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祈り満つ海 きみを英雄にするための冒険譚  作者: 鳥羽ミワ


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14. 事情聴取

 アウクシリアたちに捉えられたメトゥスとその一族は、その夜のうちに船で隣の島へと輸送された。粗末な地下牢に閉じ込められた彼らは、口々にここから出せとわめく。


「うるせぇな」


 アウクシリアは、冷淡に古びた錠前をかける。牢から出つつ「まったく」とぼやくと、地上で待っていた女性の騎士が苦笑いをして出迎えた。


「貴殿のおかげで、アウレア島の腐敗をやっと暴けそうだ。……久しぶりだな、アウクシリア」

「おう。久しぶりだな、ドミナ」


 彼女は頷き、握手を求める。ドミナはアウクシリアの同期で、未だに親交のある人間のうちの一人だ。二人は固く手を握り合い、そして離した。


「確たる証拠がなかったから、なかなか動くことができなかったんだ。貴殿の証言と――証拠品のおかげだよ」

「俺は手癖が悪いからな。ちょっくら酒樽から酒をくすねてくるなんて、朝飯前さ」


 薄く笑うアウクシリアに、ドミナは首をすくめた。


「今は、現場で押収した酒の分析を進めている。しかし……」


 ふと言葉を切ったドミナ。アウクシリアは、その続きを待つ。


「酒を解析中の魔法使いによれば、これまで見たことのないまじないだそうだ」

「ふーん?」

「誰も解読できない言語で書かれた本も押収されている。そこから伝承の途切れてしまった古代魔術かもしれない、と邪推して騒ぎだす者もいるんだ」

「ふむ」


 いまいちピンとこないアウクシリアに、「私も詳しいことは、分からないのだが」と彼女は苦笑した。


 話し込む二人のもとに、若手の騎士がやってくる。彼はドミナを呼び、敬礼をした。


「ドミナ隊長、事情聴取の準備が整いました。メトゥス=アウレアから始めますか?」

「そうだな。まずは主犯格の話を聞こう」


 ドミナはちらりとアウクシリアを見て、彼を掌で指す。


「アウクシリア卿にも同席してもらう。彼が今回突入の指揮をしたから、一番状況が分かっているはずだ」

「おいおい、そこまで付き合えだなんて聞いてないぞ」


 呆れたようにアウクシリアは言ったが、しょうがないと言わんばかりにため息をついた。


 取調室にはしっかりと光が灯され、夜だというのに真昼のように明るかった。アウクシリアがドミナに連れられて入室すると、既にメトゥスはそこに座っている。

 拘束された彼は、うらめしげに二人を見上げた。


「メドゥス=アウレア。魔力やまじないをかけた酒類の醸造・流通、および贈賄の容疑がかかっている。洗いざらい話してもらおう」


 メトゥスは反抗的な目で二人を見た。だんまりの彼を前に、ドミナは淡々と続ける。


「お前の屋敷からは、多くの違法な酒類が見つかっている。流通させた証拠もだ。何を証言したところで、有罪と私財没収はまぬがれえないと思え」


 それから、と少し声の高さを落として言う。


「あまり捜査に非協力的な態度をとると、こちらの心証もよくない。罪状を少しでも軽くしたいのであれば、素直に自白することだ」

「知ったこっちゃねえよ。どうせ俺たちは一文無し、全部パァ。だったらいっそ、死んだほうがマシだ」


 アウクシリアは思い切り顔をしかめた。机に肘を置き、「フェキレはどうするんだ」と問い詰める。


「家族構成を見た。彼はお前の子どもで、まだ未成年だ。今回の被害者のひとりでもある。その子はどうするんだ」

「知ったことじゃない。俺を助けにも来ない薄情者なんか、勘当してやる」


 吐き捨てるメトゥスに、アウクシリアのこめかみに青筋が立った。ドミナは冷静にメモを取り、頷く。


「では、質問を変えよう。酒にかけたまじないはどこで知った?」

「さあな。本に書いてあったんだよ」


 足を組んで、椅子の背もたれにもたれかかるメトゥス。アウクシリアは「ンなわけねえだろ」と低く言った。その威圧的な響きに、びくりとメトゥスが震える。


「いいから吐け。どこで手に入れた」

「いや、そ、その」

「ドミナ、後ろめたいところがあるって書いとけ」


 淡々と、彼女はメモを取る。さらにアウクシリアは身を乗り出し、大きな身体でメトゥスを見下ろした。


「違う。違う、……そうだ、うちの従業員が勝手にうちの本を読んで、勝手にやったんだ」

「うちの本を読んで、か」

「そうだ。噂話で聞いたんだ、俺も止めなければと思ってはいたんだが」


 ドミナは目を細める。アウクシリアは皮肉げに笑った。


「へえ。具体的には?」

「詳しくは知らないが……」


 言い渋るメトゥスは、そうだ、そうだ、と声を上げる。


「仕込みの段階で魔力を込めて、発酵の最終過程でまじないをかける。……と、噂で聞いた。噂だ、俺も真偽を確認しなければと思っていた、怪しいのに真に受けたのは反省している」


 ドミナに目配せをすると、彼女は頷く。


「では、従業員が読んだというその書籍類はどこで手に入れた」


 念を押すように、ドミナはメトゥスをにらみつける。その眼光の鋭さに、びくりとメトゥスが身体を縮こまらせた。


「わ、分かった。買ったんだ。中古で売られていて、表紙の海亀の紋章に見覚えがあった。これはクルトゥーラの家のだと思って」


 途端にぺらぺらと白状しだすメトゥスに、アウクシリアは呆れたように口の端を吊り上げた。メトゥスは目が泳いでいるし、口の端は引きつっている。


 大方、この証言は嘘だろう。アウクシリアとドミナは、目配せを交わした。

 ドミナはメモをとる手はそのままに、真っすぐメトゥスを見据える。


「話を変えよう。お前はサフィラ=ウォルプタースへ異様に執着していた、と聞いている。彼は何者なんだ?」

「し、知り合いの息子だ。それだけだ」


 アウクシリアは低く太い声で「お前の友人のラティオと、クルトゥーラの息子なんだったか」と脅すように言った。


「大方、お前、クルトゥーラ氏と何かあったんだろう? それで彼女とそっくりだっていうサフィラに一服盛ってどうにかなろうと……」

「アウクシリア、話が飛躍しすぎだ」


 ドミナがそれを制する。アウクシリアは「すまん」と謝り、椅子に座り直した。

 メトゥスはわなわなと震え、叫んだ。


「ぜっ、全部、ラティオのせいだ。あいつが俺のクルトゥーラをたぶらかして奪ったんだ、そのせいで俺たちは結ばれなかった!」


 アウクシリアとドミナは、顔を見合わせた。その間も、メトゥスはわめき続ける。


「目を覚まさせてやろうと思ったのに、クルトゥーラはあいつに洗脳されちまってた。仕方ないから、クルトゥーラ似の方のガキは助けてやろうとしたのに」

「分かった。少し静かにしてくれ」


 ドミナはげんなりした顔で、メモを書き付ける。アウクシリアがちらりと見ると、端正な筆致で「痴情のもつれ」と書かれていた。


「そうこうしてる間にクラトゥーラが死んだって風の噂で聞いて、おれ、おれは。せめて本を盗めたんだから、何か生き返らせる手がかりはねえかって……」


 妄執に取りつかれた男は、ふらふらと首を横に振る。アウクシリアは苛立ちを押さえ、「お前は死者蘇生を試みたのか」と尋ねた。

 メトゥスはまだブツブツと何かを呟いており、自分の世界に浸っている。


「もういいだろう。今日はここまでだ」


 ドミナはアウクシリアの肩を叩き、退室を促した。ゆっくり取調室の扉が閉められた後、アウクシリアは「許せん」と低く唸る。


「あそこまで私利私欲、過去への妄執に走るとは。あまつさえ禁忌にまで手を出して……フェキレがかわいそうだ」


 ドミナは黙ってメモを見返し、「その彼にも話を聞かなければ」と呟いた。


「十六歳か。ひとりで生きていくこともできる年齢ではある。が……」


 彼女のひとりごとには聞こえなかったふりをして、アウクシリアは肩を回した。首も回して、「あーあ」と大きく息を吐く。


「後はお前らに任せていいか。俺は冒険の途中なんでね」

「おお、冒険狂いのアウクシリア。相変わらずだな」


 からかうようにドミナは言って、敬礼をした。いたずらっぽく笑う。


「では、また会おう。今度はノドゥスと一緒に遊びにきてくれ」

「おうおう。ラブラブっぷりを見せつけてやる」

「その前にお前は、いい加減、告白をしろ」


 うるせ、とアウクシリアが吠える。ドミナは静かに笑い、「さてどうするか」と呟いた。

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