三日目~また一人~
―PM.1:20―
(…私は?)
涼しい風の吹く昼間から、塚本織枝は学校に行くのにいつも使う駅の入り口にあたる階段の前に立っていた
前後の記憶ははっきりとはしない、ただ彼女はそこに立っていた
自分の姿はスカートにブレザーの制服姿で、いつも学校に持っていくリュックを背に背負っていることから自分が学校に行くか帰るかであることはわかった
少し考えて、自分がそんな状況だったのかを思い出す
聞こえるのは時々風が植物を揺らす音と遠い鳥の声だけ
(そうだ…今日は短縮で4時間だったし、先生も居ないから帰るんだ…)
今が何月なのかはなぜかはっきりとしない、ただ自分はその状況にあるのだというのだけははっきりと思い出した
周りの人通りが少ないのも平日の昼間だからなのだろうと解釈し目の前の階段をいつものようにゆっくり上る
階段を上り、改札に向かいながら制服のスカートのポケットにあるであろう定期を取り出そうとすると
手を伸ばした先にはなぜか冷たい、鉄のようなものが触れた
(…?)
塚本は妙に思い視線を下に降ろす、とそこにはなぜか拳銃
よくみると右だけではなく左にも同じ様に釣り下がっていた
(なんでスカートに拳銃!?いや、それ以前になんでこんなもの…?
普通持ってたら捕まってる…よね?)
自分の奇妙な状態に少し頭が混乱しだしたとき、背後に妙な気配を感じ振り返る
そこには、トラのような体格の真っ黒な体に赤い目をした獣が3匹、うなり声を上げながら近づいてくる
「え、ちょ?なんで駅にこんなの居るの!?」
塚本の動揺もお構いなしに、獣は一歩一歩相手に近づき、襲い掛からんばかりであった
「えっと…味方なわけ…ないよね…」
焦りながら塚本も下がっていく、背を向ければ確実に殺される
なんとなく、雰囲気でそれを察していた
一匹が耐え切れなかったのか獣が吠えながら飛び掛ってくる
塚本は体を屈めて目を瞑ったつもりだった
しかし体は意思とは関係なく右手で銃を抜き獣を撃つ、それは獣の右目に命中し、怯ませる
獣は右目から自身の体と変わらぬ黒さの体液を流しながら苦しそうに呻く
一方塚本はなぜか銃を扱える自分、そして反射的に獣を攻撃できたことに困惑していた
「え??ナニコレ?えっと…とりあえず戦うの?」
味方を攻撃されたことが気に食わなかったのだろう、残った2匹が雄たけびを上げて飛び掛る
塚本は誰に指示されたわけでもないが、自分の意思でもないような気持ちで左の拳銃も抜き、二匹に連続で弾を浴びせる
弾は頭に当たったためか、2匹はそれきり動かなくなり、その体は消滅した
(な、なんで体が勝手に?それにあの獣消えたし…なんだゲームとか夢の中みたいな…)
ただ、それを考え込む前に塚本は一つ思い出した
それは、右目だけしか攻撃していない獣、おそらくもう意識を取り戻してコチラに向かってくるはずだろう
半分勝手に動く意識と体にまかせて獣の居た方向に銃を向け、引き金に指をかける
「…ここに居たのなら殺した、それともお前は私の敵か?」
聞き覚えのある声にハッとしてそこに居るものの姿をよく見ると、それは海部であった
それも右手に身の丈より少し大きい斧を持って、少しだけ口端をあげて言う
「…海部さん?…どうしてここに?」
銃を持った腕を下ろして、塚本は海部に近づいて尋ねる
海部は相手に向き直り、すこし気弱に言う
「…お前が襲われてたから、それに状況もわからないと思ったし」
「海部さんは、この状況知ってるの?」
海部は暫く考えた後、海部は塚本に目を合わせずにどこか遠くを見ながら口を開く
「…ここは夢の中…多分、というかそうでもなければこんなメチャクチャな状態納得できないだろうし」
「夢の中…?」
だが、そうであれば説明がつくとも思った
半分勝手に動く体も、その言葉に簡単に納得した自分も
「そう、私も信じられないし、誰の夢かもアバウトだし…ま、夢に出てきた人全員の夢ってことかな?」
海部がそういうので、塚本はもっと自分の状況を理解しようと相手に問いかける
「全員の夢?海部さんもこの夢を見てるの?」
「そういうこと…ま、次に会えたらもっと説明してあげるから」
「え、ちょっと、待って!」
塚本が呼び止めるのにも聞かずに海部はその場を去って、そのまま景色は真っ白に変わっていった