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「誰か」の理想郷  作者: ナキタカ
「誰か」の理想郷
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十二日目~吐き出した声~

下校道…にしてはとても暗く街頭の明かりだけが頼りな中、塚本は国道沿いに立っていた

それは、海部が使っているよりも一本北の、比較的ファミリーレストランなどが立ち並ぶ道であった


(雰囲気が…おかしい…?)


そう思って、思わず塚本が調べたのは腰の辺り…そこにあるのは…もう釣り下がる筈の無い、拳銃


海部の自殺未遂から3日、部員達は宮内から全ての事情を聞いていた

宮内がそうした理由も、海部が道を外した大体の理由を

この夢を望んで見れることも、そして…もう望まないことも…


(…望まないってことは…海部さんが…?)


そう思った塚本は、走り出す

当ても根拠も無い、ただ足が向く方に走り出す、おそらくそこに海部はいる…そう思った


感覚的に20分間程、中学時代運動部だった頃と、いやそれ以上のペースで息も切らさずに走り続けた

それが出来るのも、おそらく夢であるおかげだと思い、周囲を見る


(…ここ…見たことある……そうだ!涼香ちゃんの家の近く…!)


フッと記憶が過去に呼び戻される

部員で作業をしたりするのに少しだけ尋ねたことのあった結城の家の近くの古本屋だった


(でも…海部さんだったらなんでわざわざこんなところに…?)


海部が呼んだのなら、わざわざ決裂した相手の家まで来て呼ぶのだろうか

…それとも…海部が結城との仲をとりもってほしいからなのだろうか…


考えていると大きく響き渡る鳥の声がしてそちらのほうを向く

すると、結城と海部とあわせて三人で倒した黒い大きな鳥が5羽、襲いかかっている

鳥の群がる隙間、よく見えないがその誰かは塚本を見つけたのか遠ざかろうと走ろうとするが黒い鳥に阻まれる


「海部さん!?海部さんなの?」


塚本は叫び、相手の背後に回る一羽に向かって弾を乱射する

鳥は黒い液体を体から漏れ出させて地面に落ち、消える


「…っ帰れ!」


そう叫んだ声は、予想通り海部であった

しかしおかしい、彼女は武器を、斧を持っていたはずで少なくとも戦えているはずだった


しかし、彼女は無抵抗にくちばしにつつかれ、爪に裂かれているだけだった


海部に近づく塚本に、一羽がその赤い目を向ける

そして塚本の方に飛び、突進してくる

その向かってきた体にむかって銃を撃つものの、相手はそれを軽くかわしてその大きな羽を塚本にぶつける


「…ケホッ…」


近くの建物にぶつかり、手元を見ると銃はない…よく見ると、塚本に立ちふさがる

鳥の向こう側にはじき出されてしまったようだ


二匹が、塚本を囲んではばたき大きな声で鳴く


「塚本!…っ…!」


海部が銃を拾おうと何歩か歩くものの、その背は残った一羽に引き裂かれて彼女は倒れこむ

しかし、意識は残っているのだろう、彼女の体が夢から消える気配は無い


(また…助けられない…?)


塚本がそう思い、爪を向け向かってくる鳥にギュっと眼を閉じる



「ギャアァァァ」

「…ふぅ…ギリギリセーフ!」


そう言って額を拭って塚本の前に立つのは一ノ瀬

先ほど、襲い掛かってきた鳥の姿は見えない…おそらく消えたのだろう


残ったもう一羽が飛び掛ってくるのをよけると、相手は建物をお構いなく壊していく


「塚本!銃拾って海部さんのとこ行ってくれ!」


「わかった!」


一ノ瀬が叫ぶのに、塚本は頷いて銃の元に走り素早くそれを拾う

海部も力をふりしぼったのか、二歩三歩大股で進む


「喰らえ!!」


塚本が叫び、銃を乱射すると鳥は上空に飛び立ちそれを避けるが、そこに吹き飛ばされたように飛んできたもう一羽が激突する

地面にたたきつけられた鳥は、二羽とも消滅した



――――――――――――――――――――――――――


「…悠斗くん、なんでここに?」


塚本の問いに一ノ瀬は両手をあげて首を振る動作をする


「さぁ、俺も気がついたらここに居た…そしたら、塚本さんが戦ってるの見えたから…」

「そっか…」


二人の話を、道に座りながら海部は大人しく聞いている

というよりも、その体は傷だらけなことから…おそらく彼女は逃げる力が出ないと言ったほうがいいのだろう


「…海部さん」

「何?」


塚本が名前を呼んでもそっけなく返す


「…やっぱ、俺居ない方がいいのか?」


一ノ瀬がそういって気まずそうに言うのに、海部は少し辛そうに口を開く


「…そういう訳じゃない…」

「じゃあなんでそんな声…」

「お前らの所為じゃない、ついでに言えば、宮内でも、結城でも、京くんの所為でもない!」


俯いて、震える声で海部は声を張り上げる


「…どうしたの?」

「…私は…私は…私が悪かったのに…それなのに…二人の所為にして…」


塚本はしゃがみこんで背中を優しく撫でる

一ノ瀬も、ただ黙ってそれを聞いているだけだった


「私は…お前らばっか憎んだ…いっつも何もかも評価されるお前らが…いつだって認められて、好かれてて…

 表じゃ何も考えて無いそぶりばっかするお前らが…

 わかってたんだよ…ホントはそっちが一番正しいって…私が…間違ってたんだって」

「そういうんじゃないだろ!?」


海部が一気に吐き出すと、一ノ瀬は声を張って言う

それに、海部は口を閉じる


「こういうのは誰が正しいとか、そんなんじゃねぇだろ…俺らには俺らなりに部活をどうにかしようとしてただけで

 それが単に海部さんとは違うだけで…だから俺も悪くないし海部さんだって悪くない!」


それでも、海部は俯いて涙を流したままであった


「…そんなこと…言えるのが…また…さ…」


海部は立ち上がって、フラフラと歩き出す


「どこ行くの!?」

「…さぁ…?」


塚本がそう呼ぶのに、海部はそう適当に返す

ただ、振り返り二人に向き合って言う


「…ありがとう…助けてくれて、話聞いてくれて…

 退院したら…また、頑張ってみる…」


そう、途切れ途切れに言うと

三人の視界は消えていった


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