二十三日目~前進~
翌日…
鳴滝を除く全員が、部室で集まっていた
海部が来るとメールをしてきたのは5時頃…無理やり病院を出て行くような形だ
来れなくとも仕方が無いだろうが、それでも何かあったのではないかと変な不安が部員を襲っていた
時計は、4時50分を指していた
「…海部さん…やっぱ無理だったのかな?」
「まだ10分あるだろ?待ってようぜ?5時少しすぎるかもしれないしな」
塚本が時計を見ながらそう呟くのに、一ノ瀬がいつもの調子でそう返す
「…京くんのことの手がかりにもなればいいけど…」
「う~ん…あ、その態度出したら、もしかしたら気にするかもね」
宮内の言葉を聴いて、結城ははぁとため息を吐いて「…あ~」と少し嫌そうに呟く
「…海部さん、その場の感情に流されやすいし…本気で謝る気なら
償いたいって答えてくれるんだろうけど…なんか悪いかな?」
塚本がう~ん…と考えながらいうのに、結城も頷く
「…でも…まぁ…言ってもらうしか現状は変わらない…
多分、大丈夫…ここまで来たら、海部さんを信じよう…協力してくれるって」
そういったものの、部室内に篭ったなんとなく思い空気は未だに振り払えずに
なんとなく、ぽつぽつと会話が生まれるだけで時間は流れる
時計の針が、5時3分をさした時
ガラッと音がして、部員は全員そちらを見る
先ほどまでの、部室になんとなく立ち込めていた空気を切り裂いた音の先に
海部が部員に軽く手を振って立っていた
「現実では…久しぶりだな、悠斗、結城…」
どこかおぼつかない足取りのままフラフラと部室に入り、入り口から一番近い椅子に乱暴に座る
「…悪い…わざわざ時間とってもらって…」
海部は体調がまだ悪いのか右手を頭に当てて言う
「大丈夫?」と言う声に、左手で静止をかけて結城の方をまっすぐ見る
「いいよ別に…ちゃんとした話だし、こっちも聞きたい理由があるから」
結城が言うのに、海部はいまいち理解できないように首をかしげる
「…なんでだ?」
「今まで溜め込んでたこと気になるし…あと、京くんのことにも…何か解決方法のヒントになるかなって…」
そういうと、海部は大げさにため息を吐いて言う
「あぁ、お前はやっぱり私を利用することしか考えていないんだな?」
「そうじゃないって…単に海部さんのこと心配だったけど、そのついでで…」
結城は目を伏せて傷ついたしぐさを見せる相手に必死で言う
が海部は笑って顔を上げる
「冗談、冗談…ちゃんと話すし解決するならそれでいいよ…まぁ、少し嫌だけど」
と海部が視線をそらせて言うのに、結城はなんともいえない気持ちになる
「…じゃ、話すとするか…う~ん…どっからでいいかな?
大体事件の発端は知ってるだろ?」
以前の海部なら、ここで恨み言のような自虐でもあっただろう
少しでも変わったのだろうか?と思いながら結城は「うん」という
「…じゃあいいや、私もあの時は…まぁいいや
だったらそれより前…そもそも私がお前らのことをどう思ってるのか、を話すか
その上で、謝る」
ギィと椅子を傾けて海部は天井を見て言う
はぁ、と息を吐いて彼女は少し発言するのに躊躇うが話すと言ったのだ
「何も感じなかったことは飛ばすか…
でも…なにがきっかけとかはないんだよな…徐々に徐々に嫉妬したというかなんというか」
「嫉妬?…いいとこなしなのに?」
「…黙ってろ…」
「ごめんなさい」と結城が言うのに海部は答えずにそのまま続ける
「…まぁいいよ…とにかく、嫉妬した…最初はただの憎しみだった
なんで全然考え方の違うお前らが好かれてるんだ
なんで遊びたがるお前らの方が正しいって思われてるんだ
なんで仕事を全部知りもしないで最低限だっていえるんだ…って」
海部の言葉に、確かに二人の考えがないことはなかった
遊んでいる方が楽しいし、楽しいのが一番だと考えていたが
そこまで酷かった自覚は無い、仕事は切羽詰るほど放置したこともほとんど無い
「多分これは京くんも同じだろうけど…お前らが完璧に見えたんだ
そう、何の努力もしなくても、何も考えなくても
ただ直感でたった一つの発言が100%の正解を出して
しかも誰からも好かれる、そんな奴らに…見えたんだ」
「…そんなわけないじゃん、私も悠斗くんも…」
「わかってるに決まってるだろ!!」
結城が口を開こうとするのを遮って海部は耐えられなかったのか怒鳴るように言う
「わかってる…わかってるんだ…お前らが二人きりで話すのも、その努力のためだって
“部活なんかおまけだから”って、“そんな執着するものじゃない”って
言ってるお前らが一番努力してることなんてわかってるんだ、わかってたんだ!
でも頭でわかってどうにかできたことでもないんだ!」
そういって肩で息をしながら「ごめん」と言った
確かに、結城はかつて海部にそういったことがある
“部活はあくまでオマケだから楽しくやりたい”と“そこまで執着するほどじゃない”と
それは、彼女から相談を受けたときに海部の心を少しでも軽くしようとした言葉だった
でも、それを弁解し、言葉を深く追求すれば余計に傷つけるだけのような気がした
暫くの沈黙
「…悠斗は、京くんから相談受けたこととかないのか?」
海部は俯いたまま、それでも声の調子だけは平静と変わらぬトーンで一ノ瀬に問う
おそらく、顔を見てしまえば再び感情を落ち着けるのが難しいのだろう
「あ、あぁ…あるにはあるけど、アイツ殆ど俺の言うこと聞かなくて…全然その通りにしないんだよな」
「もしかしたらだけど、それを言えるお前に嫉妬してるかもしれない」
「…どういうこと…だ?」
海部の言葉をいまいち理解ができない一ノ瀬に宮内が言う
「相談したとき、なんでそんな風に励ますことができるのか、なんでそういうふうに言えるのかって…そういうこと?」
「あぁ…私もお前らに対してそうだったことあるし
だから話のアドバイスの実行よりも、なんでお前がそれを言えるのかに興味がいくんじゃないかって
そう思う」
一ノ瀬は「マジか…」と信じられないのかそう呟く
「…あと発言に関して言えば…塚本には軽いノリで言ったけど
お前らが、わざと私の意見を否定してるんじゃないかと思う時期もあった」
「あぁ…うん、聞いたことある…」
海部の言葉に、塚本がそう言って肯定する
「確か、新聞の部活紹介の見出し考えるときだっけ?海部さんがいっぱい考えてくれたんだけど
結局採用されたのが、私の案だったって時…」
「あぁ…それよりも何回か前にも、何か考えようってとき…何考えても私の案採用されたこと殆どなくてさ
その上お前ら“こういうの苦手だから”って言ってあんま考えてないように見えて…
それも…キツかったかな…?
しかも、お前らが選んだのが結構部員にも受け入れられるからさ…さっきのじゃないけど
100%の正解を出す姿に見えたんだ…偶然だってわかってるからな?」
「流石にもう口出ししないって…」
先ほどのこともあったのか、そう付け足した相手に結城はあきれたように言う
海部はそれから再び暫く黙りこむと「あ~」と声を出して頭を抱える
「…ん…他にもたくさんあったんだけどな…お前らを前にすると突然何も浮かばなくなるな…」
暫く考えていたが、ふと一ノ瀬が思い出して口を開く
「で…なんで“俺たちにとって面倒”だったら死のうとしたんだ?」
重い話題に、返ってくるトーンは暗いと思いきや海部は意外とあぁ、それも言うかと軽い雰囲気で返す
「…それは…結局今まで話したことあったろ?お前らに対する嫉妬とか…
結局、それが全部自分が悪いってことにしたんだよ」
一息置いて、海部は付け足して言う
「それから暫くは…嫉妬とは別で悩み続けた
お前らと全く同じ考えになりたい、お前らと全く同じ視点になりたい
お前らと全く同じに、何もかも同じになりたいって…
そうすれば…自分が救われるんじゃないかとも思った」
海部がそういって視線をそらす
「俺は、全く同じってのは嫌いだけどな…俺がなくなる、俺の価値がなくなるから」
「…私は…その“全く同じなのは嫌”になろうとしたんだけどね?変な話だけど」
一ノ瀬の言葉に笑いながら言って、海部は元の、死にたかったという話に戻す
「で、結局、お前らの努力を認められない自分が最低だって、お前らを認めない私は最低だって
人の努力を認められない奴は…死ねばいいって、そう思った挙句に…
あの話を聞いて、もういいやって思った」
投げやり気味に、どうでもいい話のように言う
少し、涙声になりそうな声を隠しているようにも見えた
海部は、立ち上がると大きく息を吐いて部員一人一人を見つめる
そして、頭を下げる
「…ごめん、今まで勝手に深く重く考えて…それで本来なら関係ない奴も巻き込んで…
全部、卑怯な私のせいだった…本当に、ごめん」
一ノ瀬は、頭を下げたままの海部に近寄って言う
「…頭、あげろ」
そう言われて、海部は頭をあげて涙を溜めた目を見せる形になると
一ノ瀬は相手の肩を持って言う
「…海部さんはそもそもなんで俺らになりたかったんだ?」
「…迷惑、かけたくなかったから…」
「だったら…それは褒められたことでもねぇけど、完全に間違ってるとも言えねぇだろ」
相手に見つめられているのがバツが悪くて、海部は視線をそらしたかった
でも、逸らしてはいけないと自分に言い聞かせて、その目を見る
「…どうにか、したかったんだろ…だったら言えば良かっただろ」
「そうそう、そもそも私じゃなくてさ…アンタが完璧だとでも思わなかった奴にでも
言えばよかったんじゃないの?」
気がつくと、手がつかまれているのに気がつく
宮内と塚本が両隣に来て、腕をつかんでいたのだ
「…完璧って思われて無いのは少し悲しいけど…」
「それだけ安心して話せたんだ…対等だって、友だちだって、逆にありがたく思え」
塚本がそういうのに海部は普段のように悪態をつく
「まぁ、これに懲りたらもう二度とカッターナイフ突きつけてくることは」
「あんな痛い犯罪まがい二度とするか」
宮内が思い出して大げさに悲しそうに言うのに、冷たく早口で海部は返す
「…ありがとう、まだ、重いだろうけど、むしろ重くなくなったら私っぽくないか…?」
「あ~、いや、そこら辺は心配するな」
「じゃあ前みたいにムキになって変わろうとするのとどっちがいい」
「え~…」
海部の問いになんともいなくなった結城は言葉に詰まる
「冗談だ安心しろ」
「…」
海部が淡々と言うのに、結城は相手を微妙な表情で見る
「まぁ、ともかくだ、私が今自分から思いだせるのはこれくらい
またふっと思い出したら言うけど」
「…わかった、こっちからもなるべく聞いていく」
海部が落ち着いてそういうと結城も普段と変わらぬ様子で答える
ふと時計を見ると、なんだかんだで30分ほどすぎていた
「…そろそろ…帰るわ、まぁ退院もそう遠く無いんじゃないか?とだけ言っておく」
「りょ~かい、気を付けてね」
海部はもう既に背を向けていたが、顔を少しこちらに向けて手を振る
「じゃあな…ありがとう」
そういって笑顔になる海部を、4人は見送った