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「誰か」の理想郷  作者: ナキタカ
「誰か」の理想郷
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二十八日目~群れの中で~

海部の逃げ込んだ学校から少し離れた公園

その公園の真ん中で、二人の少女が倒れていた


そのうちの一人、塚本は意識を取り戻し、腕で半身を起こすとあたりの様子を伺う


「公園…?」


傍に落ちていた銃を拾って腰にかけて、視界に入った倒れているもう一人の少女…宮内の傍に行く


「舞ちゃん…舞ちゃん!!」


倒れている相手の体を揺すって起こそうとする、二、三度目でう~ん…と声を出しながら宮内は目を開く


「…おはよ…って夢の中、か」


上半身を起こして、近くにあった鎌の柄を握りはするものの、そのまま動かない

まだ、頭が完全に回っていないのだろう


「みんなは?」

「わかんない…けど、多分居ない

 京くんが、本当に終わらせるつもりなら、多分他のみんなもバラバラなんじゃないかな?」


塚本はあたりを見渡しながら言う

公園は、ポツポツと点在する外灯で公園内だけは見ることができたが、その中に人は居ない

道路にも誰かが居る気配はない、ただただ暗闇が広がっているだけだった


宮内も立ち上がって、一度だけあたりを見渡す

塚本が、少し不安げに口を開く


「…どうしよう?」

「…う~ん、でもこの夢、支配してる側って誰がどこにいるか把握してるんだよね

 ってなったら、おそらく他の三人はバラバラだろうし、合流しないと…」

「でも、誰がどこかなんて、私たちには…」


塚本が言いかけた、そのとき、ほんの微かだが、何かの声、が二人の耳に届く

その微かな声は、二度三度と誰かを呼んでいるかのようだった


「…今の…?」

「…誰かの声…学校の方向から?」


二人は顔を見合わせて、公園から学校の方角のほうを見る


「…学校に、誰か居るとしたら、はやく合流してあげたいけど」

「まぁ、それ以外に別の手段も無いしね」


宮内は塚本に同意して、鎌を短く持って走り出すための準備をした…が、二人は妙なことに気づく

…妙な気配が、周りにあふれている


二人は再びあたりを見渡して武器を構える

公園の周囲一体に、赤い光がチラチラと見え始める

その光と、黒い影が少しずつ二人に近づいている


…それは、数え切れないほどの、無数の獣たちであった

狼、虎などの肉食獣、猛禽類のような鳥類までも、その中に混じっていた


「ど、どうしよう、こんな数…」

「正直倒しきれる自信が無いね…面倒だなぁ…」


宮内がため息を吐いて鎌の刃を前に出して言う


「…と、とりあえず…逃げる?」


四方八方から近づいてくる獣

塚本は公園の出口を見て、そこには何もいないことを確認して言う


「それが一番良い手段だろうし…うん」


二人は、ただ公園の出口を見つめて意識を集中させる


「私が突っ込んだほうがいいよね?塚本は後ろから道が途切れないように…」

「わかった!」


迫ってきた獣たちの内、一匹の虎が他の獣より数歩前に出て唸る

宮内も、塚本より数歩先に出る…そして




大きく鎌を振り下ろして、虎の頭に刃を突き刺す




虎の悲鳴に、他の獣が一気に宮内に飛び掛っていく

少し距離の置かれた塚本は一旦両手を下ろして目を閉じて意識を集中させる


(私の体、頑張ってね…)


祈るように自分自身に呼びかける…

そして、獣の間を抜けて宮内の背後に立つと両手の銃を獣の居る方向に、正確に当てる


銃弾は、獣の頭を射抜いていた

獣たちは悲鳴とともに消え去る



「塚本ナイス!」

「ありがとう、このまま行こう!」


宮内は塚本の言葉を聴くと、少しだけ前に進む余裕のできた群れの中に飛び込み

目の前の獣を一気になぎ払うように切り裂く


塚本はその背後、一定の距離から周りの獣の頭を狙い銃を撃つ

宮内の背に回った獣には、特に気を回していた

…彼女の攻撃はどうしても大降りになるために、隙ができやすいのだった



上から、突如巨大なワシが二頭、襲いかかってきた

二頭は二人に体当たりをしようと滑空してくる


二人はしゃがんでどうにか避けるものの、代わる代わる飛んでくる二頭に身動きが取れない

…巻き添えを食らいたくない周りの獣も襲ってこないのは救いであった


「舞ちゃん…」


二頭が空で様子を見るかのようにくるくると円を描いて飛んでいる隙に塚本は声をかける

宮内は覚悟を決めたように立ち上がる


その様子を見て塚本も何かしなければと思ったのだろう、立ち上がって様子をみてどうにかできないか、と考える



二頭は、それぞれ二人を捕らえて正面の空で飛び続けていた、おそらく狙いを定めているのだろう



宮内は、鎌の刃を下に回して構え、塚本はその銃を腰にかけてただ鳥を見つめる

…まるで戦意を喪失したようにも見えるその姿に、二頭は格好の獲物とばかりに襲い掛かる



先に、宮内の目の前に鳥の姿が見える

そして、その体が宮内を攻撃する直前


宮内は、下ろした鎌の刃を相手の首を貫くように持ち上げた



その後ろ、もう一匹の鳥が塚本に襲い掛かる

塚本は一か八か、わずかな隙を見つけてその背中に飛び掛った




鳥は高く空に飛び上がり暴れる、が塚本もしがみついて離れない




そして、不安定な場ではあるものの、どうにか右手で銃を握ると、空から地上の獣に銃撃を仕掛ける

酔ってしまうほどめまぐるしく変わる視界の中、不思議と定まる狙いにまかせて、ただただ撃ち続けた



獣の数は、宮内を囲む10頭ほどに減っていた


鳥は、追い詰められたと察したのだろう

振り落とすのを諦めると、旋回して宮内に狙いを定めて急降下する



塚本は、地上と水平になったその背で立ち上がり、残った獣の位置を確認する

宮内は鎌を大きく振り上げて、鳥を待ち構える



宮内が、鳥に向かって鎌を振り下ろす瞬間、塚本はその背から飛び上がり両手でそれぞれ5回ほど引き金を引く

宮内の鎌によって地面に叩きつけられた鳥の断末魔が響く中塚本は地面に両手を付いて着地する



周りの獣は殆ど消えて、残ったのは狼二頭と虎一頭


だが、彼らは身の危険を察したのだろう、周りの闇に解けていくように逃げ去っていった



それを見ると、塚本はへたり、と膝から崩れるようにその場に座る


「つ…つかれた…」


宮内は塚本の傍に行くが、彼女も息が上がっている

呼吸を整えようと隣に座った


「……お疲れ様…」

「う…うん、動いたこと…無い動き…したから…辛かった…」


完全に疲れた声音で言う宮内に、塚本は途切れ途切れに答える


「…でも、休んでる時間も…そんなになさそうかも…ね」

「…そっか…声……」


二人は互いに支えあうように立ち上がる

体力はかなり消耗している、が声のことがそれ以上に気がかりだった


「…行こう、もし海部さんの声だったら…手遅れになるかもしれない…」

「う…うん」


二人は、完全ではない体力のまま、足を引きずるように学校の方向へ向かっていった






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