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Dark in love  作者: あおあん


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第21話 12月31日 水曜日

「なんか作るからさ、家でメシ食って行けよ」


 祥太にそう言われて、昨日は祥太の実家からここに来た。泊まる準備はしてなかったし、本当は帰ろうと思っていたけど、『お腹がいっぱいになったので帰ります』とも言えず、時間も遅かったからコンビニで必要最低限の物を揃えた。そんな私とは対照的に、祥太はそもそも誰か家に呼ぶ前提だったのかなと思うほど冷蔵庫の中身が充実していた。


「おはよ」


 まだうつらうつらしている私を祥太が優しく起こしてくれる。


「誘っといて悪いんだけど、俺、昼には出なきゃならないんだ」

「箱根だよね」

「そ。この前の佐藤さんと佐々木さんと駅伝の応援に行く」

「楽しんできてね」


 借りた祥太のスエットを脱ぎながら、バスルームに向かう。


「洗濯機回す?」

「今日はいいや。脱いだやつそこの籠に入れといて」

「ありがと」


 顔を洗って、洗顔セットの小さなボトルの化粧水をつける。


「この日焼け止め使っていい?」

「そこにあるのなんでも使っていいよ」


 メイク道具は持ち歩いてなくて、あるのはリップクリームぐらいだ。今日はすっぴんで帰るとするか。


「ベーグル食う?」

「いただく!」


 これから泊りの旅行に行くというのに祥太は落ち着いていて、身支度を整えた後、朝食を作っている。つくづくすごい人だよな、と感心してしまう。私ならぐちゃぐちゃのてんやわんやに違いないのに。


「どうぞ」


 出してくれたのは、クリームチーズがたっぷり塗られて、ハムとベビーリーフが挟んであるセサミ風味のベーグルだった。お皿には生のイチゴと冷凍のブルーベリーまで乗っている。


「おお!すごい!」

「気に入った?」

「うん!」

「お嫁に来たくなった?」


 積極的でできる男らしい口説き文句だ。この待遇のどこに不満を抱いているのか自分でも分からない。どう見たって完璧ではないか……


「うそ。ごめん。忘れて」


 黙ってしまった私に祥太は困ったように笑いながら言った。


「あ、うん。私こそごめん」


 この気持ちに答えるべきだ。女性として、いやそれ以上の、人としての幸せを提供してくれているのに、どうして『ごめん』なんて言葉しか出てこないの……自分が嫌になる。


 ドリップしたてのコーヒーは、私の為に祥太が淹れてくれたのだ。祥太は基本的に紅茶を好む。ベーグルだって、私の為に手作りをしてくれたに違いない。年末のお店がやってない時期に、生の野菜や果物をちゃんと常備しているし、こんなによくしてくれているのに。


「何泊するの?」


 自己嫌悪で祥太のおもてなしを直視できない。話題を変える事でしか、祥太とコミュニケーションが取れない。苦しい。


「5泊」

「そんなに?!」

「あ、わりぃ。事前に許可貰っとくべきだったよな」

「別に……許可なんて……」

「実は佐藤さんが、箱根常連チームのOBでさ、大学の関係者の空きを譲ってもらったんだよ。駅伝前後は交通機関の動きが取れないっぽいし、山ごもりしちゃうか~ってノリで」

「楽しそうじゃん。気を付けてね」


 しばらく祥太と会わないことにどこかほっとした私は、きっと罰が当たる。




 たった一晩、彼氏の家に泊っただけなのに、どっと疲れを感じる。私の冷蔵庫には水と酒しかは入ってないし、すぐに食べられる物は乾きものくらいだ。祥太と比べてあまりの生活力の無さが恥ずかしい。


 祥太は私なんかのどこがいいんだろう。正直、不思議でならない。モテるだろうし、もっと気の利く女子と結婚だってすぐにできるだろうに。


 帰りがけにコンビニで買ってきたパスタをレンチンして、ビールを取り出す。一人になると酒量が増えてしまう。いや違うな。祥太といるとお酒が減るんだ。良平とはこうはならない。ますます、祥太と一緒になるべきだって気がしてきて、気分が滅入る。


「なんなんだろぉ、この感覚」


 大きな声で独り言を言いながらテレビをつけて気を紛らす。


 パスタをテーブルに運んで、いただきますをしようとしたら、チャイムが鳴った。


「え」


 何かポチってたかな。


 インターホンを覗くと、良平が映っていた。


「は?」


 居留守をしようか迷う。


 ビクッ


 テーブルに置いてあったスマホのバイブに驚いた。


『初詣に行かない?』


 良平からだった。


 美波がいるのに、何を考えてるんだろう。


 タップはしないで、スクリーンに映る文字だけ見る。


『美波ちゃんとふたり辛い』


 新しいメッセージが届いた。


「知るか」


 そうつぶやいて、パスタを口に入れて、スマホを裏返した。


「もう」


 良平が顔を見せたから、良平の事を考え始めてしまう。

 良平は美波と上手くやれてないのかな。でも、コミュ力高い美波と上手くいかない人なんている?私がいたら、3人の方がより辛くない?そもそも私が辛いじゃん。


 ブルッ


 またスマホが震えたので、反射で手に取ってしまった。


「祥太だ」


 すっきりと晴れた空に、満面の笑みの祥太と佐藤さん、佐々木さんの姿が映っている。なんて健康的で無邪気で可愛らしいんだろう。


 昼からコンビニパスタにビールを飲んでいいる自分の姿は絶対に知られたくない。


『いい感じだね!』

『百花も誘えばよかった!』


「いや、それはちょっと……」マジで無理。箱根に健康的な生活で5泊とか地獄だし。


『遠慮させていただきます』可愛らしいスタンプと共に送る。

『連れねーな』祥太らしい明るいスタンプと一緒に返ってきた。


 ケラケラと笑っていると、画面上に新着メッセージが映った。


『今日いる?美波ちゃんと行っていい?』


 良平の謎の行動が解せないまま、居留守を通すことにし、メッセージには既読をつけなかった。




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