩いて行こう」


 二人共疲れてきているというのもあって意見がすぐに合い、頷きあってからシェラさんの後を追って再度歩き出した。

 そうして、しばらく歩いて草原を抜けると、見えていた通り開けたところに出た。

 そして。


「うわ、森があるな」


 同時に、見るからに広そうな森が正面に姿を現し、俺の視界に大きく映り込んだ。

 さっきまでは草に隠れて見えなかったけど、こんな広そうな森があったのか。村の近くにあった森も結構広そうだったけど、あの森とどっちのほうが広いんだろうな。

 なんて、正面の森を見てどうでもいいようなことを考えながら、道の少し先で俺達のほうを向いて待っているシェラさんに近づくと、シェラさんは不満そうな表情で口を開いた。

 理由は当然。


「ちょっと二人共、ゆっくり歩いてくるなんてひどいじゃない」


 まあ、そのことだよな。


「いや、悪いとは思ったんだけどな。けど、ちょっと走るのは体力的にきつかったからさ」

「……そう。こんなに長く歩き続けたこと、あまりなかったから」


 俺と天枷が、走ってこなかった理由を簡単にシェラさんに話すと、シェラさんの表情が申し訳なさそうな表情に変わり。


「うぐっ、そうか、そういえば二人は旅をするの初めてだったのよね。ごめん、誰かと旅をするのは久しぶりだったから、つい少しはしゃいじゃったみたい」


 そう謝ってきた。


「あ、いや、別に謝らなくても。そ、それより、さっきの話しの続きだけど、草原から出たほうが疑問に答えやすいって言ってたけどそれってどういうことなんだ?」


 別に謝らせたかったわけではなかったので謝られたことに少し慌てながら、話題を変えようとやや早口気味に草原でシェラさんが言っていたことについて聞く。


「あ、うん、それはね。ほら、あそこで道が分かれてるでしょ?」

「えっと、ああ」


 シェラさんの指差した方向を見ると、確かにシェラさんの言う通りここから少し進んだところで道は二つに分かれていて、一つはこのまま真っ直ぐ森に向かって、もう一つは思い切り右に曲がって森と草原の間を進むように延びていた。


「あの右の道は森を大きく迂回するように続いててね。あの道をずーっと進んだ先にクレデイルはあるんだけど、そこまで徒歩だと大体十日くらいかかるのよね」

「十日って、うわ、そんなにかかるのか」


 この世界での基準はわからないけど、それなら確かにあの村の場所は僻地なのかもしれない。


「でも、実はクレデイルの場所ってあの森の向こう側―――丁度この道を真っ直ぐ行った先で、しかも、あの森ってかなり広そうに見えるけど、実は今私達が見てる方向から横に広いだけで縦にはあまり広くない横長の森だから、抜けるのにそこまで時間かからないのよ」

「そうだったのか。……あ、ということは、もしかして」

「そう。私達はこのまま真っ直ぐ森を通って行くのよ」

「うっ、やっぱり」


 考えてみたら、最初にクレデイルの場所を聞いた時も街道を真っ直ぐ行った先にあるって言ってたしなぁ。

 直線上の距離で言えばそんなに遠くないけど途中に森があって、かといって回り道をすると十日もかかる。なるほどな。確かにそれなら、普通の人なら簡単に村から出ようとは思わないよな。


「でも、村の近くの森と同じで、魔物が生息していて危険じゃ?」


 森を通って行くと言うシェラさんの言葉を聞いて、この間の森でウォルフに襲われた時のことを思い返したのか僅かに不安そうな表情で天枷がシェラさんにそう問い掛ける。


「大丈夫よ。ここの森の魔物は、あっちの森の魔物と比べて大人しめであまり凶暴じゃないし、もし襲ってきても弱いから危険は少ないわ。それにそうなったら、私がちゃんと守ってあげるから心配しないで」

「……わかった」


 シェラさんの言葉を聞いてもまだどこか不安そうではあったが、一応は納得したらしく天枷は少しの沈黙の後そう言った。


「よし。それじゃあ、話しも済んだことだし森に進みましょう。あ、今度はもう走ったりしないから安心してね」


 先に進もうと言ってから続けて冗談交じりにそう言うシェラさんに、俺が軽く笑ってわかってると返すと、シェラさんも同じ様に軽く笑い。


「じゃあ、行きましょっか」


 と言って森に向かって歩き出した。


「……双海、ここからはユーリスとはぐれないよう、気を付けて行った方がいいと思う」

「ああ、確かにそうだな。もし森の中でシェラさんとはぐれたら色々と危険だろうしな」


 魔物のこともそうだし、はぐれた場所によっては迷って森から出られなくなる可能性もあるからな。天枷の言う通りはぐれないように気を付けないと。

 そう考えて天枷の言葉に頷き、俺も天枷と一緒に森に向かってゆっくりと歩き始めた。


 出来ればこのまま何も起こらなければいいんだけど、と天枷の様に少し不安に思いながら。


遅くなりましたが、本日から第二章を開始します。


ここまで読んでくれているみなさん、今回もよろしくお願いします。

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