三十一日目~勝算~
北館三階から屋上までは少し遠かった
というのも屋上は南館からしか入れない、一旦二回の渡り廊下へ行き南館へ渡らなければならない
幸い、途中で獣が現れるようなこともなく、屋上の前の扉に立つ
海部は銃を一旦塚本に預けて扉のノブをゆっくりと回す、鍵は掛かっていない
「…入れる、行ってみよう」
海部はゆっくりとした動作のまま扉を開く、冷たい風に髪がなびく
開いてすぐにある狭い通路で、海部は一旦二人の後ろに行き、再び銃を受け取る
海部が扉を閉めると、宮内が先頭に立つ
塚本はその後ろ銃を抜いて続く、海部も銃を構えながら後を追う
大きな満月の月明かりで、屋上は照らされていた
広場のようなところに出る、すぐ隣に高速道路が見えるが、音は一切しない
誰の姿も、形も無い
広場の真ん中ほどで三人は立ち止まり様子を伺う
海部は他の三人より奥に数歩進んであたりを見渡した
「…やっぱ適当な考えじゃ、居ないか?」
「適当…」
海部がそう呟くのに、塚本は苦笑いしながら返す
「誰かきた」
宮内が武器を構えて扉を見つめて言う
それに二人も扉の方向を見て武器を構えた
狐であろう、赤い目をした結城と一ノ瀬
そしてその後ろ、鳴滝が通路をゆっくりと歩き広場にでてきていた
偽結城の手には斧が握られている
「よぉ、せっかく武器を奪ったのに合流されたか、残念だ」
「うるさい、十分苦痛は味わった」
海部は銃を向けながら相手を睨みつける
鳴滝は怯まずに槍をグッと握り締める
「これから…どうするつもりなの?」
「どうせ悠斗から聞いただろ?終わらせるって」
塚本が尋ねるのに鳴滝は突き放すように言いながら彼女を冷たい目で見る
「同じ三対三でも、一人が怪我人じゃ…わかってるだろ?」
鳴滝は説得するような声で二人に言う
「武器にもよると思うけど?二人も遠距離武器があって勝てると思ってるの?」
宮内が柄を両手で握り、下から刃を上げられるように構えて言う
鳴滝が余裕そうに口の端を上げる
相手の態度の真意がわからず一瞬戸惑った、そのときだった
「なっ!?」
「いつの間に?」
海部と塚本の声に宮内が振り返ると、その光景に驚く
自分たちを囲むように、先ほどの多さよりは遥かには少ないが獣たちが並んでいた
「…これで包囲した、逃げられないな?」
「まだわからないでしょ」
宮内は言うものの、少しだけ迷っていた
傷を負っている海部を守りながら戦うのはこの数ではまず無理だ
その上、海部の方を見ると…彼女は半分諦めた目をしている
おそらくこれ以上巻き込みたくないとでも思っているのだろう
「…塚本」
「舞ちゃん?どうしたの?」
「任せて…いい?」
塚本が何を?と尋ねる前に鎌で群れの一番薄い右側の獣をなぎ払う
「走って!」
塚本は迷いながら海部の右腕を握って引っ張る
海部も最初の数歩をためらったができた隙間を走り抜ける
鳴滝が舌打ちをすると狼を向かわせる
塚本は素早く振り返ってそれを撃つ
「舞ちゃん!!」
「中庭に行って、悠斗くんと結城さんにもそう言って!」
塚本の声に宮内は答えながら飛び掛ってきた獣を切る
「わ…わかった!」
返事をするのに躊躇したものの、塚本は走り出そうとする
が海部は動き出さない
「海部さん…」
「…嫌だ…私は…嫌だ…」
「舞ちゃんなら大丈夫だから…」
海部はその声が聞こえないように群れのほうに一歩踏み出す
「海部さん!」
相手の声が聞こえて海部は顔を上げる
「私が何の勝算もなしにこんなことするわけ無いでしょ?」
「…あぁ」
目の前の敵を捌きながら、笑って宮内が言う
海部は納得してはいないもののそう返して、背を向ける
宮内は戦いながら、二人が扉の向こうに消えたのを見て一度武器を下ろす
あたりの包囲が解ける気配は無い、そして
「…フウン、ソウイウコトモスルンダ」
残っている二匹の狐が厄介だった
偽結城は笑いながら宮内の様子をみている
「デモ、ソロソロゲンカイダロ?」
偽一ノ瀬も馬鹿にするように笑う
「今諦めたら、まだ間に合う」
「…正直な所そうしたいんだけど、あそこまで大見得張っちゃったしね
それに、まだ勝算は残ってるし」
鳴滝の提案を宮内は笑いながら退ける
「…勝算がある?」
鳴滝が信じられないと言うような声を出す
「確かに、獣に囲まれて、ほぼ人間も二体、私も消耗してきてる…自分でも無謀だと思う
けど流石に決戦くらい、あの子たちみたいなことしてもいいかなとも思ってね」
笑顔を崩さないまま、宮内は言う
そして
「あと、この勝算にコレは必要ないんだよね」
そう言って、宮内は鎌を屋上の手すりの向こう…中庭の方に投げ込んだ