十日目~狂~
「悠斗くん、京くん」
放課後、他の部員が来るまでの間結城は一ノ瀬と鳴滝の二人に相談を持ちかけた
塚本に対する海部の夢の中での態度、そして自分と一ノ瀬がどう思われてるのかを
「やっぱり嫌われてたのかよ…まぁ、予想は出来てたけど」
一ノ瀬は椅子を傾けさせて特に何の気もなしに言う
そして二人は暫く考え込む、が一ノ瀬は大した間も空けずに口を開く
「って言ってもな、俺ら海部さんのこと理解できない方だろ?しかもわかる奴は向こうの味方なんだし…」
「そうだよね~織枝が何も聞き出せないってことはこっちは殆ど手詰まりってことだし…
あぁ、前に戦ったときってどうだった?」
「俺はよくわかんねぇ…途中からだったし、京君が会ったよな?」
「僕も…あの時はいきなりだったし、出会ってすぐ切りかかられたし」
「そのときにはもうアウトってことか…はぁ…」
結城も机に頭を乗せて言う
暫くの沈黙が続いて、空気が重くなり始めた頃、鳴滝は口を開く
「殴ってとめるっていうのは…」
「確かに一番手っ取り早いし、私も最終的にはそれでいいよ?でもさ、もしそれで自殺なんかされたら色々やばいじゃん、互いに後味悪いしね」
「俺もそう思う」
しかし提案は二人から否定されて、再び考え込む…というよりも黙り込んでいるようにも見えたが
それに構ってしまうどころでもなかった
「…はぁ…でもとりあえずやってきたらそれなりにやり返すよ…そのときはどうなっても私は知らない…」
「まぁ、それが一番じゃね?」
そう、仮の決断を出したところで部室の扉が開き部員が入ってきた…
――――――――――――――――――――――――――
―その日の夢―
「…ここ…?」
街頭の明かりで結城がふと気がつくと、
そこは以前塚本が言っていた学校の近くの公園…海部と宮内の居た公園であった
そして、それがあの厄介な夢であることにすぐに気がついた
腰には、いつものように剣が釣り下がっている
「ここに来たってコトは、あいつらが呼んだってことか…」
そういって剣を抜いてあたりを警戒しながら歩いていく
あたりは夜のためどこから襲撃されるかわからない、あたりを見渡しながらゆっくりと人を探す
すると…ザッと地面を踏む音が聞こえて、そちらの方に構える
近づいてくる足音に唾を飲んで剣で切りかかる心づもりをしている…
相手の顔が見える頃になると、相手も格闘家のように構える…それは、一ノ瀬だった
構えた次の瞬間にはもう結城に気づき、姿勢を崩して言う
「なんだ…お前か…」
「ちょ、その反応冷たくない!?敵じゃないんだし!もうちょっと…」
「俺はお前を味方だと思ったことなんか無い」
「それは酷くない?」
と、いつものノリで一ノ瀬は結城に軽くつめたい言葉を言う
結城もいつものように返す、がそんな場合でもなかったことに気づき我に返る
「そうじゃなくて…とりあえず、織枝が言ってたのってこの公園だと思う」
「はぁ…で、いつ来るんだ?」
一ノ瀬は言いながら軽くパンチをするフリをして体を動かす
普段はふざけてやっているが夢の中だということもあるのか、それなりに様になっているのに気がつく
「やっぱ夢の中だし、動きやすい?」
「まぁな、漫画みたいな動きしやすいし」
そんな風にいつもどおりの会話が続く、周囲の不気味な静けさなど二人は意に介していないようだった
そう過ごしている内、地面にかすかな振動が響く
それに、二人は即座に戦えるように構えて相手を待つ
それは不気味にゆっくりと斧を引きずりながら近づいていた
…海部だった、目は死んだように虚ろに二人を見つめていた
「…待ってたよ、二人とも…私の邪魔ばっかりしやがってさ…」
斧の先をやはりゆっくり上に持ち上げて、海部は言う
「ねぇ、私たちの何が気に食わないのか言ってよ!そうじゃないとわかることもわからない!」
「言ったところでお前らには伝わらねぇんだよ!!」
結城が口を開いた途端、海部は目を見開き相手に斧を振りかぶる
一ノ瀬と結城で海部を挟むように立つ
「お前らなんかお前らなんかお前らなんかお前らなんかお前らなんか…」
呪いの言葉のように繰り返す相手を見て、これ以上話は出来ないと判断して結城が切りかかる
それを海部は斧で受け止めるが、背後からは一ノ瀬の拳
一ノ瀬の方を捕らえきれない海部は歯を食いしばる、が相手の腕がムチに縛られる
「残念だけど、私の相手してくれる?」
そこには笑みを浮かべる宮内、背中には一ノ瀬の背よりも高い不気味に光る鎌を背負っていた
「宮内!なんで海部さんの味方なんだよ!何言ったんだよ!」
ムチで縛られたため宮内の方を向かざるを得ない一ノ瀬は相手にそう叫ぶ
「私が言ったのは事実だけ、理由はまだ言えないかな…」
そう言って、一ノ瀬の体を引き寄せ鎌で裂こうとする
どうにか宮内の側に前転して相手の背後にまわってそれを避ける
「くそっ…この鬼畜眼鏡…」
ぼそっと悪態をつくものの、そんなことを言える余裕もあまりなかった
相手は武器を二つ持っている上、勝手がわかっている
こちら側の不利はわかりきっていた
結城は何度も海部に切りつけてどうにか動きを封じていた
どうにか、切りつけることで動きを止めた方が相手の精神的にも楽だろうと考えていた
やられたらやり返されて仕方ない、相手がそう考えているのを祈りながら
が、なかなか望みの一撃が決まらない
相手の攻撃は遅く避けるのは容易だが、相手もガードが固い
互いに少しづつ焦り始めていた
「…はぁ…現実世界なら絶対勝てるのに…所詮こういうことでしか勝てないってこと?」
「…うるさい…うるさい…うるさい…」
涙を流して、ヒステリックになりながら海部は相手に言う
完全に自分の怒りに身を任せて切りかかっているだけであった
そして完全に痺れを切らした海部は相手に切りかかる、
結城もそれを剣で受け止めようとしたが弾かれてしまう、海部はそれを見てすかさず足を軽く切る
「…!」
「は…ハハハ…ハハハハハハハハハハ!」
思うように動くことのできなくなった相手に高笑いをする海部
「っ!やばいな…」
「大丈夫大丈夫…どうせ体痛めるだけなんだから」
宮内は軽い調子で一ノ瀬に鎌を振りかざす
当たるか当たらないかのギリギリで攻めてくる相手にやりづらさを感じながら一ノ瀬も焦っていた
「…くそ…殴るってものやりづらい…」
一ノ瀬が少しこちらを伺うのに、結城は気づき、これを早く終わらせたい衝動にかられた
すると堪えようとしていた言葉がこみ上げてくるのがわかり、そして…
「迷惑な話だよね」
「…?」
「そっちのことだよ、勝手にこっちを悪者にしてさ、こっちはなにもわからないままで責められて
納得できると思うの?」
「…っ…」
その言葉に、海部は一歩下がる
「せめて理由くらい話してよ」
「無駄だからだよ…言ったところで!」
「言う前から決め付けんな、コッチだってアンタの思ってるほど冷たくしないつもりだった」
「…」
「でももういいよ、本気で面倒くさい…もう」
「うるさいうるさいうるさい黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!」
海部は発狂したように叫び、そして斧を振りおろす
結城は諦めて目を閉じた
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―翌朝―
結城が目が覚めたのは、体に走る激痛だった
おそらく、先ほどの夢の中で切りかかられたからだろう
動けないわけではない、がそこそこにしんどい
幸い学校に行くような用事もないため、母親に不調だけ知らせようとリビングにゆっくりと向かう
切られたのはおそらく腹のあたり、足もそうだが一番痛みが酷い
痛む場所を押さえて結城はドアを開き、キッチンで食器を洗っている音を聞いて母親が居ることを確認し
椅子に座って母親の方を向こうとした、そのとき
ついていたままのテレビのニュース番組が流れる
『昨夜未明、~~市~~町で海部要さんが、自宅のキッチンで倒れているのが発見されました』
その言葉に、結城は目を見開いてテレビの画面の方を見た…