八日目~亀裂~
塚本が海部の説得を頼まれてから数日…
朝、授業間の休み時間、昼休み、放課後に帰る前、とにかく声をかけられそうな時にはとにかく声をかけた
しかし海部は「ごめん」と一言言うとその場を立ち去ってしまう
別の話題をしようとすると辛うじて話をすることは出来たのだが、本題を切り出すと逃げ出されるか黙られるかのどっちかであった
遠まわしに聞くというのは、大してそうする技術もないためにできないままであった
「織枝、大丈夫?何か聞き出せた?」
昼休み、海部が立ち去った後に結城は心配そうに塚本に声をかける
彼女の座る席の前が開いていたので、その椅子に座る
「ううん、全然…むしろ私も嫌われてるんじゃないかって思う」
「普通の話は出来るんでしょ?私なんかそれすらできないんだからそれはないと思うけど…」
少し考え込む結城、本来なら捨て去りたいがこうなってしまった以上なのかもう面倒とは口にはだしていない
「…とりあえず事情はあるってこと?」
「私たちに言えないやましい理由か、それとも言うなって言われてるのか、単に抱え込んでるのか…あ~わかんない!」
いくつか考えられるものをあげるが、彼女の性格上どれもありえてしまうので
絞りきれないのに耐え切れずに声を上げて頭を振る
「夢の中なら多分…話してくれるのかな?」
「今のままじゃ切られるか逃げられるかだと思うけどね…まぁいっそ実力行使もありじゃない?」
結城が苦笑いして塚本に答える
「なんか私も若干面倒になってきたかも」
「あ~…気持ちは分かるけど、犯罪起こされたり被害者になる方が面倒だし、なんとかした方がいいんじゃない?」
肘をついて結城も少し気だるそうに答える
確かに自分達に迷惑がかかること、それがおそらく最も恐れてることなのかもしれない
…コレがもし物語なら最低な動悸である、もしかすればそれを察せられてる可能性もあるのだろう
「まぁ…もうちょっと粘ってみる」
「そっか、何かあったら言って?」
結城が言うのに塚本は「うん」と言って、予鈴が鳴り響き会話を終わらせた
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家に帰り、確かに自分は眠った記憶がある
だが気がつけば彼女はいつの間にか立ち尽くしていたようだった
それは、確実にあの妙な夢の中であった
塚本はこの夢で確実に海部に会えると感じていた
そう確信した理由はない、なんとなく居るのがわかるといった妙な感覚だった
そしてなぜか海部だけではなく宮内も何処かにいる雰囲気を感じとった
「…斬りかかられないといいけど」
そう呟いて周りの風景を確認する
「あのときと同じ郵便局…」
そこにあったのは、結城と海部と共に一緒に戦ったあの郵便局
周囲の明るさは夕方のように思えたが空をみるとどんよりと重苦しい雲がどこまで続いていた
時計を見ると、まだ3時ごろであった
「…またここにいたら会えるのかな…それとも行かなきゃならないのかな…」
といったものの、塚本はこのあたりの地形が全くと言って良いほどわからない
どうすればいいのか、途方に暮れるしばらくしていると、
いつか見た虎のような獣がこちらを見ている
「…あのときの!
慌てて腰から拳銃を抜いて獣に向けるが、相手は動じない
獣は相手が自身に気がついたのを確認したようにみえ、背を向け走り出す
どこかついて来いと誘うように
「…お、追いかければいいの?」
それが海部の居場所の手がかりになるかはわからない、
ただそれ以外にできることも待つだけだった塚本は銃をしまい後を追いかける
獣は速度を調節しているのか後ろを確認しては進みを繰り返す
(やっぱり…追いかけてほしいのかな…)
相手の様子をみて、塚本は改めてそう思う
辿り着いたのはいつか部活の仲間で一緒に話した公園、その真ん中へ獣は走る
そこには斧を持った海部そして、先ほどまで走っていた獣を撫でる宮内
「海部さん!!舞ちゃん!!」
塚本は二人の名前を叫ぶと海部は塚本の方にゆっくりと体を向け、
宮内は獣をどこかに走らせてから、二人を見守るように数歩下がる
「海部さん今日こそ聞かせて、どうして悠斗君と京くんに斬りかかったのか」
海部は俯いたまま答えずに、ただ斧を構える
「海部さん…舞ちゃんもなんで…」
塚本がそう言うのに宮内はただ微笑んで
「私は事実を言っただけだよ?それをどうしたいのかは海部さんが決めた」
「…そういうこと、私はそれを聞いて一ノ瀬と結城を敵とみなした、
その邪魔をするならお前も斬るだけだ」
宮内の言葉を引き継いで海部は淡々と言う
「それで…京くんを?一体、何聞いたの?」
「お前らが下らないと一蹴するような理由だ、わざわざ言いたくないな」
塚本の問いかけに睨みつけて斧を構え答える
「海部さん!!せめて理由だけでも!」
塚本がそう言うものの、もはやその声を聴いていないように塚本に向かって走る
塚本は銃を腰から抜いて海部に乱射するが、どうしても軌道は相手の体からそれてしまう
このままでは斬られることも承知だった
「…っ…誰か…!」
相手は斧を振りかざし、そしてそのまま振り下ろし
塚本の身体は地面に倒れた