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Dark in love  作者: あおあん


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25/26

第25話 1月7日 水曜日

 昨日買ったネックレスに誓う。この気高く輝くダイヤモンドに祥太への忠誠を。彼に相応しい彼女になる為の決意表明として、出掛ける時には常に身に着けておこう。


 黒いタートルネックのセーターにネックレスを着けたら、ダイヤはちゃんとピンクに見えた。あまりに美しいので少し気後れしてしまうけど、出掛けてしまえば自分の目には入らないので、すぐに気にならなくなった。


「百花、お前、昨日風邪とか言ってサボって……なにそれ、高そう」


 早速、良平が気付いてくれた。


「へへ。買っちゃった」

「いいね。似合ってるよ。かわいい」

「ありがと」


『かわいい』なんて気軽に言ったらだめだよ。

 良平ってばこんなにたらしだったっけ?いかんいかん、私の彼氏は祥太。祥太は優しい、祥太は真面目。


「機嫌直ったみたいだな」

「ご心配おかけしました」


 ちょんとダイヤに触れてから仕事を始める。


「如月さん、明けましておめでとう。体調は大丈夫ですか?」

「部長。今年もよろしくお願いします。はい。ご迷惑をおかけしました」

「インフルとかじゃなくてよかった。ちょっといいかな」


 珍しく部長の個室に呼ばれる。


「轟君には昨日話したんだけどね、君たちの元同僚が多く移籍したCenovix Precision (セノヴィクス・プレシジョン)を買収した。近々、先方に会社説明に伺うから同行して欲しい」

「はい」


 いよいよか。私が隠していた事が祥太にバレるけど、業務上仕方がないことだもの。きっと分かってくれるよね。


「それと、今年度の個人目標だけど、もうまとめたかな?」

「いえ。まだです」

「君は優秀だからね、掲げた目標を必ずクリアするガッツがあるから、前年のプラス15%で設定したら丁度良いと思うんだが、どうだろう」

「15%アップは高すぎます。10%で設定させてください」


 それだって充分に高いはずだ。

 渋い顔をしている部長に一礼し、部屋を出た。


「何の話だった?」

「祥太の会社に説明行くのと10%アップ」

「テンパーでオッケー出たの?」

「承認なんて関係ないよ。私、これ以上無理だもん」

「だよな」

「良平は?」

「今年と据え置き」

「オッケー出たの?」

「前回達成できなかったこと以上の事が、今年できるかよ?」

「それもそうだね」


 きっと祥太なら部長の提案どころか、自分から20%とか言い出すんだろうな。私たちとは向上心が違うって言うか、自分に妥協とかしない人だから……こんな私を見たらがっかりされるだろうな。そんな事を思いながら、スマホを開く。


 祥太からのメッセージはない。こんな私を見なくても、もう既に幻滅されてるかもしれない。手のかかる女にどんなに尽くしても、喜んでもらえないなんて、虚しいもんね。


『この前はごめんね。ル・ニに行かない?』


 無性に顔が見たかった。祥太と会って、話がしたい。


『もう体調はいいの?』


 すぐに返事をくれて安心する。


『昨日、休んだから大丈夫。8時には行けると思う』

『オッケ。待ってる』


 今日は良平には知られないように行こう。祥太と向き合いたいし、美波にお礼を言いたいだけだから。




 19:48


「百花!」


 美波が駆け寄ってきてくれた。


「もう大丈夫なの?」

「うん。心配かけてごめんね」


 店内には知らないカップルが一組だけいた。


「待ち合わせ?祥太君?」

「うん。もう来ると思う」


 先にビールを頼んで待つことにした。


「祥太君、すごい落ち込んでたよ。昨日とかもうすごいメッセージ飛んできて、百花百花ってうるさいんだから」

「へえ」


 私には音沙汰無いのに、美波にはうるさい程に……複雑だな。


「あ、ほら、噂をすればだよー」


 息を切らした祥太が入店してきた。


「待たせてごめん」

「ううん。今来たとこだよ」


 きっちりと整えられた髪に、仕立ての良さそうなスーツ、擦れてないピカピカの革靴。祥太はいつも完璧で隙が無い。


「百花から誘ってもらうことなんて滅多に無いのに、今日に限って呼び止められて……」

「そうだっけ?」


 笑ってしまう。こんな完全無欠の彼を翻弄させてるみたいで、自分がまるで魔性の女にでもなった気分。悪くないかも。


「美波から新年会の準備、頑張ってたって聞いて……」


 いけない。調子こいてないで、ちゃんと謝っておかなくちゃ。


「え、美波ちゃん、しゃべっちゃったの?」

「買い出しとか、いろいろ……ありがとね」

「それは、マジでごめん。箱根にいるって嘘ついてホントごめん」


 両ひざに手をついて、祥太が頭を下げた。


「いいよ、そんなの、やめてよ」


 慌てて祥太の手を握る。温かく乾いた感触が気持ちよくて、思わず摩ってしまう。


「怒ってない?」

「怒ってなんかないよ」

「嘘ついて、不誠実な男だって思ってない?」

「思ってないよ」


 笑ってしまう。なんて可愛いんだろう。


「俺のこと好き?」

「好きだよ」

「結婚してくれる?」

「……」


 ズルい。


「いや。今のはなしで」

「……」

「もっとちゃんと、指輪とか持って、改めて言うから、今日のはノーカンね」

「うん」


 繊細な祥太が、私の『間』に気付かないはずがない。

 微妙に気まずくなってしまった私たちを救ってくれたのは、また美波だった。


「いらっしゃいませー!」


 明るい声で入ってきたお客さんに駆け寄る。


「ケン君、元気だった?」

「ああ」


 すらっと背が高く顔が小さい、モデルのような男性がコートを脱いで美波に渡した。


「一人?」

「ああ」

「じゃ、カウンターにどうぞ」


 知らない人だけど、美波とは仲が良さそうだ。


「なんかやたらかっこ良くない?」


 祥太の言う意味が分かる。滅茶苦茶イケメンだ。


「あ、ストーカー」


 イケメンと目が合って、そう言われて、指をさされた。


「ケン君、なに言ってんの?」

「この人、お前の彼氏んち覗いてた」

「げっ……あ……」


 年末、良平の家の前で出くわしたピザ屋だった。


「どういうこと?」


 美波が首を傾げている。


「俺が配達した時、この人見たよ」


 イケメンはこっちを見もせずに美波と話している。


「百花、どうした?」


 会話について来れない祥太が私の顔を覗いてる。


「だから、あれは誤解だってば……」


 声を絞りだすけど、言葉が続かない。


「百花、どういうこと?」


 美波に詰め寄られる。


「え、何でもないって。お酒でも一緒に飲もうかなって……」

「良平君と百花、二人で飲んだりするの?」

「いや、そうじゃないんだけど……」

「それっていつのこと?」


 祥太まで会話に入ってきて、パニくる。


「えっと。27日だったかな?」

「ああ。俺の年末の配達最終日」


 終わった。全ては身から出た錆、自分で蒔いた種、自業自得ってやつだよね。


「ケン君、百花を良平君のうちの前で見たの?」

「ああ」


 聞かれたら、なんでも答えよう。

 祥太は嘘を誠実に謝ってくれた。

 私も、謝って許されることじゃないけど、せめて誠実に答える姿勢を見せなくちゃ。


「ストーカーって?」

「ドアポスト覗いてた」

「そうなの?」


 最悪だ。祥太が私を睨んでいる。


「なんだ、お前、来てたのかよ」


 不意に声がして、振り返ったら良平が立っていた。


「来てたんならチャイム鳴らせばよかったのに。俺が呼んだんだよ。美波ちゃんと二人でどうしたらいいか分かんなくなってさ、百花がいれば話しやすいかなって」


 ヤバイ。良平の嘘に涙が出そうになるけど、必死で堪える。


「えー!そうだったの?」

「ごめんね、俺、美波ちゃんと二人だと緊張しちゃってさ」

「良平君が謝ることじゃないよ。百花、なんか責めたみたいになっちゃってごめんね。ほらケン君も謝って!」

「別に。本当のこと言っただけだし」


「で、百花は良平の家の前まで行ったけど、様子見て帰って来たの?」


 じっと私の目を見て、祥太が聞いた。

 見抜かれる。私が本当の事を言っているか、祥太に分かってしまう。


「うん」


 ドキドキしながら、目を逸らさず答える。

 忠誠を誓い、誠実になろうと決心した矢先にこれだ。




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