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Dark in love  作者: あおあん


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26/29

第26話 1月8日 木曜日

「昨日はありがとう」


 朝、コンビニで買ったシュークリームを良平に渡す。


「どういたしまして」


 こっちを見てニコッと笑った。

 どうしよう、ドキドキが止まらない。


「美波ちゃんがいると思わないで、俺に会いに来てくれたの?」


 ドキドキがバクバクに変わって、心臓が壊れてしまいそう。


「……うん」


 こんなに恥ずかしいこと、なんで良平には素直に言えるんだろう。


「じゃ、美波ちゃん呼ばなきゃよかったな」

「へ?」

「美波ちゃんより、百花と飲んでる方が楽しいからさ」


 どうして良平はこんなこと平然と言ったりするんだろう。


 昨日はル・ニの気まずい空気から逃げ出すように、私は祥太と店を出た。

 最寄駅から家が反対方向の祥太とは、いつも駅で別れるのだけど、珍しく私の家の前まで送ってくれた。断られると分かっていて、上がっていくか聞いた。「いや。明日も仕事だから」そう言って祥太は帰路についたけど、きっと終電近くになってしまったに違いない。


「ケン君ってさ、美波ちゃんの元カレなんだよ」

「そうなんだ」

「専門学校が同じで、プロポーズされたらしい」

「へ……え……」

「美波ちゃんが断って、それから友達に戻ったんだって。どう思う?」

「どうって……」

「元カレと友達に戻れると思う?俺は無いなって思うんだけど」

「私も無いかな」

「だよな。ケン君は美波ちゃんのことまだ好きなんだと思う」

「で?良平はどうすんの?」

「どうもしないよ。ってか、どうしようもないだろ」

「だね」


 良平が言いたいことが分からない。ケン君と美波に嫉妬してる訳では無さそうだし、私にそれを言ってどうするんだろう。


「今日、飲んでかない?」

「行かない」


 私は真面目な祥太の真面目な彼女になったんだ。良平と浮気みたいなこと、これ以上続けるわけにはいかない。




 仕事終わりに祥太と待ち合わせをして定食屋に来た。


「相談に乗って欲しいことがあるんだけど」

「どうしたの?」


 いつになく思いつめたような暗い表情で、胸が苦しくなった。


「会社が買収された」

「あ……」


 しまった。部長が私に話したということは、公になったって事だから、祥太の耳に入ってもおかしくないことだった。


「まただよ」

「どうするの?」


 前回、4年くらい前、私たちが働いてた会社が買収された時、私と良平はそのまま今の会社に移籍したけど、祥太は転職した。


「迷ってるよ。せっかくやりたい事やれてた、気に入ってたポジションだけど、次もそうとは限らないし。百花との将来を考えたら、転職ばかりもしてられないだろ?」

「私の為にやりたいこと我慢したくていいよ」


 本心だった。私だって我慢しない。だから祥太にも我慢しないで欲しい。


「でも、収入が不安定だと家族なんて作れないだろ?」

「私だって働いてるし」

「子どもができたら働けなくなるかもだろ?」

「一時はね、でも、育休明けたら戻ればいいし」

「え?子ども可哀そうじゃね?」

「可哀そうなことないでしょ。保育園に預けてる人いっぱいいるでしょ」


 驚いた顔をしている祥太に、こっちが驚く。


「食べさせていけるくらいは稼ぐから、百花には家守って欲しいんだけど」

「一緒に稼いで、一緒に家守ればよくない?」

「無理だよ。俺、忙しいし……」


 家庭的なイメージの強い手作り男子の彼が、意外にも保守的な事に衝撃を受けた。祥太はてっきり、自分が子育てもするつもりでいるのかと思ってた。


「私は結婚しても仕事を辞める気ないけど。やりたい事とか、欲しい物とか沢山あるし、祥太のお金じゃなくて、自分で稼いだお金でそういうの叶えていきたいし。そうだ、ねえ、これ見て……」


 自慢のダイヤのネックレスを指さす。


「この前、買ったの。綺麗でしょ」

「ああ」

「ちょっと高かったんだけど、ボーナス全突っ込みしてしまった。ははっ」

「マジで?」

「毎日着けて、元を取ってるところなんだ」

「金遣い荒くね?」


 頭を殴られたような、ぐらっとした感覚に襲われる。


「引っ越しもあるし、そっちの会社はノルマ達成しないと基本給低いって言ってたよね?将来のこと考えたら、そんな無駄遣いしてる場合じゃないと思うけど」

「無駄遣いじゃないよ……」

「生活の質を上げるわけでもないし、他人に見せびらかす為だけにアクセサリー買うなんて、馬鹿げてるよ」

「そんな!私はこれで『もっと頑張るぞ』って気合入れて、ちゃんと仕事して、QOL上げてく気満々で……」


 確かに。ダイヤモンドを買わなくたって、それらは気持ちひとつで達成できることだ。


「百花は考えなさすぎ」

「そう……かな……」


 自分のお金を自分の好きに遣っちゃだめなのかな。


「俺、百花との将来のこと考えて、これでも一生懸命頑張ってるつもりなんだけど」

「うん」

「百花は俺の為に頑張ってくれたりしないんだな」


 急に恥ずかしくなって、下を向いてしまった。


「そんな宝石のネックレス着けて、お洒落して、一体誰に見せたかったの?」

「祥太に決まってるじゃん」


 そう言いながら良平の顔が浮かんでくる。だって、最初に気が付いてくれたのも、可愛いって言ってくれたもの良平だったから。




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