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魔力使いの日常  作者: バロック
第一章 少女と氷と別の世界
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第一話 自己紹介

 ふと気がつき、最初に目に入ったのは草の生い茂る地面だった。

 なんで俺、地面なんかに倒れてるんだ?

 思い出そうとするが頭がぼんやりとしていて思い出せない。

 疑問に思いながら、とりあえず体を起こしたところで異変に気付く。


「どこだよ、ここ」


 辺りは草木に覆われ、周りを見渡してみても建物の姿はどこにも見当たらない。まるで森のような場所……いや、森そのものだった。

 見覚えは当然ない。あったらここがどこかなんて思ったりしない。

 何が起こったんだ?

 俺は今日の自分の行動を順番に思い返してみた。

 今日は、確か早くに起きていた妹に起こされた後、昼頃までゲームに付き合って、それから昼飯を食べた後しばらく本を読んだりしてダラダラと過ごして、で今日が欲しかった本の発売日だったことを思い出して駅前まで買いに行ったら本屋が休みで、それで諦めて帰る途中で広場から女の子の声が聞こえて……。


「そうだ思い出した。それで声の方に行ったら女の子がいて、地面には魔法陣みたいなのが描かれてたんだ」


 それから、魔法陣の光が強くなった時になんでかはわからないけどマズイと思って女の子に飛びかかって。


「で、気が付いた時には広場じゃなくてここにいたってことになるのか」


 う~ん、わけわかんないな。

 思い出すことは出来たけど、結局何が起こったのかはわからないままか。……いや、普通じゃない、何か異常なことが起こってるってことだけはわかったけど。

 って、そうだ、あの女の子は!?


「う、ううん……」


 慌ててもう一度、辺りを見渡そうとしたところで俺の横から微かに声が聞こえてきたので視線を向けると、すぐ隣にあの時の女の子が倒れていた。さっきまでの俺と同じで気を失っているみたいだ。

 こんな近くにいたのに今まで気付かなかったとは、自分ではそれなりに落ち着いてるつもりだったがどうやらそうでもなかったらしい。

 俺は一度ゆっくりと深呼吸をして落ち着いてから、女の子に声をかけてみた。


「おい、大丈夫か?」

「……あ、れ?ここは……」


 女の子はゆっくりと目を開けると、そう呟いてから体を起こした。


「気が付いたみたいだな」

「え?」


 俺の声に驚いたように声を上げると、女の子はこっちにむかって顔を向けてきた。

 ここで初めて、その女の子の顔をしっかりと見た俺は、その女の子が目を見張るほどの美少女であることに気が付いた。


「……なぜ、私のことを見つめているの?」

「あ。わ、悪い!」


 少し見惚れていると、凍えるような冷たい視線を向けられてそう言われ、怒らせたかと思って慌てて謝る。


「謝らなくてもいい」


 冷たい視線はそのままの無表情でそう言った後、俺がさっきしたように辺りを見渡し。


「それよりも、ここはどこ?」


 首を傾げながら聞いてきた。


「それは俺が聞きたいくらいだ。悪いけど、俺も気が付いたらここにいたからわからないんだ」

「……そう」


 思わずため息を吐きそうになりながらそう答えると、少し遅れて素っ気ない返事が返ってきた。

 こんな状況なのにすごい落ち着いてるなと、無表情に返事を返してきたのを見て思ったが、よく見ると、無表情ではなくほんの僅かに落胆している表情なのがわかった。

 ……もしかすると、感情が表情に出にくいタイプなのかもしれない。

 実際はどうなのかはまだわからないけど、とりあえずこれからは気をつけて表情を見るようにしておこう。


「ところで、きみはここに来る直前のことを覚えてるか?」

「覚えてる。けど、何が起こったのかはわからない」


 次に聞こうと思ってたことを先に言われてしまった。


「一応、あの時のことを聞いてもいいか?」

「……わかった」


 少し考えてから女の子が頷く。


「あの時、私は展望テラスで夕陽を見ていた。それで、そろそろ帰ろうかと思って歩き出そうとした時に突然あの光が足元で発生して、その後、誰かに飛びかかられたところで気を失って、気が付いたらここにいて目の前にあなたがいた」


 依然、絶対零度の視線を俺に向けたまま淡々とした口調で女の子が話す。


「私も一つ聞きたいのだけれど、あの飛びかかってきた人はあなた?」

「う、うん。なんか、ああしなきゃいけない気がしてな。突然あんなことして悪かった」

「別に気にしてない」


 なんとなく気になっただけだったのか、一言だけそう言うとそれ以上は何も聞いてこなかった。

 ここで一旦会話が途切れ、このままだと気まずい雰囲気になりそうだと思った俺はなんとなく立ちあがってみた。

 それに続く形でなぜか女の子も立ちあがり、さっきまで気絶していた影響か少しふらついた。


「ふらついてるみたいだけど、まだ座ってたほうがいいんじゃないのか?」

「大丈夫」


 少し心配だったが、本当に大丈夫みたいでそれからふらつく様子はなさそうだった。


「あれ?その服……」


 立ちあがった女の子の姿を見て、その服装が見覚えのある……というか、ほぼ毎日見ている服装だということに今更ながら気付く。


「灯ヶ丘学園の制服だよな?」

「見ての通り」

「ということは、灯ヶ丘学園の生徒だったのか。俺も、灯ヶ丘の生徒なんだよ」

「そう」


 あまり興味がなさそうな感じの短い返事を返してくるが、少し驚いたような表情をしているのを見ると興味がないというわけではないらしい。

 それにしても、一緒に異常事態に巻き込まれた女の子が灯ヶ丘の生徒だったとは。すごい偶然もあったもんだ。


「って、そういえば、まだ自己紹介もしてなかったよな」


 ふと、まだお互いに名前すら知らないということを思い出し、そう口にする。


「俺は双深悠里(ふたみゆうり)だ」

「双深悠里」


 復唱するように女の子が呟いた。


「それで、きみの名前は?」

「……天枷凍香(あまかせとうか)

「わかった。じゃあ、よろしくな、天枷」


 こくりと天枷が頷く。

 う~ん、そこはよろしくって言葉で言って欲しかったところなんだけど、まあいいか。

前の話から続けて読んでくださったかた、ありがとうございます。

こういう風に投稿するのは初めてなのですが、これからよろしくお願いします。

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