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魔力使いの日常  作者: バロック
第一章 少女と氷と別の世界
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第十六話 不可思議な勝利

今回、かなり中途半端なところで切ってますが、とりあえず次話どうぞ。

 ……それにしても。

 走りながら、小屋で起こったことについて考える。

 あの氷、森で天枷が出現させた氷の壁とそっくりだったし、やっぱりやったのは天枷……だよな。

 そうなると、あんなことが起こったのは多分、また魔法のせいだろうな。いや、あの時の状況を考えるとおかげって言ったほうがいいか?

 きっと、あの雪のようなやつが魔法で作り出されたもので、あれが原因であんな現象が起こったんだと思う。

 ただ。


「なあ、天枷。何というか、体調とかに何も問題はないか?」

「別に、どこも問題ない」


 うん。少し心配だったけど、やっぱり大丈夫そうか。

 そうなると、森での時とは違って魔力の暴走による魔法の発動というわけではないってことになるな。

 だとしたら、天枷はどうやって魔法を発動させたんだ?


「双海。どうして、そんなことを聞いてくるの?」

「あ、うん。あの氷を見て、また魔力の暴走が起こったんじゃないかと心配になってな」


 俺の質問の後、今度は逆に天枷に質問され、一度あの現象のことを考えるのを止めてそう答えると、天枷はどこか呆れたような表情をし。


「やっぱり、双海は少し心配し過ぎだと思う」


 これまた呆れたような語調でそう言った。

 うっ。また、言われてしまった。

 スライブの店でも言われたのもあって、確かに自分でも心配し過ぎかなとは思ってはいるんだよ。それでも、心配なものは心配なんだからそこはもう仕方ないと思う。


「え、えっとまあ、それはともかく天枷。俺は、あの氷は天枷の魔法によるものなんじゃないかって思ってるんだけど、そのことについて心当たり……というか、何かわかることってないか?」


 気を取り直し、さっきの現象のことが気になっているというのもあって魔法を使ったと思われる本人なら何かわかることがあるんじゃないかと聞いてみると、あの時のことを思い返しているのか少しの無言の後、天枷はゆっくりと口を開いた。


「わかることは、あることはある。けど」

「けど?」

「自分の感覚のことだから、説明するのは難しい。……ただ、あの氷のことは双海の言う通りだと思う」

「えっと、それじゃあ、あの氷って」


 俺が言い終える前に天枷は頷くと、俺に代わってその言葉の続きを口にした。


「そう。あの氷は多分、私が魔法で発生させたもの」


 ……やっぱり、そうなのか。


「でも、どうして―――」


 あれが自分の魔法だってわかったんだ?と聞こうとしたが、しかし。

 アオォォォォン!

 後方からウォルフのものと思われる遠吠えが聞こえてきたことで言葉を止め、走ったまま足は止めずに振り返ると、もう氷から抜け出したようでさっきのウォルフが小屋から出ていて、俺達を探しているのか首を動かし辺りを見回していた。


「双海、少し急いだほうがよさそう」

「ああ、そうみたいだな。急ごう」


 そう言った後、俺は天枷と一緒に走るペースを上げる。

 それから少しの間、二人揃って無言で走り続け、シェラさんの家の目の前まで来たところで俺はさらに速度を上げ先に家の中に入り、入り口のドアの横にある窓から今俺達が走ってきた方向に視線を向け様子をうかがう。


「追いかけてきてる?」

「……ああ。まだ離れてるけど、こっちに向かってきてるみたいだ」


 遅れて家に入ってきて、ドアを閉めながら俺を見て聞いてくる天枷にそう返事をした後、窓から視線を外しふと家の中を眺め、そこでケイナがここにいないことに気付く。

 他の部屋にいるとしたら、少し乱暴にドアを開けちゃったからドアを開けた音で俺達に気付いて部屋から出てくるだろうし、そう考えるとここにはいなさそうだ。

 うーん、もしかすると、他のところに逃げたのかもしれないな。ケイナは俺達と違ってこの村の住人だから、どこか他にも逃げられる場所を知っててもおかしくないし。

 ……って、ケイナのことも気になるけど、今はそれよりもここからどうするのかを考えないと。

 とはいえ、逃げるにしても今考えた通り他に逃げられるようなところは知らないし、スライブの店に逃げようにもウォルフの来てる方向が方向だから逃げるのは難しい。なら後は戦うくらいしか何とかできそうな行動はないけど、かといって、武器もないのに戦っても勝ち目は……。

 ……待てよ?武器、武器か……。そういえば昨日、シェラさんから剣をもらったんだよな。それを使えば、戦うことは出来るか。

 正直なところ、剣があったところであんなやつを倒せる気はしない。けど、だからといって何もしなかったら事態は一つも進展しないんだ。

 なら、やるしかない。


「上等」


 自分を奮い立たせる意味も込めて一言呟き、俺は昨日俺達が泊まった部屋に剣を取りに向かう。


「それって。……双海、もしかして」


 部屋に入り剣を手に取って振り返ったところで、後ろからついてきていた天枷が剣を見て俺が何をしようとしているのか気付いたらしくそう言ったのでそれに頷き。


「多分、天枷の考えてる通りだ。俺はあのウォルフと戦う」


 鞘に入ったままの剣を一度見てからそう答えた。


「駄目。いくらなんでもそれは無謀」

「確かに俺もそう思う。でも、俺は戦う」

「小屋でのウォルフの動きを見た限り、武器があっても倒せそうにない。それに、怪我だってしてる」

「わかってる。それでも、だ」

「……ならせめて、私に手伝わせて」

「いや、駄目だ。危険すぎる」

「危険なのはわかってる。だからこそ、私に手伝わせて。手伝わせてくれないなら」


 そう言うと、天枷は部屋の扉の前まで移動し。


「いいって言うまで、私は絶対にここから動かない」

「……はあ、わかったよ。やっぱり、天枷って結構頑固だよな」

「そんなことない。それに、双海だってあんまり人のことは言えないと思う」


 そうか?そんなことはないと思うんだけど……。


「でも天枷、手伝うっていっても何をするつもりなんだ?まさか、一緒に戦おうっていうんじゃ」

「違う。私は、昨日と同じ様に囮になる」

「なっ、囮って」

「双海はウォルフが来る前に家の中のどこかに隠れて。ウォルフが家の中に入ってきたら、私が囮になって双海の隠れてるところまでおびき寄せる。そうしたら、不意をついてウォルフに攻撃して」

「……わかった」


 昨日のスパインリザードの時と違って状況的に囮になるのはかなり危険だと思い本当は反対したいところだったが、反対したところでさっきと同じ破目になるのは目に見えているので、俺は気は進まなかったが天枷の考えに同意し頷いた。

 その後、天枷と一緒に部屋から出た俺は、少しでも天枷の危険を減らすため俺達が泊まった部屋の隣の部屋―――シェラさんの部屋に隠れることにし、天枷にはウォルフをおびき寄せた後は俺達が泊まった部屋に逃げてもらうことにした。

 部屋の主に何も言わずに部屋の中に入るのはどうかと思うけど、この際だから仕方ない……と思っておくことにしよう。


「一応聞いておくけど、本当に囮役をやるのか?」

「やる」

「はあ、そうか。それじゃあ、そっちは任せるな」

「了解。双海も、攻撃の時は任せるから」

「ああ」


 そんなやり取りの後、俺は天枷と別れてシェラさんの部屋に入り、扉は開けたままにしつつ立ったまま近くの壁に寄り掛かる。

 それから、体感で一分ほど経った辺りで玄関のほうからガシャンと、恐らくだが窓ガラスの割れた音が鳴り響いてきた。


「来たか」


 俺は一人呟いて剣を鞘から抜き、鞘を足元に置いてから今度は部屋の出入口のすぐそばの壁に背を当て、息をひそめながら廊下の様子をうかがう。

 するとすぐに天枷が部屋の前を走り抜けていき、それを見て俺は剣を片手から両手に持ち直した。スライブから借りた剣と違って両手で持っても結構な重さがあったが、それでもただ振るだけなら何とかなりそうだ。

 そしてそのまま剣を構え、隣の部屋のドアが閉まる音が鳴ったのとほとんど同時に部屋の前に姿を見せたウォルフに向かって壁から離れて踏み込み、思いっ切り剣を振り下ろした。

 だが、こっちを見ていないにも関わらずウォルフは俺の攻撃に気付き、掠りこそしたものの当たる寸前で剣をその場から跳んで避け。


「まず―――ぐあっ!」


 マズイと思った時には既に遅く。着地の後すぐにウォルフは身軽な動きで振り返り様に飛び掛かってき、躱す間もなくそのまま体当たりされ俺は声を上げながら居間の方まで吹っ飛ばされた。


「くっ、う……。まさか、気付かれるなんて……っ、ミスった!剣が」


 呻きながら上半身を少し起こしたところで手元に剣がないことに気付き前を見ると、俺が剣を振り下ろした場所より少し横にずれた場所、そこにさっきまで持っていた剣が落ちていた。

 どうも、今の体当たりの衝撃で手を離してしまったみたいだ。


「ウゥゥ」


 低い声を出しながら、ウォルフが体をこっちに向ける。きっと、俺のことを仕留めるつもりなんだろう。

 そう考えて俺は急いで起き上がろうと右腕に力を入れるが。


「っ、ぐっ!」


 体当たりのせいで小屋でウォルフにやられた傷が悪化したらしく、力を入れた瞬間横腹にかなりの痛みを感じて動きが止まり。その間にウォルフは俺に接近すると、牙を剥き出しにして飛び掛かってきた。

 くそっ、ここまでか。

 咄嗟に目をつむり、意味がないのはわかっているが、せめてもの抵抗として自分を庇うように左腕を前にだす。同時に、恐怖のせいか体の力と精神力が両方とも抜けていく。

 そして。


「ぐあっ!」


 突然、昨日と同じ何かが俺の中に入り込んでくるような感覚がした後、昨日と違って一瞬だけだったが体中に激痛が走った。


「…………あ、れ?」


 しかし、それ以外の、予想していたような噛み付かれた時の痛みや噛みつかれる感覚を体のどこにも感じず。俺は今の謎の感覚と激痛のことも合わさってどういうことなんだと動揺しながら恐る恐る目を開き。


「えっ……」


 そして、俺に向かって飛びかかってきていたはずのウォルフが目の前で倒れているのを見て呆然とした。

 なんで、ウォルフが倒れてるんだ。何が起こったんだよ、一体。

 混乱しながらも、このままでいるわけにはいかないと横腹の痛みを耐えて立ち上がり、ウォルフを通り越して廊下まで戻って落とした剣を拾う。

 それから、警戒しつつウォルフに近寄り剣で前足を動かしてみるが何の反応もなく、加えて他の足も動かしたり体を足で触ってみたりもしたがやっぱり何も反応はなかった。

 完全に体から力が抜けてるみたいで今俺が動かした足や尻尾もだらんとしてるし、それにこのウォルフの生気の感じられない顔。まさかコイツ、死んでる……のか?

 けど、だとしたら何でだ?コイツが死ぬようなことなんて何も……。


「ユウリ!トウカ!ここにいるの!?」


 と、俺が今のウォルフの状態を不可思議に思っていると、突然バンッと入り口のドアが勢いよく開く音が鳴り、続けてシェラさんの慌てたように俺達を呼ぶ声が聞こえてきた。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


今回『も』投稿が遅れたのと中途半端なところでこの話を切っている理由については、活動報告のほうでしますのでそちらのほうもよろしければ見てください。



それと、感想、それにどこそこが悪いみたいな指摘をしてくれるとすごくありがたいです。

後、評価のほうもしてくれると嬉しいなぁ……とか思ったり。

えっとまあ、気が向いた方はどうぞよろしくお願いします。

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