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「誰か」の理想郷  作者: ナキタカ
「誰か」の理想郷
20/46

十八日目~似合わなくても~

―宮内が一ノ瀬と結城と合流した頃―


公園の近くの道路の上、二人の少女が巨大なカマキリを相手に戦っていた


「来ないで!」


襲い掛かってきたカマキリに、ギュッと目を瞑って銃を乱射するのは塚本

相手はその場に倒れて、そのままその姿を消す


塚本の背中の向こう、カマキリ相手に斧を振り上げたのは海部


「悪い、鎌使いならもっと質悪いの知ってるから…」


そのまま、カマキリの前半身を真っ二つにする

残った後ろ半身がヒクヒクと足を動かして、そのまま体は消える



二人の夢が始まったのはほんの少し前

気がつくとカマキリに囲まれていたのだが、相手が海部ばかりを執拗に狙っていたのを塚本が助けていた

海部はいつもどおり「帰れ」「逃げろ」といい続けていたのだが、諦めて戦わせていた


(…また武器奪って、宮内みたいになるのも嫌だし…)


そうなるならば、自分で身を守れる分戦わせた方が安全だと考えた



海部は虫の死ぬ前の動きが少し堪えたのか、口元に手を当ててそっぽを向く


「海部さん、たち悪い鎌使いって…また怒られるんじゃない?」

「…あぁ、そうだな」


肩に斧の柄をかけて、それを何度も位置を軽く調節しながら海部は笑って言う


(…私の前じゃ普通だなぁ…まぁ明らかに不自然だけど)


塚本は結城から彼女がどんな態度だったかを聞いていた

先ほど帰れ逃げろと言われたものの、彼女が言うほどきつくもない

だが、海部が大人しく説得を聞く性格とも思えない

おそらく…演じているのだろう、迷惑をかけないように、必死に


「どうする?こんままでもお前は巻き込まれるだけだぞ?」

「でも、京くんが暴走してるんでしょ?だったら私だって…」


海部は口を開きかけるのと同時に、塚本は「うるさい黙れ」といわれるのを覚悟した

が、海部は一旦口を閉じた後


「…お前がそうしたいなら止めない」


と暗い声で呟いた

海部は無理して承諾するとき、いつも口ではいいというがその声が震えていたり暗かったり

とにかく感情を隠すのが下手だった…それを面倒だと、結城が時々言っていたのを思い出した




話していると誰かの足音が聞こえて二人は背をあわせて武器を構える


「塚本、離れろ…お前まで敵だと思われたら困る」

「海部さん、私は大丈夫だから」


その言葉に海部はため息を吐く、なぜどいつもこいつも自分は冷たいと言っておきながらこう構ってくるのか

理由くらい言われなくてもわかっていた、しかしそれを絶対だと証明する証拠も態度も海部自身は見つけられなかった


海部の側からその足音の主、鳴滝は現れた

右手に持った槍の先を地面に向けてゆっくりと歩いてくる


「塚本までそっち側なのかよ…がっかりした」


塚本は声に気づいて海部の隣で銃を持って警戒する

海部も斧を両手でギュと握って刃を自分の頭に持っていく


「がっかりって…私もあんまし揉め事長くしたくないし、それなら海部さんと話したほうが…」

「皆を裏切ったのは海部さんだろ?なんでそんな奴の味方するんだよ!」


言いながら槍を刺そうと走ってくるのに、海部は塚本より先に走り出して斧を振りかざすが

鳴滝は海部を避けると、そのまま塚本の体に槍を突き刺す


「!?」


海部は目を見開き、塚本の方に振り返る

塚本は腹部を刺されてその場にうずくまる


「お前に何が出来るんだよ…何が…」

「…ぁ…」


塚本は、刺されたところを抑えながら少しだけ揺らぐ意識の中で思った

鳴滝は…追い詰めたいのだ、海部を極限まで…


「…なんでソイツを巻き込んだ!!!!」


叫びながら、彼女はすぐ傍の電柱に斧をぶつけると、それは家の方に倒れて大きな音を立てる


「なんで巻き込むんだよ!!どうしてソイツを…ソイツを!!!」

「お前がやったからだ!お前も関係ないコイツを切った!そうだろ」

「…それでも…それでも…」


呟きながら斧を手元に戻して、鳴滝に近づき斧を振り上げる

鳴滝は素早くかわし、斧は地面に突き刺さる


「結局も僕のことも切って終わらせるんだろ?痛い目見せて止めたいんだろ?」

「それはお前だ!!」


斧を再び振りあげてるのに、塚本はどうにか声を上げる


「私は大丈夫だから!一旦止まって!」

「…けど!」


鳴滝の方を見ながら、それでも海部は一応斧を下ろして言う

ここで怒りに任せて戦っても変わらない、おそらく宮内と同じ目にあわせるだけだろうと判断するだけの余裕は持っていた


一歩一歩下がって、塚本の隣で海部は斧を構える


「塚本…」

「大丈夫…だから、ここから…」


言いかけるのに、鳴滝も海部に近づいていき口を開く


「…海部さんは前は違った、もっと俺たちにとって何が正しいか考えてくれてた」

「違う、今も考えてる…考えてる…」

「どこがだよ!悠斗も結城も倒すことが部活のためだったのか?」

「違う!それは違う…違うんだ…それは…」


だんだん追い詰められている海部にこれ以上何も聞かせたくない

塚本は止めようと口を開こうと立ち上がるが、増してきた痛みに思った声を出せない

ただ、うぅと痛みに苦しむ声を出すことしか出来ない


海部は塚本の方を見て、相手を心配そうに見つめて屈む

その様子に鳴滝はまだ海部を追い詰める


「海部さんが変わったんだ、自分勝手に感情吐き出して…それもその結果だよ」

「……」

「全員巻き込んで滅茶苦茶にして…苦しめて…」


海部の表情が読めなくなっていく…

塚本が助けを求めようと後ろを振り向くと、そこに…結城、宮内…そして一ノ瀬

しかし、一ノ瀬は足を引きずるように無理やり走っているのか、その顔は苦しそうであった


「…織枝!海部さん!」


結城が声を出すのに、塚本は二、三歩近づく


「織枝…その傷…」

「京くんにやられたんだけど…今は海部さんが…また追い詰められてるから…」


その間に、宮内は海部の傍に寄り声をかける


「海部さん!」

「…みや…うち…?」


海部は相手の姿を見ると完全に震えた声で言う


「ちっ…」

「京くん!なんでこんなことするんだよ!俺たちは…」

「…いくら怪我しててもこの人数じゃ…」


一ノ瀬の声も聞かずに何処かに走り出す鳴滝を追いかけようとするが、一ノ瀬は足の痛みにその場に倒れそうになる


「悠斗くん!」

「…悪い…それより…海部さんは?」


結城に手を貸してもらい立ち上がると、二人は海部の方を見る



「なんで…来た…なんで私のとこに…なんで…私は…」


彼女は、震える声で俯いて言う


「なんでって…部活の仲間だし、それ以前に友達だし…」

「…でも…でも私は…お前らに…!」

「そんなの…気にしてない」

「嘘なんだろ、私をなだめたいだけの…面倒なだけの…」


宮内の声に、ただただそう繰り返す海部


そうやって俯いたままただただ繰り返す海部

…それが暫く続くとパンッと言う音…突然の、平手打ち


海部は状況が理解できず頬を触って宮内を見る

宮内は大きく息を吸い、そして言う


「…いい加減にして!」

「…!!」

「私も!結城さんも!悠斗くんも!織枝も!みんなどうでもいい奴に時間裂くほど暇じゃないの!

自分がそんな後ろ向きなの、周りがどう考えてるかわかってるならやめたらいいじゃん!

そんなんやってたら、本当に見捨てられるのわからない?」

「…」


海部はただ宮内の方を見つめているだけだった

宮内は息を吐いて結城の方に歩きながら言う


「あ~もう…こういうこと言うキャラじゃないのに何言わせるかな…」

「…そう…だな、ごめん…」


海部は少し頬を緩ませて言う


「…まぁ、これから考えてくれるならいいけど…まぁそんな急いでは期待して無い」


宮内も相手に振り向いて言う


その後ろで…


「…ねぇ明日大雨とか降るんじゃない?」

「いやいや、大雨とかじゃねぇだろ、洪水だろ洪水」

「…ハルマゲドンだって、絶対、明日全部滅びるよ…」


「アンタら人がせっかく真面目に説得したらこれですか」


塚本、一ノ瀬、結城の三人は宮内の行動に好き勝手言っている

宮内は振り向いて笑顔で海部に言う


「…海部さん、斧貸して?」

「そうだな、三人とも失礼だな、せめて槍が降るとか…」

「それ海部さんも酷いよ!?」


そのやりとりを聞いていたのか、一ノ瀬はいつものふざけた調子で言う


「やばい!殺《や》られる!逃げるぞ!」

「ちょ!悠斗君!?怪我してるんじゃ?」

「置いていくな!私は!」

「結城…あぁ、惜しい奴をなくしたよ」

「勝手に殺すな!」


走り出す一ノ瀬に塚本は言うが彼は走り出してそのまま止まらない

結城も慌ててその後を追いかける


「あ、鎌落ちてた…待てアンタら!」


結城と一ノ瀬を追いかけようとする宮内をみて、海部は声を出して笑う


「相変わらずだな」

「だね、楽しいよね…こういうの、京くんとも戻れたらいいけど…」


塚本が不安そうに言うのに海部はどうだろうな、と返してただ前ではしゃいでる三人を見て再び笑っていた

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