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「誰か」の理想郷  作者: ナキタカ
「誰か」の理想郷
12/46

十一日目~理由~

『昨夜未明、~~市~~町で海部要さんが、自宅のキッチンで倒れているのが発見されました

 その後まもなく病院に搬送されましたが意識不明の重態です

 調べによりますと、要さんの手首に深い切り傷があり、倒れていた付近に血の付着した包丁が落ちていたことから、自殺未遂として…』


「…海部さん…?」


結城は、思わず相手の名前を呟いた

昨夜、夢の中で出て来た相手は相手を恨むほどに余裕はあったはずだった、そうだった

いくら面倒くさいと思っていても、知り合いが自ら死を選ぼうとした

その事実は衝撃的でいろいろなことが思い返された


「海部さんって、ちょっと前までよく遊びに来てた子じゃない…」


母の声にフッと現実の世界に呼び戻されたような感覚がして、自分の体の痛さも蘇ってきた

ふりかえって母にそうだよ、と返す


「…ごめん、朝起きたから体痛いから寝てていい?色々メールとかくるだろうし…」

「そうね、急なことだし一応寝といたら?」


そう言って眠ることに関しては咎めがなかったので、結城は言葉に甘えて部屋に戻ることにした


ベットに寝転んで携帯を見ると、複数のメールが届いていた


一ノ瀬や、塚本、鳴滝からどうしてこうなったのか、防げなかったのか、何が出来たのか

そういう内容がつづられているものが届いた

やはりこういう言葉ばかり浮かぶのだろうか


しかし、そうとしか言いようが無いのもまた事実だった


そして、次に開いたのは宮内のメール


『今からそっちに行っていい?体痛いだろうから寝てたままでいいから、聞いて欲しいことがあるの』


結城は暫く迷っていた、相手は海部を追い込んだ人物かもしれない

それを今聞いて自分がどう受け止めるのかの見当がつかなかった


…それでも、彼女は踏ん切りをつけて『いいよ、1時くらいからなら』と返した

純粋に出来るかどうかはわからないが出来る限りの掃除をしようと思っていた

それに体が痛いのにはある程度慣れていたのもあった


――――――――――――――――――――――――――


ある程度片付いた部屋、メールで既に『勝手に入ってきていい』と宮内には送ってある

ぼんやりとベットの中で横になりながら結城はただ相手をまっていた


ガチャと玄関の開く音がして、足音が部屋に近づき、そしてドアを開く

結城は念の為相手の姿を確認しようと体をベットの上で起こそうとしたが


「大丈夫、そっち行くから」


と声が聞こえた、正真正銘宮内の声であった

声音はいつもと変わらない様子に思えた


「…で、どうしたの?色々話してくれるつもり?」


ため息を吐きながらただ部屋のどこかをみて相手に尋ねる


「うん…本当はみんなの前でも話したいんだけどね…ま、先に誰かに言っといた方が皆に言うのも楽かなって…」

「そう…じゃ、とりあえず聞いとく…」


そういって結城は口を閉じる

宮内は息を深く吐いてから口を開く


――――――――――――――――――――――――――


…宮内が最初に夢を見たのはもう何週間か前であった


それは結城が見たのと殆ど変わらない感覚…人気がなくて、すごく静かな

自分の知ってる景色だった…

家でてすぐの国道で彼女はふと意識を呼び覚ました

そして、黒い毛で赤い目の獣が街をうろついていたのを目にした


「私もさ、これって戦うフラグかと思ったから武器拾って戦おうとした…そんとき拾ったのがあの鎌なんだけどさ

なんか…あの獣、私の言うことは聞くみたいで…変な夢だってあのときは思っただけだった…」

「じゃあ私が夢見たときのアレもお前の所為か!」


結城が少し声を出すと宮内は首を振る


「言うことは聞くって言ったけど、なんていうか…管理しきれないんだよね…あの世界広いから…」

「なにその中途半端…じゃあ何で助けたの」


ため息を吐きながら宮内は言う


「…まぁ、助けた理由は後でいうよ…とりあえず、なんか変な夢だって思ったよ…

 そしたら…夢に海部さんが出てきたの」


その言葉に、結城は唾を飲みこむ…ことの始まり、それくらいはちゃんと聞かなければならないことくらい

わかっていた


海部は、あの狼のような獣の群れに襲われていた

そのときには既に斧を振り回して戦っていた


「最初は、知り合いの出てくる普通の夢だと思ったし、あの…夢特有の″意識はあるのに体は勝手に動く″

 って状態になってさ…ホラ、結構前だけど帰り道で結城さんと悠斗君が話してたよね

 『海部さんって重いよね~』みたいなこと…それ、言っちゃって…」

「そしたら、本当は意識の繋がってる夢で、海部さんが相変わらず重く受け止めたってこと?」


宮内は頷き、そして続ける


意識が繋がってると気がついたのは、偶然一ノ瀬と結城が部活に来なかった日の帰り道


「…夢の中でお前に言われた…結城と一ノ瀬が私をどう思ってるのか…大丈夫、変なことはするつもり無いからさ…正直に言ってよ?」


海部にそう急に切り出された宮内は驚いていた、念の為相手にそのときの夢のことを聞くと

それは自分と全く同じ

…偶然では片付けられなかった


「変なことするつもりはないとかさ、もう何かやるよね…とか思いながらさ

 なんか雰囲気ちゃんといわないと私も危なかったし…肯定しちゃって…さ」


それからだった、海部が部活に来なくなったのは


「理由聞いたらさ…『二人から邪魔なら消えた方がいい』って…

 で、何かもうこのままじゃ本気でもっと早く自殺しちゃいそうだったからさ…言ったの

 『夢の中でくらいなら仕返ししてもいいんじゃない?』って」

 

不思議なことに、その頃には宮内が意識すると夢も見れるようになっていた

そして海部はそれを受け入れて、あくまで『夢の中で復讐する』ことに決めたのだった


「ふ~ん…で夢で狼けしかけてきたの?」

「…そんな感じだったんだけどね、急に海部さんに罪悪感きちゃったらしくて急いで助けたのがあの時

 で、助ける積もりなかったから鎌もなくてさ…ムチ落ちてたからその場で拾った」

「なんで海部さん直接助けないの…?」

「気まずかったからじゃない?」


結城はふ~んと返しながら考えを巡らせていく


「ようするに、ちょっと口滑らしたら相手が予想以上に大事に受け止めたと?」

「まぁ…そういうこと」

「…というか、だったらなんであんな無駄に黒幕臭出しながらでてきてたの?」

「う~ん…海部さんやりやすいかと思って?」


結城はため息を吐いてボスっと枕に顔をうずめる


「色々質問するけどさ…なんで塚本は巻き込まれたの?」

「味方にしたかったみたいだけど…よくわかんない」


宮内も、海部本人の行動ははっきりとはつかめていないようだった

こうなったら…もう、塚本と自分と三人で戦ったことも本人が冷静になるのを待つしか無いだろうと考えて、口には出さなかった


「…今回の自殺もさっぱりわかんない、多分また罪悪感なんだろうけどさ」

「私は別にやるならやるでいいんだけどさ海部さんがそう思ってるなら勝手にやればよかっただけだし…

 なにその中途半端な罪悪感…」


そう言いながらも、その″罪悪感″があるから結城は今までどこか海部を許せていたのだろうとも思っていた

下手に他人に当たれるよりも、よっぽどマシだと思えていた


「…まぁ…私の話せることは話したかな…あとは、海部さんが死んでないことを祈るだけかな…」


宮内は、なるべく普段の調子を装って言う

結城はそれに頷く


「そうだね…色々後味悪いし…死ぬのは流石に…ちょっと辛いかな…」

「あぁ、辛いんだ」

「私を何だと思ってるの!?」


ハハ…と少しだけ本当にいつもの調子で宮内は笑う


「それと…もうあの夢は意識しない…海部さんと話せるかもだけど…今は…」

「それがいいね…」


体を軽く伸ばしながら結城は言う、このまま海部を説得して何もかも終わって欲しかった…

この願望が、そう思った時点で打ち砕かれるだろうとうすうす感じながら



二人は、暗い気分をなるべくかき消すように、この事件以前の話をしてその日は別れた

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