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「誰か」の理想郷  作者: ナキタカ
「誰か」の理想郷
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十九日目~少し~


夕方、未だに強い橙色の光が差し込んでくる病室で海部は一人

ベットに座る形でぼーっと考え事をしていた


(やることない…本読もうかな…)


そう思いながらカーテンを閉めて、傍においてあった本を開く

だが本の中に意識が集中できず、ただただ並んでいる文字列を眺めているというだけであった


(…夢だけど少し痛かったな…)


そう思い、昨夜の夢でぶたれた頬を触る

結城や一ノ瀬がやるならまだしも、相手が相手なだけにその思いには答えたいと思っていた

しかし、そう思うと同時に自分が一ノ瀬と結城にどんな感情を抱いているのかわからなくなった


(…私は…一ノ瀬と結城が嫌いなわけじゃない…いや、嫌いって認めたくないだけなのかな?

 それとも苦手とか…でも…好きって聞かれたら好きだしなぁ…)


ただ、一つわかることはある

海部が何を思っていようと、きっとあの部員たちは受け入れてくれるのだろう


(でもまぁ、しばらくは重いままだろうなぁ…というか、変わろうと頑張ったら頑張ったでまた怒られそう)


そう思っていると、ガチャと音が病室に響く

海部はすっと左腕を毛布の下に隠して、入ってくる人物を見る


「「海部さん!!」」


入ってきたのは制服姿の塚本と宮内、学校帰りに来たのだろう

来ること自体は事前に知らされていたし、会っても構わないと自分が承諾した

どうにか会話をしなければと思っていた


「…悠斗たちの差し金か?」


自分で口にしておきながら、海部そんなことしかいえない自分に半ば呆れていた

せめて笑顔であれば冗談であると通じたのに、それすらできない


「まだそんなこと言ってるの?」

「あ…その…ごめん…」

「そんな弱らないでって…冗談冗談、そんなすぐ変われないって言ったじゃんか」


弱い声で謝る海部に宮内は笑いながら返す

ようやく説得そのものは届いたらしいが、その本質が変わる気配はまだ無い


「まぁ涼香ちゃんに言われたのもあるけど、やっぱ心配だったよ?海部さん抱え込んでただろうし

 昨日私がやられたこととか…」

「そうだよ!お前刺されただろ!」


海部が思い出して声を上げる、昨夜夢の中で塚本は槍で刺され立てないほどの痛みがあったはずなのに

彼女は学校にいったらしい服装である


「ん?意外と起きたら平気だったよ?傷の箇所も少ないから昼までには消えたし」

「よかった…」


安心したように言う海部、なんだかんだで彼女もまた誰かが傷つけば心配する余裕はあるのだろう

塚本は海部に近づき、相手の頭を撫でながら言う


「…京くん、これからも色々海部さんに言うだろうけど、気にしちゃだめだよ

 昨日のこともさ、あんまり考えないほうがいいって」

「約束はできないけど、努力する、だから撫でない!」



少し顔を赤くして手をのけようとする海部

だが、塚本はのける気配が無い、それどころか宮内まで参戦する

海部は二人を精一杯睨んで言う


「…なんだ、おちょくってるのか?」

「いや、弱ってる人間にはコレが1番だと思ったから…」

「…やめて、いいから、もう充分だから、お前らの愛は伝わったから」


必死で海部はいうと、二人は不服そうに撫でるのをやめる

開放されてふぅと息を吐くと、ベットの中に潜り込む


「海部さん、撫でられるの嫌い?」

「そうとも言ってない!」

「じゃあ私たちのこと嫌い?」

「それは一番違う!というよりなんなんだ塚本!調子のって…」


毛布の中から叫ぶ海部の姿に、宮内と塚本は思わず笑う

こんな風に、海部と過ごせたことなどいつ以来のことだったのだろうか


「…というか、お前ら部活は?今人手足りないんじゃないか?」


毛布から上半身を出して座り、二人に尋ねる


「そのあたりは考えてるって」

「そう、さすが″部長サマ″って感じ」


わざと強調して言うと、「そうだね」と塚本が笑う

宮内も笑っていたが、何かを思い出したようなそぶりをして、口を開く


「あ、聞きたかったんだけど…海部さんはさ、結局今は悠斗くんと結城のことどう思ってるの?」

「ん~それ聞く?」


少し困ったように笑って海部は言う


「というか、宮内さんそのあたり聞いてたのかと…」

「いや、全然…わたしは口すべらしただけだって…」


二人で話している間にも、海部は少し迷っていた


「やっぱまずい?」

「いや、全然…というか私もさっき考えてたんだけどいまいちわからないんだよね~」


海部は笑いながら前髪を軽く触って言う


「嫌いじゃないの?」

「さぁ?嫌いじゃないとは言えるけど、それももしかしたら部活に居たいから言い聞かせてただけかもしれない

 面倒って思われたのは勿論のこと気に食わなかったけど…」


塚本の問いかけに、先ほど自分で考えたのに付け足して言う



「宮内と塚本は普通に話せるんだけどな~…なんか、よくわかんない…いやわかってるっちゃかわってるんだけど…」

「…何?」


海部は言っていいものか暫く迷う…ここで言えば、確実にあの二人に流れる

ただ、黙っているのも二人に申し訳なかった


「…なんというか…嫉妬してたんじゃないか?

 あいつら、苦労したとことか見せないから、なんか勝手に上手くいってるように見えて」


適当に、まったく本気でもなんでもない風を装って海部は言った


「まぁ、考えがまとまったらメールで言うか呼び出すかするから」

「わかった」


海部の態度に今はこれでいいと二人は思った

下手に聞き出せば以前の状態に逆戻りする可能性も今は充分にあったのだ


「…というか、このこと絶対二人に言うよな?」

「やっぱり、嫌?」

「…」


海部は黙り込む、嫌と言われれば嫌なのだが、知らされる方が二人のためだとも…それでも


「ごめん」

「わかった、黙っとく…二人にもそう言っとく」

「あぁ…ごめん」


何度も謝る海部に、気にしないでと言いながら、塚本は別の話題を出した






「あ、そろそろ時間だし、私たち帰るね?」


それから、彼女が居ないときの部活の話、学校の話をしばらくした後塚本が言う


「あぁ…ありがとう、来てくれて」

「いやいや…それじゃあ!」


そう言って手を振る二人に海部もまた手を振り返す

ガチャと閉まった扉を見つめたまま、海部は一人考える


(…ああ言ってても多分バラされる…怖いな…)


息を大きく吐いて、海部は一人で天井を見つめる


(…私は…何が嫌いで、何が好きだったんだろう…アイツらの何が…?)


そう繰り返し問いかけていたがその日は答えが出なかった

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