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「誰か」の理想郷  作者: ナキタカ
番外編
45/46

【番外編】休日~お化け屋敷(二組目)~


【宮内・鳴滝組】


入り口から少々気まずい空気になりながらも、やはり入るとその雰囲気にそれまでのことよりも

恐怖心が心に浮かんでくる

あたりのひんやりとした空気に、そして命を感じさせない青緑のライトに照らされた血痕に

今にも何か出てくるのではないかと鳴滝はあたりを見渡す

鳴滝は男子であるがなかなかに意思が弱く、この手の施設もまた弱そうに思えた


(…途中で黙り込んだりしてみようかな~いや、やっぱ視界から消えたりしたら面白いかな?)


と、何かしらを企んでいるのは宮内

鳴滝の反応が大きいこともあり少しのことで驚いてくれそうだと完全に面白がっているようだ


入ってまもなく、同年代の女性の悲鳴…というか結城の声が二人の元に届く

その声に鳴滝は肩をビクッとさせて声をだす


「うわっ…って結城の声だよな…?」

「そうだね~すごい怖いんじゃない?…まぁ結城さんこういうの弱いし」


なぜか楽しそうに進んでいく宮内を鳴滝は少し戸惑いながらもついていく




″うう…うぅ…うぅ…″


あたりにうめき声が聞こえてくると、鳴滝は再び声を上げる


「うわっ!?」


彼は宮内に声をかけようとするが、彼女の姿は何故か見えない


「…嘘だろ、いや、はやくないか?いや、だって入ってからそんなたってな」

「わっ!」

「わぁぁああ!」


彼は思わず前に手をついて倒れこむ

宮内は鳴滝の後ろで平然と立っていた


「…い、いつの間に消えたんだ!」

「え~うめき声に気が行ってる間にちょっと後ろに」

「勘弁してくれ…」


鳴滝は立ち上がり、膝の辺りを払ってため息を吐く


「反応いいから…ごめんごめん、だってこのあたりあんまり仕掛けないし?」


鳴滝は一ノ瀬に怖がらせられる結城の気持ちがほんの少しわかったような気がした



気を取り直して進むと、柳の広場にたどり着く

すると宮内の背中に何か冷たいものが通り、思わず咄嗟に後ろを振り向く

が、そこには何も居ない


「ん?どうしたんだ?」

「ううん…なんか冷たいのが背中に通ったから…」


宮内の様子に鳴滝も後ろを見ながら彼女に尋ねる

が、何事も無いのを確認すると再び前を見ると、今度は後ろに尻餅をつく


「うわあぁぁああ」


鳴滝が声を上げるのに、今度は宮内が鳴滝の視線をたどると

そこには血に濡れた白い服の女

宮内は普通にそれに近づいていくと、鳴滝に言う


「大丈夫大丈夫、人形だからなにもしてこないって」

「…本当だよな?何も無いよな?突然動かないよな?」


鳴滝も立ち上がって、その人形に近づいていく

宮内は再び鳴滝の後ろに回り


わき腹をこそばす


「!?」


鳴滝は言葉になっていない声を出して、その場に崩れ落ちる


「いや~期待通りの反応ありがとうございました~」

「…もうやめてくれ、もう」


鳴滝は大きく息を吐いて再び立ち上がり、組んだ相手を警戒しながら進んでいく





廃屋の入り口、鳴滝は「うわ…」と声を上げる、沢山のお札が貼られた玄関

継ぎ接ぎだらけの壁、そしてやはり血痕


雰囲気に彼は完全に飲み込まれてゴクリと唾を飲む


隣で、後ろの様子を伺っていた宮内が突然走り出す


「おい!どうしたんだよ!?」

「後ろから来るから!速く!」


そう言われて、鳴滝は顔を青くして何がとも尋ねることが出来ずにただ彼女の言うままに走り出す

ギシギシという木の音が余計に不気味に思えて後ろから来る何かに無意味におびえる


入ってすぐの一つ目の角を曲がると宮内はそこで後ろの様子を伺っていた


「はやく曲がって!」

「…?」


隠れるためだと思って、彼はやはり言われるままに曲がる


「宮内~!!京く~ん!!……いない、さっきまでここに立ってたのに…置いていったのか薄情者!?」

「…舞ちゃんたちじゃなかったのかな…もしかしてほんも…」

「そ、そそそ、そんなわけないだろ馬鹿!?ここに本物居ないだろ…?」


宮内が様子を見ていたのは…宮内がちょっかいをかけている間に追いついたらしい海部と塚本

どうやら二人の鳴滝たちの姿を見て追いかけてきたのを宮内が気がついたらしい

すっかり姿の見えない二人に完全に何かあったのだと解釈し顔が青ざめ、涙声で声を張り上げ話していた


「…一緒に行こうよ…」

「いや~二人で行かないと意味無いじゃん?」

「…」

「それじゃあ私たちも行こうか」


宮内は廃屋の廊下を回っていくルートに差し掛かかる道へ歩いていく

鳴滝はその姿に、どこかの部長の姿が重なって見えた気がした






建物の中も、なかなかの雰囲気が漂っていた

障子の間から見える血痕、そして何かが倒れている様子が見えて

鳴滝はそのたびにビクビクと肩を震わせている


宮内は時々驚くことがあるものの、基本的にはこの雰囲気を完全に楽しんでいるようだった



両隣が障子で挟まれた狭い通路にさしかかる

宮内もほんの少し躊躇して通路の前に立つ


「…まぁ、あんまりのんびりしててもまた追いつかれちゃうし」

「…おい、絶対両隣から来るだろ…」

「大丈夫大丈夫、危害は絶対ないんだから」


鳴滝の声が震えているのを構わずに宮内は通路に入っていく

鳴滝もその後ろを追って入っていくと、その瞬間、通路から手が飛び出してくる


宮内も少し驚いたのか立ち止まるが、腕を掴んでみせる


「あ、冷たい」

「おい、やめろって…」

「だ~か~ら~、なにもしてこないって」


笑顔さえ見せて進んでいく宮内を、鳴滝はひきつった笑いで見ながら

両側から出て来た手を警戒しながら進んでいく






再び長い廊下が続き、次の仕掛けにおびえながら歩いていると

突然、ガタッと木の板が外れる音がして…二人の目の前に先ほどの女とよく似た人形が上から釣り下がる


「うわあぁぁああああああ」


宮内も流石に驚いて肩をビクッと上げる

鳴滝は再び尻餅をついて、そのまま体をうってしまう


「大丈夫?」


宮内が手を差し伸べて鳴滝はその手をとって立ち上がる


「…っ痛…ごめんな…」

「大丈夫大丈夫…流石にこれは驚くって…」


と、人形を見ながらハハハと笑う

鳴滝は息を吐いて、人形を睨みつけると二人でその場を後にした





突き当たりの少し広い部屋について、机の上に置かれた手紙を見る


「…これ、読まなきゃダメだよね…」


鳴滝は混乱しているのか何故か耳をふさごうとする


「京くん、周りを見渡したほうがいいと思うよ?多分手紙呼んだら飛び出してくるパターンだから」


宮内は鳴滝に笑いながら言って、手紙を広げる


″たすけてたすけてくるしいたすけてくるしいだれかたすけてくるしいたすけてたすけてくるし…″


「…うわぁ…」


宮内が声を上げるのに、鳴滝もちらりと見る

真っ赤な、文字の崩れた手紙に恐怖を覚えて茫然としていると


先ほどの人形とよく似た白い服に血のついた女が立っていた

女はゆっくりと二人に近づいていく


「うわぁぁあああぁぁあぁぁぁぁ」

「倒れてたらダメだよ!ここは流石に逃げよう!」


宮内は後ろに後ずさりする鳴滝に向かって強く言って走る

鳴滝は宮内より少し速い速度で走る



しかし、目の前に障子に挟まれた狭い通路

鳴滝は立ち止まって息を呑む、が振り返ると宮内のすぐ後ろにはもう女が見えている


「い、行こう!捕まるし!」

「あ、ああ!」


飛び出してくる手を構わずに一気に走り、通路を抜ける



…ゴール前の井戸、普段走らない宮内は息を切らせて座りこむ

鳴滝は恐怖で心臓の鼓動が早くなっているためか、彼も息を上げている


「はぁ…はぁ…あ~疲れた~…楽しかったけど」

「…はぁ…はぁ…そうだ…な…」


宮内ははぁ~と息を吐いて井戸の方を見る


「私たちもハズレか~」

「…?」

「ここね、たま~に最後にさっきの女の人出て来るんだよ…次の二人かな?」

「だとしたらまずいんじゃないか?」

「まあ、おもしろいからいいと思うよ?」


宮内はそう言って、立ち上がる

鳴滝もまた息を大きく吐いて、二人はゆっくり歩いてお化け屋敷の出口に向かった



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