表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「誰か」の理想郷  作者: ナキタカ
「誰か」の理想郷
36/46

三十四日目~決意~

「……お前か…」



どこからか現れた相手を睨むように見つめて鳴滝は言う


「…悠斗くんに涼香ちゃん…どうして?」

「主人公は遅れて登場するだろ?」


「…私たちも海部さんたちを探してたんだけど見つからなくて、中庭騒がしいから様子みてたの

 で、上見て宮内!って言ってたの聞こえたから、窓のところに乗ってタイミング計って着地…かな?」


塚本は、訳がわからないといったふうに尋ねる

一ノ瀬がふざけて答えるのに、結城が端的に自分たちの状況を説明する


「…悠斗くん、恥ずかしいからそろそろ降ろしてくれる?」

「そうしたいけど…足大丈夫か?」


右足、そこには痛々しく噛まれた後が残っている


「…なんとかなる、そもそもそんなに動く必要の無い武器使ってるし」

「無理するなよな」


そう言ってゆっくりと、お姫様抱っこ状態だった相手を優しく降ろす



結城の方は後ろで呆然と立ち尽くしている海部の方を見る


「ほら、海部さんのでしょ?」


そういわれて、持っていた銃を海部は塚本に「ありがとう」と言いながら返す

心配そうに見つめる塚本の方を見ないで、相手に近づいて受け取ろうとする


「…いつも、すまないな」

「いいって、ホラ」


そういわれて受け取る、が少し苦しそうな顔をするのに結城は不思議に思う

が、視線をほんの少し下げ、その左腕が視界に写ると納得する


「それ、大丈夫?」

「…大丈夫だ…」


いつもの抱え込みではなく、前向きな強がりで海部は笑ってみせる

結城はその様子に安心して鳴滝の方を見る


「…って言うわけで、大体のもくろみはつぶれたけど…それでも話すって選択肢は無い?」


斧を持ったまま結城は言うが、鳴滝は不満そうな表情を変えずに言う


「当たり前だ…どうして…どうして邪魔ばっかり!!」

「…邪魔とは違うんだって」


というが今それを言っても伝わらないことは理解している

相手に意見を交わす意思は見られない


「でも?戦うつもり?獣呼んだって、こっちは5人も居るんだけど?」


結城がなるべく戦いを避けようとそういうが、相手はニヤリと笑って返す


「…けど、怪我人は二人も居る、それに塚本、宮内…お前ら、限界だろ?」


「…っ」


獣の群れと戦ったのに加え、塚本は校舎を駆け回り、宮内は狐二体を相手に戦った上に足を負傷

確かに、戦うような体力は失われていてもおかしくない


「悠斗、結城だって、校舎を駆け回ったはずだ…

 それに、もうソイツの面倒みるのも疲れただろ?」


二人は黙って相手を見て答えない

鳴滝は最後に海部の方を向いて得意げに言う


「…これが、お前の招いた結果だ

 お前が生きているから、お前が逃げるからこれだけ疲労させてる、わかってるだろ?」

「あぁ」


突き放すように答える


「…それじゃあ、何がいいたいかわかるよな?」

「こいつらを助けるから死ねって言うんだろ」


そう言って、鳴滝に近づいていく

槍が十分届くであろうその距離に立ち、海部はまっすぐに相手を見る


「…なんだ?ようやく自分のしでかしたことを理解したのか?」


海部は、ほんの少しだけ間を置く

それを、4人はただ見守っていた


「…最初から、わかっていたさ、自分がどれだけ卑怯かなんて、自分がどれだけ最低だなんて」


鳴滝が自分の意見と同じ相手に満足そうな笑顔になる


「でも、私は死ねない」

「…何故だ!」


彼の表情は一瞬にして表情は怒りに変わる

海部は、それに怯まず、逃げないと決めたように相手から目をそむけない


「私だって、死んで許されるなら…死んでお前の気が済むならそれでよかった

 でも、もうそれができなくなった…

 …私が死んで、コイツらのやったことを…無駄にしたくなくなった

 それに、コイツらにも多分目的がある気がするからな…それも、大事にしたくなった」


はっきりと、ゆっくりと自分の遺志を告げる


「…生きる理由は無い、だけど死ねない理由ができたんだ」


そして最後、後ろに居る自分の“仲間”に向けて言う


「だから…ごめん、疲れてるだろうけど、もう呆れてるだろうけど…

 助けてくれ、私が死なないように」


海部がそこで口を閉じる

少しの沈黙の後、鳴滝は槍を一度振って歩き出す


「…けるな…」


俯いて呟き、そして怒りに燃える目で叫ぶ


「ふざけるな!!」


相手は自分に槍を突き刺そうと向かってくる

海部は痛む腕を無理やり動かして、その攻撃をどうにか受けようとする




ガッ、と槍が防がれる音が響く



「…まぁ、今はそれでいいよ…死なない意思があるなら」



言ったのは、結城

鳴滝と海部の間に入って、相手の槍の先を上にそらせて止めている



「……邪魔をするな!邪魔をするな!!」


力をゆっくりと強くかけてくる相手に、余裕そうに笑って返す


「邪魔じゃない、海部さんの言ってる通り、私たちには私たちの目的がある、それを通したいだけ」

「…なんなんだよ!!」


相手の声は荒くなっていくがいつもの調子で返す


「…この程度で人殺しが身近で起こるなんて事態を防ぐこと、そんな馬鹿馬鹿しいこと見たくない

 それに…助けてってはっきり言ったなら、手を貸さない理由は…まぁ、今は無いし」


そう言って相手の槍をはじく、鳴滝は数歩下がって結城を睨む


「…まだだ…まだ…アイツの気が変わるまで…また死にたいって思わせてやる…!」


鳴滝がそう言うと、一回のガラスが割れる音が鳴り響く

…何度目かわからない獣の群れが、なだれ込んできたのだった




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ