サイレン
ある夏の週末の事だ。達之は渓谷沿いの道を走っていた。この辺りは人気が全くなく、森のせせらぎと川の流れる音しか聞こえない。すれ違う車は全くなく、忘れ去られた道のように見える。とても自然豊かな場所だ。自然の営みを肌で感じる事ができて、本当に素晴らしいな。
「気持ちいいなー」
車の中で、音が全く聞こえないが、外からの景色でそれが伝わってくる。本当に魅力的だな。ここに住みたいと思うぐらいだが、そうはいかないだろう。
「ちょっと降りよう」
達之は疲れたので、少し休む事にした。達之は道路の少し広がった場所に車を停めた。ここはおそらく、行き違いのための空間だろう。その下には、渓谷が見える。
達之は車から降りた。思った通り、森のせせらぎと川の流れが聞こえる。とても穏やかな場所だな。この辺りには、かつて集落があったそうだが、今はもう誰も住んでいないようだ。いつ、ここから人がいなくなったのかわからない。恐らく、過疎化だろう。
達之は渓谷を見た。本当に素晴らしい場所だな。ここでキャンプをしたら、最高だろうな。いつか、家族と一緒にここでキャンプがしたいな。
「きれいな渓谷だな」
達之は川べりまでやって来た。川はとても透き通っている。これぞ清流って感じだ。都会とはまるで違う。これが川のあるべき姿なんだな。
「思わず見とれてしまう」
と、どこかでサイレンが鳴った。一体何だろう。
「あれっ、この音は何だろう」
達之は思った。これは何らかの災害の危険を示すサイレンだろう。この辺りは人気がないのに、どうしてサイレンが鳴るんだろう。どうしてか全くわからない。それに、今日は快晴だ。スマホで確認したが、地震速報もない。何事だろうか?
「晴れてるのに、どうしてだろう」
サイレンは鳴り終わった。達之は首をかしげた。本当に何だろう。どうしてこんなのが鳴ったんだろう。
「まぁいいか」
達之はすっかり疲れが取れた。早く家に帰らないと、家族が心配する。
「さて、帰ろう」
達之は車に乗り、また走り出した。車は森の中の道を進んでいく。とても自然豊かな場所だな。達之は感動していた。
と、達之は後部座席に誰かがいる気配を感じた。誰だろう。
「えっ!?」
達之はバックミラーを見た。だが、後部座席には誰もいない。おかしいな。誰かがいたような気配がするんだが。
「まぁ、いいか」
達之は全く気にせず、家に向かって車を走らせていた。家まではあと2時間ぐらいかかる。早く帰らないと。
達之は知らなかった。その後ろに、水でびしょぬれになった老婆が座っているのを。
2時間ほど走って、達之は家に帰ってきた。達之の家は2階建ての普通の一戸建てで、達之と両親の3人暮らしだ。達之が生まれた頃に建てたという。
「ただいまー」
玄関に入ると、母がやって来た。母は晩ごはんを作っているようで、キッチンからはいいにおいがする。
「おかえりー」
達之は2階の自分の部屋に向かった。今日は遠くまでドライブをした。晩ごはんまで、少し休もうと思っているようだ。
達之は部屋に戻ってきた。リュックを背中から降ろし、ベッドに横になった。
「ちょっと寝るか」
達之は目を閉じた。達之は知らなかった。あの老婆が、ここまで来ているのを。
達之は夢を見た。そこは、人里離れた集落だ。いったいここはどこだろう。達之は首をかしげた。全く行った事がない場所のようだ。どうしてここの夢を見ているんだろう。
「うーん・・・」
達之は辺りを見渡した。ここがどこなのか、わからない。
「あれっ、ここは?」
達之は窓から外を見た。外の景色を見て、達之は感じた。今日行った渓谷の辺りだ。この辺りには集落があったという噂らしいが、その集落だろうか?
「今日行った場所だ!」
突然、サイレンが鳴った。そのサイレンは、あの時聞いたサイレンと一緒だ。それを聞いて、集落の人々は戸惑い、早く逃げようとしている。
「サイレンが鳴ってる・・・」
「逃げて! 逃げて!」
一体何の事だろう。達之は首を傾げた。状況が全く理解できない。
「えっ!?」
達之は家から飛び出した。これは大変な事が起きるに違いない。
「土砂崩れが起きるかもしれないの」
土砂崩れが起きるとは。これは大変だ。早く逃げないと。
「わ、わかった!」
逃げようとしたその時、土砂が迫ってくる。まさか、あのサイレンは、土砂崩れが起きるサイレンだったのか?
「えっ!?」
達之はあっという間に土砂に飲み込まれた。その近くの人々も土砂崩れに巻き込まれていく。
「うわああああああ!」
達之は目を覚ました。夢だったようだ。達之はほっとした。夢でよかった。
「夢か・・・」
だが、達之は思った。あの夢は、いったい何だったんだろう。自分はどうして、こんな夢を見てしまったんだろう。
「何だったんだろう」
と、達之はある事に気が付いた。布団がびしょぬれになっているのだ。尿かと思ったが、それらしき匂いがしない。どうやら、汗か水のようだ。それに、全身が雨をかぶったかのように濡れている。
「えっ!? 濡れてる・・・」
達之は呆然となった。まさか、あの夢の中の雨をかぶったのか?
達之が通った渓谷の近くには集落があり、その日は土砂崩れが起きた日だったという。その土砂崩れで、集落の人々は全滅し、集落は一夜にして消滅したという。それ以来、毎年その日、土砂崩れが起きた時間、その辺りではどこからともなくサイレンが鳴るという。




