第24話 1月6日 火曜日
「ごめんねー、急に電話して。昨日、大丈夫だった?」
「うん。せっかく新年会やってくれたのに、先に帰っちゃってごめんね」
「私はいいんだけどさ。祥太君には……ちゃんとお礼言った方が良いと思うよ」
「うん」
風邪ひいたってことにして、会社は休みを取った。
「祥太君、めっちゃ頑張ってたんだよ。百花に喜んでもらいたいって。実はさ、一昨日も呼び出されて、買い物付き合わされて、百花に内緒で準備するの大変だったんだからー」
「え」
「体調悪いんだから仕方がないけどさ。でも、祥太君が頑張ってたってことは百花に知って欲しくて」
「そっか。ありがと」
自分がやましいことをしているから、相手もそうと決めつけて、私ってば最低だ。
「今日からお店もやるからさ、また来てよ」
「うん。行く」
電話を切って時計を見る。13:45
祥太からは連絡はない。
一昨日は箱根に宿泊するって嘘ついて、美波に買い物を付き合わせて、昨日は有休取って私の為に料理をしてくれたの?喜ぶべき事だと頭では分かっているのに、心がついて来ない。
年末にお邪魔した時もそうだったけど、私はそんなに『もてなさなければならない女』なのだろうか。手のかかる女とでも思われてるのだろうか。どうしよう、気が重い。
家に居ても気が滅入るので、買い物に来てしまった。
『新春セール』がいたるところで開催されていて、群がる人だかりを見ていると、私も何か買わなきゃ損だという気持ちになってくる。
デパートには働いていなさそうな高齢の女性や男性が沢山いる。
テレビやネットでは「お金がない」と言っているところしか見たことないけど、そんなの嘘っぱちだ。と言い返したくなるくらい、皆、買い物をしている。
「よかったらお手に取ってお試しください」
中年の女性の販売員が声をかけてくれた。
比較的空いていたジュエリーショップでショーケースを覗く。私には千円で買えるネックレスと、何十万もするこのネックレスの違いが分からない。
「着けてみませんか?」
「いえ……」
「試すだけはただですので」
そう言って、ベルベットのトレイにダイヤのネックレスを乗せてくれた。
いつの間にかカウンターから出て来ていた女性が私の後ろに立っている。
ポニーテールの私の髪を避け、プラチナのネックレスが首に掛かった。
大きさの割には存在感のあるダイヤモンドが私の首から光を放つ。
「お似合いですよ」
そう言われて鏡の自分と対面する。
「本当だ」
自分で言うのもアレだけど、とても似合っていた。
「十代の頃はプチプラのアクセサリーを数多く持って、毎日違うのを着けて歩く楽しみがありますよね。ですが、年齢を重ねると『良い物』を長く愛用する方が増えます」
「そうなんですね」
鏡に映った自分の首から目が離せない。
「ダイヤモンドはお値段はしますが、それを買えるくらい自分は頑張ったってご褒美になりますし、劣化したり古びたりするものではないですからね。早く買って、毎日使って元を取ってゆく……そんな風におっしゃる方が多いですよ」
落ち着いた口調で微笑みながら、そう言われると欲しくなってしまう。
「天然ダイヤは何億年もかけて地中で生成され、それが掘り出されて、磨かれて、加工されて店頭に並びます。ご縁を感じますよね」
「はい」
心が持って行かれてるのが分かる。
「全てが一点もので、あ、ちなみにそれはピンクダイヤです」
「ピンクダイヤ?」
「はい。透明度が高いから光で色が抜けて見えますが、ピンクですよ」
「えっと……ダイヤって透明なんじゃ……」
肌に着けているとよく分からないというので、外してトレイに置いてみる。
「本当だ」
「確かにダイヤは透明度が大事です。でも、色が付いたカラーダイヤは、透明のダイヤよりも希少価値が高くて人気です。綺麗な色でしょ?」
ほんのりピンクで、透明で、涙型の一粒ダイヤ。値段にはビビるが、ボーナスが出るから払えないことはない。
「悩んでいただいて大丈夫ですよ。そんなにすぐに売れたりはしませんので」
店員さんは微笑んでいた。
一旦、店から離れて、ウィンドウショッピングを続けるけど、さっきのピンクダイヤが頭から離れない。
私が何かを好きになった時、いつもこうだ。頭から離れなくなって、手に入れるまで執着してしまう。滅多にこの症状が現れることはないのだけど……直近では、昨年買ったバイクだった。
ダイヤはバイクより簡単だ。免許を取りに行く必要はないし、事故る心配もない。お金が払えれば、あとは毎日着けて、元を取るだけ。アクセサリーでテンションが上がれば、仕事だって捗りそう。
2時間ほどうろうろして、結局、ジュエリー店に舞い戻ってきてしまった。
『分かっていました』というように軽く頷き、店員さんは私をカウンターの隅にある小さな椅子に案内してくれた。
「もう一度試着されますか?」
「はい」
目の前にある小さな丸テーブルに、トレイに置かれたピンクダイヤのネックレスとアンティーク調のスタンドミラーが置かれた。
改めて手に取って見ると、その重みと、しっとりとした金属の手触りは、安いアクセサリーとは似ても似つかない物だった。
「本当にお似合いです。私は仕事柄、このアクセサリーはこういう人に買われていくんだろうな、そうだったらいいなと想像するのが好きなんですけど、そのネックレスにはお客様のような女性が似合うだろうなと思っていたんです」
お世辞だろう。
営業トークだ。
カモられてる。
承知の上で、私はこのネックレスを買うことにした。




