五日目~暇つぶし~
まだ太陽が上空にある日曜日の午後
スーパーのフードコートの席に座っていたのは海部
何も注文しないというのも迷惑だったのだろう、メロンソーダの入った紙コップとソースのついた紙が目の前に残っている
部活に行かなくなる前に話していたときと、以前夢の中で出会った結城のことを比較していた
彼女達の様子には変化は何もなかったのに、海部は少しだけ困惑していた
(…夢の中なら前みたいに…でも…)
以前見た夢の中では、かつてのように、自然に遊んでいたのと変わらないように会話を交わせていた
それがなぜか、本人を目の前にすると自覚するとめっきり出来なくなってしまった
それが悲しく、苦しく、それでも今抱えている不安を考えないようにするというのは難しいことだった
外であることも忘れ泣きそうになっていたのに気付き、急いで目元をこすり持ってきたカバンを肩にかけて、ゴミを捨てる
カバンを軽く揺らすと自転車の鍵につけた鈴がチリンチリンと鳴り、鍵はなくしていないという安心を覚えて外に出る
スーパーから向かうのは、その道を東にまっすぐ行くとある古本屋であった
彼女は週末になるとたいていこの二つを回って考え事をしたり欲しいものを探す
(…面白そうな本かゲームか売ってないかな…)
そう思いながら店の自動ドアをくぐる
一階はゲームとCDやDVDが置いてある、ひとまずはそこを一周見て回るのもいつものことだった
新品のコーナーを無視して、中古製品の置いてある場所に向かい棚に向かおうとしたとき
海部は思わず別のコーナーに入ってしまった
「でさ…海部さんと織枝がいてさ、一緒によくわかんない魔物と戦ってさ」
「そうなのか、珍しいなお前が夢覚えてるなんてさ」
そこには結城と、彼女のいる部活の部長、一ノ瀬 悠斗(いちのせ ゆうと)
二人で結城と海部が出会った夢のことを話しているようだった
幸い、相手には気づかれていない…彼女はどうにか外へ逃げ出そうとタイミングを見計らうことにした
「私もそう思う、まぁそんときは海部さんも普通だったんだけどね~」
「ふ~ん」
海部はふと、三人で遊んでいた頃を思い出した
高校に入って8月ごろからだろうか、海部と結城と一ノ瀬は結城の家に集まりよく遊んでいた
だが最近はウマがあわないこともあってか一ノ瀬と結城と別の友達で遊ぶということが増えていた
彼女はどこか、その状況を面白くないと思っていた…というより寂しかったとでも言うだろうか
ぼんやりと考えているとこちら側に曲がってくるのに、
慌てて見つからない程度に本来行こうとしていたコーナーに入る
だが、一ノ瀬が何かに気づいたように自分達がさっきまで居た場所を見てしまう
「海部さん?」
名前を呼ばれたのに関わらず、海部はそのままその場を走り去って急いで鍵を開ける
そしてそのまま自転車にまたがり、家の方向へ向かっていてしまった
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~古本屋~
「何で逃げたんだ?海部さん…」
「いつもみたいにまた考えてるんじゃないの?」
海部に逃げられた後、一ノ瀬はほんの少し原因を考えていたが結城にそう言われそうなのだろうと納得する
「はぁ、やっぱ俺嫌われてんのかな?」
「そうかもね、まぁよくわかんないけど」
一ノ瀬は冗談半分で落胆して言うと、結城も軽いノリで返す
「でもさ、その夢ってお前ら全員覚えてるんだろ?海部さんだってそれがわかってんならなんで夢の中じゃお前に冷たくなかったんだよ?」
「さぁ?海部さんと宮内のことは考えても無駄だし、もういいんじゃない?」
そういって結城はその話題を早々に切り上げようとする
考えれば考えるほど面倒くさく、自分が解決できないものを考えることは結城はあまり好まなかった
と、言っても全く気にかけていないというのも嘘になってしまうので
「とりあえずアッチから原因話してくるまでは放置でいいんじゃない?
ほんとに辛くなったらそれこそ誰かに言うだろうし」
とだけ言っておいた、自分から助けを求めるまでは手を出さない、彼女のやり方だった
「だといいけどな、もしかしたら夢の中でなにかしでかすかもだけどな」
「それ冗談にならないからやめて」
と、一ノ瀬の言葉に結城は笑いながら返す
一ノ瀬と喋るとき、結城はそれなりに楽しんでいる、少なくとも他の部員と話すときよりは
といってもそれが周りの所為だとも思わない
二人のノリが運動部のソレであって、文化部に所属している二人には当てはまっていないだけだと考えていた
「あぁ、テスト近いからまた借りに行くな…」
と、先ほどまでの会話に区切りをつけて二人は再び雑談に入っていった