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「誰か」の理想郷  作者: ナキタカ
「誰か」の理想郷
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三十二日目~余裕~


「あと、この勝算にコレは必要ないんだよね」


そう言って、宮内は鎌を屋上の手すりの向こう…中庭の方に投げ込んだ



鳴滝はそれを見るとしばらく考えたような素振りをして、彼女への興味を失ったように扉の方へ歩く


「どこ行くの?」

「僕がお前を倒す理由が無い、僕はアイツに用があるんだ」

「でも、そのアイツも今頃結城さんたちと合流してると思うけど?」


余裕そうな声で言う宮内に、鳴滝は「どうだろう?」と笑ってそのまま扉に向かう


“…京くんは塚本たちに任せよう、大丈夫、あの二人もきっと合流してる”


相手の笑顔が少し気になったものの、宮内は目の前に残った目の赤い偽物の結城と一ノ瀬に向き直る



偽者の二人は武器を構えてしばらく相手の様子を見る



「…ドウシタ?ソレデタタカウツモリカ!」



偽一ノ瀬が無防備なその姿に笑いながら殴りかかる

宮内はそれを右にヒラリと避けて視線を相手に戻す



相手は手すりに手をついて、反動で宮内のほうに向かおうと体の正面を彼女に向けた

が、彼は腹に手を当ててヨロヨロと二、三歩後ろへ下がる




宮内の手には、いつの間に取り出したのだろうか鞭が握られていた




「へっへ~、私の武器一つだけじゃないんだよね~」




得意気に言う宮内を忌々しそうに偽結城は睨み、斧を振り上げる

宮内はそれに気づいて偽結城の腹に鞭を当てる



偽結城はその攻撃で顔を歪めて数歩下がりながら、そのまま斧を下に振り下ろそうとする

宮内は慌てて相手の方に走って相手の向こう側に行き、振り返る



斧は手すりに刺さってヒビを入れる、斧の下に砕け散った塗装の破片がパラパラと落ちた



“嘘…斧ってあんな威力あるものだっけ?いや、確かに兜くらいならいけるって聞いたことあるけど…”



目の前の光景が信じられずにそんなことを考えるが、相手の動きに意識を戻す

再び偽一ノ瀬の方が自分に殴りかかっていたのだ



相手は彼女の腹をめがけて拳を当てようとするが、当たるギリギリのところで後ろに軽く跳んでその腕に鞭を当てる


「グッ!?」


相手は鞭の当たった腕を押さえて声を上げて立ち止まる

宮内はそれを見て余裕の笑みを浮かべて相手に言う




「大丈夫?私にまだ一発も当てられて無いけど?」

「…マダダ…マダダァッ!!」



偽一ノ瀬は余裕だと思っていた相手からの反撃とその言葉で完全に冷静さを失ったのか

闇雲に相手を殴ろうと何度も拳をぶつけようとする



「ガァッ!」

「当たらないよ?」

「グァア!」

「こっちこっち!」



彼女はその動きの殆どを先ほどのようにギリギリで避けては鞭で体を撃つ


そうして、一ノ瀬の動きをかわした直後であった


宮内の後ろにもう一人が…偽結城が先回りして斧を振り上げていた

その顔は勝ち誇った笑顔で、その目はより強く光を放っていた



「オワリダ!」


偽結城は笑いながら斧を宮内に振り下ろす


彼女は一瞬驚いたような表情をしたがすぐにそれはこの瞬間を待っていたかのような笑顔に変わった



宮内は偽一ノ瀬の腕を掴み結城の方へ引っ張る

彼は気力で宮内に殴りかかろうとしていたため呆気なく引っ張られるままに足を進めた


先ほどまで宮内のいた位置には偽一ノ瀬が立っていた…



斧はそのまま先ほどまで宮内の居た場所を切り裂いて、そのまま地面に突き刺さり亀裂を入れた



「あ~あ、お仲間居なくなっちゃったね?」


相手を引っ張ったまま後ろに回った宮内が相手の背中にそういう


「…ズニノルナァ!!」


そう叫ぶと、威嚇か、苛立ちか、偽結城は斧を振り上げて手すりにぶつける

先ほどのように手すりにひびが入り、偽結城は斧をゆっくりと持ち上げる



「何のつもり?今更私がそれで怯むと思ってるの?」

「…グルウアアアアアアア」



頭に血が上ったようで、正体である獣のような声を上げて斧を両手で握り走る

先ほどの武器を失った自身以上に無防備である相手の

その斧を握った手を今までの中で一番の威力でぶつける



斧の刃と持ち手が、下に落ちてガンという音を立てる

偽結城は手を自身の前にもってきて痺れる手を見つめる


「グッ…ガァッ…」


宮内は続けて相手の体に鞭を当てようとする

相手はそれに当たる寸前で気づいて避けるが、その結果斧と距離が開いてしまう



何度か鞭で相手に攻撃しながら宮内は斧に近づいていき、そしてそれを拾う



「…ふぅ、一応仕事はおしまいかな?」


宮内は安心したように息を吐き、周囲を見渡す

相手の姿は見えない、斧を取られて諦めたのか?と宮内は思う


「はぁ、立て続けに戦うの…しんどい…

 さっさと合流して楽したいな…」


そう言って出口の方を見た瞬間だった、彼女の足に痛みが走る

逃げたと思っていた狐のほうが、その足に噛み付いていたのだった


狐は相手にダメージを与えたとわかると下がって再び結城の姿になり、腰の剣を抜く

宮内は斧を支えにして相手を見る


「暗闇にまぎれてたってわけか…困るなぁそういうの」

「ククク…ドウシタ?サッキマデヨユウダッタノニナァ?」


偽結城はニヤリと笑い、再び目は強い赤い光を放つ


「結構さっきまでも必死だったんだよ?挑発、乗ってくれなかったらアウトだもん」

「マァ、カンケイナクナッタコトダナァ?ソノアシデハニゲラレナイダロ?」


剣を片手に、ゆっくりゆっくりと宮内に近づく

鞭で攻撃することも考える、が剣が相手ではたやすく防御されてしまうだろう


じわり、じわり、と手すりの方へ追い詰められていく

それも、相手のつけた二つのヒビの間に…


宮内の体は、ぴったりと手すりにくっついてしまう

結城はそれを見て笑いながら剣を構える


「…ククッ…シネェ!!」


偽結城は一気に距離を詰めて剣で切りかかる

宮内は斧の持ち手でそれを受け止める、が踏ん張ることができずに手すりに押し付けられる


少しずつ、少しずつ二人分の体重が手すりにかかり、わずかに残ったつなぎ目を裂いていく


「…まぁ、これも半分計算済みだけど…」

「ナカニワニナカマヲヨンダノダロウ?

 ダガ、ソノセナカノモノガアルジョウタイデドウヤッテタスケル?」

「それでも助かる…絶対に」


そういわれてしまえばそれまでだった

それでも、宮内は不思議と死ぬような気はしなかった

何故か、助かると根拠の無い自信で確かに言えた


「ナラ、タメシテミロ!!」


偽結城はそういいながら力強く相手を押す、

手すりはガンッという音を立てて空中に落ちていき



…彼女の体も、空中に投げ出された






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