二十一日目~かすかな希望~
部活中…
5時をすぎて、鳴滝が帰るのを見送った後
一ノ瀬は、本来校内では使ってはいけない携帯を部室の中でチラッとメールが来ていないか確認していた
というのも、彼らの部活の顧問がメールで知らせをしてくることが少なくなかったからだ
しかし、携帯の画面にはアドレス張に登録した『海部要』の文字が浮かんでいた
(…海部…さん?)
気になって、一ノ瀬は携帯を開きメールを見る
宛名の先頭が塚本なのを見ると、どうやら部員の同級生に一斉送信されたメールのようだ
『題:知らせだ
急にゴメン、いきなりだけど退院近いかも
そもそも血なくなったぐらいだしな、まだ歩くのちょっとふらふらするけど
部活覗きに行くくらいなら出来るし、そうするつもりだ
そこで、話がある、だいたい内容は察してくれ
あ、お前らの仕事の邪魔にならないならだけどな
…忙しい日程教えてくれればそこ避けるし
それじゃあ』
一ノ瀬はあくまで冷静に部室に戻ると、そこでは結城もメールを見つけたのだろう
携帯を広げてその文章を読んでいるのが見えた
「結城にも来たのか?」
「まぁ、悠斗くんに来て私に来ないこと…あるか、まぁ来てる」
結城は携帯を閉じて制服のスカートに入れると、一ノ瀬の方を見て言う
部室の端では、同じようにメールに気づいた塚本が安心したように息をほっと吐いているのが見えた
「…海部さん…」
「どうする?忙しいって言っても…ここ最近暇だし、いつでもいいよな?
特に仕事も入ってなかっただろ?」
「うん、動くような行事は無い」
一ノ瀬の言葉に、結城は一ヶ月の予定表を眺めて答える
結城の隣で紙に落書きをしていた宮内は顔を上げる
「…これで私もお仕事終わりかな?」
「いや…京くんの出方によってはまだなんじゃない?」
「ん~…まぁ、面白いからいっか~」
宮内がそう言って笑うのに、結城は信じられないといった風に「あれが…楽しい?」と答える
「楽しいよ?なんというか、だんだんコッチにヤンデレていく感じが」
「よし、わかった、もうお前黙れ」
宮内が楽しそうに言うのに結城はバッサリと冷たく切り捨ててそれ以上の発言を止める
塚本が少し考えて口を開く
「…まぁ、なんとなく海部さんの気持ちは分かるよ?自分が一番かわいそうになる時期っていうか」
「「そんな時期来なかった」」
その発言に、結城と一ノ瀬はタイミングぴったりに答える
それに思わず結城は笑ってしまう
「うわ、コイツと発言被った最悪」
「え~!そういうこと言う!?」
「同レベルの奴だと思われたらどうするんだよ!」
「いや、同レベルだから、今までも何回同じはつげ…」
「それじゃあ、海部さんが来ていい日だけど本人に任せて良いよな?」
一ノ瀬が大げさに嫌がるのに、結城はまた抗議するが、ものの見事に無視して本題に入られる
結城はいつものことなのでため息を吐いて、一ノ瀬に答える
「…それでいいと思う」
「うん」
「いいよ~」
他の二人も同意を示す
「でも、誰がメール送る?私と悠斗くんはアウトじゃない?
まあ、メール送ってきてるしそれくらい大丈夫だろうけど」
「じゃあ、私が送る」
と塚本が携帯を取り出して、手早くメールを送る
一ノ瀬はその様子をみて大きく息を吐いて椅子に座る
「これで一段落つけばいいな…でも、海部さん…あのメール京くんにも送ってるのか?」
一ノ瀬は言いながら自身の携帯で一斉送信のあて先を確認すると…
しっかり、鳴滝京の名前とアドレスが記されていた
「…これ、大丈夫か?」
「…海部さんからしたら、しっかり謝って終わらせたいんだろうけど
京くんが聞くとも思えないし…その日は聞いて休むんじゃないかな…?」
「…それで済めば良いけどな、何かしら夢で仕掛けてくるだろうな…
謝りに行く心をくじくようなことは…」
確実にあるだろう、四人はそれに少しだけ暗い思いが胸をよぎったが、それをすぐに振り払う
「まぁ、大丈夫だと信じよう、宮内と織枝のおかげでメンタルも回復してるだろうし」
「いや~ますます歪んだ愛情になってるかも…」
「そのときは二人で全力で受け止めよう舞ちゃん!」
「よし、お前らそのまま望みどおり斧で真っ二つにされてこい」
二人が盛り上がるのに、結城は二人に冷たい言葉を浴びせると、む~と不満げな声を背中に受けて立ち上がる
「とりあえず…今夜は皆夢を見るように意識しよう、
海部さん一人じゃあ色々不安すぎて…」
「…だな、解決にようやく向かってるんだし」
一ノ瀬そして宮内と塚本も頷いて同意する
その夜行われるであろう、巧妙な罠に四人はそれぞれに覚悟を胸に抱きながら…