表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祈り満つ海 きみを英雄にするための冒険譚  作者: 鳥羽ミワ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/28

19. 救難信号

 二人が図書館へ戻る頃には、すっかり夕日が傾いていた。空は黄金色に染まり、滴るように赤い雲が浮かんでいる。


「遊びすぎた」


 どんよりと肩を落とすサフィラに対して、クラヴィスは幸せいっぱいの顔で歩いていた。


「楽しかった。鐘を鳴らせてうれしかった」

「子どもの感想文みたいなことを言うんだな」


 サフィラが呆れたように言えば、「本当だぞ」とクラヴィスがサフィラの顔をのぞきこんだ。前を見ない彼の肩に、どん、と誰かにぶつかる。ぶつかってきた小柄な人物は「すみません」と口早に言って、去っていった。


「大丈夫?」

「ああ。別に、痛くもなんともない」


 クラヴィスが、サフィラの手を握り直したときだ。すぐ近くで大きな罵声が聞こえる。


「このガキ! 逃がすな!」


 逞しい何人か男たちが、口々に叫んでこちらへ向かってくる。

 追われているらしいその人物はしかし、雑踏で足を取られて転んだ。サフィラが見かねてクラヴィスから手を離し、その人を助け起こそうとする。邪魔しやがって、とクラヴィスは舌打ちをした。


「往来で大騒ぎするな。サフィラが心配するだろうが」

「あん? なんだ兄ちゃん、威勢がいいじゃねぇか」


 男たちはクラヴィスを取り囲む。それでも怯む様子のないクラヴィスは、ふんと鼻を鳴らした。


「貴様らのせいで、せっかくの逢瀬が台無しだ」

「なんだぁ、デート中かよ。かっこつけやがって。そのお綺麗なツラ、ぼこぼこにしてやるぜ」

「イイ人に慰めてもらいな!」


 せせら笑いながら、男の一人がクラヴィスへと殴り掛かる。クラヴィスはそれをひょいといなし、腕を掴んで捻り上げた。


「い、イテェッ」

 呻く男に、他の男たちも「野郎」と叫びながら飛びかかる。クラヴィスは彼らの拳や蹴りを避けつつ応戦し、一人ずつのしていった。


「大丈夫ですか?」


 それをよそに、サフィラは追われている人物の顔を見た。どうやら少年らしい。目鼻立ちの整った美しい顔立ちをしており、黒髪に赤い瞳が印象的だ。


「あの、その」


 困ったように目をさ迷わせる少年に、サフィラは安心させるように優しく微笑みかけた。


「僕、サフィラといいます。あっちで大立ち回りしてるのは、僕の連れのクラヴィス」


 少年がクラヴィスを見る。ちょうど、最後の男がクラヴィスの蹴りで地面に沈むところだった。周りには、男たちの死屍累々が積み重なっている。


「終わったぞ、サフィラ」


 ぱんぱん、と手を叩くクラヴィスに、周りが沸き立つ。ヒューヒューと口笛まで聞こえ始めた。クラヴィスはそれに顔色ひとつ変えず、サフィラを呼ぶ。


「行くぞ」

「あ、うん」


 サフィラが頷き、立ち去ろうとしたときだ。


「待ってください!」


 少年が、サフィラの腕を掴む。驚いて立ち止まるサフィラたちに、少年は懇願した。


「助けてください。このままだと俺、殺されるんです」


 物騒な言葉に、サフィラは眉をひそめた。少年は、さらに続ける。


「俺はペクタス。このままだと、太陽への生贄に捧げられるんです」


 その赤い瞳に、涙がにじむ。サフィラはおずおずとペクタスの肩に手を置き、さすった。


「その、太陽への生贄とは、なんですか」

「ここ最近、太陽が出ている時間が短いのを見て、生贄が必要だって。長老たちが、言うんです」


 掌で涙を拭って、ペクタスは二人を見上げた。固く唇を引き結んで、強張った表情で、なおも俯かない。


「テストゥードーの復活のために、魂を捧げろって。そんな馬鹿なこと、俺は信じていません」


 サフィラとクラヴィスは、思わず息をつめて顔を見合わせた。クラヴィスは首を傾げたが、サフィラはすぐにペクタスを振り返った。


「詳しく聞かせてもらってもいいですか」


 クラヴィスはサフィラを背後から抱き込み、「俺もついていくからな」と囁く。当たり前だろ、とその腕を叩くと、抱きしめる力が強まる。

 その様子を見て、ペクタスは呆気に取られている。サフィラははっと我にかえってクラヴィスを引きはがした。


「どこか、ゆっくり話せる場所へ行きましょうか。いい場所はありますか?」

「は、はい。こっちです」


 サフィラとクラヴィスは、ペクタスに案内されるままに歩き出した。ペクタスは少し安心したように息を吐き出し、「お願いします」と小さく呟いた。


「俺は死にたくない。あの子を置いて、死ねるもんか」


 その言葉に、クラヴィスがわずかに目を細めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ