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祈り満つ海 きみを英雄にするための冒険譚  作者: 鳥羽ミワ


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16. レガリア島

 サフィラたちは西へと向かった。道中では大型の魔物と遭遇することもあったが、三人の敵ではない。


 とはいえ、風向きばかりはどうにもならないものだ。アウクシリアは渋い顔で、もう何日も凪いでいる静かな海を見つめた。


「風がないと、進むに進めんな。櫂で漕ぐにしても、目的地までまっすぐとはいかなさそうだ」


 アウクシリアは地図を開き、二人にも見せた。一点を叩く。


「ここだ」


 レガリア島、とサフィラは声に出す。


「観光名所にもなっている、風光明媚な島ですよね」

「そうだ。ここでひとまず宿を取り、海の様子を見る」


 クラヴィスも地図を覗き込み、「あそこか」と呟いた。アウクシリアは地図を畳み、櫂を準備する。


「お前たちも、慣れない船旅で動きに精彩を欠いている。一旦、休息をとるのも一手だ」


 二人で顔を見合わせていると、アウクシリアはからかうように言った。


「観光名所なだけあって、宿泊施設と娯楽施設も充実している。楽しい思い出のひとつやふたつ、作ってきたらいい」

「僕たち、そういうのじゃないです」


 サフィラが首を横に振ると、クラヴィスが大きな身体ですり寄ってきた。


「サフィラ……。一緒に踊りを観にいこう。この島には神子がいて、彼がこの島の神や支配者へ奉納する舞いがあるそうだ」

「だから、僕はそういうのいいって」

「それがシーサーペントと英雄の戦いを模したものらしい」


 ぐう、とサフィラは唸る。クラヴィスを見上げた。彼はサフィラの表情を見て、非常に満足げに頷く。


「サフィラはこういうの、好きだもんな」

「そうだよ。よく分かってるじゃないか」


 やけになって言えば、「そういうところがかわいい」とクラヴィスの唇が頬へと降ってきた。抵抗するのも馬鹿馬鹿しくて遠くを眺めていると、アウクシリアが呆れたように言う。


「サフィラ。往生際が悪いぞ」

「……なんの話ですか」


 しらばっくれるサフィラ。アウクシリアは「あーあ」と大げさに嘆きつつ、サフィラたちに櫂を渡した。


 そうして、三人で船を漕ぐことしばらく。ようやくレガリア島にたどり着くと、見事な白亜の岸壁が出迎えた。


「綺麗なもんだろ」


 アウクシリアが船をとめている最中、サフィラは岸壁に飛んでいってじっくりと眺めた。


「古い地層だ。ウォルプタース……ジョクラトル島ほどじゃないけど、テストゥードー群島形成初期にできたんじゃないかな」


 サフィラがこつこつと拳で岩を叩くと、ほー、とアウクシリアはいまいち興味なさげな返事を寄越した。クラヴィスはその隣で、「サフィラはなんでも知っているんだ」となぜか得意げである。


「なんでも知ってるわけじゃない。知らないことの方が多い」


 噛みつくサフィラに、クラヴィスは「知ってる」と笑った。


「だけど、サフィラは俺の知らないことをたくさん知っていて、俺のできないことがたくさんできる。すごい人なんだ」


 率直でやわらかい好意に、サフィラは耐えきれずにしゃがみこんだ。頬と言わず、全身が熱い。


「お前のお姫様、照れちまったみたいだな」


 アウクシリアは喉を低く鳴らして笑う。クラヴィスはサフィラを立ち上がらせつつ、「お姫様じゃないぞ」と訂正した。


「俺の英雄だ」


 その言葉に、サフィラは唇を噛んで俯いた。

 子どものサフィラがクラヴィスの英雄に相応しかったとしても、今のサフィラは、そうではない。そんなに昔のことを、いつまでも引きずらないでほしかった。


「……いいから。行こう」


 サフィラは強引に二人の背中を押して、街の方へと出る。


 立ち並ぶ建物は漆喰で白く固められ、目に光が反射して眩しいくらいだった。三人で宿屋へ、といったところで、アウクシリアが「あっ」とわざとらしい声を上げる。


「俺ぁ、ちょっくらこの島の知り合いに会いに行ってくるぜ」

「え?」


 怪訝な顔をするサフィラたちをよそに、「悪いなぁ」と彼はわざとらしく視線を逸らす。


「いつ戻れるか分からねぇから、今晩はお前たちだけで宿を取れ。俺は自由にするからよ」

「え。待ってください」

「じゃ、明日の朝、ここに集合だ」


 サフィラの制止も聞かず、アウクシリアはとっとと二人の前から姿を消した。クラヴィスと顔を見合わせると、彼はなぜか顔を赤くしてこちらを見つめている。


「……二人きりで、泊まる」


 ぽやんとしたいとけない表情で、クラヴィスが言う。サフィラは視線を逸らし、ぎこちなく頷いた。


「そ、う、みたい。なに、いやなの?」

「いや、……ではない。というか」


 二人はしばし、赤面したまま見つめ合った。雑踏はそんな二人を気にも留めず、晴れた空からは燦燦と太陽光が降り注ぐ。


「いやじゃないんなら、さっさと行くよ。ほら」


 サフィラはクラヴィスの腕を引っ張り、宿屋を目指した。クラヴィスはその手を捕まえようとするが、ぱしんとはたいて拒否する。クラヴィスはとろけるように微笑んだ。


「そんなところもかわいい」

「寝言は寝てから言って」


 けんもほろろなサフィラに、クラヴィスは「起きてるから言ってるんだ」と言い返す。サフィラはそれに一言も返さず、宿屋の扉を開けた。

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