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「誰か」の理想郷  作者: ナキタカ
「誰か」の理想郷
5/46

四日目~共闘~

今回はだいぶ長いです



(…ん…?)


結城はゆっくりとまぶたを開き今までどこかに行っていた意識を呼び覚ます

目の前にあるのは青空と通学路の中間点にある郵便局がその存在を示す文字

どうやら自分はその郵便局の前のスロープに倒れているようだった

背中と後頭部に冷たく堅いタイルの感覚を感じてしばらく状況を察しようとそのままでいた


そうしているとすぐに、傍に人の呼吸を感じた

それが気になってタイルに手をついて上半身を起こして

呼吸の方向を見ると、そこには塚本が倒れていた

なぜか以前一緒にでかけた服装に、腰には二丁の拳銃を下げて


「…織枝!織枝!」


塚本の体を揺らしながら相手の名前を呼びかけると

相手もゆっくりと目を開けて、結城の姿を確認すると驚いて体を起こす


「涼香ちゃん!?というかここは…?」


あたりを見渡して塚本は少し困惑していたようだった

彼女の普段通る道はこの郵便局を通ることはないためここがどこか把握していないのだろう


「ここは私が普段学校行くときに通る道なんだけど…とりあえず、なんでここに居るの?」

「わかんない、私も今気がついたばっかで前後の記憶はないし…」


二人は立ち上がってあたりを見渡す

太陽はほぼ真上にさしかかり、風は吹き抜けるもののあたりの異様に静かだった

そしてその静けさを、二人は既に経験していた


「…似てる」


先に呟いたのは結城、塚本は結城の方を見て「何に?」と尋ねた


「…前に真っ黒い狼みたいなのに追いかけられて、そんとき宮内が助けてくれて、

 しかも宮内はムチを持ってて…それで、結局それは夢だって言われた夢に」


「私も似たような夢見た!黒いトラみたいなのが追っかけてきて

 私のときは海部さんが助けてくれて、夢だって言われて…」


二人は顔を見合わせて、これはもはや偶然では済まないことを悟った


「いや、うん、そのときはわかんないけど私は銃持ってたし、今回は流石に」


塚本は腰のあたりに手を伸ばすと、その手には以前と同じ鉄の感覚が


「…あったね、銃」

「うん」


塚本が苦笑いしていうのに、結城はトーンを暗くして返しながら頷いた


「で、でもさ!こういうRPGみたいなの楽しくない?

 ほら、銃とか剣とか使って敵を倒していって!」

「まぁ、私が武器を手に入れたらそういえるんだろうけど」


塚本がそう勤めて明るくいうのに、結城はため息をはいてスロープの手すりにもたれかかりながら言った

すると手すりの下の部分にカンと堅いものが当たる感覚があり、その振動は結城の体に伝わった


「…?」


少しだけ嫌な予感を感じて音の方を見ると、

なぜか自分はベルトをしていてそこに鞘に納まった剣を下げていた


「は?なんで?いつのまに?」

「私もわかんない…本当に私も気づかない間に」


結城は顔を下に向けておもわず眉間に皺を寄せる


「…はぁ、なんか本気で宮内と海部さんが仕組んだんじゃないかって思う…」


少し弱った声で言う、だが先ほど武器さえあれば自分も楽しめると言ってしまった矢先だ

諦めたのか顔を上げて、試しに剣を抜く


「…どう?」


塚本が聞くのに、結城は不思議そうに剣の刃を見つめて


「軽い…これが夢だからなのかもしれないけど…」


と何度か降ってみる、やはり大した重量は感じない

柄も自分の手に違和感なく収まり、まるで自分のために作られたかのようであった


「剣って、なんか勇者っぽいね、かっこいい!」

「あ~、まあ私は勇者ってガラじゃないけどね…」


剣を柄に収めながら、結城は相手に困ったように笑いながら言う

こうなった以上、あの妙な獣と再び出会うことは免れることの出来ないような気がした



「…とりあえず…どうする?」

「どうするって言ったって…

 夢だとしたらこのまま動かないほうがいいんじゃない?面倒だし」


行く先も、何が起こるかもサッパリ分からない状態なので塚本は結城に尋ねるが

結城は少しそっけなく答える


「なにもそこまで荒まなくても…」

「これをした相手が海部さんじゃなかったらね…」

「…そんなに私が嫌いか、結城」


塚本と結城が話している後ろから声をかけたのは、

海部本人、以前塚本が出合ったときと変わらず斧を肩にもたれかけさせている

突然現れたので二人は肩をビクッとあげて振り返る


「海部さん」

「…」


塚本は素直に顔見知りの登場を受け入れているが、結城は顔をあわせずにだんまりしている


「こんにちは…まぁ夢のなかだし、こんばんはだろうけど」


笑いながら塚本に言う姿に、相手に対する敵対心や警戒心はなかった

まるで学校での態度のほうが夢のように


「で、どうしたの?というかこの剣、海部さんが出したの?」


結城も一応海部に対してなるべく依然とかわらないよう

剣の鞘の部分を掴んで持ち上げて相手に示すようにに言った

相手が争う気がないのなら、こっちが無理に気を張っても面倒だからだ


「ん~まぁその剣、あとこの状況になったのに私は無関係

 私の斧もいつの間にか持ってたものだし、皆みんなそうなんじゃない?」


海部は自身の斧を掴み、相手に見せるように言う

結城には少し疑わしかったが、今はその言葉をそのまま飲み込む


「ふ~ん…じゃあ宮内は関係してるの?」

「そこまで聞けてないんだよね、私も…私が分かるのは

 夢で見た景色は夢に出て来た人に共有されるってことと

 いつの間にか武器が用意されてること、あと黒い獣いっぱいいる」


結城の問いにいつもの調子で答える、その様子から嘘は感じられない


「じゃあ、この前駅で会ったときの記憶…」

「もちろん覚えてる、大変そうだったし」


塚本がいいかけると海部は当たり前といった感じで答える


「ふ~ん…っていうか、襲い掛かってくる獣はなんなの?」

「人間の負の感情…だったら面白いね~、いやそればっかは流石にわからない」


結城の問いに海部は少しふざけて答える

その様子が逆に怪しく思えてはいるが普段の態度のことに触れては

相手の面倒くさいネガティブな部分を引き出しかねないので自重しておいた


「…そう、じゃあこの変な夢に海部さんの意識は関係してないってこと?」

「今のところはね、でもまぁ言い切れないんだけど

 本当によくわからないから、何でも起こるかもしれない」

「夢ってそういうものだけどね」


海部がどこか悲しそうに言うのに、塚本はフォローのように言う






何も起きず、何も現れず、暫く沈黙が続いた



話そうにも、普段の話をすれば海部が居る手前気まずい

相手は気遣っているつもりなのか、スロープの下でぼんやりと考え事をしているが

なんだか自分達が仲間はずれにしているようで、気分はよくなかった

実際は、あっちから勝手にはぐれているため躊躇う必要はないのだろうが


「…結城!塚本!」


海部が空を見て斧を構える、ダンマリとしていた二人も

海部の構えた方向を見て武器を構える

自身の身の丈…160センチ程の…巨大な鷹のような、赤い目をした黒い鳥

それが二匹鳴き声をあげながら迫ってくる


「もうゲームの敵って感じ…やるしかないんだろうけど」

「うん…でも大丈夫、私のとき半分勝手に体動いたし、今回も多分…」


結城がどこか不安の混じった声で言うのに、塚本は以前の状況を思い出して相手に言う

海部はスロープを登り二人の傍に立って斧を構えて言う


「とりあえずRPGの定番、前衛は盾、後衛は攻撃ってのに徹しよう

 鳥だし、多分下手なリーチの武器じゃよけられる」

「涼香ちゃんと海部さんが守ってくれるか…俺得すぎる…」

「……とりあえず守ればいいのね、守れば」


塚本の妙な呟きをスルーして、結城は塚本の前に立ち鷹の目の前に立つ

赤い目で睨まれると少し恐怖を感じるが、不思議と抵抗はない

これも夢の中だからなのだろうか?と感じながら


鳥は羽ばたいて強風を起こす、三人はどうにか耐えようとするもののそれでいっぱいいっぱいであった

そこにもう一匹が体当たりをしてくる


「きゃぁっ!」

「ぐうぅ!」

「っ!」


三人まとめて翼に飛ばされて地面にたたきつけられる

海部と結城が立ち上がり、塚本が起き上がるのを支える


「大丈夫?二人とも」

「普通なら痛いんだろうけど、なんともない…それに膝も…?」


結城は少しそれが不思議だったが、今を夢だからだと片付けて剣を再び構えなおして鳥に向かう


「私は少し…っ」


塚本が苦しそうに言うのに海部は少し心配そうであったが、すぐ敵に向かって斧を構えながら言う


「後衛だからしかたないか…結城、もうやらせないようにしないと」

「わかってる、私のやりたいようにやるけど?」

「まぁ、そのほうがいいか…」


結城は敵の一匹に向かって走り出す、海部ももう一匹に向かう


結城は走りながら、やはり膝が痛んでいないのを確認し今ならアニメ的な動きが出来ると判断した

そしてジャンプをして鳥の背中へを剣を突き立てる

体からあふれるのはやはり血ではなく、体と同じ色の液体


鳥は苦しそうに結城を振り落とそうとするが、結城も剣を握り耐える

そのがら空きになった鳥の腹に向かって塚本は銃を乱れ撃つ


黒い鳥は地面に落ちるとその体は消滅し、結城は地面に着地する

塚本は続いて海部と戦っていた鳥に銃を乱射する

海部は鳥の後ろに回りこむと鳥の体に弾丸は命中して先ほどの一匹と同じ様に消えた


「…よし!レベルアップ!」

「え?レベル制?」

「いやごめんノリで言った」


海部が敵が消えた後そういうのに塚本が驚いた風に言うと、それに笑いながら返す


「…体が妙に軽い動きだし、それに膝だって何もない…やっぱ夢だから?」

「まぁ、そういうことにしとかないとめんどくさいだろ」


結城は未だに実感がないのかそういうと、海部は笑いながら答えて歩き出す


「…夢が終わるの?」

「多分…まぁ、タイミングは二人もなれてきたら分かるよ、それじゃ」


と海部は手を振って自分の家であろう方向に歩き出した


「って言うわけみたいだけど、どうする?」

「とりあえず私も家に向かってみる…遠いけど」


と、結城と塚本も別れ、その視界は徐々に黒に染まっていった

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