十四日目前半~再び~
「ただいま~」
乱暴に玄関の扉を引いて、帰宅したのは結城
時刻は既に9時をまわっており、部屋の中の明るさに彼女はどこか安堵を覚えて入っていく
バタン、と玄関と同じように大きな音を立てて自室の扉を開き、カバンを投げ捨てるように床において
自分の机の椅子に乱暴に座る
「…疲れた…」
時計を見てその時間にゲンナリとしながら
着替えもせずに体を机に預けてぐったりとしている
というのも、部活に様々な用事やら、ハプニングやらが多発してしまいその処理に追われていたため
部員が少なくなった部活で、作業をするのに一人でも居なくなるというのはなかなかに苦しい状況であった
ふと、その居なくなった一人に対しての考えが思い浮かんだ
(ん~…部員でお見舞いくらい行けたらいいけど、海部さんが望まないだろうしね…)
あの日、海部が自殺を図った時以来、彼女は変な夢を見ることもしていない、海部からの連絡もない
平和といえば平和なのだが、海部の性格を考えるとこのまま無事に終わるとも思えない
どうにかして相手の状況を探る機会を手に入れたかった
(ま、私と悠斗くんがいかなきゃいいか…あ、最悪私だけいないっていうのも…)
しかし、相手がコチラを良く考えていなかったこともあり、結城自身が様子を見に行くというのはあまり得策では無い気がした
なら、宮内か塚本に任せた方が、確実に元の…少なくとも、部活に来ていた頃くらいには引き戻せると思っていた
(…今は…私もあんまり会いたくないかなぁ…)
そんな風にぼーっと考えているうちに、彼女はいつの間にかまぶたを閉じていた…
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結城が意識を戻したのは、朝になって体を冷やした机の上ではなく彼女の家のすぐ傍のスーパーの外
自分の腰元を見て、そこに剣があるのを確認してはぁとため息を吐く
「…今は会いたくないのに…」
そう呟く、がよくよく考えると海部が居ると決まったわけではない…
しかし、この夢を望んで見るのはもう海部以外考えられない状況でもあったこともあり、結城は彼女が望んだと考えた
「…とりあえず、海部さんと私以外に誰か居ればいいんだけど…」
そう言いながらとにかく歩を進めた、何処に行けば会えるのかなどということは分からない
ただ、この状況をなんとか一番何とかできそうなのはかつてここを望んだ宮内だろう
自転車を取りに帰ろうとしたが、釣り下がった剣が邪魔なのと、獣に襲われたときのことを考えて歩を止める
「…まぁ、歩いていける距離か…」
めんどくさそうにそう呟いて、そのまま宮内の家の方へ歩いていく
―宮内宅前―
夢の中だ、そんな律儀に行動する必要も無いと感じながらも、結城はインターホンを押して返事を待つ
が、返事は無い
「…そっか、夢の中だからここに居るって訳じゃないってことか…」
落胆して、彼女は宮内の家に背を向けて考える
このままアテもなく彷徨うのも得策ではない、しかし何も起きないように逃げるということも出来ない
相手はコチラの家を知っているのだ、帰ったところで押しかけてくる可能性はゼロではない
すると、家の近くでなにか騒がしい物音がする…どこかで聞いたことのあるような声が、二つ
そちらに向かって、結城は全力で走り出す
声の主は、宮内と彼女を守るように立つ海部、その向こうには黒い獣…鳥、狼、ライオンなど大勢の獣
そして何故か海部が以前宮内の使っていたと思われる鎌を振り回している
「海部さん!宮内!」
結城は剣を抜きながら二人に近づいていく、宮内が先に気づいて結城に走り寄る
宮内は何箇所か傷を負っている上息を切らしていて、体力を消耗していたようだった
「結城さん!よかった…」
「宮内、何この状況…というか海部さんは…」
宮内は海部の方を見ながら途切れ途切れに言う
「…私がいつの間にか夢の中に居て…あの大勢の獣に襲われて…
逃げろって言うんだけど…私も戦ってたら…突き飛ばされて…その拍子で落とした武器取られて…」
「わかった…海部さんの武器は?」
「わかんない…けど多分あの群れの中…とりあえず、私も他の武器探してくるから…」
結城は頷いて、海部の方へ走り出す
「無理はすんな!」
「そっちも!」
宮内は反対方向へ向かい、走り出した
「海部さん!」
結城が叫ぶと、海部はちらりとコチラを見るが、気に止めず目の前の敵を鎌で裂いていく
「海部さん!なんで…」
「うるさい!帰れ!お前は宮内のとこに居ろ!」
海部は突き放すように、結城に叫ぶ
結城は、この一言でもう海部が何を考えているのかの見当がついた
(また、抱え込んでる、自分ひとりで…)
面倒くさい奴だと思いながらもここで見捨てるとまた何をしでかすかわからない
結城は目の前に飛び掛ってきた獣を切り捨てる
「手を出すな!私がやる…私が…私が全部…!」
「海部さん一人で倒せるわけ無い!大人しく手伝われてて!」
「うるさい…!」
結城の手伝うという声にも耳を貸さず、ただひたすらに自分が戦うといい続ける海部
この性格には慣れていたつもりだが、ここまで酷いと流石に鬱陶しいとも思えるが目の前の敵にそれをぶつけるように切りつけた
「なんでコッチに来るんだ…もういいだろ!見捨てろよ!」
「それができたらしてるの!こんなとこで見捨てたら見捨てたで文句言うんでしょ!?」
「黙れ!」
協力している、というよりもただ単に同じ敵を斬っているというだけの二人だった
そのためだろうか、結城の隙をついて狼が突進する
「ぐっ…」
「結城!」
突き飛ばされて、地面に倒れる結城に海部が叫ぶが、彼女の目の前にも敵が居て近づこうにも近づけない
結城は地面に手をついて武器のありかを探す幸い剣はそれほど離れていない、
再び立ち上がって剣を構える…が完全に包囲されてしまったらしい、背後にも気配を感じる
「…はぁ…くそっ……」
苛立ちながら、目の前に斬りかかる
しかしアッサリと獣は散り、結城の背中に回る
「結城!」
海部がふたたび叫ぶのと同時に、結城の体は先ほどよりは軽く突き飛ばされる
結城が、地面から突き飛ばした相手が居る方向を見ると
狼の爪で裂かれる海部の姿があった