二十七日目~無援~
~夢の中~
彼女たちの…結城たちの通う学校の、中棟と北棟を繋ぐ橋の下
海部は、一人そこに倒れていた
一つ、強い風が吹く
海部はそれにうぅ…と声を出しながら目を開く
「…ゆ…め…?」
冷たい地面に手を突いて、あたりを見渡し自分が倒れていた状況を確認する
足をまげて立ち上がり、自分の足元に落ちているであろう武器を探す
…見つからない
あたりが真っ暗といっても、海部は当初この夢を操っていた側だ
この暗闇にも慣れていたし、物を見るのに見落とすということはほぼないだろう
何度も、何度もあたりを見渡すの…が、無常にも斧はどこにも見当たらない
海部は心臓が凍りつくような感覚がした
“戦えない!?この状況で…悠斗も、今日終わらせるって言ってただろ!?”
悠斗から先日送られてきたメール
その後、彼と他の部員で話した内容が彼女の元にも伝わった
鳴滝はもう目を覚まさせると宣言した
おそらく、次の夢を見たとき…私の命は確実に狙われると
だから次の夢では自分は一番気をつけなければならないはずだった
なのに、武器が…無い
周りの静けさもあるのか、心臓の音に意識が集中してしまう
焦った彼女の心を余計に急かすように鼓動はなる
「…どう、しよう」
両膝を突いて俯いて何も言葉を発せ無いまましばらく時を過ごす
が、大きく息を吐いて、もう一度息を吸う、そして…
「結城!!」
腹の底から大きく声を出し、名前を叫ぶ
「一ノ瀬!塚本!宮内!!」
自分を助けてくれるであろう仲間の名前をはっきりと、一人一人叫ぶ
海部は、今まで夢を操っていた側であったためりわかっていた
おそらく、鳴滝は最初からこうするつもりで自分をこうやって追い込んでいる
叫んでも、叫ばなくても、彼はこちらの居場所を把握している
ならば、助けを求めよう
あらん限りの声で叫ぶ、この静けさだ、いつもよりかは広く声も届くだろう
…まぁ、その仲間がもっと遠い場所に居たら意味は無いだろうが
何度か名前を呼ぶと、ハァハァと肩で息をする
もうコレくらいでいいだろう、後は誰か一人でも良い、自分の存在に気づいてくれるだけだ
地面に座り込み呼吸を整える
だが、何かの足音が聞こえてあたりを見渡す
残念ながら、それは人間のものに思えない
海部は立ち上がってあたりを見る
狼が四匹、いつの間にか自分の前に牙を向いて迫ってきていた
赤い目が怪しく光っている、いつかの結城もこんな風に思っていたのだろうか?
ジリジリと迫ってくる相手、背後には校舎
おそらくこの中に逃げ込んでしまえば罠に掛かることになるだろう
それでも、武器のない今目の前の狼に飛び込んでも海部のみの安全はない
海部は狼を向いて2、3歩下がったあと、体を後ろに向けて校舎に走り出す
中棟への入り口の鍵は掛かっている、北棟へ行こうと下駄箱を抜けようとする
と、死角から狼が飛び掛ってきた
海部は半ばこけながらそれをかわす、狼は相手を捕らえ損ねて壁に激突する
それを確認することなく、海部は南棟の階段を駆け上がって二階に上がり
階段のすぐ隣にある女子トイレの中に駆け込み、真ん中の個室に飛び込み、鍵をかけた
ドン、と背中をぶつけるように壁にもたれかかって海部はズルズルと座り込む
呼吸のたびに喉の奥から掠れるような音が鳴り、体は汗でぐっしょりと濡れていた
トイレは決して清潔とはいえない状況ではあったがもはや関係ない
夢の中だろうか、大してにおいも感じないし、どうせ汚れも本物ではないのだ
息をしながら頭の中でそれを言い聞かせていた
狼が集まる気配は無かった
簡単に撒けたことにほんの少し妖しさを感じたが、それよりも今は一刻一秒でも時間を稼ぎたかった
先ほどの叫びを、誰かが聞いてくれていることを祈るしかなかった
呼吸が落ち着いてきたころ、遠くからしゃべり声が聞こえる
海部はその声に耳を傾ける
聞き覚えのある男女の声…一ノ瀬と結城であった
はっきりとは聞こえないが、誰かを呼んでいるかのような声であった
海部は立ち上がってドンドンと個室の壁を叩く
「結城!一ノ瀬!ここだ!入りづらいなら結城だけでいい!!」
なんどかドンドンと自分の居場所を示すと
足跡はトイレの中に聞こえてきた
「海部さん!?」
扉の向こう、結城の声が聞こえて海部は安堵する
「結城…一ノ瀬も一緒か?声、聞いてくれたんだな?」
「うん、門が閉まってたから無理やり乗り越えてきたけど」
相手の呼吸がほんの少し乱れている
海部は、慌てていたのだろう、と相手の行動に嬉しさを感じてしまう
そのまま、何の疑いもなく、助けてくれるだろうと海部は相手に自分の状況を伝える
「結城、多分私、京くんに武器を取られたみたいなんだ、一緒に探してくれないか?」
「…いや、それなら持ってるよ?」
「ほ、本当か!ありがとう、助かった!!」
結城の言葉に、海部の胸は希望でいっぱいになった
心強い仲間と、武器、これで自分は大丈夫だと確信した
「それじゃ、渡したほうがいいよね?」
「…あ、あぁ!」
海部が大きく同意して、扉を開く
扉は中からは内側に引くタイプだったので、体を個室の奥に寄せて鍵を開き扉を開く
笑顔の海部が見つけたのは
大きく斧を振り上げた、赤く目を光らせた結城であった…