十四日目後半~それでも~
「ぐっ…」
吹き飛ばした誰かの方を見ると…狼の爪に裂かれた海部の姿があった
結城はすぐさま立ち上がり、傍に走り寄る
海部は周囲の敵を散らすと、力が入らないのか地面に膝をつく
「あぁ…もう、だから一人で戦うのは迷惑なんだって…」
そう言いながらも、海部を庇うように剣を抜く
幸い、残りは三匹…庇いながらでも結城一人で倒せる数であった
敵が先に、耐え切れなかったのか結城に飛び掛るのを迎え撃つように切り裂き
もう一匹が飛び掛ってくるのは、避けたあとその背に一発剣を突き刺す
敵が消えたのを確認して、残る一匹に剣を構えると狼は暫く唸っていたが、やがて背を向けてどこかに走り去る
…敵の援軍が来る気配もなく、どうやら逃げたらしかった
「…やっと終わった…」
結城は戦い終わった安堵と疲れでその場に座り込む
しかし、頭の中にフッと先ほどまで考える余裕のなかったことが浮かぶ
(…宮内…遅すぎない?)
あれから戦っていたから長く感じていた、ということもあるのがろうが
それでも宮内が帰ってくるのが遅いように感じる
あたりは宮内の家の近辺、迷っているわけが無い
考えていると、海部がゆっくりと立ち上がり、鎌を支えにしてフラフラと歩く
「…動かない方がいいと思うけど…」
言っても無駄だと思いながら、結城は一応声をかける
「…武器…」
そう呟く海部の声に、先ほどまで群れのいたほうを見る
そこには、彼女の斧が落ちている、おそらく宮内から鎌を奪ったときに落としたのだろう
結城は立ち上がり斧の方へ歩いていき、両手で斧を持ち上げる
自分の剣と同じでそれほど重量は感じない…確かに先端の刃で不安定は不安定なのだが持ち運べない重さではない
結城は海部の隣に斧を寝かせると、手を差し出して海部に言う
「鎌かして、宮内まだ戻ってないし…探してくる」
「…私も探す」
「そんな体で何できるの?迷惑だって言ってる」
海部は少し渋ったものの、鎌を差し出して自分の足元にある斧を拾い上げてそれを支えに変える
結城は受け取った鎌の重量を確認する、やはりそれほど重いわけではない
これなら歩ける、そう思って宮内の走り去った方へと歩こうとするが、歩は止まる
そこには…見慣れた人影…
「…京くん!」
思わぬ援軍が現れ、結城は声を出す
この状況だ、人では少しでも多いほうがありがたかったのだ
「…京くん、宮内見なかった?」
しかし、相手は黙って俯いたままだった
それに直感的に剣を抜いて構える…味方ではない、と判断するのに充分だった
「なんで結城がいるんだ…僕は…僕は…」
呟く鳴滝を警戒しながら結城は声を上げる
「もしかして…今回の夢って…京くんが…?」
その声に、鳴滝は顔を上げて答える
「そうだよ…でも結城が来るようには望んでない…海部さんと宮内だけ呼んだ…」
「何のために」
あくまで冷たく突き放すように言う、心の奥底で
(また…面倒な奴が増えた…)
そう苛立って呟きながら
「部員の仲ごちゃごちゃにしたのは二人だろ?だったらなんらかの罰くらいあってもしょうがないだろ?」
「私はそんなの望んでない…」
「望んでないとかじゃない…そんなんじゃ…」
結城はため息を吐いて後ろをちらっと見る、この状況では海部は相手の滅茶苦茶な理論でも素直に受け止めてしまいそうだった
「…聞くけど、宮内は?」
結城が尋ねると、鳴滝の隣から巨大なカマキリが現れる
その背には、ぐったりとして切り傷を受けた宮内を乗せて
「…宮内!!」
海部は目を見開いて叫ぶ、が宮内の返事は帰ってこない
「ある程度勝てるかどうか不安だったけど、丸腰だったのが幸いだったから…楽だった」
その言葉に、海部は俯いている…
結城は剣を抜いたまま海部の方に体を向けて見つめる
「…ほら、海部さんは何も変わってないだろ、だったらもう倒した方がいいんだ…」
鳴滝が少し狂ったような笑いを含んで呟くと、結城は剣を振り上げる
そして
「ごめん、理由はあとで話すから…」
と言うと結城は一歩踏み込んで、海部の体を深く切り裂く
海部はカハッと声をあげて倒れこむと、夢から姿を消す
「…結城も…結城もやっぱり考え直したのか?倒した方がいいって…」
「このままソッチの話聞かせたら海部さんがまた抱え込むから追い出しただけ」
そう言って、鳴滝の方に再び剣を構える
「…私は何も望まない、海部さんがまた私と話したいならそれでいい、縁切るならそれはそれまで…そんだけだよ」
その言葉に、鳴滝は声を荒げる
「…やっぱりそういうんだな!悠斗も!結城も!何も望まない!何もして欲しくない!
なんなんだよ!海部さんは宮内と全部壊そうとしたんだぞ!?それでお咎めなしか!」
結城は半分哀れみさえ覚えながら、一気にカマキリの方に踏み込んで切り裂く
敵は、反応するものの間に合わずそのまま消滅する
結城は、宮内の体を腕に入れると鳴滝から距離を離す
「お咎めなしとは言って無い…少なくとも海部さんは海部さんなりになんとかしたくてもがいてる
…それだけは…認めたいだけ…
それに宮内はただの犠牲者だと思うんだけど…海部さんに運悪く話を聞かせちゃったっていう…」
「…知るか…知るか!僕は!僕は!」
そう言って、鳴滝は槍を闇雲に結城に刺そうとする
が、結城は剣で軽くそれを弾いてかわす
「…くそ…そもそもなんで邪魔が入ったんだよ…」
「私だって知らない」
苛立ちながら相手が言うのに、結城は投げやりに返す
「そもそもあの時だって…悠斗も塚本も呼んでないのに…」
ぼそぼそと相手が呟いている間に、結城は二歩三歩と相手から逃げる体制をとる
そろそろ目が覚める…それまでの辛抱だと、直感的に体が感じる
「…それじゃ、あんま勘違いしないで…」
結城はそういい残すと、走り去る
その間に、自分の意識はその夢からは消えていった
――――――――――――――――――――――――――
「…!!」
真っ暗な部屋の中、結城は目を覚ましてあたりを見渡す
そこが自分の家であることに安堵を覚えて椅子にもたれかかる
(…あぁ…もう!海部さん以上にめんどうなことになった…)
髪の毛をわしゃと掴んで、結城はため息を吐いた
このこともまた放っておくわけにはいかないのだろう
(とにかく…なんで呼ばれても無いのに私がアソコに居たのか考えないとだし…
まあ、おおかた海部さんがらみなんだろうけど…)
せめて着替えてからベットに潜りこもうと、パジャマをがさごそと探りながら結城は考える
「…宮内が動けるようなら…明日聞かなきゃな…京くんに会ったのはあいつだし…
てか、虫相手で無事だったのかな…」
ぼそぼそと呟いている間に着替え終わると、体を軽く伸ばしてから結城は再びベットにもぐりこむ
そのときは、願いが届いたのか妙な夢は見なかった