十三日目~あの時~
海部の話を聞いた翌日
悠斗はいつものように学校につきカバンを下ろす
すると、先に来ていたらしい鳴滝が声をかけてくる
「悠斗…少し…海部さんのことで話していいか?」
「ん?別にいいけどよ…」
少しだけ妙に思ったが、彼もまた海部のことが心配なのだろうと一ノ瀬は解釈した
「で。どうしたんだよ京くん」
「…海部さんがなんであんなことしたのか、もっと詳しく知りたくてさ」
鳴滝は俯きがちにそういう、
それでも、一ノ瀬は少し迷った…昨日のこともまた、結城以外に話すべきでは無い気がしていた
それに誰があの夢を望んだのかもわからない、海部の様子からして少なくとも彼女の望んだものではないようだった
「…あ~…なんつ~か、考え方のすれ違いじゃね?
多分だけど、海部さんも海部さんなりに考えてて、それが俺やアイツ…結城と違っただけだろ」
投げやりを装って顔を別のところにそらして言う
あまり関係の浅い人物を深く関わらせるのも申し訳ないし、自体を複雑化させることもあるからだ
「じゃあ…海部さんが夢の中で結城に切りかかったときのことは」
「あ~…悪い、今はまだはっきり話せない…」
そういって顔をそらしたまま言う、話せないわけではないのだが…あまり思い出していい気分がするものでもなかった
ふと思い出したことがあり顔を上げて、一ノ瀬は話をそらすように言う
「あぁ…そういえば、京くんが海部さんとあったときの話もあんま聞いてなかったよな?」
「あのときか…なら…」
と鳴滝が言いかけるのと同時にチャイムが鳴り響く
「じゃあ、また後で」
鳴滝はそう言って慌てて自分の席に戻っていく
担任の先生がHRを始めるように促す声が聞こえて、一ノ瀬もクラス委員の声に従い起立、礼の流れをする
先生の話を半分流しながら、鳴滝に聞かれたあの時…それも結城が倒れてからのことを思い出していた
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斧で深く切り裂かれたハズの結城の体は、夢の世界の仕組みなのか消え去った
それなのに、海部の体は生々しい返り血を浴びて、ただ、海部はそれに目を見開いて両手を見つめ茫然としていた
宮内も不安げな表情になりそれを見つめおり、声をかけようとした瞬間だろうか
聞いたこと無い、人から発することが出来るのかという絶叫…
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(…昨日声かけといたけど…あの程度で前向きになるわけ無いだろうしなぁ…
それに…昨日のあの夢…誰が…)
はぁ、とため息を吐いたとき丁度HRが終わったのだろう
周りが先ほどよりも強くざわめきだした
(…まぁ…考えてても仕方ないか…)
そう切り替えて、彼は授業の支度を始めた
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「…なぁ、悠斗…朝話しそびれたことだけどさ…」
「あぁ…海部さんと俺が始めて夢の中で会ったときか…」
帰り道、同じ方向に変える一ノ瀬と鳴滝はよく話をする
鳴滝のほうから切り出すのも珍しいことだったが、一ノ瀬はさして気にせずに続ける
「…あの時…多分もう海部さんは悠斗と結城のこと嫌ってたんじゃないか?
何か俺…そういうこと聞かれたし…」
「あぁ、俺らのことどう思ってるか?とかか?」
嫌っている、のとどこか違うと言いたかったが訂正するのもややこしいと感じてその場は流す
「うん…そのときは普通に頑張ってるんじゃないか?とか言ったら暫く黙り込んでから…切りかかってきて…」
「…そっか…」
一ノ瀬は海部が何を考えていたのか予想しようとするものの上手くいかない
元から、出来るはずのことでも無いとも考えてはいたのだが…
「海部さん、結構ネガティブだしな…」
「まぁな、でもまぁもう大丈夫なんじゃないか?」
そう、期待しながら一ノ瀬は軽い調子で返す
しかし、すぐに返事がこない…相手は俯いてなにが考え込んでいるようだった
(…まあ…邪魔するのも悪いか…)
そう思って一ノ瀬もまた、結城にどう伝えるのか考えながら帰り道を歩いていった…